やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 それからも、くだらない話をしながら帰る下校道。サンフェスの話から、中世古先輩の衣装がとにかく可愛すぎて生きているのが辛いとか。それを割とコアなジャニオタ顔負けなレベルの中世古先輩のファンである優子先輩に思わず聞いてしまったのは、きっと俺の間違いだった。

 

 「あの、前から疑問に思ってたんですけど、どうして優子先輩ってそんなに中世古先輩のこと好きなんですか?確かにめちゃくちゃ美人ですけど、なんか先輩のそれは域を超えてるって言うか」

 

 「……比企谷」

 

 「は、はい。何でしょうか?」

 

 優子先輩から今まで感じたことがないプレッシャーを感じる。何これ、怖い。俺なんか変なこと言った?軽々しく美人とか言ったのが間違いだったのか。でも事実だし。

 

 「良く聞いてくれたわね!」

 

 「…は、はあ」

 

 「話すと長くなるわ!あそこの公園のベンチにでも座って話しましょう!」

 

 「えぇ!?い、いや、それはちょっと。俺、早く帰らないと、色々やることが…」

 

 「色々って?」

 

 「それはほら。マンガ読んだり、本読んだり、ゲームしたり…」

 

 「そんなのいつでもいいじゃん」

 

 「あと何より……妹の小町!そう、小町が待ってるから!」

 

 そう言えば今朝小町と会ったが、今日は練習が長かったからそのことがまるで遠い昔のように感じる。正に、小町レス。すぐに会いたい。

 

 「買い物とか頼まれてるわけじゃないんでしょう?家でソファーとかで横になりながら、ぐだぐだ話すだけじゃないの?」

 

 「ええ。まあ」

 

 「じゃあ家で妹と話すのも、私とここで話すのも一緒よね」

 

 「その理論はおかしい」

 

 なんとか反抗し真っ直ぐ家に帰ろうと思ったものの、ずるずると自転車を引っ張られ公園まで来てしまった。この公園は帰り道の途中だけど、寄り道に変わりはない。

 遊具がブランコと鉄棒しかない小さな公園は休日だというのに閑散としている。むしろ、休日だからこそなのか。俺たち以外に人はいなかった。

 

 「さて、比企谷。話をする前に疲れたから甘い物が飲みたいわ。あそこの自販機で午後の紅茶買ってきて」

 

 勿論ミルクティーね、とベンチにドサリと座った優子先輩に命令された。手には250円。

 くそ、このアマ。引っ張ってきたくせに飲み物買いに行かせるのかよ。でも俺の分のお金をくれているところは先輩らしくて優しい。

 

 「…はいはい。了解です」

 

 優子先輩からお金を受け取って自販機に向かう。先輩は全く気にしてなさそうだったけど、結構ああやってお金渡されたりするときに一瞬触れちゃう手とかに反応しちゃうんだよな。この気持ち、世の男子なら分かるはず…!

 それにしても疲れたから飲み物買ってきてって言われたけど、疲れてるなら帰ろうっていう選択肢が一番なんじゃ…。なんで公園に話しに来ちゃうわけ?

 自販機で缶ジュースを三本買って、先輩の元に戻る。砂糖入りの珈琲一本と午後ティー二本。優子先輩は午後ティーを受け取ると満足げに頷いた。

 

 「さんきゅー、比企谷」

 

 「いいえ。あとこれ」

 

 優子先輩の前に二百五十円を出す。いくら先輩でも飲み物を奢って貰うのは申し訳ない。それに先輩はじょ、じょじょ女子だし。

 あれ、思えば俺、こうして放課後女子と二人でどこかに寄ってくのって初めてだ。やべ、何か緊張してきた…!

 

 「いや、良いわよ。受け取って?」

 

 「…ほんと大丈夫なんで」

 

 「じゃあせめて私の分だけは受け取りなさい」

 

 優子先輩が俺の手から百円だけ取った。それでも残った百五十円ではお釣りがあるが、まあそのくらいは別に良いだろう。

 

 「ところで、どうして三本買ってきたの?」

 

 「これは妹の分です。基本的にうちはお茶と、せいぜい珈琲とか紅茶くらいであんまジュース置いてないんで。たまに買ってってやると喜ぶんですよ。あ、あと牛乳もあるか」

 

 「ふーん。ちゃんとお兄ちゃんしてるんだ。優しいのね」

 

 「そりゃ、千葉の兄妹はみんなそうですよ。最愛の妹を喜ばせるために生きてます」

 

 「いや、絶対千葉の兄妹普通そんなじゃないから。何か、優しいんだろうけど…度が過ぎてて、完全にシスコンの域ね」

 

 「でも、先輩の中世古先輩愛だって、同じようなもんでしょ?」

 

 「甘いわね。比企谷よりもっと大きいわ!」

 

 香織親衛隊の隊長の愛は家族愛さえも上回るのか。

 そんなはずないでしょう。俺の小町への愛をなめないで下さい、とは言わなかった。面倒くさくなりそうだから。

 

 「この部活の二年って、三年と今年入部してきた一年と比べて少ないと思わない?」

 

 「ああ。まあ言われてみれば確かに」

 

 「私たちの代が一年の時にね、やる気あった一年のほとんどが辞めてったのよ。滝先生が来る前の私たちの状態知ってるでしょ?去年までいた三年はカスばっかりだったから、練習しましょうって言ったら無視されるようになった。パートによってはいじめられた人もいるの。コンクールも練習なんてしてないのに、先輩達が思い出作りで出場してたし。思い出すと本当に胸くそ悪いわね」

 

 なるほど、これまでの違和感に色々と納得がいった。

 先輩の出身中学校は吹奏楽がそこそこ強い。そして、北宇治に多く入学したにも関わらず実力もやる気もなさ過ぎた。それを俺は入部前から見限って入らなかったのだと思っていたが、それは違ったのだ。

 

 「去年のトランペットのソロだって一番上手いのは香織先輩だったのに、三年生の先輩が吹いたし…ってこの話はもう良くて。私もね、中学の時一緒に頑張ってた友達が辞めようとしてて悩んでた時期があったの」

 

 「へえ」

 

 こないだは滝先生に合わないなら部活を辞めれば良い、といったら香織先輩に会えなくなるから絶対に辞めないと言っていたのに。優子先輩でもそう思ってた時があったのか。

 

 「でもね、たまたま香織先輩が一年生を無視するのを辞めて下さいって何回も、ずーっと三年に頭を下げてくれてるのを見ちゃってね。それどころか辞めようとしてる一年を引き留めるために、一人分でも出場枠を譲ろうと自分が辞退した。ずーっとみんなが練習しないでいる中でも一人だけ練習してたのに。私はそれが正しい事だったとは思わないけど。凄いでしょ、香織先輩」

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