我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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第八話

「それで生徒会室に来たは良いものの……何故こんな面倒ごとになっているのか。少年、君はまさに生まれながらにトラブルに愛されているらしいな」

 

「それは言わぬが花と言うものですよ求道先生。俺も喜んで首を突っ込んでいるわけじゃないんですから」

 

「喜んでいるわけじゃない、ね。だが自分から首を突っ込んだのは真実だ。違うか少年?」

 

「……ノーコメントで」

 

 

 そう言って、達也はジェラルミンケースからロングバレルタイプの銃器型CADを取り出し、魔法が記録されているマガジンを取り出して目に見えない目標に向けて構えを取りCADの感触を確かめると、納得がいったように頷いた。

 

 グリップを握る感触を二回確かめて、達也は再三の溜息をつき演習室の中央に向かう。

 

 演習室の中央には先客がおり、その先客は大胆不敵な笑みを浮かべて余裕と自信からくる勝ち誇った笑みを既に浮かべて達也が中央に来るのを待ち構えていた。

 

 先客の名前は服部刑部。戸籍名はもっと長いのだがこの場では割愛。

 

 第一高校二年生、現生徒会副会長にして学園内にて五本の指に入るほどの魔法戦闘能力を持つ第一高校きっての優秀な魔法師である彼と、二科生の中でも特に実技の不得手な司波達也がここで模擬戦を行うことになっている。

 

 魔法を用いた模擬戦等は基本的に魔法を高速で発動することに集中し、相手に当てることに重きを置かれている。

 

 事実として魔法を当てられれば相手は集中力を乱されて、魔法発動中断を余儀無くされる。そうなれば勝利は先手を取った者の手に委ねられるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 小手先の小細工など不要。ただ優秀な者だけが勝利を収めると言う意味ではこれほど分かりやすい図式は無かった。

 

 

 演習室中央で向かい合う二人の少年達だが、壁際ではそんな二人を様々な思惑で視線を送る少女達おり、その中一途の姿もあった。

 

 

「求道先生は……どう見られますか?」

 

九分九厘(くぶくりん)で少年の勝利だと、自分は思いますよ司波深雪さん」

 

 

 壁際で兄を見守る深雪の問いと迷いなく口にされた一途の答え。

 

 それが二人の兄妹を除く演習室にいた少年少女の心をざわめかせる。

 

 

「……私が……この二科生に負けると? では客観的事実として、その理由をお聞かせ願えますかね求道先生……!」

 

「模擬戦手前であると言うのに君は敵から目をそらして自分を見た。それだけで君の敗北を助長すると分からないのですか? それともそれは余裕だと? 違いますね。それは余裕ではなく油断であり過失であり過信である。前を見なさい。戦う者としての心構えで言うのなら、服部刑部よりも少年の方が優れているのだから」

 

 

 この場合、服部の過失は確かに目を逸らした事にあった。だが九分九厘と言い切った一途の言葉は服部や生徒会の者達の意識を彼に引き寄せるものがあったのは確か。それを前にして視線を向けるなと言うのが無理と言うものだった。

 

 

「……」

 

 

 しかし、司波達也に油断はない。彼に油断と言う感情は、戦いにおいて存在しない。

 

 

「それと、市原会計と約束したゲッシュがありましたね。市原会計、この場でお話しした方がいいですか?」

 

「……お願いします求道先生。貴方が何故、会長の想いを偽善だと、下らないと断じたのかを……」

 

「!? 市原先輩っ! それはどう言う事ですか!?」

 

「それを今から求道先生が説明してくださいます。服部くんは司波くんとの模擬戦に集中してください」

 

「っ……! はい……っ!」

 

 

 服部は頷きはすれどその意識はもはや達也にではなく、一途と真由美に向けられていた。一途には怒りを、真由美には心配を。

 

 随分と健気な男だと、一途は内心で笑いながら眼鏡を外してその視線を真由美に向けた。

 

 一途が合流してさっきから借りて来た猫のように大人しかった真由美だが。一途の視線に射抜かれて、その瞳を見て固まってしまった。

 

 その瞳の力強さは、パッとしない容貌からは信じられないほど強大な意志力を秘めていたからだ。

 

 

「オレが、七草真由美の考えを下らないと断じたとにはいくつか理由があるが……最たる理由はそれがカラッポだと分かったからだ」

 

 

 本人が気づいていないのが滑稽でいささか憐れだがなと、続けて胸ポケットに眼鏡をしまい込む一途を尻目に、審判である摩利は今は待つべきだと静観の姿勢を保つ事にした。

 

 この状況で事を急いてはけが人が出る恐れがあると正確に判断したからである。

 

 

「まるで清らかな聖者のような考えだ。恵まれない二科生に愛の施しを……この考えに付随する感情を論ずることは後の者にやらせておけば良い。だがな——七草真由美は偽善でも憐れみからでも嘲笑から二科生の境遇をどうこうしようとしたわけではない。ただ——それが正しいから行なっているだけだ」

 

「ただ正しいから……それは、一体……?」

 

「人間には感情が存在する。何かをするには何かしらの想いが、欲望が付随する。その欲が行動の原動力になっているのは誰しも見たくなくとも気づいている。だが、この施しに関して七草真由美はただ正しいからという機械にも似た強迫観念によって突き動かされているだけに過ぎない」

 

 

 もはやこの場は一途の独壇場であった。

 

 そして、真由美は自身の想いが丸裸にされているようで耳を塞いでうずくまりたい気分であった。だが、自身は聞かなければならないという使命感のようなものを感じていた。

 

 その姿を見て、一途は下らないと断じたのだ。

 

 

「下らん下らん下らん。低脳な畜生にも劣る所業でしかない。ただ正しいから行う? はっ! そうまでしなければならん理由はなんだ! 人は正しくなければいけないのか否か! そうまでして正しさが恋しいかよ七草真由美。お前の根底……それはお前自身が何よりも気づいているはずだ。そうだろう?」

 

「……もう、良いですから……」

 

「それは七草として、十師族としてふさわしく在らねばならないというお前自身が産み出した下らん妄想だ」

 

 

 妄想だと、一途は言い切った。

 

 もはや魔眼と化した一途の眼力に見つめられた事によって真由美の虚飾はことごとくが剥がされていく。言葉で取り繕うことも、笑顔の仮面を被るという事も取れない真由美は胸を押さえて過呼吸寸前の呼吸を整えようと、ついにその場に蹲ってしまった。

 

 

「会長!?」

 

「会長、大丈夫ですか!?」

 

「おいおい服部刑部。敵に背中を向けて良いのか? オレなら貴様の頭蓋を踏み潰しているが今回は相手が優しくてよかったな。雑草と断じた相手に情けを掛けられる気分はどんな味だ?」

 

「っ! 教員だからと、調子に乗るのもそこまでにしろお前! さっきから何なんだ! 会長を苦しめるのがそんなに楽しいのか!? この二科生を使って俺を侮り嘲るのがそんなに楽しいのか!?」

 

「露ほどにも思っていない。だがオレはお前たちを”殴る”ぞ? なぜなら傷つけるということは触れる事だ。今のオレは教師だ。お前たちが惑っているというのなら、殴ってでも、教え、正しさを、導くのが道理で義務だ」

 

 

 そう、一途は真由美を追い詰めていたがそれは悪意からではなかった。服部は凄んだのだがその眼を見て、一途の眼力に気圧されてしまって黙ってしまった、足を止めてしまった。躊躇ってしまった。

 

 

「良い加減に自分を見つめろよ七草真由美。お前を救ってやれるのは、お前の想いに真に気づいてやれるのは、お前自身に他ならない。惑うが良い。躓き転ぶが良い。ただ、立ち上がり再び歩けよ前を見て。それが生きとし生ける”人間”と言うものだ」

 

 

 一途は結末を見る事なくこの場を去って行く。誰も止めることができなかった。真由美には、彼の言葉があまりに心に響いてしまって声をかけることができなかった。

 

 

「我も人、彼も人、ゆえ対等。なればこそお前も人だ七草真由美」

 

 

 そう言って一途はこの場を去った。

 

 後の模擬戦が一体どう言った結果を残したのか彼は知らないし知る気もない。

 

 今日、彼が初めて全力でスカサハ以外の他人に向き合った日であった。それがわかるからこそ、今宵のスカサハの機嫌は悪く、そして誇らしいものであった。

 

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