「……ぁ。ん?こ、ここは……?」
「先輩。気づきましたか?」
目が覚めると心配そうな風見が俺を心配そうに覗き込んでいる。頭はまだぼやっとしているが、徐々に意識がはっきりしてくる。
「俺は一体……?」
「先輩は、公園で意識をなくして、それで……。」
言われた途端に急に記憶がなだれ込んでくる。ふと、視線を落とすと俺の手には包帯が巻かれている。よくよく見ると血がじんわりと滲んでいるようだ。
「そうか……。風見。これはお前が手当してくれたのか?」
「あ、はい。そうです。」
「そうか、あと、ここは?」
「私の家です。女子の部屋に入ることなんてそうないでしょ?先輩は。」
「お前が運んできてくれたのか?」
「そうですよ。もう、先輩ったら重いのなんの。」
「そう、だったのか。迷惑かけたな。すまん。」
「そういう時は『ありがとう。』って言うんですよ?先輩。」
「そうだな。ありがとう、風見。」
「いいってことです!」
「それと、」
「ん?なんですか?」
「かっこ悪いとこ見せたな。」
「いいんですよ。でも、一体何があったんですか?」
そりゃそうだ。ここまで見られておいて隠すってのもさすがに無理がある……か。
「今から俺が言うことは全部本当のことだ。でも、お前が嘘だと思ったら信じなくていい。それくらい信じられないことなんだ。俺がこれから言うことは……。」
「大丈夫です。私はいつでも先輩を信じてますよ?」
「……そうか。」
そう言ってから俺は今までの事を包み隠さず全て風見に打ち明けた。
高校に入ってからかなた先輩と出会ったこと、それから、超常現象研究部に入部したこと、あの日が来るまでは平穏な日常を過ごしたこと、ある日部室に来たら先輩が死んでしまっていたこと、先輩を救うためにお市とタイムトラベルをしたこと、タイムトラベルしてから先輩を探していたこと、その途中で姉さんや風見に会ったこと、そして、いざ先輩に会った後にあんな風になってしまったこと。
話している途中で何度も俺は泣きそうになったり、その場に吐きそうになってしまったが、風見はそんな俺に背中をさすりながら『大丈夫ですよ。』と、何度も声をかけてくれた。
しかし俺は、話し終わると同時に、何かが決壊したように大声を上げて泣き出してしまった。そんな時でも風見は俺を優しく抱きしめ『頑張りましたね。偉かったですよ。』と声をかけてくれる。
ひとしきり話し終わり、泣き終わったあと。
「ほんとに、情けない姿見せちまったな。」
「……いいんですよ、先輩。もう1人で戦わなくてもいいんです。私がいますから。」
「いや、今更全て話しておいてなんだが……俺はあまりお前を巻き込みたくないんだ。」
「そうやって強がらなくてもいいんです。私に頼ってください?私はあの時のお礼がしたいんです。」
「で、でもだな……。」
「もう。先輩はそうやって……。私のお願い、聞いてくれないんですか?」
若干涙目で上目遣いをしながらそういう風見。
「そ、そう言う聞き方は卑怯だろ……。ったく。仕方ない。でも、何かあった時は俺の指示に従ってくれ。自分の身を一番に考えて行動しろ。いいな?」
「はい!これからも末永く、よろしくお願いしますね?先輩。」
まさに、天真爛漫といった様子で笑う風見。昔からこういうのに弱いんだよな……俺。
「それにしても、この先輩は、いつもの先輩よりも先輩なんですね。道理でさっき会った時に変だと思いましたよ。」
「そう……なのか?俺としてはあまり変わった感じはしないんだがな……。」
「そういうもんなんですよ。自分の変化ってなかなか自分だと気づかないもんなんですよ。」
「そういうもんなんだな……。」
「はい。」
「「………………。」」
数秒の沈黙が続く。なんだか、今日は色々あったせいでこの沈黙、静寂が心地良い。風見は俺の思ったことが通じているのか口を開かずにいてくれている。俺はその優しさについ甘えてしまう。そしてそのまま数分の時が過ぎる。
「そ、そう言えば。お前の家って今両親は……?」
いくら学校の先輩とはいえ、娘が男を連れ込んでいることをよく思う親などそういるものでは無いだろう。
「あ、両親ならいませんよ。」
「いないって、どういう?」
「もちろんこの家にって意味ですよ?私は一人暮らしなんです。親が転勤族で。この街には小3から中1までいて……。去年になって親が転勤するってなった時に、長年居た街なので友達と離れたくないって駄々こねたら親が『じゃあこれを機にお前も一人暮らししてみるか?』って。」
「随分薄情な親だな。」
「まぁ、もとより放任主義な親なんで……。でも、毎月しっかり仕送りはくれてますよ?」
「そりゃそうだろ……。それにしたって、お前の家に来たのは初めてだけど。よくもまぁ、家に1人でいれるよな。いくら金があるとはいえ年頃の女子が家に1人ってのはあまり良くないんじゃないか?色々と危険だろ?」
「そうでも無いですよ?まぁ、先輩が心配してくれるのは嬉しいですけど……。」
なるほど、こいつは割としっかりしてるんだな。今までこいつのことを知っていると思っていたが俺は何も知らなかったんだな。
「で、先輩は何をするんですか?これから。」
「……そうだな。まずは、かっ、かなた先輩の周辺から調べるしかないだろ。あの先輩が昔はあんなだったなんて知らなったし。こうなってしまった以上先輩と会うのはやめておいた方がいいと思う。向こう的にも、俺的にも……な。」
今の状態で先輩のあの凍てつくような視線を受けたらまたあの時と二の舞だ。それだけは避けたい。今は先輩に警戒される訳には行かないのだ。
「なるほど。思ったよりちゃんと考えてるんですね。」
「思ったよりとは失礼な。俺だって行き当たりばったりでやってるわけじゃないんだよ。」
「ふむふむ。」
わざとらしい口調で頷く風見。
「ん?じゃあ先輩って今家に帰ってもこの時の先輩と鉢合わせってことですか?」
「まぁ、そうなる訳だが。それに対してはもう対策はしてある。」
「ん?と言うと?」
「ネカフェにでも泊まればいいだろ?」
「んなっ!?そんな、若者がそうやってネカフェで寝泊まりってのはどうなんですか!?」
「そんなこと言ったって今はそうするしかないだろ?」
「だったらうちに泊まればいいじゃないですか。」
「は?それこそまずいだろ。」
「ナニがまずいんですか?」
「い、いや何って……。そりゃ、男女が2人ひとつ屋根の下で……とか。」
「それは先輩が我慢すればいいじゃないですか。それとも先輩は私のことを襲っちゃうくらいの本能の獣なんですか?」
「いや、そうじゃないけど……。」
「じゃあ。いいじゃないですか。それとも、こう言われなきゃわかんないですか?」
そう言いながらこちらに近づいてくる風見。たじろぎながらも俺は後退しようとするがそれは壁によって阻まれた。
目を潤ませながら俺の事をしっかりと見つめている風見。少し頭を動かせばぶつかってしまいそうな距離で、風見が言う。
「私のこと、守ってください。先輩。」
「ほんっと。お前。そういうのはずるいよ。」
「だってこうでもしないと先輩落ちないじゃないですかぁー。」
わざと語尾を伸ばして話す風見。あざと可愛い。
こうして、俺の寝泊まり問題が解決したと同時に気苦労がひとつ増えてしまったのだった。
「それはそうと、1人でスるときは私が寝てからにしてくださいよ?気配があると寝れないんで……。」
「しねぇよ!そんなこと!」
いや、するかもしれない。ひとつ屋根の下にこんな奴がいて、反応しない男はいないだろう。