やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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「それで、俺に用って何ですか?」

 

優子先輩と向かう先はとりあえず音楽室だった。だけど花火大会で帰った部員達が多くて、もう音楽室から音は聞こえてこない。もしかしたら、俺がいない間に滝先生か松本先生からそろそろ帰るようにと指示があったのかもしれない。

 

「え?」

 

「いや、『え?』じゃないですよ。もしかして特に用はなかったとかじゃないですよね?」

 

「ううん。ちゃんと用はあるし、時間がないって言ったのも本当!……なんだけど…」

 

珍しくハッキリしない優子先輩に俺はどうしたらいいのかわからず頬をかいた。

誰かと二人になったとき会話の切り口が分からないときのシチュエーションは、風呂の鏡に映ったもう一人の僕、『七幡』と一緒に練習しただろう。それを思い出せ!

ちなみに名前は適当である。ヒナイチゴとか何だって良かったもん!WUGちゃん、最高!

立ち止まった優子先輩に合わせて俺も立ち止まる。

 

「あのさ、今から家帰った後待ち合わせして、花火大会、一緒に行かない?」

 

「はい?」

 

「だから!花火大会、一緒に行こうって!」

 

聞き取れなかったから聞き返したわけじゃない。まさか花火大会に行こうと言われるなんて思わなかった。

 

「いや、俺ちょっと予定があって…」

 

「嘘でしょ。今朝塚本から聞いたもん。誘ったけど、行くつもりないからって断られたって言ってた」

 

「くっ」

 

あいつ。余計な事言いやがって。今朝二人が話してたのはこのことだったのか。

 

「家のお留守番を…。今日飯作らなくちゃいけないから」

 

「それだって嘘でしょ。小町ちゃんに連絡して聞いた。今日は小町ちゃんも花火大会行くから、ご飯は自分の分買って帰るって家出る前に比企谷が言ってたって」

 

そ、外堀が埋まっている…。塚本のみならず小町まで利用するなんて。

 

「行きたいなら他の人で良いじゃないですか?加部先輩とか」

 

「友恵は友達と行ったし、お盆休みにプール一緒に行くからいいの」

 

「お盆休みに遊ぶからって、花火大会だってそれに付いていくので良くないですか?あれでしょ?女の子は寂しいと死んじゃうから、ずーっと一緒にいないといけないもんなんでしょ?」

 

「うざ」

 

「そんなに冷たい声で、真っ向からシンプルに言われると傷つくんですけど…。大体何で俺なの?」

 

「それはほら。親睦を深める的な?」

 

「俺と親睦を深めたいなら、やっぱり即帰宅で花火大会に行かず家出ないのが一番ですね。この選択肢が一番八幡の好感度上がるって情報のリークがありました」

 

「もう。相変わらず難しい…。逆にどうしてそんな行きたくないのよ?初めての宇治川の花火大会じゃん。結構人気なんだよ?」

 

「そりゃ、万が一友達に会ったら気まずいじゃないですか」

 

「…友達少ないくせに」

 

おっしゃる通り。だけど、俺よりも優子先輩の方が気まずいだろう。

 

『あー。優子ー!久しぶりー』

 

花火大会という淑女達にとっての社交場。挨拶はあくまで社交辞令で、所詮前座でしかない。ありふれた言葉のキャッチボールの後ろに隠れる本題。中高生という若く青く野原に生えるつくしの様に背伸びしたい彼ら彼女らにとって大切なのは。

 

『でさ、優子は今日誰と来てるの?』

 

そう。誰と来ているか、という点に尽きる。

男女問わず、祭りに連れて来ている誰かはステータスであり、偶然会った他者からクラスの地位や個人のレベルを判断される基準になる。もし、クラスの人気者や学校一のイケメンを連れていれば、一緒にいるそいつも一瞬にしてスクールカーストのトップに君臨。

それに加えて浴衣なんて着て行ってリア充臭をぷんぷん醸し出すことが出来れば、尚ステータスとしての効果は上がる。あの歩きにくい上に対して涼しくもない格好をするのはその為だ。

 

『同じ吹部でトランペットの比企谷』

 

当然俺の場合、プラスのステータスになることはありえない。

もし仮に会った相手が優子先輩のクラスメイトであれば、『うわ、こんな奴かよ。ぷーくすくす』と鼻で笑われ、吹部の部員であれば『よ、よよよよりによってこいつかよっ』とぎょっとしてみられるか、もしくは忘れられているか最初から知られていないか。

脳内シチュエーションで結果が見えた。未来予知完了。

 

「とにかく行きません」

 

「だから行きたくない理由を知りたいの」

 

「それがちゃんとあれば、もう誘わないで家帰らせてくれます?」

 

「そしたら少しは考慮して……あげない」

 

「あげないのかよ!」

 

「行こうってばー」

 

「そもそも俺、なんで花火大会行かないといけないの?」

 

「だから親睦を深めるの。それに…ちょっと話したいこともあるし」

 

「話したいこと?」

 

「…うん。みぞれのことなんだけど」

 

優子先輩の表情が曇る。

 

「鎧塚先輩?俺ほとんど話したことないですけど」

 

「ちょっとさっき比企谷が話してた希美に関わる話でもあるんだけど」

 

「……」

 

『知らない方が良いことがある』とよく言うが、逆説的に言うと『知ることは悪』である。

知ってしまえば面倒毎が増えるし、考えなくてはいけない事象が増える。それはエネルギーを消費する。だから知ることは悪いというのは、きっと間違っていないと思う。

 

「…じゃあもし花火大会行ったら、どうしてさっき優子先輩が傘木先輩と顔を合わせたとき怒ってるような表情してたか教えてくれますか?」

 

「え?私、そんな顔してた?」

 

「…多分」

 

「してないよ……って言うのはきっと嘘だなあ」

 

それでもここ最近の中川先輩や傘木先輩の事態は気になることが増えすぎた。首を突っ込むことは良くない事なんて理解しているのに、日に日に気になることが増えていく現状に、俺は我慢できずにいる。答えを探し出す探偵ではないし、一連の噂や見たことは謎なんて大層なものでもないけれど。

 

「その話もするから、一緒に花火大会行ってくれる?」

 

「…は、はい」

 

「やったあ!じゃあ、早く帰ろう!」

 

この顔を見るために行くと決めたわけじゃないから!先輩達の話を聞くために行くだけだから!

俺の腕を引っ張りながら、嬉しそうに音楽室に駆けていく先輩を見て顔に熱を感じた。

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