やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 「お兄ちゃん。優子さん出たよー」

 

 リビングに戻ってきた小町は、後ろに優子先輩を連れてきた。マジだ。優子先輩、俺のシャツ着てるじゃん。

 

 「あの、これ。借りてます」

 

 「…ど、どうぞ?」

 

 「うん。ありがとう」

 

 優子先輩は身長が百六十もないから、俺のシャツを着れば当然にダボダボになる。スカートとまではいかないが、シャツの長すぎる丈は小町の貸した半袖のパンツのほとんどを覆っていた。

 シャワーを浴びたばかりだからか、少しだけ火照っている頬に、まだ髪はほんの少しだけ水気を孕んでいる。何だろう、ちょっとエロい。

 

 「ねえねえ知ってる?」

 

 「またかよ…。今度は何?」

 

 「優子さんの髪ね、ドライヤーしてたらさらさらだった。しかもめっちゃ綺麗なの。目に優しい」

 

 「……まあそれは見ればわかるけど」

 

 「え?それはって何?二人とも、私がシャワー借りてる間何の話してたわけ?」

 

 「優子さんには秘密です」

 

 くふふと謎めいて笑う小町に、詰め寄っている優子先輩。二人を見ていると似てはいないが、姉妹に見えなくもない。

 正確には秘密と言うよりも言えない話だけどな。気になって仕方ないみたいな顔をしている優子先輩には申し訳ないけど。

 

 「ほら、お兄ちゃん。入ってきなよ?」

 

 「別に良くね?髪は乾かしたし、もうここにいて身体も温まってるし」

 

 「ダメだよ!もしお兄ちゃんが風邪引いたら面倒見るのは小町なんだからね。一応入ってきて」

 

 「はぁ。へいへい」

 

 「あ、後さ。夜ご飯どうしよっか?お腹空いてる?」

 

 「いや。北高祭で変な時間に食べたからそんなに。夜に腹空かないくらいの少量でいいわ」

 

 「小町もー。でもなー、折角優子さん来てくれてるし、ここは気合いを入れて作りたいところなんだよなー」

 

 「そんな。本当に気を遣わなくていいってば。私もお腹空いてないし」

 

 「確かに優子先輩はあのクレープ完食したんですもんね…」

 

 「う。思い出しただけで胸焼けしそう…」

 

 「じゃあ、今日の夜ご飯は軽い物にしよっか。お父さんとお母さんには冷凍してあるおかずも一緒に出してあげればいいでしょ」

 

 「小町ちゃん、本当に家事全般なんでもしてるよね」

 

 「家にどうしようもないダメ人間がいるんで、勝手に身につきました」

 

 「失礼な。俺だってやろうと思えばできるんだぞ?」

 

 「やんなくちゃ意味ないのよ」

 

 「そうだよ。たまには小町、お兄ちゃんのご飯食べたいもん」

 

 「え?比企谷って料理できるの?」

 

 「こう見えて、小町が小さい頃はよく作ってくれてたんですよ。うちはずっと両親が共働きなので、まだ小学生の小町が火を使うのは危ないからってお母さんに言われて嫌々やってたなー。懐かしい」

 

 料理だけではない。日用品の買い出しに、家の掃除もやっていた。

 子どもの頃にやっていたことや、憧れた物は将来自分が仕事を探すときに影響を受けやすいというのは、データとして立証されているというのを何かの本で見たことがあるが、俺が専業主夫を目指すのもこの頃の影響が強いということだな。

 家事関連は今でも、やれと言われれば嫌々やっているけれど、如何せん中学の頃とは違って部活に取られる時間が多いため、家事に費やす時間はめっきり減ったのは事実だ。その分を小町がしてくれていると思うと頭が上がらない。

 偉いぞー。後で優子先輩が帰ったら、小町の頭を撫でてやるからな。

 

 「小学五年からは火とか包丁を使ってもいいって許可が母さんから下りたけど、今思うと小五からでもかなり危なかったよな」

 

 「まあお母さん達も心配だから、子どもが怪我をしにくい包丁とか買ってくれてたしね。できるだけお兄ちゃんが料理することがないように、お休みの日にご飯を多めに作ったりもしてたし」

 

 「そうだったんだ」

 

 「って言っても俺が作るのなんて炒めた肉を丼にしたりで、小町みたいに凝った料理は作れないですけどね。味付けも焼き肉のタレばっか使ってましたし」

 

 しょうがないんだよ。エバラさん家の焼き肉のタレが万能過ぎるんだもん。

 あと、何と言ってもメーカー名の通り、味の素になるコンソメ。あれでスープ作れば、入れすぎてしょっぱくし過ぎない限りは、具材に何を入れても美味くなる。

 ここ二つはどこの家庭でも必ず常備していなくてはいけない必需品であると、近所の主婦の方々に教えて回りたいくらい助けられていた。

 

 「それでも凄いよ。料理できるの」

 

 「でも今お兄ちゃんの料理食べるのは一ヶ月に一回が限界だな。お兄ちゃんの料理は『味は濃きゃ良し、カロリーなんて概念もなし!男料理です!』って感じだから。ちなみに優子さんは料理できるんですか?」

 

 「私はたまにお母さんの料理手伝うくらいだよ。……最近はちょっと作ること増えたけど」

 

ちらりと視線を感じる。え、何その意味ありげなの。『小町ちゃんに負けないわよ!』みたいな?

 

 「そうなんですか。………あ!小町いいこと思いついちゃいました!」

 

 「え?何?」

 

 「小町、久しぶりにお兄ちゃんの料理食べたいし、優子さんの料理も食べてみたいし。二人だって、お互いの料理食べたいでしょ?だから、今日は三人で一品ずつ作りましょうよ!」

 

 「えー」

 

 「いいじゃん?我ながらいいアイデアだと思ったんだけど」

 

 「だって、俺と優子先輩は今日、北高祭だったから疲れてるし」

 

 「私は別に良いけど」

 

 うっ。優子先輩が意外と乗り気。

 

 「それにさっきお腹空いてないって話したろ?三人で作ったら結構な量になっちゃうし?」

 

 「そんなの、作りすぎないように調整すればいいんだよ。使いかけの食材だっていっぱいあるんだからオッケー」

 

 「えー」

 

 「じゃあいいよ。小町と優子さんが二人でやるから、不参加のお兄ちゃんは夜ご飯抜きだからね」

 

 「…はぁ。仕方ねえなあ」

 

 「うっわ。めっちゃ上から目線じゃん。

 よく考えて見なよ。優子さんの手料理食べられるんだよ?小町以外の女の子の料理!これはお兄ちゃんにとって一生に一度のチャンスでしょうが」

 

 「そ、そういうこと言うのやめろよ!」

 

 「それに中学生の時に真顔でさ。

 『なあ小町…。俺がなんかするとな、いつもクラスメイト達に何十倍かにされて返されるんだよ。一人に聞かれた独り言は、クラスメイト全員にネタにされたり、一人に渡したはずの愛のポエムは、学校中の皆がコピーを持ってたり。

 だから俺もやられたことは何倍にもして返してやるって決めてるんだ。それなのにさ……誰もチョコくれないんだけど!やっぱ手作りがいいけど、この際市販のでも良かった!義理でも良かった!何億倍にしてでも返したのに!それなのに…、どうしてっ!?』って小町の部屋で、バレンタインの日の夜に何時間も嘆いてたじゃん」

 

 「そういうこと言うのやめろよぉ……」

 

 優子先輩のマジで引きつってる顔が見ていられない。俺の中学の時のネタ、今日一日で使いすぎだから。これでも結構傷ついてるんだぞ。

 はちまんはここからいなくなってしまいたい。……あー。シャワー浴びてこよ。

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