やはり俺の北宇治高校吹奏楽部の生活はまちがっている。   作:てにもつ

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「ああ…俺の夏休みが…」

 

ぶつぶつと文句を言いながら身支度をしていく。特別持って行くものなんてないから、服を着替えて携帯と財布を持っていくだけ。それなのに、その行為さえも面倒くさいと思うのはきっと今日が夏休みだからだろう。貴重な二日のうちの一日目。どうして、二日は四十八時間しかないのだろうか。秋葉原とか栄とかで絶賛大活躍の48グループだって、四十八と言いつつ四十八人よりもっとたくさんいるのに。

今日の予定はと言うと、滝先生と新しく教えに来るという先生と駅で待ち合わせをした後に昼ご飯をご馳走になって、塚本とどこかに行こうということになっている。出発まではまだまだ時間がある。休日だからもっとゆっくり寝ていようと思ったのに早く起きてしまったのは、きっと最近朝練で毎日もっと早い時間に起きていたからだと思う。

リビングでソファに横になりながら、最近はこんな時間もめっきりなかったな、なんて思いながら適当にチャンネルを回して面白くもない番組をぽーっと眺ていると、とたとたと小さくもない足音と共にリビングの扉が力強く開かれた。

 

「ジャジャーン!」

 

「小町ちゃん。どうしたのかしら?」

 

「ジャジャジャジャーン!こっちを見てご覧なさい?」

 

「えー。めんどー」

 

視界が暗くなる。ブランケットをかけられたのだとすぐに気が付いた。

 

「はい。お兄ちゃん。取って良いよ?」

 

「ったく。何よ?」

 

目の前には白い水着に身を包む妹。うん知ってた。だって何日も前から今日友達とプールに行くって話してたもん。

 

「今年初水着であります!」

 

「去年と同じだろ?」

 

「そりゃ水着は変わんないけどさ。ほら小町の身体、大人になってなーい?」

 

「いやそれも去年と変わんないんだけど」

 

「むー。ひどい!小町的に、ポイント低すぎっ!」

 

だって本当に何も変わってないもん。お母さんに嘘を吐いたらダメだって、小さい頃から言われていたし素直に答えました。

ただ俺の返答を聞いた小町はぷりぷりと怒っている。

 

「去年と変わらずめっちゃ可愛い」

 

「今更フォローしたって遅いんだからね」

 

「いや本当にそう思ってるから。とにかく可愛いから知らない男に声かけられても、絶対に着いて行ったらダメだからな」

 

「そんなの分かってるよ」

 

とりあえず褒めてはみたものの、機嫌が良くなることはなかった。水着姿の妹は俺の前から移動してテーブルの椅子に腰掛ける。水着の妹と木製の椅子が絶妙にミスマッチ。『空』とか墨で書かれてる額縁が飾ってあるような畳の部屋で坊主の男が食べる、マンゴーソースとメープルシロップのたっぷりかかったふわふわのパンケーキくらいミスマッチ。

 

「そういうの良くないよ。女の子はとりあえずなんだって褒めて貰いたいもんなんだからね?優子さんとかにも、そんな態度取ってないよね?」

 

「は?優子先輩は関係ないだろ?」

 

「またまたー。仲良いでしょー?お兄ちゃん。こないだの花火大会、誰と行ったんだっけ?」

 

「……お前、どうして…」

 

「あー、ごめんごめん。間違えた。前日までは『俺、行かねえ。面倒くせえし、家で花火の音聞こえてくるし、外暑いし、人多いし。ほら、こんなに行かない理由がある』とか言ってたくせに」

 

「小町ちゃん。それもしかして俺の真似じゃないでしょうね?」

 

「当日小町が花火大会から帰って来たら家にいなくて、しばらく帰ってこなくて花火大会行ってたのって聞いたらすっとぼけてクラスメイトと行ってたとか言って、すぐに部屋に行っちゃったお兄ちゃん?」

 

「何で嘘だってばれた…?」

 

「そりゃ分かるよ。お兄ちゃん、クラスに友達いないじゃん」

 

「……」

 

ひどい。けど否定できない!

何で俺あの日そんなすぐに分かるようないい訳をしてしまったんだろう。小町の言う通り、すぐに部屋に行ってベッドで横になりながら花火大会のこと思い出してたら秒で寝てたってくらい疲れてたのもあるけれど、あの日の俺は優子先輩と花火大会行って、何となく浮ついていたのかもしれない。

 

「…それは確かに俺のミスだった。でもどうして小町が俺が誰と行ったのか知ってるんだ?」

 

「そりゃ、ちょくちょく連絡してるし」

 

「……まじかよ…」

 

「本当はあの日の朝、お兄ちゃん部活終わった後暇してるのかー、みたいなこと聞かれたから何となく分かってたけどね。そういうの、ちゃんと言ってもらわないと小町面白くないよー」

 

「お前を楽しませようと思って生きてるわけじゃないから。小町の為の道化師じゃねえから」

 

最近家か学校でしか過ごしていないことを考えると、小町と優子先輩が繋がっていると俺の生活赤裸々にばれちゃうんだけど。八幡、怖いー。

 

「最近、もしかして優子先輩と良い感じだったりするの!?きゃー!お兄ちゃんもやっと十年以上の冬を越えて、春が来てるのかなー!?小町、参っちゃう。こまちまいっちんぐだよー」

 

「何その頭悪そうなフレーズと、頭こつんってするポーズ。可愛いけど。八幡の小町への好感度、うなぎらいじんぐだけど」

 

「うなぎらいじんぐ?」

 

「やめろ。小町っぽくうなぎ上りの言い方変えてみたんだよ。こうやって解説するとスベったみたいになっちゃうから」

 

それからしばらく花火大会の日のことをひたすら聞かれ続ける苦行のような時間が続いたが、意外とすぐに小町の出発の時間になったようで慌てて部屋に荷物を取りに行った。

やれやれ。出かける前から疲れた。

 

「お兄ちゃん。それじゃ行ってくるね?」

 

「おう」

 

「あ。どうせプール行ったら着替えるんだし、この上にシャツ着て行っちゃおう」

 

「え?それは今を煌めくぴちぴち女子中学生としてお兄ちゃんどうかと思うんだけど…」

 

「そうかな?」

 

「えー。着替えんのめんどくさー。お兄ちゃんになんか見せなきゃ良かった」

 

「誰も着て欲しいなんて言ってないんですけど?」

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