やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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スマホが振動して画面を見ると、メッセージが一つ。

 

『やっほー。お兄ちゃん(^^)無事帰宅したから、安心して帰ってこなくていいからね!』

 

「帰るのはっやいな。あいつ」

 

安心して帰ってこなくていいって何だよ。何も安心できないよ。むしろ帰ってこなかったら、俺の心配をしてよ。

 

「もう家ついたって?」

 

「はい」

 

「比企谷家ってここから本当に近いんだね」

 

「そうですね。歩いても五分はかからないんで」

 

「じゃあ、学校にも私より近いわけだ。私の家、この公園から五分以上かかるもん」

 

優子先輩はベンチからゆっくりと立ち上がった。薄い水色のロングスカートも一緒にふわりと舞い上がる。

 

「さて、そろそろ私たちも帰りましょうか。……で、どうするの?」

 

「っていうと…」

 

「そりゃ送っていってくれるのかってことに決まってるじゃない。私は別にどっちでもいいけど」

 

「そうですか。それじゃあ…」

 

ぶーぶー。普段は鳴らない携帯が振動する。開いて確認すると、また小町の名前。

メッセージは確認しなかった。何となく俺を早く送り届けるように催促するような気がするから。

 

「……」

 

「何でそんな急にキョロキョロしてるのよ?」

 

「いや。小町、帰ったって言ってまだどっかからか見てるんじゃないかなって」

 

「流石にそんなことないんじゃない?」

 

「まあいいや。それじゃ、あの。…えっと…。お、おおお送っていきましゅ」

 

「ぷぷっ」

 

「…」

 

死にたい。でも家まで送りますってかなり緊張するから。東京の狼たちは平気な顔してこんなこととか、逆に『この後家来る?』なんて言えるのかよ。あいつらからしたら、もはや俺うさぎだわ。

 

「ふふっ。あ、ありが……ぷっ」

 

「いや笑いすぎですから。やっぱり俺もう帰る」

 

「ごめんごめん。でも顔が真っ赤だし。ははっ」

 

「くっ。穴があったら潜り込みたい。そんで一生出てきたくない…」

 

「それ死んじゃうから。ふー。やっと収まった。さて、それじゃあ帰りましょうか?」

 

「……」

 

「そんなむすっとしないで」

 

「別にしてないですよ」

 

「してるから。…言っとくけど、私だって結構緊張してるのよ?」

 

「え?」

 

「男の子に家まで送って貰うのなんて初めてだもん。なんか思っていたより照れるわね。こういうの」

 

いつも通り横に並んで歩く。いつもと違うのは、日が落ちようとしている夕方ではないことと、自転車がないこと。そして隣で俺を見上げる優子先輩の頬が少し赤く染まっていることだけだ。

それに気がついて、すぐに横を向いた。きっと勘違い。暗くてよく見えなかっただけ。だから早く、俺の心臓の鼓動収まれ!

こういうときはそうだ。最近はしずかちゃんの入浴シーンは規制の影響かあんまり見られなくなってきたから、のび太の入浴シーンを変わりに想像しよう。……無理だ!

 

「…ちょっと。何か話しなさいよ?」

 

「え、急にそんなこと言われても。えっと、そう言えば最近はしずかちゃんの入浴シーン、しずかちゃんが水着つけてることがあったんですって」

 

「は?」

 

「あ、しずかちゃんってドラえもんのね。ほら、しずかちゃんと言えばお風呂のイメージがつよ…」

 

「いや。そういう意味で聞き返したんじゃないから。知ってるから、そんなこと。……はぁ。あんたに話振ってなんて期待した私がバカだったわよ」

 

さっきまでドラえもんのことを考えていたせいで、咄嗟に出た話もドラえもんのことだった。ドラえもんの話ダメだったら、何の話しろって言うんだよ。ドラえもん、何とかしてよお!

 

「そう言えば、優子先輩って今日の祭り誰と行ったんですか?」

 

「友恵と……猿女」

 

「猿女?変態の駿河さん?」

 

「いや、誰よその人。違う違う。きーきー五月蠅いから猿女」

 

「あー、もしかして」

 

「そうよ。夏紀よ夏紀」

 

犬猿の仲と評される、優子先輩とユーフォの中川先輩。でも一緒に祭りに来るってことは加部先輩の言っていた通り、本当に仲が悪いわけではないのだろう。

 

「あいつ、射的で私が狙ってた景品落として勝ち誇った顔して…。しかもそういうときってその景品狙ってた私にくれてもいいじゃない。それなのにポケットにしまって『これ前から欲しかったような、欲しくなかったような』とか言って、本当は興味ないくせにくれないのよ?ひどくない?」

 

「あーまあうん」

 

「あー!思い出しただけでも腹が立ってきた!」

 

二人って、本当に仲良いんだよな?

 

「そう言えば、途中滝先生と美知恵先生に会ったわよ。二人で県祭りの見回りしてて」

 

「いたんですね、先生達。部活終わったのに、まだ残業とか大変だ」

 

「そうね。あんまり羽目外して遅くなりすぎないようにって言われた。でも滝先生は、折角のお祭りだから楽しんでいきなさいって。比企谷は誰かに会った?」

 

「川島と川島の妹と一緒に祭り回ってたんですよ」

 

「そうだったんだ。川島って確か、コンバスの子よね?ちっちゃくて可愛い」

 

「そうです。あの天使みたいな」

 

「いや、そこまでは言ってないんだけど……。比企谷のくせに女の子に囲まれてお祭り回るとか生意気よ」

 

「いやなんすかそれ?」

 

少しだけ頬を膨らませて、軽く腕を小突かれた。何これ、可愛い。川島にやられたら体力回復しそう。

 

「あとホルンパートの奴らにも会いましたよ。ほら、あのジト目の先輩とか黄色のリボンでツインテールにしてる奴とかいる」

 

「海松とララちゃんでしょ?先輩は別に良いけど一年生の名前くらい覚えなさいよ」

 

「いや、でも俺も名前覚えられてなかったし」

 

「へえ。なんかララちゃんって一年生の中ではかなりの情報通って聞いたけど。あの子にちゃんと覚えられてないとか流石じゃん」

 

「べ、別に良いし。大体……」

 

「きゃっ!」

 

「っ!」

 

たまたま優子先輩に物申そうと思って見ていたのがラッキーだった。何かに躓いて前に倒れていく優子先輩。危ないと思うと同時に、視覚の時間精度が狂ったその瞬間はやたらとスローモーションに映った。

パシ、っという乾いた音が響く。

 

「……あ」

 

「あぶねー。大丈夫ですか?」

 

「うん」

 

振り向いた優子先輩の顔が目の前にある。その差は十五センチくらい?それとももっと近いだろうか。先輩の顔が近いことにだけ意識が向かって距離感覚なんて全く判断できないが、徐々に赤くなっていく優子先輩の顔と同じように俺の顔も熱を帯びていくことだけが分かった。

 

「あ、あああああの」

 

「す、すんません」

 

恥ずかしくなって、腕を放してぱっと二歩分くらい距離を取った。

つーか、咄嗟のことだったから全然気にしてる余裕なんてなかったけど、掴んでる先輩の腕ほっそ!しかも柔らかかったし…。強く掴みすぎて赤くなっているのが申し訳ない。

 

「いやいや。謝らないで。き、金魚も落とさなくて良かったし」

 

ゆらゆらと揺れている金魚が入った袋を手で押さえて止めた。

 

「ほら、何事もなく済んで良かったわね?比企谷にありがとうは?」

 

「……金魚の記憶時間って三秒らしいですよ。あ、もう助けられたこと忘れましたね」

 

「…何でそういうこと言うのよ……。でも、本当にありがと……」

 

ぽすっとさっきと同じように腕を叩かれる。髪に隠れて表情までは見えないが、耳が赤く染まっていて何となくそわそわと落ち着かない。

 

「……」

 

「……」

 

「…そ、そう言えばさっき話したしずかちゃんの入浴なんですけど、最近はバスパウダーが出てるんですって。何でもしずかちゃんだけじゃなくて、ドラえもんにのび太君、さらに何とジャイ子バージョンもあるとか!」

 

「……無言で気まずくなると、ドラえもんの入浴に関わる話するの確定なの?なんで?」

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