アイスの溶けない夏   作:佐倉瀬葉

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第4話

 「それにしても、だ。なぁお市。」

 

 「何よ?」

 

 「お前ここは過去の世界って言ったよな。」

 

 「えぇ。そうよ。」

 

 だとしたら、ひとつ聞かなきゃならないことがある。

 

 「ってことは、これは過去の俺がいるタイプなのか?それともいないタイプなのか?」

 

 「あぁ……。そうね……。多分だけど『いる』と思うわ。」

 

 「……そうか。」

 

 だとしたらこのままここいいるのは危険だな。確か夏休みの時期は勉強の休憩という名目で散歩という名の現実逃避をしていたような記憶がある。俺が俺自身と出会ってしまうと、タイムパラドックス?みたいなのが起きてしまうってのはタイムトラベルものではよくある設定だ。その事をお市に伝えると、

 

 「なら、早くここから離れた方いいわね。」

 

 との事らしい。

 

 「離れるって言ったってどこに行くんだよ。そもそも俺らどこに寝泊まりするんだ?」

 

 「それなら問題ないわ。ネカフェに泊まりなさい。」

 

 「ネカフェって……。」

 

 「そこならアタシの充電もできるし、拠点としては問題ないわよね?」

 

 「そりゃそうだけどよ……。」

 

 この歳でネカフェに寝泊まりというのは正直抵抗がある。しかも、数分歩けば自分の家があるというのに、だ。

 

 「それはまぁいいとして、まずはかなたと接触しなさい。現在の状況を確認してみないことには何も始まらないわよ?」

 

 「……確かにな。つっても先輩に接触って言ったって一体どうすれば?」

 

 「それなら大丈夫よ!心配しないで!あの子の住所なら抜いておいたわ。」

 

 「はぁ?抜いたってどこから?」

 

 「そんなの学校のデータサーバーからに決まってるでしょ?」

 

 「決まってるでしょってお前なぁ……。」

 

 立派な犯罪だろという言葉は言わないでおいただけ俺を褒めて欲しいもんだ。つか、学校の警備も杜撰すぎませんかねぇ?

 

 「で、住所ってどこなんだよ。」

 

 「良かったわね、ここの近くよ。」

 

 何が良かったんですかねぇお市さん。

 

 

 歩いて数分。

 

 

 「ほんとに近所じゃねぇかよ……。」

 

 「正直アタシもここまで近いとは思わなかったわ……。」

 

 本当に近所だった。なんなら俺ん家よりも公園の方が遠いくらいだ。

 

 「いくらなんでもここまで近いと俺が俺自身とエンカウントする確率が上がるんじゃないか?」

 

 「大丈夫よ、その時はアタシが教えるわ!」

 

 「教えるってどうやって?」

 

 「アンタに近い生体情報を感知したらアタシがアンタに言うわ。」

 

 「そんなことも出来んのか……。」

 

 「いくら出来損ないだからって舐めんじゃないわよ?」

 

 「そ、それはすまん。じゃあかなた先輩の生体情報も分かるんだよな?」

 

 「あー、ちょっと待ちなさい。」

 

 待つことほんの数秒。お市が再び口を開く。

 

 「どうやら家の中にはいないわね。マップの座標を出すわ。ここがどこかわかる?」

 

 「ここは……図書館?だな。確か。」

 

 「……そう。なら急ぎましょう。」

 

 「わかった。」

 

 急いで図書館に向かう。その途中。

 

 「ん?悠希?さっきまで家に居なかった?」

 

 「ね、姉さん!?」

 

 不味いことになった。考えうる限り最悪に最も近いパターンだ。身内に会ってしまうとは、かなり不味い。数年前ならまだしも、ほんの数ヶ月前なのだ。俺の体がものすごい速さで成長しているはずもなく、ほとんど変わっていないのだからバレるのも仕方ない。

 

 「(何まともに呼ばれて答えてんのよ!馬鹿じゃないの!?)」

 

 「(仕方ないだろ!つい数ヶ月前の姉さんなんかほとんど同じなんだから!ってかお前の生体感知で何とかならなかったのかよ!)」

 

 「(そ、それは……。正直、家族は盲点だったわ……。)」

 

 「(なんだよそれ!?)」

 

 俺達がなんの生産性もない会話をしていると姉さんが再び話しかけてきた。

 

 「あんた、悠希……?じゃ、無いわね。ごめんなさい。弟に瓜二つでつい……。」

 

 何!?バレてない……のか?

 

 「あ、あぁ。俺こそ姉さんに似ててつい答えてしまった。すまん。」

 

 「いや、いいわよ?それによく見たらうちの弟はあんたほどイケメンじゃなかったわ。それにしても君。初対面の年上の女性にタメ口だなんて度胸あるじゃない?」

 

 ニコニコしながら俺をからかうように言う姉さん。つか今俺のことイケメンって……?

 

 「あ、いや、その。すみませんでした。本当に姉さんにそっくりでつい姉さんと接する時みたいにしてしまって……。そ、それにイケメンだなんて俺にじゃなくてその弟さんに言ってあげてください。」

 

 「別に責めてるわけじゃないのよ?なんかちょっと嬉しくなっちゃって。あと、うちの弟はその……ちょっと生意気でね?なんか癪だから面と向かっては言ってやんないのよ。」

 

 いたずらっぽく俺に笑いかける姉さん。何だかものすごく照れてしまった。普段そう思ってるならもう少し優しくして欲しいと思わないこともないが……。

 

 「あ、そうだ!君、名前は?もしかして君の名前も『ゆうき』だったりするの?それと、もし良かったらLINE交換しない?」

 

 何だこの姉さん……。ことある事にこうやってナンパしてんのか?流石、未婚、彼氏無しは必死だな。

 

 「……今、ものすごく不本意なこと想像しなかった?」

 

 「い、いや、してないですけど……。」

 

 「そう?ならいいけど。」

 

 「俺の名前は……」

 

 ここで言い淀んでしまう。さて、どうしたものか。さっき悠希と呼ばれて振り返ってしまったからには同じ読みにしないと不味いだろうな。

 

 「俺の名前は、真田優希です。真田幸村の真田に優しい希望で優希です。あと、LINEはやってないんですよ。すみません。」

 

 確かこの時期にはまだ携帯は持ってないけれど念を入れるに越したことはないだろう。

 

 「そっかー、優希くんかー。LINEやってないの残念だなー。あ、そうだ、このあと暇?もし暇だったらおねーさんとイイコトしない?」

 

 人差し指を唇に当てながら、またもいたずらっぽく笑いかける姉さん。にしてもマジかこいつ。ナンパとかってレベルじゃねぇぞ……。

 

 「ごめんなさい、このあとはちょっと忙しくて……。あと、そうやっていろんな人にちょっかいかけてると後々痛い目にあうんで、やめといた方がいいですよ?」

 

 「そ、それもそうだね。ごめんね。なんか年下の子に注意されちゃった。」

 

 申し訳なさそうに頭を掻いている姉さん。反省しているのが目に見えて伝わる。こうやって殊勝な態度なら貰い手も増えるだろうに……。

 

 「じ、じゃあね!呼び止めてごめんね!」

 

 「あ、はい。では!」

 

 思わぬアクシデントがあったものの、再び図書館へと歩みを進める俺。それにしても、今の会話の間お市が全く出てこないのはアイツなりに空気を読んだんだろうか。

 

 「お市?どうした?」

 

 「あ、姉弟喧嘩終わったのね?」

 

 「お前、姉弟喧嘩ってな……。」

 

 「それにしても、今のアンタのお姉さんの態度……なんか妙だったわね。」

 

 「そうか?俺はそうは思わなかったけど……。」

 

 「ま、身内のアンタがそう言うなら大丈夫かしらね。」

 

 「あぁ。そう思うぞ?」

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 「それにしても優希くん、ね。不思議か子だったけど、一体何を企んでるのかしらね、うちの『悠希』は。」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ踵を返し図書館へと先回りせんとする女性がいたことは、神のみぞ知るところだ。

 

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