やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。 作:てにもつ
「たーこやきー♪わーたあめー♪じゃがバタといーかーやーきっ♪ついでにたーこやきー♪」
「ねえ、小町ちゃん。それ今から買おうとしてるリストじゃないよね?先に言っとくけど俺の財布の中、樋口さん一人と漱石三人くらいしかいないよ。しかもついでで入ってきて、たこ焼き二回いたし」
「なんだ、そんなにあるならまだまだいけそうだね!流石、お兄ちゃん。甲斐性あるぅ。あーあーあんず飴―♪さつまスティックー♪べービーカステラ、かき氷―♪」
「もうやめたげてよぉ。ライフとっくにゼロどころか、マイナスになっちゃってるよぉ」
ご機嫌な様子で歩く小町とは対照的に、俺の方はげんなり。お兄ちゃんの財布の限界を見極めて使い倒そうだなんて小町ちゃん、恐ろしい子!まあ実際のところ、働いている両親と俺に代わって家事洗濯やってくれているだけあって、金銭感覚というかお金使いにはかなりしっかりしている子だ。
むしろ電気代等の節約には手厳しくて、リビングで電気つけたまま寝たら、次の日の朝めちゃくちゃ怒られて口聞いてもらえない。どこの旦那尻に敷く奥さんだよ。どこにもやらんけどな!
夏らしいパステルカラーのシャツに身を掴んだ小町がノリノリで歩くと、ちっちゃなおへそがちらちらと見えている。妹のへそなんて家にいるときにいくらでも見ているため俺は何とも思わないが、周りを歩くモテない男子諸君はそうでもない。特に集団で来ている男子中学生。『お、あの子かわいくね?』なんてノリで小町見たら、そいつらはっ倒す。
屋台がある通りに近付くと、人がどっと増えてきた。浴衣を着ている女性だけでなく、制服で来ている人も多い。
「結構賑わってるんだねー」
「そうだな。はぐれないように気をつけろよ」
「りょーかいであります!あ、ねえねえお参りしに行こうよ、お参り」
「あー、県神社な。別にいいけど、何かお祈りすることあんの?」
「秘密ー。お祈りすることって、言っちゃうと叶わないんだって」
「確かにそれはよく聞くよな。俺の見てたアニメでも言ってたぞ、詐欺師が」
「…小町よくわかんないけど、詐欺師が言ってたら逆に信憑性なくなっちゃわない?」
また変なアニメ見てー、なんて言ってるが全然変なアニメではない。むしろアニメとかあんまり見ない人でも知ってるくらい有名なアニメだから。めっちゃかっこいんだぞ、詐欺師。憧れちゃいけないのに憧れちゃう。
「お兄ちゃんは?何かお願いしたいことあるの?」
「おお、あるぞ。俺も言わないけどな」
「えー。教えてよー。でも言っちゃうと叶わないなら仕方ないか。どうせ大したことじゃないだろうし」
「一言多いし酷いし」
めっちゃ大したことある願いだから。小町の健康と学力向上。できれば北宇治に来て、もう一回一年間同じ学校の生徒として生活送りたい。そのためだったら、お賽銭箱に五百円までなら入れられる。…いや、やっぱ百円までかな。
あとついでに祈るなら、専業主夫の夢が叶いますように!
「そう言えばさ、千葉にいた頃も二人でお祭り行ったこと覚えてる?お兄ちゃんは中学生になったばっかりで、小町なんてまだ小学生の時だったかなー」
「あーあれな。小町がぐずって仕方なく行ったっけ」
「む。そりゃクラスメイトのお友達がお母さんと一緒に行くから後でお祭りで会おうね、なんて話してるの聞いたら行きたくなるでしょうよ?」
「ならん。どうして敵が密集してる中に自ら行かなくちゃいけねえんだよ」
「うわー。クラスメイト敵なのかー…」
「そう思われてるだけならいいんだけどな。クラスメイトのやつら、お母さんの袖引っ張りながら言うんだぜ。『あいつ、めっちゃ暗くって何考えてんのかわかんないんだ。だから誰も話したことないレアキャラ』って」
「それ、お兄ちゃんの想像の話でしょ?そんなこと言わないよ」
「……」
「…ノンフィクションなの。妹ながら兄の人生に脱帽しちゃう」
クラスメイトのお母さんが俺に聞こえてるのに気がついて、凄い申し訳なさそうに、でも決して声を掛けることなく目をそらすんだ。それが一番キツかった。
「あ、ほら。お兄ちゃん。今あんまり並んでないみたいだよ。お腹空いたからなにか食べてからが良かったけど、先に並んでお祈りしちゃおっか!」
小町に手を引かれて列に並ぶ。大きな神社でもないし、あくまで来ている人は祭りを楽しむことがメインなので、十人も並んでいない。あっという間に俺たちの番が来て賽銭箱の前に立った。
「お、ラッキー。俺ちょうど五円玉あるわ」
財布の中にはご縁がある五円玉が入っていた。さっきまで百円入れるとか言ってたけど、こういう時って運良く五円があると優先して使いたくなっちゃうんだよな。母ちゃんなんて結構、お参り好きで、何なら趣味は御朱印巡りと温泉ってよく言ってるだけあって五円玉を集めている。
「うわー小町、十円玉しかないや。どうしよう?」
「別に良いだろ。こんなの気持ちの問題だって。俺の五円と交換しても良いぞ?」
「うーん。やっぱりいいや。冷静にお兄ちゃんの二倍の額をお賽銭箱に入れたらお兄ちゃんよりお願いが叶いそうかなって」
「比べるもんじゃねえよ」
ま、いいけど。妹の踏み台になるのって兄としてはご褒美だもんな。
ぱんぱん、と手を叩いて頭を下げる。さっき考えていた通り、今年も四人プラス一匹の愛する家族に健康を。
共働きをしている父ちゃんと母ちゃんには、しっかり働いて家族の生活を守って貰わなくちゃいけないし、小町には将来専業主夫として養って貰えなかった場合に俺の面倒を見て貰わなくちゃいかん。かまくらは我が家の癒やし。
「お兄ちゃんに友達が出来ますように。お兄ちゃんに友達が出来ますように。欲を言えばお兄ちゃんのお嫁さん候補が現れますように」
小町、言っちゃってる。お願い事は言ったら叶わないってさっき言ってたばっかりじゃん。だから俺に友達できないんじゃないの?顔だって目以外はそんなに悪くねえのに彼女出来ないし。小町の優しさと現実のギャップに涙が出てくる、ぐすん。
「小町。そろそろ行くぞ?」
「うん。ばっちりお願いした!今度こそ、色々食べて回ろっか」
「焼きそば食いてえ」
「えー家でも簡単に食べられるよ。お兄ちゃん、カップ焼きそばよく食べてるし」
「ばっか、お前。カップ焼きそばと家で作る焼きそば。屋台の焼きそばに海の家で食べる焼きそば。これ全部全然違う食いもんだから」
「言いたいことはよくわかるの。でも冷静に考えるとなー」