やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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 何か意を決したように話そうとしていた優子先輩の話を遮ったのは、いつの間にか後ろにいた中世古先輩だ。

 

 「あ……、香織先輩」

 

 「……お疲れ様です」

 

 「うん、お疲れー。学校出たら二人が歩いてるの見えて追いかけて来ちゃった。一緒に帰ろうよ?」

 

 優子先輩は普段なら『え、えぇー!香織先輩から追いかけてきてくれるとか優しすぎます。マジエンジェル!はあぁーん……。また、香織先輩の優しさに惚れ直しちゃいました……。こんなやつ置いて二人で帰りましょう!』くらい言いそうなものなのに、話そうとしていた話が話だったからか、気まずそうな様子をしている。

 そんな優子先輩の何とも言えない表情に気がついた中世古先輩は首をかしげた。

 

 「あれ、もしかして迷惑だったかな?」

 

 「いえ、そんなことはないんですけど……」

 

 「大した話してなかったんで、一緒に帰りましょう」

 

 「う、うん」

 

 並んで歩いていた俺の隣に中世古先輩が来る。両手に花。何話せば良いかわかんないんだけど。このままじゃ折角の花が枯れちゃうわ。

 部活で一緒にいることの多い二人が話しやすいように一歩下がる。ほら。俺って気を使える後輩でしょ?

 

 「比企谷君と一緒に帰るのって、初めてだね」

 

 「はい」

 

 「私ね、前に途中まで帰り道が同じって聞いてたから一緒に帰りたいなって思ってたんだ。比企谷君、パート練の教室だとあんまり話さないし、落ち着いて話せれば良いなって」

 

 「ふ、ふーん。そそそそうだったんですね」

 

 「あんた、すごい気持ち悪い顔してるわよ?」

 

 「ぐっ……」

 

 こんなの男子なら誰でも言われたら、裸とか盗んだバイクとかで走り出しちゃうくらい嬉しいに決まってる。

 

 「ま、気持ちはわかるけどね。男子なら誰でもこんなこと言われたら、裸とか盗んだバイクとかで走り出しちゃうくらい嬉しいに決まってる、とか考えてるんでしょ?」

 

 「何でそんなに詳細に分かっちゃうの?エスパー?」

 

 「何でもは分からないわよ。香織先輩のことだけ」

 

 何それ、怖い。超怖い。

 何でも知ってる某学級委員長みたいな感じで言ってるけど、中世古先輩、そんなちょっと照れながら『もう。何言ってるの優子ちゃん』なんて可愛らしく言ってる場合じゃないから。もっと全力で引いても良いくらいだから!

 

 「あ、私チョコレート鞄に入ってるんだった。はい、一個ずつ」

 

 「良いんですか。ありがとございます香織先輩」

 

 「気にしないで。比企谷君は甘いの平気?」

 

 「は、はい。むしろ好物です」

 

 「そうなんだ。男の子って甘いのあんま好きじゃない人もいるけど」

 

 「いえ、むしろこれにこってり甘い珈琲が欲しいくらいです」

 

 「そこは苦めの珈琲じゃないんだね?」

 

 「なんか比企谷曰くマックスコーヒーっていう甘い飲み物が千葉にはあったんですって。千葉の……うん?千葉県民の……あれ、何だっけ?」

 

 「千葉県民のソウルドリンクです。千葉の子ども達はお母さんの母乳の次に口にするのはマックスコーヒーとまで言われています」

 

 「あはは。絶対嘘でしょー。でも、私も甘いの大好きだから今度飲んでみたいな」

 

 意外と、でもないが中世古先輩は話を合わせてくれて話しやすい。技術面だけでなくてこういう所もパトリに選ばれた理由なのだと思う。

 男でイケメンで誰とも分け隔てなく接せるコミュ力があって優しくて、挙げ句の果てにスポーツまでできるなんてやつがいたら、なんで生きてるのか疑いたくなっちゃうレベルだけど、逆にそれが美少女であれば産まれてきてくれてありがとうとまで思えるのだから全くもって不思議である。

 

 「先輩達はなんか好きな食べ物とかあるんすか?」

 

 「私は香織先輩が好きなものなら何でも好きよ」

 

 「いや、優子先輩が好きなのは食べ物の方じゃなくて中世古先輩でしょ?」

 

 むしろ優子先輩が食べちゃいたいのは中世古先輩でしょ?そんな、不埒なことを考えてしまうのも男だから仕方ないネ!

 

 「私はね、焼き芋が大好き」

 

 「焼き芋ですか?なんかイメージと違う」

 

 吹奏楽部のマドンナに焼き芋。そこはケーキとかだと思っていた。中世古先輩がケーキとかパフェ好きって言うなら、そこら辺に溢れかえっている流行に敏感SNS大好き女子学生芸人みたいな、スウィーツ(笑)みたいなイメージにはならないのに。

 

 「よく言われるけど、みんなが勝手な偏見持ってるからだよー」

 

 「優子先輩もですか?」

 

 「え、あー………。うん。美味しいわよね。……でもお腹に貯まるし太るのよね、お芋って」

 

 めちゃめちゃ間が空いてたし、後半の方小声で言っても聞こえてるから。この人全然好きじゃないだろ焼き芋。やっぱり好きなのは中世古先輩だけだろ。

 

 「でも牛乳飲みながら食べるとホントに美味しいよ。比企谷君は分かるよね?」

 

 「ええ。芋は野菜だし、牛乳は骨になるから実質カロリーゼロってとこも良いですよね」

 

 「そんな訳ないじゃない!むしろ牛乳の分、カロリープラスよ!お芋はカロリー高いからダイエットしないと」

 

 「ダイエットダイエットって言いますけどね、優子先輩。夏の日の淡い思い出。初めて誰かから貰った誕生日プレゼント。失って幸せなものなんて、世の中にほとんどないんですよ」

 

 「くっ。そんなわけないのに妙に説得力を持たせてくる……!」

 

 「流石、比企谷君の言うとおりだよ。優子ちゃんはもう十分細いんだからダイエットなんて考えなくて良いの」

 

 「あん、ちょっと先輩!お腹触らないで下さい!」

 

 美少女二人の絡み、眼福眼福。ちょっと後ろ歩いてて良かったー。




皆さん、お世話様です。作者のてにもつです。
いつも読んで下さってありがとうございます。評価も感想もメッセージも、執筆の励みになっております。本当に嬉しいです。
今回後書きを残したのは、何点かご質問を頂いたからです。今回はそれに答える形にしたいと思います。

① この作品は響けの原作準拠なの?
メッセージで頂いた質問です。答えは秘密です笑
コンクールの結果とか、ネタバレしちゃったらつまらないと思うので。ただある程度、響けの原作に沿った展開にしています。原作は久美子を一人称視点とした、部全体や低音パートそして家族や友情がストーリーの根幹ですが、本作品はそれを八幡視点にしたトランペットパートの生活と恋愛を主軸に置いていきます。

② どこまで書くつもりですか?
実はこれは私が以前執筆活動をしていた際に、たまたまツイッターで私が作者だと見つけてくれて、それ以来飲みにいったりと仲良くしている友人から頂いた質問です。
とりあえず響けのアニメ分、三年生の引退までは書きます。ただ原作ファンとしては原作を読んでいる人なら絶対見たい『とある冬の日』。あの話を八幡がどう過ごしたのかを書かなくては、という使命感はあります笑あの話は絶対書きたい。
また、私的には八幡が二年生になってからの展開も考えていて、むしろ二年生になってからの方が盛り上がる展開にできる自信もあります。優子が三年ですし、奏と八幡はいいコンビになりそうだし。
なんで当面の目標は八幡二年のコンサートですかね。すごく長くなりそう。お付合い頂けたら嬉しいです。

③ 感想、ちゃんと読んでるの?返信したら?
メッセージで頂きました。前作はコメントに返信していましたが、今作は感想に答えていなかったので。
きちんと読んでます。本当に励みになっていますし、指摘を頂いた際には修正もしています!笑誤字修正は勿論、指摘も本当にありがたいんです。句読点、確かに多くて読みにくかったと思います。そこは随時修正していきます。
前作は感想欄に本編の質問が多かったのが、返信をしていた理由でした、しかし今作は素直に作品に対する感想が多く、ほっこりしながら読んでいました。
ですが、せっかく頂いた感想ですので、今後は感想に返信していきます。仕事やプライベートもあるので、遅くなったらごめんなさい笑


さて、今回の後書きはこの辺で終わりにしたいと思います。
実は現在の執筆状況は県祭りまで進んでいて、次はいよいよオーディションです。
八幡の活躍に期待下さい。  それでは!

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