我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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第七話

 

 

『お前のその偽善(ほどこし)が、この第一高校の中で最もくだらないぞ七草(さえぐさ)真由美』

 

 

 七草真由美、齢18年の歳月を生きてきてここまで真正面から己を否定され蔑まれたのは初めての経験であった。

 

 その言葉を受けて、彼女の体に走ったのは怖気であり恐怖であり又微かで彼女自身も気づけないような自分自身を見られる、七草という名に縛られない自分を見られた事への喜びであった。

 

 そもそも、昨日今日あったばかりである求道一途というパッとしない冴えない男に真由美がここまで気を掛けるのにはいくつかの理由があり、それは決して男女の情緒のような色事では決して無い。

 

 まず前提として語らねばならないが七草真由美という女は日本の魔法科社会の頂点に座する十師族の名を冠することを許された七草という魔法師として優れた血統を受け継ぐ一族の生まれでありその生活は裕福で生活に困ったということは一度としてない。

 

 だが彼女にはいささか普通の生活とは欠けているものがあり、それは友と語らう喜びであり、男に恋をする悦びであり、挫折という誰もが恐怖する事態の著しいまでの欠落である。

 

 だからこそ彼女は、自身の生まれの良さに責任を感じ、この差別が陰で横行し許容される第一高校の現状に憤りと悲しみを感じていたからこそ、現状を打破すべき材料として求道一途という教員を生徒会側にあわよくば取り込もうと考えたのである。

 

 しかし、彼女の打算は見透かされでもしたのか、いやそうでは無い。

 

 それ以前に求道一途という男は七草真由美という人間を、その考えを否定したのだ。

 

 昼休みの終わり、真由美を否定した一途はその場の誰もが驚きや義憤によって固まっている中ただ一人変わらぬ歩調でその場を去った。

 

 結果として真由美の目論見は最初期の段階で破綻したのであった。

 

 

 

 

 

「会長のお考えを、施しと言い切った求道先生のお考えをお聞かせください」

 

「それで、市原会計は自分のところに来たということですか……」

 

「答えてくださらないのであれば、答えてくださるまで私はこの場に居座ります。このような暴挙に出るのは当然私も困りますが貴方のお立場としても困るのでは無いのでしょうか?」

 

「嘆願、とも違いますね。こう言っては何ですが、貴女と七草会長は他人です。何故そこまでする義理があるのでしょうか? 分かったのなら教室に帰りなさい。内申に響きますよ」

 

「ご心配どうも。ですが求道先生がお話しすれば万事解決です。求道先生が会長自身にお伝えするのが一番良いのですが、それが嫌だと言うのであれば私が伝えますのでご安心を」

 

「……」

 

「さぁ、如何しますか求道先生? 他の方々からの目が集まってきましたが?」

 

 

 ノート型端末の前で空間投射型キーボードをタイピングしながら次の授業に向けての準備を進めていた一途であったが、昼休み終了のチャイムであると同時に午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響くと同時に教員室に単身乗り込んできた市原鈴音に頭を悩ませていた。

 

 多くの教員は授業や演習でこの場を離れているが、残った少ない教員が好奇心を目に宿して外野から二人の様子を眺め静観の面持ちで見守っていたが、一途にとってはこの事態は望外の事態である。

 

 鉄面皮よろしく無表情の鈴音だが、その瞳には義侠心(ぎきょうしん)によって燃え上がる怒りの炎が燃え上がっているのが容易に見て取れるのだ。

 

 それが一途にとって厄介だと思える事であり、同時にこの冷静で無表情の少女に好感を抱いてしまう悩ましい原因でもあった。

 

 

 七草真由美という少女が鈴音にとって友であるからこそ、友である真由美に対して一途があのような言葉を発した事で彼女の義侠心に火が付きこのような事態を起こしてしまったのだ。

 

 端的に言って、この事態は一途が巻き起こしたものである。そのため我関せずと素知らぬ顔で鈴音という少女を無視し続けるのは如何なものかと一途の心の中に疑問が浮かんでくるのであった。

 

 授業開始から10分が経過し、一途は、鈴音が自身の立場と境遇をわきまえているならばそろそろ諦める頃合いだろうとちらりと横目で伺ったのだが、彼女の鉄のように変わらぬ表情と燃えたぎる怒りを宿す瞳を見てしまったことを激しく後悔することになった。

 

 いかに一途といえど人間である。スカサハという愛する女以外に愛の全てを捧げているとはいえそれでも人の機微がわからぬ男では無い。むしろ女であるスカサハの機微を察するために女心に関しては聡い節も見られるが、スカサハ限定であるためこの場合適応されているかは甚だ疑問ではあったが彼はため息をついて鈴音に降参の意を示したのであった。

 

 

「戻りなさい市原会計。放課後、必ず生徒会室に伺って七草会長に私自らお話しします。何故私が彼女の考えを施しだと、下らないと断じたのか。これは、ゲッシュです。故に破られることはないと思いなさい」

 

「……ゲッシュ……アイルランドにおける古い誓約、でしょうか?」

 

「よく勉強している。アイルランドの言葉で禁忌・タブーを意味する言葉です。師からルーンの教えを受けた自分が口にしたゲッシュという意味を、努忘れ侮らないようにお願いします市原会計」

 

「分かりました。それでは、放課後に生徒会室でお待ちしております」

 

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