やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 「いやー。驚きましたしたね。まさかウサギが突っ込んでくるとは」

 

 「私も比企谷君だって思ったら、知らない女の子と一緒にいたからビックリだったんだよ?私服の女の子だったし、もしかして彼女さんかなって思ったらどう声かけていいかわかんなくなっちゃった」

 

 「小町もビックリしましたよ…。まさかウサギの中からとんでもないべっぴんさんが出てくるんですもん。川から流れてきた桃を割ってみたら可愛い赤ん坊が出てきた時のおばあさんの気持ちも、きっとこんな感じだったんだろうなあ…」

 

 三人で驚いたビックリしたを繰り返す三人組。全員驚いた理由が違うのも不思議だし、そのうちの一人が顔はとんでもない美人なのに身体が黄色いウサギだというのが尚、奇妙な空間を演出している。アニメだったらきっと、俺たちの周りには『!』と『?』が溢れかえっているだろう。

 

 「比企谷君の妹さんだったんだね。初めまして、三年の中世古香織です。名前は小町ちゃん?」

 

 「は、はい。妹のこここ小町です。いつも兄がお世話になっておりますです」

 

 「さっきからどうした?なんかおかしいぞ」

 

 「だだだって、不細工なウサギの中からエンジェルが現れたんだよ。狩○英孝がゲストで来るって聞いてたのに、手○佑也が出てきたようなもんだよ」

 

 「伝わんねえだろ…」

 

 「不細工?可愛いよー」

 

 「かわ……あれ…。中世古さんが言うと可愛く見えてきた……?おかしいな…」

 

 「不思議だよなぁ。身体だけ見ると可愛くないのに、顔も含めて見ると可愛く見えるんだぜ」

 

 「二人とも褒めてくれてるの?」

 

 困ったような顔をしている香織先輩もマジキュート!やべ、優子先輩みたいになっちゃった。

 

 「うーん。お世話になってますかー」

 

 「え?なんすか?」

 

 「むしろ私の方がお世話になってる気がするなあ」

 

 「いやいや。そんなことないですよ。先輩、うちのパトリだし」

 

 「でも色々迷惑かけちゃったこともあったし、帰りとか一緒に帰ってくれると楽しいし」

 

 「えー!」

 

 「うおっ!本当にさっきから小町どうした?」

 

 「思えばおかしいよ。あのお兄ちゃんが香織先輩って下の名前で呼んでるし!名前呼びの人、優子さんだけじゃないの!?」

 

 「そりゃまあそう呼んでって言われたし…」

 

 「お兄ちゃんが顔染めてそっぽ向いても気持ち悪いだけだよ。

 お兄ちゃん普通なら『下の名前で呼ぶとか、どこのアメリカ人だよ?

 大体、海外だったらどうだーとかあの風潮が気に食わん。異文化コミュニケーションだとかグローバル人材がどうとか本当何なの?海外に合わせて横文字使ってる自分達かっこいいって気取ってるだけにしか見えねえ。

 日本人らしくイエスノーはっきりさせないで飄々と流されながら残業してりゃ、文化的次元を理解しなくたってマネジメントできるから。大体のことはな、時間と誰かの我慢で解決するんだよ。

 それを証明して武器にするお国柄で何が悪い。まあ、俺は働かねーけど』とか言うじゃん」

 

 「すごーい!流石は妹ちゃん。比企谷君の真似上手ー!」

 

 「え、今の小町の似てました?」

 

 「それはあんま嬉しくないかもなあ…。

 まあそんなこと置いといて、下の名前で呼んでるしトランペットパートの先輩で何か仲良さげ。これは高坂さんよりもさらに何かありそうな予感が、びんびんに感じられちゃいますねえ!」

 

 「何もねえ。何もねえから。ところで香織先輩のクラスは何してるんすか?」

 

 小町に自転車二人乗りした話とか間違ってもばれないようにしないと。割と思いっきり話を逸らしたが、香織先輩は気にせずに答えた。

 

 「私のクラス、ダンスパフォーマンスしてるんだ。私は宣伝隊長してるの」

 

 「それでその着ぐるみなんですね?」

 

 「そうそう」

 

 三年二組のクラスメイトの誰もが、香織先輩に宣伝をしてもらうことになったときに『よし、集客はばっちりだ』と思ったことだろう。

 そして香織先輩が突然、このウサギの着ぐるみを着て『それじゃあ、頑張ってお客さん集めてくるから』と言い出したときに、『それ着ちゃうのかよ……』と思ったが張り切ったこの顔を見て、そんな指摘できなかったことも想像に容易い。

 

 「小町ちゃんは来年受験なの?」

 

 「いえ。小町は今二年なんで、再来年受験です」

 

 「そうなんだ。じゃあもし、北宇治に来たら比企谷君と一年間は一緒に高校生活送れるんだね」

 

 「はい。別にお兄ちゃんはどうでもいいんですけど、吹部には高坂さんみたいな美人もいるし、みどりさんとか葉月さんみたいに話しやすい先輩達もいるし、まだちゃんとは決めてないですけど北宇治と吹部いいなーって思ってます!」

 

 「おお。私も小町ちゃんが吹部入ってくれたら、学校生活一緒に過ごせるわけじゃないけど嬉しいな」

 

 お兄ちゃんどうでもいいってとこはあれだよな、恥ずかしさの裏返しみたいなやつでいいんだよな?

 

 「うぅ。今日の文化祭に来て一番の収穫はお兄ちゃんの周りの人が、やたら美人でいい人ばっかり集まってることだよ。

 優子さんに前会ったとき、可愛いし仲良さそうにしてたからこれは優子さんに小町は賭けるしかないって思ってたら、優子さんだけじゃなくて同じ一年に高坂さんいること知って、まさか高坂さん以上の女の人はいないと思ってたら中世古さんいたし。

 お兄ちゃんのパート、本当どうなってるの?」

 

 確かに北宇治のトランペットパートのレベルが高いって言うのは塚本も言っていた。

 だけど、ただ可愛いだけじゃないんだな。ストロングなメンバーと評したのは、確か田中先輩だった。今年のトランペットパートはこれまで部の中心になってきた。特にここまでの揉め事では。

 トランペットは吹奏楽の花形って言うけど、こういう目立つ人が集まるのだろうか。だったら俺、目立たないから逆にパート内でめちゃくちゃレアキャラだわ。

 

 「そうだ。比企谷君達さえ良かったらさ、今から休憩に入るから一緒にあすかのクラス行かない?結構面白いらしいよ?」

 

 「田中先輩のクラスかあ…。ちなみに何やってるんですか?」

 

 「占いだって」

 

 「面白そうですね!その田中先輩って人も三年生の先輩?」

 

 「ん?ほら、今日のコンサートで司会やってた」

 

 「ああ。あのハキハキしてる人」

 

 「そうそう。三人で行こうよ?」

 

 「小町は賛成だよ」

 

 「俺も別にいいぞ」

 

 「それじゃ、行こっか。あ、その前に……」

 

 香織先輩は手に持っていたウサギの頭を被った。これを被ると話せないらしくて、ジェスチャーで行こう行こうと伝えてくる。

 

 「……やっぱり、それ付けない方がお客さん集まるんじゃないかな?」

 

 「……やめろ。香織先輩はこっちの方がいいと思ってやってるんだから」


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