やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。 作:てにもつ
「お祭りのたこ焼きも良いけど、折角大阪近いんだし、道頓堀で本場のたこ焼き食べてみたいかも」
「やっぱイカ焼きうめえなあ」
「あ、小町にも一口ちょーだーい」
「いいけど、今食べてる焼き鳥の飲み込んでからな」
「飲み込んだー。はい、あーん」
「ほいよ」
普通なら男の理想とも言えるあーんも、相手が妹だと全く何とも思わない。いや思わないって言うのは嘘だ。『ありがとっ。うっま』と、嬉しそうにしているのを見るとこっちも嬉しいし、イカ焼きを頬張りながら『うっま』、とかどこの仕事帰りのおっさんだよみたいな反応されると何か色々とそれなりに心配にはなる。
そんな感じで小町と食べ歩きながら少しベンチで休んでいると、遠くから声を掛けられた。
「おーい。比企谷くーん!」
「お?この声…まさか…!」
くぅ、お祭り来て良かった。ラッキーハッピーエンカウント最高!
呼ばれた方を見れば、俺の目に狂いはなかった!こっちに向かって走っている川島が二人。ん?俺の目に狂いは…なか………った?
「あれ小町。俺もしかしたら本当に目がおかしくなったのかな?」
「本当に目がおかしいのは昔からだよ。それより誰々?」
「あー吹部の同級生の川島ってやつなんだけど…あれー?」
「お待たせしました。比企谷くん」
「…おまたせ」
いつも通り敬語で話してくる川島と、どこかまだたどたどしいながらも可愛らしく話しかけてきた川島。
落ち着け、冷静になれ。まずベーシック川島は通常通り俺の目の前にいるじゃーん。そのベーシックと手を繋いでいるのは…いや、どう見ても川島だよな。まさに小さい川島。いつか夢に出てきたさふぁしば?でも夢の中のさふぁしばはもっと小さかったというか妖精みたいなやつだった。さふぁしばは幻想種だから違う。じゃあ、この可愛すぎる子は一体…。
「えーと。とりあえずお疲れ?」
「はい。お疲れ様です、比企谷君。ところでお隣の方はー…もしかしてもしかして!比企谷君の彼女ですか!?」
「違います違います。いつも兄がお世話になってます。妹の比企谷小町です」
「えー。比企谷君の妹さんなんですか!?あんまり似てないから、みどりびっくりしちゃいましたー。初めまして。私、川島みどりって言います。比企谷君と同じ吹奏楽部です」
「ご丁寧にどうもー。いやー、まさかお兄ちゃんに部活で友達がいるなんて。小町ちょっと感動しちゃいましたー。それも女の子なんて」
「そんな大げさですよ。あんまり話すタイプではないですから一人でいることもありますけど、すっごく頭も良くて面白いし、人一倍練習してる頑張り屋さんですよ」
「うう、優しい…。まさかこんなことを聞ける日が来るなんて、小町今日が命日でも良いかも。あの、ところでそちらの手を繋いでいるお顔がそっくりな方は…?」
「あ、すみません。この子は妹の琥珀です。ほら、琥珀。比企谷君と小町ちゃんに挨拶は?」
「…こんにちは」
「うっひゃあ。可愛いなあ!なんか川島さんをそのままミニチュアにしたって言うか、そっくりですね」
「はいー。よく言われます。ほら、琥珀。比企谷君にも」
「…ぞんび」
「あ、こら琥珀!そういうこと言ったらダメですよ!」
「うわー。お兄ちゃん見て川島さんの後ろに隠れるのもまたかーわいいなー。ね、お兄ちゃん?」
「……」
「…お兄ちゃん?」
「あの、比企谷君?…おーい」
「ダメだ。こうなるとお兄ちゃんの机の一番上の引き出しの奥に入ってる……」
「うぉい!止めろ!俺の黒歴史を掘り起こそうとするな!つーか何で知ってるの本当に?」
「そりゃ小町はお兄ちゃんのことなら何でも知ってるもん。あ、今の小町的にポイント高い!」
「…?お兄ちゃんって俺のことか?」
「は?どしたの?頭まで腐っちゃった?」
「そりゃ腐ってるよ。当たり前だろ。俺ゾンビだし」
「……ぞんび」
「もう。琥珀!」
「ほら、琥珀ちゃんが言ってるなら間違いないだろ。ぐへへへへ」
「…みどりちゃん、こわい」
「お、おおおお兄ちゃんが琥珀ちゃんの可愛さでおかしくなっちゃった!」
「ふぅ。取り乱してすいませんでした」
「いえいえ。何とか元に戻ってよかったです」
「うん。さっきまでのお兄ちゃん、目だけじゃなくて本当に腐ってたもん。腐敗臭した。お父さんみたいに」
「そこまで?本当に?」
父ちゃんのは腐敗臭じゃなくて加齢臭だし。小町、父ちゃんに最近辛辣すぎない?中学生だしちょうど今が反抗期なの?
「それにしても再現度高いよなあ…」
天使のような川島と、全く同じ顔でロリになったみたいな琥珀ちゃん。
そりゃ天使の妹は天使だろうとは思ってたけど、まさかここまで天使だとは思わなかった。兄妹で遺伝子引き継がなかった典型例みたいなのがちょうどここにいるから、琥珀ちゃんは姉妹できちんと引き継いでいてくれてありがとう。産まれてきてくれてありがとう。
「ええ!小町ちゃんは中学生の時からずっとユーフォやってるんですね」
「そうなんですよー。本当はお兄ちゃんがトランペットやってたから小町もトランペットが良かったんですけど、余ってた楽器がユーフォで。でもでも、今はユーフォで良かったって思ってますけどね!」
「楽器とは見えない運命の糸で結ばれていますから。そう思えるならきっと小町ちゃんのユーフォも幸せですね」
「ですかね、なんか照れる!いやー川島さんみたいな先輩がいるなら、小町も北宇治行きたいなー!」
「そしたら低音パートで一緒に練習できますね。楽しみです!小町ちゃん。みどりも小町ちゃんって呼んでるから、みどりでいいですよ?」
「本当ですか?じゃあみどりさんって呼んでもいいですか?」
「はい。もちろんです」
「うぅ。みどりさーん。これからも愚兄のことよろしくお願いしますね…!」
がしりと手を握り合う二人。天使同士お互いシンパシーを感じているようで、二人が打ち解け合うのは早かった。
川島の紺色の浴衣には白い音符と真っ赤なハートが踊っている。今の川島のテンションと小町への好感度も、同じようにハートや音符で溢れかえっている。
さて。仲良しな二人を余所に、俺もありったけのコミュ力を振り絞って話しかけてみよう。
「琥珀ちゃん、美味しいものは一杯食べれた?」
「…なにも」
「そっか。今から買おうとしてたのかな?何か食べたいものはある?」
「…りんごのやつ」
「ああ。リンゴ飴ね。あとで見つけたら買おうか」
「…ほんと?」
「うん。お兄ちゃんはね。嘘吐かないよ」
「…ありがとう。おにーちゃん」
「ふぁぁあぁん!」
何この可愛い生き物。抱きしめたい抱きしめた抱きしめたいーー!
「そうだ。お腹空いてる?小町がたこ焼き持ってるけど?」
「…くうくうおなかがなりました」
「……う、うん?」
「…くうくうおなかがなりました」
「…琥珀ちゃん。その言葉はどこで覚えたのかな?」
「…わかんない」
「そっか。琥珀ちゃん。その言葉は言っちゃダメだよ。お兄ちゃんぶるぶる震え止まらないから。ちょっと怖くて泣いちゃいそうだから」
「…はーい」