やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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少しずつ、北宇治高校吹奏楽部は変わっている。
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 荷物の準備は良し。鞄の中には、今日使う体操着が入っている。制服に着替えて歯を磨いていると、休日を休日らしく謳歌して、学校がある平日よりも大分遅い起床をしたパジャマ姿の妹の小町が話しかけてきた。

 

 「……ふあぁ。おはよー。おにーちゃん、早いねー」

 

 「おはよ。一応、小町の分の目玉焼き焼いといたぞ」

 

 「うん。ありが……え?お兄ちゃん何やってるの?」

 

 寝ぼけ眼でリビングに来た妹は、俺の姿を見て一気に目が覚めたようだ。俺の腐りきったとよく言われる目と違い、ぱっちりくりりとした大きな瞳を大きく見開いた。

 

 「見てわからんか?学校に行くんだよ」

 

 「いやいや、だって今日は日曜日だよ。間違えちゃったの?」

 

 「俺も間違いだと思いたかったなあ…」

 

 「あー、はいはい。そういうことね。お兄ちゃん、いくら捻くれてるからってダメだよ。宿題くらいちゃんとやらなくちゃ。結局出さないと自分の手間になるんだから」

 

 「やらなかった宿題の提出に行く訳じゃないから。ちゃんと家でやってかないと後が面倒くさいなんて、そんなこと俺が一番よく分かってる。ペナルティで別の課題あるかもしれんし。仮に提出が午後とかで、ラッキーって思いながら自分で休み時間の合間を縫って問題解いても、あいつ友達いないから誰にも答え写させてもらえないんだよかわいそー、なんて冷やかされる事があるかもしれないし」

 

 「うぅ…。朝からお兄ちゃんの過去の話聞かされるのは辛い…」

 

 「ばっか。かもしれないって言っただろ。誰も実際にあったなんて…ぐすっ」

 

 いいんだよ。見せてもらっていなければ、『宿題やってきてねえやー、てへぺろ』って言ってるやつがいたって、恩返しで見せなくても良いし。きちんと自分で解いてる分、学力が上がるからメリットの方が多いもん。

 

 「でも、じゃあ何で学校行くの?」

 

 「部活だよ。部活」

 

 「え、えええええぇぇぇ!お、お兄ちゃんが、日曜日にぶかつぅぅ!?」

 

 「うお、うるさ!お前、ご近所さんに迷惑だろうが」

 

 それに部屋でまだ寝てる両親が起きちゃうかもしれないだろ。そしたら怒られるぞ、俺が。父ちゃん、絶対小町に怒らねえからなあ…。

 

 「だ、だってあのお兄ちゃんがだよ。休日は朝からプリキュア見て、部屋でゴロゴロしてると思ったら、次は気持ち悪い顔でニヤニヤしながらゲームして、夜は死にそうな顔で『ああ明日から学校行きたくない。学校潰れないかな、物理的に』なんて言ってるあのお兄ちゃんが!」

 

 「…こうして聞くと俺の休日、なんか悲惨だな……」

 

 でも、どんなに怠惰でも良いんだよ。だって、日曜日だもん!

 

 「それに楽な部活って言ってたじゃん」

 

 「こないだ顧問変わったって言っただろ?そしたら思ったよりも練習が厳しくなってな。日曜も練習なんだとよ。それにほら、俺最近帰ってくるの遅かったじゃん?」

 

 「あー、確かに。千葉にいた頃と比べると言われてみれば。吹奏楽部が休みの日はお兄ちゃん帰ってくるの凄い早かったし、部活あっても終わったらすぐ教室出てたからねー。全然興味なかったから、気がつかなかったや」

 

 「ぐっ。お前…」

 

 てへっ、と舌を出す小町。妹がやると何とも憎たらしいものだ。だが小町の場合、憎々しさ余って可愛さ100倍。

 それにしてももうちょっと、お兄ちゃんのこと気にして。寂しい。俺は学校でもずっと小町のこと考えてるのに。むしろ部活終わった後、すぐに帰るのは小町に会いたいからまである。

 

 「そう言えばさ、京都来てから、一緒に帰ってないね」

 

 「そうだな」

 

 中学三年生の時は小町も吹奏楽部だったこともあって、よく一緒に帰った。小町はユーフォニアムを吹いていたため、学校帰りにメンテナンスをするからと持ち帰っていたときはありがたく持たさせていただいたし。あの楽器、ホント重いんだよなあ。

 学校に行くときは自転車の後ろに小町を乗せて、学校の少し前で降ろしてから別々に行く。そんな生活が当たり前だったのに。小町と中学が一緒だったのはたった一年だけなのに、その一年が嫌に懐かしい。

 

 「部活の後は誰かと一緒に帰るの?」

 

 「いや、基本的には一人だな。たまたまエンカウントしちゃって、部活の先輩と帰ったことは数回あるけど」

 

 「お、いいねえ。お兄ちゃん。なんか青春って感じがするよね?」

 

 「いや、全然しないけど」

 

 だって優子先輩と帰っても、割と一方的に話聞かされてるだけだし。流石に入部当初に抱いてた、ガツガツしてる感じの苦手意識はなくなったけど。

 

 「そなのー?でもでもー、小町もたまには一緒に帰りたいなー、なんて?」

 

 「おー、俺もたまには小町と帰りたいぞ。今度、途中で待ち合わせるか?」

 

 「いいね!折角、京都来たばっかだしさ、寄り道して帰ろうよ?友達から色んなおすすめのお店、教えて貰ったんだ!」

 

 小町には持ち前のコミュ力があるからあまり不安には思っていなかったが、それでも京都は京都の生活で、しっかりと友達がいて満喫しているようで嬉しい。こればっかりは割と冗談抜きで。

 

 「わかった。じゃあ、俺そろそろいくわ。母ちゃんに帰り遅くなるって言っといてくれ」

 

 「りょーかいであります!あ、お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 家を出ようとリビングの扉に手をかけると、小町に呼ばれた。

 

 「ん?なんだ?」

 

 「部活頑張ってるお兄ちゃん。小町的にポイント超高いよ!」


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