やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。 作:てにもつ
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中世古先輩と二人で相合い傘。学園のマドンナ、その名にふさわしい誰もが振り返るほどの美人と二人で同じ傘の下なんて、全校生徒誰もが憧れる夢のようなシチュエーション。傘から出てしまう肩が雨に打たれてしまうことなんてちっとも気にならない。
それじゃ雨で濡れちゃうよ、なんて良いながら中世古先輩が俺の腕を引く。触れ合う肩と肩。ちょっと窮屈だねと微笑み合った。
恋をすると世界は輝いて見えると言うが、きっとそれは嘘だと思う。だって空は雨空。太陽は出ていなく、いつもなら黄昏に染まるはずの帰宅路は雨に打たれて冷たく、俺たち以外誰もいない様子は寂寥感まで感じてしまう。
それでも心はぽかぽかと温かいなんて言うのはつくづく俺らしくない。触れている肩と引かれたままの腕が熱い。中世古先輩は掴んだ手を下ろしていき、見つけた俺の手を……。
「ああぁぁぁ……。バカかぁぁ俺はぁ……」
リビングのソファに顔を押しつけてうめき声のような声を出す。
最近は部活が終わると疲れて、リビングで横になると少し寝てしまうことがあるが、まさか夢で中世古先輩と帰る夢を見るなんて。しかも謎に恋人チックでポエマー路線。くっそ恥ずかしい…。
結局、あの後ショートした俺とあわあわとしている中世古先輩の元に、小笠原先輩がやってきて中世古先輩を傘に入れて帰って行った。だからさっき眠りながら夢で見た光景は完全な俺の妄想。
夢は人の深層心理を写すとも言うから、もしかして俺の心の奥には中世古先輩と付き合いたいという、そんな想いがあるのだろうか……。いや、ないないないない。いくら腐った目以外、顔も悪くないし頭も悪くないし基本的にハイスペックと言われる俺でも、女神レベルの優しさにアイドル顔負けのルックスの中世古先輩にはもはや全く釣り合わないし、
全校生徒の夢を奪って変に目立ちたくないし。
ただもしも夢が写したのが深層心理だというのなら、見た夢の内容が相合い傘なんて甘い物で、中世古先輩を犯すなんて夢じゃなくて良かった。社会的に終わっちゃう。うん。
「お、お兄ちゃん…。頭おかしくなった?目だけじゃなくて」
「…小町ちゃん。一言多いわよ」
押しつけていた頭を上げて小町の方を見ると、下着姿で濡れた頭をわしゃわしゃとしている小町が俺を完全にドン引いていた。いや、俺の方もドン引きだよ。女の子としてのデリカシーしっかり持って。家族だから興奮するとかは一切しないけど。
とは言え、こんなんじゃ誰の嫁にもやれんな。しょうがない。しょうがない。いえすっ!まだまだ小町と二人で生活する未来は明るい!
「お兄ちゃん、部活終わって疲れてたのは分かるんだけどさ、雨降ってたんだから濡れたまま寝てたら風邪引いちゃうよー」
「お前が風呂入ってたから入れなかったんだろうが」
「……お兄ちゃんさ、なんで今日片方の肩だけそんな濡れてるの?……も、もしかして……」
「待て。そんな期待したような目で見ても期待しているようなものはなにも出ないぞ。俺の新しい黒歴史だけは出てくるけど」
「えー、小町の期待返してー。絶対相合い傘だと思ったのに…」
「………」
言えるわけないんだよなあ。中世古先輩の相合い傘の話のこと思い出しながらぼーっと帰ってたら、いつの間にかエアー相合い傘やってたなんて。後ろからいぶかしげに見てた女子高生の視線忘れられねえわ。
エアー相合い傘までやらせるわ、夢にまで出てくるわ、中世古先輩は魔性の女なのか。でもあんなこと言われたら全校生徒絶対俺と同じ事やって、同じように黒歴史増やしてたはず。
「あ、そうだ。ねえねえお兄ちゃん。見てみて」
机の上に置かれていた紙を持って小町が俺の隣に座った。『県祭りに伴う協力のお願い』。交通規制についてや、夜間の騒音の予想などでご迷惑をお掛けするというような旨が書かれた紙を俺の前にじゃーんと掲げてみせる。とりあえず、服をきなさい。風邪引くよ?
「学校で聞いたんだけどね、県祭りっていうすごいおっきーいお祭りがあるんだって」
「ほーん。なんか聞いたことあるような気がするな」
携帯を使って調べてみる。
県祭りは7時頃から10時頃までは子ども連れの家族も多く、露天などを楽しみ比較的地元に住む人で賑わうようだ。
別名はくらやみ祭りと言うそうで、23時頃から25時くらいにかけて神輿を担ぐらしい。でもそれは見られなさそうだな。小町を夜遊ばせるわけにはいかないし。
「でねでね。お兄ちゃんは兄として、妹を楽しませる義務があると思うのです。つまりー、どういうことかっていうとー?」
「なるほど。妹が友達と楽しんでるときに、俺に会ったら『え、こんな奴が兄なの?ないわー』って気まずくなるから行かないようにってことか。わかった」
「もう、捻くれてるなー。違うよー。もしそんなシチュエーションがあったら小町、無視するし」
「それはそれでめちゃくちゃ酷いよね…」
「そうじゃなくて、一緒に行こうよ!」
「えー。俺人混み嫌いなの知ってるでしょー。嫌よーいやいやー」
「こういう時くらい、遊びに行かないと。お兄ちゃん、引きこもりになっちゃうよ?言い方が悪かったかな。お兄ちゃん、デートしようデート」
「甘いんだよな。世の男がデートという言葉に騙されて、ドキドキしちゃっても俺だけは騙されない。冷静に考えて金多く払って、気まで遣わなくちゃいけないとか地獄だろ」
「このお兄ちゃん、本気で攻略難しいな…」
小町が如何に俺を行かせようか考えているが、残念だが小町に重たーい俺の腰を上げさせることは出来ないだろう。如何せん、小町はアホの子だから。そのくせして人付き合いに関しては、友達とかと遊ぶくせに実は家も好きっていう次世代型のハイブリッドぼっちだからやはり人とは一長一短である。
「大体、なんで俺と行きたいんだよ?」
「それは今月お小遣いがピンチで財布…じゃなかった、たまには兄妹仲良く親睦でもどうかなって」
「言っとくけどお前、今全然本心隠せてなかったからな。ほぼ100%言っちゃってたから。それなら父ちゃんと一緒に行けば良いだろ?」
「えー、嫌だよー。面白くないし」
「お前、それ絶対父ちゃんの前では言うなよ。仕事辞めて明日から家族全員、家がなくなるぞ…」
「でもさ、折角京都に来たんだし、京都の良いところたくさん知りたいじゃん。せっかくすぐ近くで有名なお祭りやってるんだし、行かないと本当に勿体ないなって思うよ?それに小町は来年きっと受験があるからいけないだろうし…」
そう言えば前に小町と一緒に学校帰りに京都の美味しいお店とやらに行く約束をしていたが、結局いけていないんだったっけ。
少し離れた場所からまるで興味はないけど、うるさいから早く話しつけろみたいな目で見てる一匹もいることだし、仕方ない。
「はあ。分かったよ。行くか、県祭り」
「え、ホント!?わーい!」
「おい、あんま飛び跳ねんな。揺れる揺れる」
下着姿のまま飛び跳ねても、全く揺れることのない胸を見ると少しだけ悲しくなってくる。通読してる中学生向けのオシャレ雑誌みたいなやつにのってた、バストアップの記事にこれでもかというくらいマーカー引いてたのに一切効果出てないじゃないか。