アイスの溶けない夏   作:佐倉瀬葉

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第1話

 ある、暑い夏の日のことだった。

 俺が『先輩』に出会ったのは。

 

 「超常現象研究部……か。」

 

 高校に入学して数ヶ月。学校の巫山戯た方針で生徒全員に部活動の所属が強制されていたことを知らずにのうのうとすごしていた俺は、担任に催促されるまでその制度を知らず、いざとなって入る部活を決めかねていた。そんな時だった。旧校舎の奥に超常現象研究部と名札のかかった部室を見つけたのは。

 

 「こういう部活は部員も少なくて緩そうだから楽かもな……。」

 

 そう思った俺はその部屋のドアを開けようとドアノブに手をかけた。その時、中から爆発音のようなものが聞えドアが勝手に開く。

 

 「うわぁぁぁ!!!あぶないあぶないあぶなーーーーい!!!」

 

 中から可愛らしいショートカットの女の子がでてきた。そして……。

 

 「へぶっ!?」

 

 俺に思い切りぶつかった。

 情けない声を上げて倒れたその少女はリボンの色からするとどうやら3年生。つまり俺の先輩に当たるようだ。

 

 「……あいたたたた。ほぇ?君は?」

 

 「俺はこの学校の1年で……あの、超常現象研究部ってなんですか?」

 

 「あ!もしかして入部希望の子?やったー!ちょっとまっててね!今、部室の中片付けるから!」

 

 「あ、はい。」

 

 なんというか、アグレッシブな先輩だな。頼りないというか危なっかしいというか。

 再び部室の扉が開いたのは数分後のことだった。

 

 「ごめんね!ちょっとちらかってるけど我慢して……?」

 

 ふむ。見るとたしかにところどころ片付けというか物を適当に突っ込んだだけだな、これは。

 

 「さぁ!いらっしゃい!いらっしゃい!入部希望者君ってことでいいんだよね?」

 

 「あ、はい。ところでさっきの爆発?みたいなのって一体……?」

 

 「あ、あー。あれはね……ネットで買った宇宙との交信ができるグッズらしいんだけど、なんか爆発しちゃって……。」

 

 エヘヘヘ。と、笑う先輩。胡散臭さしかないがよく買ったな。

 

 「なんでそんなものを買ったんですか?」

 

 「うーん。なんでって言われてもなー。欲しかったから?」

 

 おいおいそれでいいのかよ。ただの小包爆弾じゃないか……。

 

 「そう言えば、超常現象研究部って何する部活なんですか?」

 

 「うん、それはね!さっきも言ったように宇宙と交信したり、ゆーま?を探したりする部活だよ!」

 

 この人自分で言ったUMAの発音が怪しいな。ほんとに意味がわかって言ってるんだろうか……。

 

 「ってことはオカ研みたいなもんなんですね。」

 

 「あー!うん!その認識で問題ないよ!まぁ、それはさておき!」

 

 先輩が一枚の紙を出す。そこに書かれている文字は、『入部届』。

 

 「さぁ!これにサインを!早く!」

 

 勢いに押され、促されるままにサインをする。

 

 「ふむふむ。君、名前は?」

 

 「俺の……名前、ですか?」

 

 「うんうん!いつまでも『君』じゃ、素っ気ないでしょ?」

 

 「それもそうですね。俺の名前は、戸神悠希です。」

 

 「ふむふむ。君は戸神悠希くんって言うのか!」

 

 「まぁ、はい。」

 

 「そっかそっか!じゃあ戸神君って呼ぶね!私の名前は、天空かなた!かなたって呼んでね!」

 

 「じ、じゃあ、かなた先輩?」

 

 「んー?どうしたのー?戸神君。」

 

 「こ、これからよろしくお願いしいますね?」

 

 「うんっ!まっかせて!」

 

 

 こうして俺の奇妙な高校生活が始まった訳だが……。先行きが不安すぎるな。

 

 

 一日の授業の終わりを告げるベルが鳴る。教室ではまだ部活が始まる時間には早いためか結構な数の生徒が友人と駄弁ったり部活のために着替えをしたりしながら過ごしていた。

 かくゆう俺もその1人なんだが……。

 

 「よぉ!戸神!お前何部に入った?」

 

 話しかけてきたのは中学時代からの友人で席がたまたま近くになった成田だった。

 

 「あぁ。俺か?俺はとりあえず超常現象研究部ってのに入ったぞ?お前は前みたいにサッカー部なのか?」

 

 「まぁな!にしても超常現象研究部とか……物騒なのに入ったな、お前も。ってか、お前ってそういうの興味あったんだな。」

 

 「いや別に、興味があったとかじゃなくて、シンプルに楽そうだったからさ。」

 

 「ふーん。そういやたしか中学ん時も、同じ理由で情報処理部?だかに入ってたよな。」

 

 「まぁな。でも、あれは確実にクソ部活だった。」

 

 その部活は情報処理とか名ばかりのお遊び部だった。それに、当時の部長が女遊びばかりしていてしょっちゅう部活動停止になっていたことがイメージにあるな……。

 

 「そうだったのか。ま、面倒だろうけど、頑張れよ!」

 

 「おう!お前もサッカー頑張れ。」

 

 「おうよ!じゃあな!」

 

 クラスメイトとの何気ない会話を終わらせ、荷物をまとめて部室に急ぐ。また、かなた先輩が何かやらかしてなきゃいいけど……。

 

 「先輩?入りますよ?」

 

 前みたいなことがあっては面倒なので入室の許可を取ろうとするが、返事はない。

 

 「まさか……何かあったんじゃないだろうな。」

 

 ドアノブに手をかけ、思い切りドアを開ける。

 

 「先輩っ!?大丈夫ですか!?」

 

 すると中には……。

 

 「え、戸神君?」

 

 下着姿のかなた先輩がいた。

 

……………………………………………………エッ?

 

 「きゃぁぁぁあああ!!!???みないでぇぇぇえええ!!!」

 

 「ほべらぶっ!」

 

 先輩から繰り出させれた右ストレートが俺の顎にクリーンヒットし、俺は床に倒れ伏せた。しかしの隅に慌てふためくかなた先輩を捉えつつ、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 「ご、ごめん!」

 

 起こされると俺に向かって土下座をしているかなた先輩がいた。

 

 「いや、確認もせずにドアを開けた俺が悪いですよ……。」

 

 「いやー、まさか人が入ってくるとは……。えへへ」

 

 顔をクシャッとさせて笑う先輩。うん。可愛いな。

 

 「それにしても……なんであんな格好を?」

 

 「6時間目が体育の日はいつもああやって着替えてたんだけどね?どうも、この部室に私以外の人がいるってのがなれなくて……。」

 

 どこか申し訳なさそうに頭を掻く先輩。やはり可愛い。

 

 「いや、こっちこそすみません。今度からは気をつけます。本当に申し訳ありませんでした。」

 

 「べ、別にそこまで謝らなくてもいいんだよ?(嫌だったわけじゃないし……。)」

 

 「ん?なんか言いました?」

 

 「い、いやー?なんにも言ってないけどー?」

 

 「まぁ、そうならいいんですけどね。」

 

 

 その日もひとしきりパソコンで世界中の怪奇現象やらUMAやらを調べて終わった。

 

 

 「なぁ、ところでさ。」

 

 次の日、朝早くから教室で寝ていると成田が話しかけてきた。

 

 「あ?なんだよ?」

 

 「ったく。今日も連れねーな。俺とお前の仲だろ?」

 

 「まぁ、そういう気分の日だってあるだろ?んで?要件はなんだよ。」

 

 「あぁ。その事なんだけどな。お前のその、超常現象研究部?だっけ?そこにいる先輩ってどんな先輩だよ。」

 

 「ん?かなた先輩のことか?」

 

 「そう!その先輩!どんな人なんだよ?」

 

 「うーん。まぁ。一言で言うと危なっかしい。だな。あとは……。」

 

 あとは……そうだな。

 

 「デカイな。」

 

 「えぇっ!?まじかよ!?」

 

 「あぁ。かなりデカい。俺も初めは驚いたよ。」

 

 「いいなー!!!そんな先輩と毎日部室で二人きりでイチャコラしてんだろ!?羨ましいぜー!」

 

 「んな事言ったってサッカー部のマネージャーだってなかなかの美人揃いだって聞いたぞ?」

 

 「いやまぁ、そうだけどよー。先輩はみんな彼氏いるし、同年代だってどいつもこいつも先輩目当てのビ○チばっかだしよー。」

 

 「そうか……お前も大変だな……。」

 

 「あーあ。俺もその超常現象研究部にすりゃ良かったかな……。」

 

 「今更悔やんだってしょうがないだろ……。頑張れよ……。」

 

 「おう。」

 

 なんだか辛気臭い雰囲気になっちまった。

 

 その日も授業が終わり、部室へ急ぐ。昨日あんなことが起きてしまった手前、今日は気をつけて入らなきゃな。そんなことを思いつつ、部室の扉をノックする。

 

 「せんぱーい?いますかー?入りますよー?」

 

 ……返事がない。昨日とは打って変わって嫌な予感がする。

 

 「先輩!?どうしたんですか!?大丈夫ですか!?入りますよ!?」

 

 背中に脂汗が滲む。妙な動悸が肋骨を圧迫する。目眩がする。迷っている暇なんかない。ドアを思い切り開ける。するとそこには……

 

 

 

 「……なんだよ、これ。」

 

 

 

 赤。紅。朱。緋。アカ。あか。視界一面を覆い尽くすほどの赤。赤。赤。赤。赤。その赤の真ん中に倒れているのはつい最近出会ったばかりだが見慣れた先輩の姿。

 

 

 「……うそ、だろ?」

 

 先輩へと駆け寄る。

 

 「おい!先輩!これも冗談なんだろ!?おい!なんとか言ってくれよ!」

 

 返事はない。

 

 

 ……先輩は死んでいる……のか?

 

 その真実を目の当たりにして胃から何かが込上がる。近くのゴミ箱へ胃から出たものを吐き出す。びちゃびちゃと音を出してゴミ箱へ吸い込まれていくそれは妙なほど自分のものと感じられなかった。

 

 「なん……でだよ。なんだって先輩がこんな目に……。と、とにかく!何とかしないと!でも、どうやって?」

 

 自分の無力さにまた吐き気がする。俺は目の前で先輩が倒れているというのに何も出来ない。

 

 「俺に、どうしろって言うんだよ……。」

 

 口から漏れたのはそんな悔やみ事だけだった。

 

 しかし突然、どこからか声が聞こえた。

 

 「……ねぇ!アンタ!聞こえてる!?聞こえてんなら返事しなさいよ!」

 

 どこからの声かと辺りを見回す。もしかしたら誰かに現場を見られて俺が犯人だと思われたのかもしれない。

 

 「ちょ!?無視してんの!?いい度胸ね!このアタシを無視しようだなんて!」

 

 耳を凝らすと、それはパソコンからの声だった。

 

 「やっとこっち向いたわね!何そんなシケた面してんのよ!アンタにはそうやってる暇なんてないんだからね!」

 

 「……は?誰だよお前。なんでパソコンが喋ってんだよ……。」

 

 気が動転してとうとう幻聴、幻覚の類いまで感じるようになっちまったってんのかよ……。

 

 「詳しいことは後!アンタ。そので倒れてる人を救いたいんでしょ!?だったら、アタシの言うこと聞きなさい!」

 

 「救うったって……もう死んでる人をどうやって救うんだよ!もう無理なんだよ!」

 

 「うるさいわねぇ!無理じゃないのよ!だからこうしてアンタにわざわざコンタクト取ってんのよ!迷ってる暇なんかないの!さっさとアタシの言うこと聞きなさい!」

 

 「わ、分かったよ。でも何をすればいいんだよ?」

 

 「やっと聞く気になったわね!それじゃあ、アタシの言う通りにパソコンのキーを押しなさい!いいわね?間違ったら容赦しないんだから!」

 

 謎のパソコンの言う通りにパソコンのキーを押す。手が震えて何度か間違えそうになったがそれでも何とかして押し切った。

 

 「いい?次はこのパソコンに刺さってるUSBを抜いてあんたのスマホに挿しなさい!」

 

 これも言われた通りにする。

 

 「中に入ってるデータをコピーして!それはアプリだからインストールしなさい!」

 

 これも言われた通りにする。

 

 「次で最後よ!パソコンに表示されてるリンクをダブルクリックしなさい!いい?ダブルクリックよ!?間違えたら何もかもパァになるんだから!」

 

 これも言われた通りにダブルクリックする。

 

 すると、パソコンから強い光が出て、俺の意識は落ちた。

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