やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 「さて、そろそろ行きますかね」

 

 嵩張る段ボールは教室側の一角に一纏め。ビニールもプラも同じ袋で閉じている。これならば分別できていないからと跳ね返されるようなこともないはずだ。流石、八幡。やれば出来る子。自分で自分を褒めちぎってやらないと心がぽっきり折れそうだったので、修造張りに何度も自分に熱い言葉をかけてやった。

 昼も近付いてきたので、演奏会に向かおうと教室に入った。

 俺たちの一年六組の『こわぁいお化け屋敷』はイベントに消極的なはずの進学クラスにしては、中々レベルが高い。

 入り口から入ってすぐの誰かが通ると手が一斉に出てくる通路は、人的資産を使い込んでいるだけあってインパクトは強いし、後半のカーテンが開くとメイクを決め込んだ幽霊が飛び出てくるところなんかは客の悲鳴が絶えない。受付では手持ちライトを渡して暗闇の中を客に進ませるのだが、そのライトが床のスイッチを踏むと消える仕組みになっているのはもはやどういうトリックが仕掛けてあるのか俺には全く分からん。

 八幡的には、そんだけ頭いいドッキリができるならもう少し前日の準備の段取りもしっかりと決めておいて、ゴミを片付けてから帰って欲しかったなあ。

 

 それにしても、日光が明るかったベランダから真っ暗な教室に入ると視界がおかしい。こういう物が見えにくい状態から、徐々に見えるようになっていくのを暗順応と言うのだったか。何かにぶつかって、思わずうめき声を上げた。

 

 「う、うおぉぉ…」

 

 「ひっ……!」

 

 どうやら間違えて客用の通路に入ってしまっていたらしい。目の前にいる制服を着た女の子から悲鳴が上がった。

 

 「い、い…、いやあああああぁぁぁ!ゾンビいいぃぃ!」

 

 へ!?ぞ、ゾンビ!?

 あまりの大声に咄嗟に耳を閉じた。今日一番のビビり声に裏方のクラスメイト達からも『な、何だ!?』と慌てた声が聞こえてくる。

 ジェットコースターに乗ったときくらい大声を出して泣いている女の子を前に、頭の中で黄色信号が点灯する。逃げないと。咄嗟にそう思った。

 

 「どうしてこんな目に遭うのおおぉぉ……!」

 

 それはこっちの台詞だよおおぉぉ…。そっちはお化け屋敷に入ってビビりに来たんだから文句言えないけど、こっちはただのゴミ処理係なんだよおおぉぉ…。

 

 

 

 

 

 北高吹奏楽コンサートは体育館にある席が全て埋まって、立っている人がいるくらいに観客が来てくれていた。大人や生徒も多いが、中学生も一定数いて、自分よりも年下の彼らからキラキラした目で見られていると、これも全国に行ったことで知名度が上がった効果なのだなと実感。

 コンクールメンバーの五十五人だけでなく、Bチームのメンバーも加えて演奏をすると、当たり前だが迫力も厚みもある。Bチームのメンバーだって、俺たちと同じように毎日練習をしている。府大会の前とはレベルが段違いだ。

 そんな当たり前なことを考えながら演奏していたが、観客の中に小町がいることに気が付いて、一時間足らずのコンサートが終われば大急ぎでトランペットを片付けた。

 

 「すまん。待たせたな」

 

 「ううん。楽器の片付けしてたんでしょう?仕方ないよ」

 

 小町と待ち合わせていた場所に向かうまでは悪い男にナンパとかされていないか心配だったが、流石俺の妹。話し掛けるなオーラをばっちり出しながら、パンフレットを眺めてふんふんと一人で頷いている。

 それにしても小町はニコニコと楽しそうだ。何かいいことでもあったのかい?

 

 「お兄ちゃん、時間はあるの?」

 

 「おう。ばっちりあるぞ。仕事は全部終わらせてきた」

 

 「仕事終わるの早くない?確か、お化け屋敷だっけ?」

 

 「そうそう。クオリティが中々高くてだな」

 

 「ふーん。そっかー。

 お、タピオカの出店もあるんだ!タピッちゃおっかな?」

 

 「タピるって、また…。俺のクラスにはビックリするくらい興味なさそうだな?」

 

 「うん。だって行かないし」

 

 「え?行かないの?」

 

 「だって嫌だもん。小町がお兄ちゃんと回ってるのが恥ずかしいとかじゃなくてさ、自分のクラスに遊びに行ったのに、お兄ちゃんがクラスメイトから『誰?』みたいな感じで認識されてないのを見るのがね。

 大体わかってるよー。家で話聞いてると、いっつも吹部の話ばっかりだもんね。クラスの話、聞いたことないからさー」

 

 「さいで……」

 

 本当に良く出来た妹だよ。こいつ。

 あまりに感心しすぎてため息が出てきちゃったよ。

 

 「じゃあどこ行くか?」

 

 「ちょっとお兄ちゃん。デートプランを考えてくれてないのは、小町的にポイント低いよ?」

 

 「だってデートじゃねえしな」

 

 「男の子と女の子が二人で遊んだらデートだよ?」

 

 「いやそれが兄妹だったら、家族サービスになるから。接待だから」

 

 「家族サービスはまだわかるけど、接待は違うんじゃない?」

 

 妹が不機嫌にならないように気を遣い続けるんだから接待と大して差はないだろう。とは言え、あんまりにも接待、接待だと言って小町の気を悪くさせたらそれこそ元も子もない。話を変えよう。

 

 「もはや俺パンフレットなんか見てもいないぞ」

 

 「えー…。小町が来て一緒に回らなかったら、どんな一日を過ごそうとしてたの…?」

 

 「…い、行き当たりばったり的な?」

 

 小町の視線は痛い。行き当たりばったりのデートプランは女の子に嫌われるという記事を見たことがあるが、そもそも女の子に行き当たることがなければ嫌われることはない。よって俺は嫌われないはずなのだ!

 小町が来なければ強制参加のコンクール以外の時間は何もしていなかっただろうなぁ。それこそ、文化祭の記憶はベランダだったまである。

 

 「もういいよ。小町がいくつか行きたいとこピックアップしたから、お兄ちゃんはお財布だけ用意しといて」

 

 「お、おう」

 

 「うーん…。あ!じゃあ、まずはみどりさんの教室に行こう!」

 

 「お、川島の所か。いいな」

 

 「でしょ!」

 

 「うん。ところで川島のクラスって何やってるんだ?」

 

 「え?知らないの?」

 

 「逆に何で知ってるの?」

 

 「…まあパンフレット見てないって言ってたもんね……。

 メイド喫茶だってさ、みどりさんのクラス」

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