アイスの溶けない夏   作:佐倉瀬葉

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アイスの溶けない夏《side風見苺華Ⅱ》

 「……そう、か。そんなことがあったんだな。」

 

 「はい。信じて……くれませんよね。先輩は。」

 

 「いや、俺は信じるよ?風見のこと。それに、お前のことを見限ったりはしない。」

 

 全く。この程度で俺が風見を見限るなんて思ってるんなら俺も舐められたもんだな。

 

 「ッ……!先輩!ありがとうございます。」

 

 思わず泣き出してしまった風見。困ったやつだ。

 

 「まぁ、正直、驚かなかったといれば嘘になるけど。それでも、俺はお前を信じるよ。それに、お前がそんな嘘を俺についたところでお前に何も得はないだろ?」

 

 「……。先輩そういう言い方は最低です……。」

 

 「いや、その、すまん。」

 

 なにか気に触ったみたいだ。……女子の気持ちはよくわからんな。

 

 「で、だ。その……悪いとは思うんだが。背中の翼?とやらを見せてくれないか?」

 

 「そ、それはちょっと……///」

 

 「だ、だよな!いや、いいんだ!気にしないでくれ!」

 

 いきなりすぎた上にいくら事情があるとはいえ女子に対して失礼すぎた。反省反省。

 

 「いいですよ。先輩なら。」

 

 「そうだよな!ダメで当然だよ…………って。え?」

 

 「だから!いいですよ!先輩になら!」

 

 今、いいって言ったのか?風見は?

 

 「ほら!見るならさっさとしてくださいよ!」

 

 「え、あ、あぁ。」

 

 「じゃあ脱ぐんであっち向いててください。」

 

 「わ、分かった。」

 

 後ろを向いているともそもそ、するすると衣擦れの音がする。なんというかこういう状況はすごくドキドキするな……。今までの人生こういうイベントがなかったからな。それに興奮しないと言ったら嘘になる。

 

 「……先輩?私でいやらしい想像するのもいいですけど脱ぎ終わったんでこっちみてください。」

 

 「そうか。分かった。」

 

 ゆっくりと振り向くとそこには雪のように白いしかし所々に青く醜い痣がある風見の背中があった。いや、最初に目に入ったのはどちらかといえば尻なんだが……。

 

 「……先輩!私の体を想像して興奮するのはやめてくださいね?」

 

 「そいつは無理な相談だな。ぶっちゃけめちゃくちゃ興奮する。」

 

 「最っ低ですね!」

 

 「なんとでも言うといい。で、本題に戻るが……。お前はこれを取ろうとはしなかったのか?」

 

 「し、しましたよ!何度も何度も。でも、この翼が取れることはありませんでした。どれだけ手で引っ張っても、壁に押し付けても、包丁で叩き切ろうとさえしました。でも、痛いのは私の体ばかりでこの翼は傷つきすらしなかったんです。」

 

 「それにしてもこれは……。翼?まさか。そんなはずはない。これは違う。」

 

 「え?翼じゃない?だとしたらなんだって言うんですか?」

 

 「あぁ。これは翼じゃなくて……。殻だ。」

 

 それはまるで、貝、あるいは卵のような……。キメの細かい結晶で出来ているようだった。石というか、石膏というか、ある規則性によって形作られているのは火を見るよりも明らかだった。それに、よくよく考えてみれば、殻のというのは納得だ。

 

 「確かに……殻だとしたら説明はできるな。」

 

 「と、言うのは?」

 

 不思議そうな顔で俺を覗き込む風見。さて、それでは皆さんお待ちかね。俺の推理タイムと行こうか。

 

 「風見。やはりこれはお前の精神状態に関係していたみたいだ。この殻は、お前が世界を拒絶していた証だ。お前は自らの殻にこもることによって傷つき続けるお前自身を守ろうとしたんだろうな。お前が無意識下で翼だと決めつけていたのもきっと自分が傷ついていることに気が付かなかった……いや、違うな。気が付きたくなかったんだ。あくまで自分は幸せだ。そうなんだと自分で思い込みたかったんだよ。」

 

 そこまで言って、俺は自分の過ちに気がついた。

 

 今まで風見を覆っていたのは風見が世界をそして傷つき続ける自分の心を拒絶する殻だ。では、それを無意識下で行っていた風見自身がそれに気づいてしまったら?どうなる?それすらも拒絶するために殻は更に成長を早めるのでは?今までは辛うじてゆっくりとした成長スピードによって均衡が保たれていた。ではそのストッパーが無くなったら?どうなるかは想像するに難くない。

 

 俺がそれに気づいたのを待っていたかのようなタイミングで……

 

 「ひゃっ!先輩!助けて!」

 

 風見の殻がメキメキと音を立てて目に見えるほどのスピードで成長し始めた。白い殻は風見の身体の表面を覆っていくだけでなく、背中からもさながら翼のごとく風見の周りの空間を包み込んで行った。殻の成長している部分に手を掛け、その成長を押しとどめようと試みるも抗えないほどの力でからは成長を続ける。

気付くと俺の手のひらは殻によってぱっくりと切られ傷口からはドクドクと血が出ていた。

 

 「風見!待ってろ!今助ける!」

 

 俺が風見に手を伸ばした頃には、風見の体は既に半分ほど殻に覆われ、身体もおよそ半分程硬直していたが、今や3分の2もの大きさになろうとしていた。

 

 「クソッ!どうすればいい!」

 

 悪態をつきつつ、殻に拳を思い切り叩きつけてみるもビクともしない。

 

 「考えろッ!俺のこの頭はなんのためにある!ただの飾りじゃないはずだ!クソッ!」

 

 今までの人生で一度あったか無かったかレベルで頭を回転させる。風見が落ち着くのはどうだ?いや、それではからの侵食は抑えられても根本的な解決にはならない。それではまたいつか今日のように殻は風見を覆ってしまう。

 ではどうする?世界への拒絶が殻ができた原因だとすると……今までの自分のは違う、何か変わったこと……。殻を破るような……。ん?殻を破る!?そうか!

 

 「風見!今お前の思ってることを叫べ!世界を受け入れなくてもいい!ただ世界に自分が生きていることを風見自身が受け入れてやれ!」

 

 「わ、私が思っていること……?」

 

 「あぁ、そうだ!お前自身の存在を世界に刻みつけてやるんだ!」

 

 「……。わ、私は!────戸神先輩が!大好きだっーーーー!!!!」

 

 風見がそう叫んだ瞬間。既に風見を9割ほど覆い尽くそうとしていた殻の成長がピタリと止まり、ビキビキと音を立てて割れ砕け散った。

 

 「先輩っ!」

 

 そして中から風見が飛び出し、いや、俺に飛びついてきた。俺はそれを優しく抱きとめることになんとか上手くいった。

 

 「風見。よくやった。」

 

 「はいっ!先輩っ!」

 

 そして俺はさっきの風見の発言を蒸し返す。

 

 「……にしてもさっきのあれって?」

 

 「ぅ……。わざわざ蒸し返す当たり先輩空気読めませんよね。」

 

 「よく言われるが読んでないだけだから気にするなよ。」

 

 「だから余計悪質なんですよ!……さっきのアレ。本気ですからね?わたし。」

 

 頬を赤らめながらそういう風見。可愛いのでつい意地悪をしてしまう。

 

 「ん?さっきのあれって?」

 

 「先輩……。絶対わざとですよね。」

 

 ジト目でこちらを見てくる風見。正直たまらん。

 

 「ん?なんの事だか?」

 

 「もう!だから!私が先輩を好きだって話です!ここまで言わせたんですから責任とってくださいよね?」

 

 よくもまあ、そんな台詞をいけしゃあしゃあと言えたものだ。

 

 「まぁ、お前の気持ちは嬉しいが。俺はお前のことを真剣に考えたい。だから俺が責任の取れる年齢になってからもう一度言ってくれ。」

 

 「はぁ!?ほんとありえない!……そんなこと言って許す女の子なんて私だけなんですからね!?」

 

 「ハイハイ。風見は優しいなぁ。……んで。水を指すようで悪いんだけどさぁ。」

 

 「ん?なんですか?先輩。」

 

 「……服。着たら?」

 

 先程から半裸で抱きつかれているため色々と柔らかいものが当たって気になる。

 

 「─────ッ!最低ッ!」

 

 「俺悪くなくね!?」

 

 その後俺の頬からは小さく可愛らしい手形が

半日間消えなかった。

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