やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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「もしかして、また吹部の人?」

 

「まあ。同じパートの先輩」

 

「え、じゃあ挨拶してきなよ。小町待ってるし、先に帰ってもいいし」

 

「いや、それじゃ小町が危ねえだろ。いいよ。どうせ明日会うんだし」

 

「いいからいいから」

 

「よくねえって。ほら帰ろうぜ」

 

「あれ、比企谷?」

 

小町との言い争いで気がついたのだろう。優子先輩は俺たちの方を見ていた。

隣で小町がぼそっと、『うわっ、可愛い』と言ったのが聞こえてきて、間違いなく距離的に優子先輩には聞こえていないだろうに何故だか俺が少し照れくさい。

 

「あー。どうもです」

 

「うん。お疲れー…」

 

近付いてみると、優子先輩の手には赤い金魚が入った袋が握られていた。浴衣ではなく、いつも通りの普段着だが袋の中を所狭しと泳ぎ回っている金魚はミスマッチではない。俺たちと同じように祭りを楽しんできたのは明瞭だ。

 

「……もしかして、彼女?」

 

「違います。妹です」

 

「いや、流石に無理あるから。全然似てないもん。まさか、あんた……誘拐?」

 

「やってないやってない」

 

何で誘拐疑われるの?そんなに怪しい俺?怪しいか。主に目が。

 

「あはは。初めまして。いつも兄がお世話になってます。妹の比企谷小町です」

 

「う、嘘!比企谷の妹!?全然似ていないんですけど!?特に目が!」

 

まるで幽霊でも見たかのように俺たちを凝視している。いささか失礼だが、もうこの人は思ったことははっきりと言ってしまう性格なのがわかっているので仕方ない。

 

「あ。私は比企谷と同じ部活で一つ学年が上の吉川優子です。比企谷とは同じトランペットパートでいつもお世話に…なってるかしら?」

 

「そこはとりあえず妹の前だし、なってるってことにしといて欲しかった…」

 

「まあ確かに、帰りよく自転車に荷物入れさせて貰ってるしね」

 

「それじゃただの荷物持ちじゃねえか」

 

「え、もしかして前にお兄ちゃんが一緒に帰る先輩がいるって言ってたの…」

 

「たまにですけどね」

 

「マジですか!?これはこれはいつも捻くれ者のお兄ちゃんと仲良くしてくれて、しかも一緒に帰ってくれてどうもどうもですー。あの、小町の方が年下なんで全然ため口でいいですからー」

 

「あ、うん。じゃあそうさせてもらうわ。私も優子でいいから」

 

これが比企谷の妹…?どこで教育間違えたら、こんなにコミュ力に差が出るの…?

ぼそぼそ言ってるの、全部聞こえてるんだよなー。

なにやら思案している優子先輩を余所に、小町が俺の裾を引いた。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん。優子さんの家この辺りなんでしょ?」

 

「ん?そうだな。家の場所までちゃんとは知らないけど、割とここから近いらしいぞ」

 

「お兄ちゃん、これはチャンスだよ!」

 

「は?何がだよ」

 

「もう夜も遅いし、家まで送っていってあげて好感度爆上がりのチャンスに決まってるでしょ?いつかじゃない。今なんだよ」

 

「何、その無駄にかっこいい台詞。ちょ、小町背中叩かないで!いたいいたい」

 

「わ。ちょっとお兄ちゃん。頭ぐしゃぐしゃしないでよ!うー」

 

「仕返しだよ。仕返し」

 

「……」

 

「ん?どうしたんですか?そんなぽかんと口開けて」

 

「な、なんか妹さんの前だといつもと違うわよね。元気っていうか」

 

「そうですか?自分じゃよくわかんないですけど、俺いつもこんなもんでしょ?まあ確かに妹のことは愛してますけどね」

 

「ちょっとお兄ちゃん。二人の時はいいけど、そういうの外で言うの止めてよ」

 

「もしかして、あんたシスコン?」

 

「いや千葉の兄妹はみんなこんなもんですから」

 

「でた。千葉県民もらい事故」

 

「あー優子さん。お兄ちゃんたまに…、いや。結構意味わかんないこと言いますから、そういうときは構わず訳わかんないこと言ってんじゃねえって言ってやって下さい」

 

「うん、わかった。訳わかんないこと言ってんじゃないわよ。気持ち悪!」

 

「さりげなくパワーアップさせるの止めてもらっていいですか……」

 

二人の笑い声が俺たち以外には誰もいない公園に響く。県祭りの実施場所から離れてしまえば、さっきまでの喧噪はまるで幻だったように静かで、街灯の光しかなく真っ暗。だからこそ、何となくこうして公園のベンチに集まって話しているのがいつもの部活終わりの帰宅時にここに寄って帰る時以上に特別な気分にさせた。

 

「さて、それじゃあ小町は先に帰りますね!」

 

「うん。それじゃあね。二人とも」

 

「うす。お疲れさ……」

 

「お兄ちゃん。送ってってあげなかったら、小町家に入れないからね」

 

亭主関白にも程がありますよ。初めて言われたけど、思ったよりも心に刺さるんだなこの言葉。世の中のサラリーマン、仕事帰りに奥さんにこんなこと言われたらそりゃ社会人になってお父さんになっても泣くわ。

ぺちぺちと未だに叩かれている背中は行けのサイン。やれやれ。

 

「……優子先輩。あの、俺送っていきますよ」

 

「へ?どうして?」

 

「それはほら。あれがこうでこうだから…」

 

「ああなるほど、…ってならないわよ!いいわよ。別にこっから近いし」

 

「優子さん。お兄ちゃんは暗いし遅いから心配なんですって。だから送られてあげて下さい。これでも犯罪者に襲われたとき盾くらいにはなってくれますよ?」

 

「盾になるのは嫌ですけど、本当に送ります」

 

このまま引き下がると、後で小町に殺されそうだから。心なしか最初と比べて、小町背中を叩く力が強くなってきている。

 

「いいやでも、その理論だと小町ちゃんも…」

 

「おぉっと、しまったー!小町、門限七時なのすーっかり忘れてたー!そういうわけで小町は先に帰りますから!」

 

「お前の門限、数時間以上前なんだが」

 

「ちっちゃいことは気にしない。それわかちこわかちこー。さて、優子さん。今後とも兄をよろしくお願いしますね。それでは」

 

「あ、うん。ばいばい」

 

小町のあまりに突然の帰宅に、呆気にとられている俺たち。走って帰る妹の帰宅姿はこころなしかスキップするかのように軽い足取りだ。

それにしても、小町のネタが古すぎるんだよなー。

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