やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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『やっぱりさあ。贔屓するつもりなくても知ってる知らないじゃ違うと思うんだよねえ』

 

『結局、高坂さんをソロにするためのオーディションだったって話もあるし』

 

『高坂さんのお父さんって結構有名なトランペット奏者なんでしょ?』

 

『じゃあ先生。嫌とは言えないね』

 

『香織先輩、やっぱり可愛そうだよね。去年からずっと頑張ってきたのにさ。親に権力がある後輩が入ってきて』

 

部活中、何度も何度もオーディションや高坂の話を耳にする。

渦中のトランペットパートはというと、先日の騒動や高坂の噂については驚くほど静かに、ただただ各々が練習する日々が続いた。これ以上、オーディションの疑惑を増幅させないためでもあり、中世古先輩への配慮でもあるのだと思う。相変わらず高坂は一人で練習に行き、優子先輩は辛そうな顔で譜面と睨めっこ。中世古先輩もパート練習を終えると、一人でどこかへ吹きに行く事が増えた。

滝先生も同じようにそのことについて触れることなく当事者の全員が何も発言しない。あとはただ噂がなくなるのを待つだけ、という姿勢は逆に問題に蓋をしているようにさえ見えるのだろう。不安は募り、膨れ上がっていく不満は明らかに部内の空気を悪くしていた。ちょうどここ一週間は二者面談期間中で部活の時間が長く取れる。しかし雑談は増え、オーディション前の不安に駆られて必死に吹くという我武者羅さはなりを潜めている。

 

「おい、比企谷。聞いているのか?」

 

「あ、はい。聞いてます」

 

あんまりにも担任の話が長くて、ついついぼーっと部活のことに意識を持っていかれていた。俺は進学クラスということもあり、さっきからずっと成績の話ばかりをされているのだがどうしてこう、人間というのは欠点を補おうとさせてくるのだろう。脳構造は楽しいことよりも嫌だったことの方が覚えているものなんだから、成績の分析くらい良いことに目を向けて欲しい。

二者面談は三者面談とは違い、親の目がないからよく言えば気が楽だ。この機会に先生に相談事をすることも出来るのだろうが、そんなことを一つも持ち合わせていない俺はただ先生の質問に答えるだけ。短い時間とは言え、そんなつまらない問答に集中することが出来る方がおかしい。

はー。この時間で録画したけもフレ2見てえなあ。監督交代の騒動から始まり、賛否両論わかれたが俺は中々楽しませていただいている。かばんちゃんの復活に『かかかかかかかかかばんちゃん』と声が震えていたのは私です。ええ。

 

「せっかく国語の成績が学年一位でも、数学が足を引っ張っているようじゃ勿体ないぞ。まだ文系にするか理系にするかは決めていないんだろう?」

 

「はあ。まあ」

 

「なら数学という選択肢を消すな。今は一年の夏前。これからいくらでも挽回できるから」

 

「わかりました」

 

「本当に分かっているんだろうな。まあいい。部活の方はどうだ?最近の吹部はかなり練習をしているようだが?」

 

「まあそれなりに」

 

「そうか。部活と生活や学習面の両立は出来ているのか?」

 

「はい」

 

「なるほど。それなら頑張れよ」

 

担任、部活動に興味なさすぎじゃ…。そりゃ進学クラスは勉強や学力に注視されるのもわかるけど。

北宇治高校はこれまで実績がある部活動なんてなかった。吹奏楽部が全国を目指して活動をしてるなんて夢にも思っていないのだろう。部員の俺だって現実味がなさすぎて全国に行けるなんて到底思えない。

 

「さて、それでは二者面談はこれで終わりだ。最後に、比企谷はあれだな。教室でもう少しクラスメイトと話したらどうだ?趣味の合う友人を見つければもっと学校生活楽しくなるんじゃないか?」

 

「いや、別に今のままでも十分楽しいですし」

 

「それならいいんだが。まあ本読むのが好きな奴も多いからな。五月蠅いことはあまり言わないが、不登校とかにならなければいい。何かあったら先生に相談しなさい」

 

「はい。失礼します」

 

心の中で余計なお世話ですよ、と呟いて教室を出る。余計なお世話をして、生徒に余計な問題を起こさせないようにするのも教師の仕事の一環だ。だから小言一つ言われることに特別何か思うことはない。

さて、面談が終われば今日も部活動のお時間。いつになく重たい身体を動かして音楽室に行くと、滝先生が扉を開けて教室の中を見ていた。

 

「どうして片付けてるんですか?」

 

あまりの迫力に思わず足が止まる。こんなに冷たい声音を聞いたのは、まだ滝先生が吹部の顧問に就任して間もない頃、海兵隊の練習をせずに合奏をしたとき以来だろうか。

 

「いえ。片付けてるんじゃなくて、皆が暑いって言うので練習が始まるまで…」

 

「私は取っていいなんて一言も言ってませんよ!戻して下さい!」

 

だがその声音はすぐに怒りに変わった。

滝先生がこんなに声を荒げて怒っているなんて、普段の爽やかな先生から想像が出来ない。それは音楽室のいる部員達も同じようだったようで目先にある音楽室からは物音一つ聞こえてこなかった。

 

「戻しなさい。今すぐ!」

 

「……はい」

 

滝先生の背中越しから少しだけ見える音楽室の中で、滝先生の二度目の戻せという命令にやっと何人かが俯きながら布団を戻そうと動き始める。

音楽室の中に歩いて入った滝先生の後ろを一定の距離を取って歩いて付いていく。だが、少しずつ見えてきた音楽室の中、まるで泣いているかのように教室の端で俯きながら座り込む優子先輩を見て音楽室から去ることに決めた。

おそらく、今日の合奏練は中止だろう。それもここ数日では何度かあった。パトリ会議でも滝先生の信用が問題となり、小笠原先輩や中世古先輩の説得は空しくまとまらない状態。特にホルンとクラの集中が切れてる。トランペットパートもパート練習はあまり行われず個人練ばかりだ。今やパート練習をきちんと行っているパートの方が少ないだろう。

それはまるで入部したばかりの頃に戻ったように感じられた。

 

「……」

 

だがそれでは待っているのは去年と同じ結果だ。京都府予選銅賞。

それではオーディションをした意味も、サンフェスの頃から休日や家で過ごしているはずだった時間を捨ててまでここまできた意味がなくなってしまう。

このままではまずい。滝先生の不信をなんとかしなくてはいけない。それは明白だ。




いつも読んで下さってありがとうございます。作者のてにもつです。

この作品は感想や頂いているメッセージがかなり多く、非常に嬉しい限りです。評価も赤色!自身の作品では赤色は初めて見ました!それこそ最初見たときはあまりの驚きと嬉しさで小躍りしそうになったレベルです。あながち嘘ではなく笑

前作を書いていた時にクロスオーバー作品自体が低評価が付きやすい。その中でも特にソードアートオンラインや俺ガイル、というかキリトや八幡が主人公のクロスオーバーは作品数が多く、競合の作品が多いこともあるのかもしれませんが、特に低評価が付くのが顕著ということを知りました。
それでもこの作品を書き始めようと思ったのは、やっぱり俺ガイルも響けも大好きだったからです。そして書き続けられているのは他でもないみなさんのお陰だと断言します。
音楽が聞いてくれる人がいなければ生きてないのと同じであるように、本や二次創作だって読んでくれる誰かがいなければ生きていないのと同じであると思います。ちなみにこの言葉は僕が大好きなアーティストのAAAの日高君の受け売りです笑

なのでこれからも本作の方をよろしくお願いします!
(先日の一件でメッセージをくださった方々ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。)

さて。後一月ほどで映画がついに公開されますね!
頂いた感想などの返信ではよく書いているのですが、吉川優子の活躍は必見です!一期と二期で放送されたアニメだけでは伝わりきらない、優子の素晴らしい一面が見られると思います。
そして何と言っても秀久美の二人……。原作はアニメよりも二人の関係、というか久美子の感情がストレートで、『秀一のこと、やっぱり特別に思ってるじゃんか、このこのー!』みたいになりますが、映画ではどのように描かれるのか…。付き合ってくれ、頼む!
とにかく楽しみで仕方がないです!
何回か見に行きたいとさえ思っていますが、さて誰と見に行こかなー。
それでは、今回の後書きはここまでにします。ありがとうございました!

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