「ピロートークはもう終わったかしら?」
空気を読まずにお市が話しかけてくる。
「ピロートークって……そんなんじゃねぇよ。それにしたって随分と静かだったな。」
「まぁね。アタシもアタシで気になることがあって調べてたのよ。アンタのことが気にならなかったわけじゃないけど、声をかけようとしたらその子が来たからまぁいいかなって。」
「そうだったのか。あ。紹介するわ、風見。こいつがお市。俺のスマホに住み着いてる謎の生物だ。お市、こいつが風見苺華。俺の後輩にして、現俺の寝床を提供してくれる可愛い後輩だ。」
「あ、先輩からお話は伺いました。よろしくお願いします。お市さん。」
「こちらこそよろしくね、風見さん。」
「さて、自己紹介も終わったところで。お前は何を調べてたんだ?」
「……そうね。今はまだ言うときではないわ。」
わざと勿体ぶった言い方をするお市。
「……なんだよそれ。」
「とにかく!今は語るべきではないの!」
「わ、分かったよ。」
「で?」
話を促すようにお市が俺に聞く。
「で?ってどういうことだよ。」
「はぁー?言わなきなわかんない訳?ほんっとつっかえないわね!そのことはどこで出会ったの?まさか初対面ってわけじゃないでしょ?」
「んな事言わなきゃわかんねぇだろ……。まぁ、なんというか「私は先輩に救ってもらったんです!」風見お前。俺がまだ喋ってる途中だろうが。」
「はぁ?救ってもらった?この省エネ主義の口癖が『めんどくせぇ』のこいつに?一体何があったってのよ!」
「まぁ。俺にもそういう時代があったんだよ。正義の味方になれないならせめて目の届く範囲の人くらいは救おうって。せいぜい街の交番のお巡りさんくらいにはなろうって考えてた時代がな。」
「……ふーん。随分立派な心がけじゃない。あの子もそうだけど、この1年やそこらの間で心境の変化ってのが随分と多いのね。それとも、この街ではそういうしきたりでもあるの?」
心底不思議そうに尋ねるお市。
「そんなことはないと思うが……。」
「先輩!話してあげてくださいよ!私のことを救ってくれたかっこいい先輩の話を!」
「いや、そうは言われてもだな。」
「その話。私も興味があるわ。」
お市も珍しく話に食いつく。
「この手の話って自分でするもんじゃねぇだろ……?お前が言ってくれよ、風見。」
「ヤですよ。自分の恥を自分で晒すみたいで。先輩はいいじゃないですか。生まれた時点でそもそも恥みたいなもんなんですから。」
「あのなぁ。そろそろ毒舌系か、丁寧系かどっちかにしたらどうなんだ?」
いくら俺がこいつの罵詈雑言のスピードラーニングに慣れたからとはいえそこそこに傷つく俺がいる。
「……それが出来ないのは、先輩が1番知ってるじゃないですか。先輩のいじわる。」
「何泣かせてんのよ。アンタ最っ低ね!」
「いやいや、そういうつもりじゃなかったんだが……。」
これじゃあスピードラーニングがふたつに増えてるじゃねぇか。あれ?俺ってもしかしてドSを引きつける体質?
「で、それが出来ないってのはどういうことよ。そろそろ腹決めてゲロりなさい。」
うーむ。さすがにこの段階で隠し通すのは……って最近俺こんなんばっかだな!
「わかったよ。話すったら。あれは、去年の一学期、いや、今からするとつい数ヶ月前のことだな。」