やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 「あ、玄関のネームプレートに比企谷って書いてある。ここが比企谷家…」

 

 「はい。借家ですけど」

 

 「なんか予想通りのお家だな」

 

 「外見と同じで、中も何も面白みのない普通の家ですよ。それにしても結構降ってきましたね。やっぱり学校戻んなくて良かったんじゃないですか?」

 

 「本当だよ。危なかった」

 

 二人で走って五分くらい。びしょびしょになりながらも何とか我が家に着いた。

 徐々に強くなっていく雨脚は、本格的な台風の到来を感じさせる。さっさと自転車を玄関脇のスペースにおいて、鍵を開けるべく玄関の前に立った。

 

 「うぇ!?」

 

 咄嗟に目を逸らした。とんでもないことになってる…。

 

 「どうしたの?」

 

 「いえ、何でもないです。ちょっと軽く肩を脱臼しましたみたいな。あはは」

 

 「それ、全然笑い事じゃないでしょ!?」

 

 やばい。やばいやばいやばいやばい!

 北宇治の制服は白い。だから濡れれば、下が透けて見えるわけで、そりゃもうばっちりピンクが見えてしまっている。

 バカ!八幡!そんなことよりも見るのはびっしょりと水気を孕んで、いつもより重さが増している髪や、頬を伝っている雨だろう。風邪をひかないように早く乾かしてもらわないと。

 意識を鍵のひんやりとした冷たさに向けることで、煩悩をできるだけなくす。ガチャリと言う音と共に、すぐに玄関を空けた。

 

 「ただいま」

 

 小町の『おかえりー』という声と共に、出迎えにやってきたのはかまくらだった。ふすっと機嫌が悪そうに見えるのは雨が降っているからか、それとも俺のご帰宅なんぞのためにわざわざ玄関に来るのが面倒くさかったからか。

 

 「やーん!ちょーかわいー!」

 

 女子の可愛いは大体信用できないが、優子先輩の可愛いは本物だと思う。語尾にハートが付いてそう。

 

 「おいでおいでー」

 

 「ダメですよ。俺たち濡れてるんで、多分嫌がって来ないです」

 

 「そっか。確かに雨で……!」

 

 バッと身体を、主にピンクの何かを隠すようにぎゅっと抱きしめた。濡れているという言葉で、自分の今の姿を見た優子先輩が透けていることに気が付いたからだ。

 

 「ちょ、ちょっとこっち見ないで!」

 

 「は、はい!すいません!」

 

 いや、俺なんで謝ったんだ。気付いたときからできるだけ見ないように意識してたのに。家に入ってからも見ないようにしてたのに!これじゃまるで、俺がちらちら気になって見ちゃってたみたいだ。

 ……見ちゃってたけど!煩悩なんて鍵に意識集中したくらいじゃ全くなくならなかったけど!

 

 「お兄ちゃん、タオル持って……って、えええぇぇ!優子さん!?」

 

 「急に来てごめんね、小町ちゃん。お邪魔します」

 

 「どうしたんですか……って言うかそれよりも二人ともびっしょり!このタオル、優子さん使って下さい!今、お兄ちゃんのタオルもう一つ持ってくるから待ってて」

 

 「おう。すまん」

 

 ぱたぱたと急いで洗面所に向かっていく小町と、それに付いていくかまくら。戻ってくるまでは、十秒足らずだった。

 

 「ほい。お兄ちゃん」

 

 「うい。サンキュー」

 

 「それで、どうして優子さんが?小町、今度来てくださいなんて言ったけど、まさか今日来るなんて微塵も思ってなかったから、二人っきりにす……い、色んな準備をしてなかったです」

 

 「おい、今何言いかけた?」

 

 「何でもないよ!それより、本当にどうしたの?」

 

 「あのね、私が家の鍵を学校において来ちゃって、困ってた所にたまたま比企谷に会って雨宿りさせて貰うことになったの」

 

 「ほほう。優子さんの家、この辺ですもんね。だから帰り途中の兄に会ったって感じなんですね。なるほどなるほどー。

 そういうことなら、もう何時間でもいちゃって下さい!台風の中、家に帰るのも危ないのでごゆっくり!」

 

 「本当にごめん」

 

 「何言ってるんですか!困ったときはお互い様ですし、小町も今日ももっとゆっくりお話したいなって思ってましたから!」

 

 「小町ちゃん…」

 

 「それより、お兄ちゃん。小町言ったでしょ?雨降り始めるの遅いらしいけど、一応傘持ってきなって。ちゃんと持って行っとけば、優子さんこんなに濡れなかったのに」

 

 「色々バタバタしてて忘れちゃったんだよ。つか、それだと俺は濡れていいみたいになってるんですけど」

 

 「これだからゴミいちゃんは……ところで、その背負ってるギターって優子さんの?」

 

 「そうそう。私の。比企谷が持ってくれたの」

 

 「そうなんですね!やるじゃん!これは小町の言うこと聞かないで傘持ってかなかったマイナス分をプラスにするだけの成果かな。小町的にポイント高いかな」

 

 「いや、ただ持って帰ってきただけだろ」

 

 頭をわしわしとタオルで拭きながら、靴を脱ぐ。このべちゃついた靴って、大っ嫌いなんだよなー…。早く乾かさねえと。

 

 「まずは二人とも、制服と靴を乾かさないとですね。ストーブ付けてこないとだ」

 

 「そ、そこまで気を遣わなくて大丈夫だよ?」

 

 「いえいえ。兄のを乾かすついでですから気にしないで下さい」

 

 「本当に良く出来た子…」

 

 「そんなそんなー。褒めてもなーんにも出ませんよー。あと、シャワーですね。お兄ちゃん、優子さんが先でいいよね?」

 

 「ああ。別にいいぞ」

 

 「ふぇ!?シャワー!?」

 

 「そりゃそうですよ!このままじゃ風邪引いちゃいますから!ほら、ある程度ふけました?そしたらすぐにお風呂場直行です!」

 

 「いや、本当に待って!なんか、心の準備みたいなのが…、ちょちょちょ押さないでってば!ねええぇぇ!」

 

 すげえな小町。颯爽と先輩のこと風呂連れてったぞ。

 まあ小町は外見通りの今をときめくJC(笑)。一切触れなかったけど、男の前で服が透けてんの気遣ったんだろうなあ。

 

 

 

 

 

 小町と二人で優子先輩が風呂から出てくるのを待つ。つーか小町に連れていかれてすぐに気が付いたけど、あれだよな。俺が次シャワー浴びるときって、優子先輩が入ってた後ってことなんだよな。

 並んで干してある俺と優子先輩の制服。自分の家なのに全く落ち着かない。こういう時はかまくらを撫でて……ってあいつ、もう寝てるし。この子、一日何時間寝てるのん?

 

 「いやー。まさか、お兄ちゃんが家に誰かを連れてくる日が来るなんてなー。しかも女の人を。小町、兄の成長に涙が出てきちゃうよ」

 

 「さっき話した通りだよ。急な雨だったんだから仕方なくだって」

 

 「理由はなんでもいいんだよ。むしろ、それで家に連れて来てあげたって所も含めて、今回のお兄ちゃんは本当にポイント高すぎ!ナイスプレーだよ!」

 

 ぐっと親指を上げている。それと一緒にアホ毛がピコピコと動いているが、きっと対象的に俺のアホ下はげんなりと倒れている気がする。

 

 「でもこれから台風強くなるっていうし困ったね」

 

 「ああ。父さん達帰ってこれるのか?」

 

 「もしかしたらどっかに泊まってくるかもしれないね」

 

 小町はしばらくスマホを弄っていたが、しばらくすると飲み物を持って俺の隣に腰を落ち着けた。

 

 「ねえねえ知ってる?」

 

 「何?豆柴?」

 

 「さっき優子さんのことお風呂に連れてったじゃん。お肌真っ白だった」

 

 「知らねえよ」

 

 未だかつて、ここまでパーソナルでセクシャルな情報を提供してくる豆柴を俺は知らない。

 

 「しかもね、着やせするタイプだった」

 

 「それ逆に、俺が知ってたら妹的に嫌だろ…」

 

 「スタイル良かった」

 

 「さっきからお前、それ俺に話してどうしたいの?」

 

 「それでね、あの素晴らしいルックスのことは置いといて大事な話があります」

 

 「いや、そもそも優子先輩がどうだったって勝手に話を持ち出したの小町なんだけど…」

 

 妙に真剣な顔して何を言い出すかと思えば、急に優子先輩の話をし始めた小町。あんまりにも突拍子もないことに俺の頭は完全に置いてきぼりだった。

 

 「今日北高祭に行って、お兄ちゃんが帰ってきたら絶対話そうって思ってたんだどね、優子さんのことはちゃんと大切にしなくちゃだめだよ。それが恋愛的にであっても、部活動の先輩後輩の関係であっても。

 勿論、今日会った他の人たちみんな、優しい人だしお兄ちゃんと仲良くしてくれてて嬉しい。小町が一年だけ見てた中学生の頃はあんな人達、一人もいなかったじゃん。本当に今日は北高祭に行って良かったって思った!」

 

 「……」

 

 「だけど、その中でも優子さんはさ、小町達が京都に来て最初の頃からずっと、お兄ちゃんとこうして普通に接してくれたり、お兄ちゃんのこと色んな意味で気にかけてくれていたりしてくれた人なんでしょ?

 きっと中学の人たちとは違う。小町が知ってるお兄ちゃんのことを、それに今は北宇治の吹奏楽部の一員として頑張ってる、小町が知らない比企谷八幡のこともちゃんと見てくれる。

 だから絶対にちゃんと向き合って?小町からの一生のお願い」

 

 「…急にそんな話をしだして、なんかあったのか?一生のお願いとか言われると、これから小町と別れるみたいに感じるんだけど」

 

 「いやー。もしかしたら小町も兄離れしないと行けないのかもなーってさ」

 

 「はあ?しなくていいから。俺だって妹離れしないし。一生小町に身の回りのお世話して貰うって決めてるんだから」

 

 「…そうかなー」

 

 小町の少しだけ寂しそうな顔。まさかこんな表情を、今日見ることになるなんて思ってもいなかった。

 

 「本当にどうした?真面目に心配なんだが?」

 

 「…ちょっと前に花火大会のことで小町を頼ってくれたり、今日もお兄ちゃんと一緒にいて照れてたりする可愛い優子さんへのほんのちょっとだけのお手伝いだよ」

 

 「え?何?そうやってクッションに顔を埋めながら言われても、何言ってるかよくわかんないんだけど?」

 

 「小町はお兄ちゃんの幸せを祈ってる!ただそれだけ!

 別に頭おかしくなったりしてないし、小町は家出て行ってこれから会えなくなるとかで言ったわけじゃないからね!

 それじゃ、小町は優子さんの着替えを用意しないといけないから。あ、お兄ちゃんのシャツ、適当に借りるねー」

 

 「あ、ああ……え?」

 

 優子先輩、俺のシャツ着るの?小町のはサイズ的に小さくて着れなくても、母さんのとかの方がいいんじゃないか?

 そう伝えようとしたが、小町はもうすでにリビングにはいない。ここにいるのは、おかしかった小町のせいで惚けている俺と、眠っているかまくらだけだった。

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