俺と後輩と酒と文学少女と   作:JOS

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昔あげた作品です。

今回更新した本編が重いのでお口直しにどうぞ。


(再掲)346ラジオ

『タイトル詐欺ですっ!』

 

いきなり、どうした百合子? 

 

――あらあら、百合子ちゃん、どうかしたの?

 

『どうも何もタイトル詐欺じゃないですか!』

 

とりあえず、落ちつけ百合子。開始早々何を訴えたいんだ?

 

――そうそう、まずは落ち着いて一杯どうですか? オレンジジュースですけど、どうぞ。あっ! 先輩は白州のロックと、チェイサー置いておきますね。

 

『あ、ありがとうごさいます。楓さん』

 

おう、サンキュー。今週もウイスキーか。分かってるな。

 

――えぇ、先輩の事はなんでもお見通しですからね。

 

『ごくごく……ごくごく』

 

――おっ百合子ちゃん、いい飲みっぷりですね! ささ、お代わりどうぞ!

 

『あ、ありがとうございます、楓さん…………って、そうじゃないですっ!!』

 

いや、そうじゃないと言われても一体どうしたんだよ、百合子?

 

『だから、タイトル詐欺だと言っているんです!』

 

――タイトル詐欺?

 

『そうです。オジさん、このお話の題名覚えていますか?』

 

そりゃ勿論、俺と後輩と酒と文学少女と、だろ。

 

『そうです! 前作に文学少女が付いただけの安価なネーミングです!』

 

――確かに私も安価だと思うのだけど、それは言わないお約束というやつでは?

 

『まぁ、題名の安価さはどうでもいいです!』

 

いいのか……。

 

『私が言いたいのは、何で前作と違い文学少女と題名にあるにも関わらず、私の登場がまだなんですか!? 前々回の話で、七尾百合子、先行登場と言っておいたのにも関わらず本編では話題にすら上がってませんよ! 七尾百合子のなの字も出てきてないじゃないですか!』

 

――まぁまぁ落ち着いて百合子ちゃん。

 

『前作でもそうでしたけど、この作品は登場人物少ないんです! 名前が出てくるキャラクターなんて前作でも五本の指で足りましたし、今作に至っては楓さんしか名前付きのキャラクターいないじゃないですか!』

 

どうどう落ち着け百合子、お菓子でも食べて気を治せよ。

 

『子供扱いしないでください! まぁ、お菓子は貰いますけど』

 

――でもまぁ、百合子ちゃんの言う通りですね。一応タグに七尾百合子と書いてありますし。

 

『そうです! 一話投稿の時点で七尾百合子のタグはあったんですよ。これも詐欺です。本編に出てくると思ってくださっていた全世界の七尾百合子ファンの期待を裏切ったことになるんです!』

 

全世界の七尾百合子ファンって……。

 

『楓さんはいいですよ。ハーメルンでタグ検索しても五十件くらい出てきますし、ネット漁ればSSも五万と出てきます。でも私のタグはたったの6件です! ハーメルンには圧倒的に七尾百合子成分が足りないんです!』

 

おい、さっきから思うんだが、こんなメタ的な発言して本当にいいのか?

 

――大丈夫です。基本的にここは本編とは隔離された空間です。メタ発言、ネタバレなんでもありなんです! それに何か不味いことがあれば、誰か止めにくるはずですので。

 

『今作を見返すと酷いものです! 出てくるのは楓さんとオジさんだけ、前回の話に限ればお酒の話すら出てきません。もうタイトルも「俺と後輩」でいいんじゃないですかね!』

 

――まぁまぁ百合子ちゃん落ち着いて。きっと何か事情があって百合子ちゃんが出てないだけですよ。ほら、プロットでは二話の時点で出てくると書いてありますし、きっと何か事情がって出番が遅れているだけですって。

 

『それです! 楓さん!』

 

それってなんだよ?

 

『私が怒っているのはその事情というやつです!』

 

――あら、火に油を注いでしまったかしら?

 

『えぇ、確かに私が出てくる話は書いてありましたよ。書き終わってありましたよ。でも、その書いてあったデータが入ったパソコンごと失くすってどういうことですか? 書き溜め? そんなことしなくていいからさっさと更新すればよかったじゃないですか』

 

あぁ、これどうすればいいんだよ。

 

――うーん、とりあえず飲みます?

 

その案はありだな。

 

『大体パソコンをなくした経緯がカバン自体を紛失したとか全国の七尾百合子ファンに喧嘩を売っているとしか思えません』

 

あぁ、それについては俺も同じ意見だな。そもそも酔っ払って記憶なくしたとか何やってんだって感じだよな。

 

――そうですね、お酒は飲んでも飲まれるな、です。

 

『一番の失態は書き終わった文章のバックアップをとってないこととさっさと更新しなかったことですけど……お遊び感覚で書いていた長編ファンタジー小説とか、懸賞論文のデータとかそんなどーでもいい話は置いておいて、私の登場話が永遠の闇に葬られたことは許し難いです』

 

いや、論文は問題ありだろ……。

 

『いえ、私の登場話に比べれば価値なんてないに等しいです!』

 

――まぁまぁ、失くしたデータは書き直せばいいですし……

 

『じゃあ、さっさと書き直して下さいよ。やる気なくしたって何なんですか! 結局前回の話も私は存在すら出てきていないじゃないですか!』 

 

あぁ、あれか。一度書いた話をもう一度書くのは嫌だってやつだな。

 

『オジさんも納得しないでください! あれですか? 主人公だからってモブキャラクターの私を見下しているんですか? 言っときますけど、オジさんもあれですよ。主人公じゃなければただのモブですよ! 名前すら出てないんですから、あれですよ八百屋の店主さんと同じですよ!』

 

――これは百合子ちゃん相当にお冠ですね……先輩。

 

まぁ、暫く叫んだら落ち着くだろう。

 

――そうですね。あ、先輩、お代わりどうぞ。

 

あぁ、すまん。

 

『いいですか、オジさん! オジさんが主人公じゃなければ、この作品の題名はただの『後輩』になるんですよ! いや、後輩じゃ意味が分かりませんから『高垣楓』になるんですかね!? 世間はどこもかしこも、高垣楓、高垣楓……。やはり、楓さん。貴方が一番の敵なんですね。魔王なんですね』

 

――魔王ですか……魔王は好きですよ。

 

お前が言っているのは焼酎だろ。

 

――えぇ、先輩はどうですか? 魔王?

 

うーん、あまり高級な焼酎は飲まないしなぁ……。魔王もやら森伊蔵買うなら、青酎とかがいいかな。

 

――あぁ、いいですね。青酎。

 

『ちょっと、オジさん聞いてますか!? イチャイチャしてないで私の訴えを聞いてください! どうせ本編でさんざんイチャイチャしているですからこんな時くらい付き合ってください!』

 

別にイチャイチャしているわけじゃねーんだけどなぁ……。まぁいいや、付き合うからとりあえず落ち着け、ほらオレンジジュースだ。

 

『ありがとうございます! ぐびぐび……よしっ! まだまだ私の怒りは収まりませんよ! 全国の七尾百合子ファンの声を私は代弁するんですっ! ――――――――』

 

こりゃ、長くなりそうだな……。

 

――まぁ、時間はありますし、気長に待ちましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いたか? 百合子。

 

『はい、どうにか……。ご迷惑おかけしてごめんなさい、オジさん。楓さんもすみませんでした』

 

――いえいえ、気にしないでください。では、落ち着いたところで第二回、346プロダクション社内ラジオ始めたいと思います。

 

あぁ、これ結局やるのな。

 

――もちろんです。私の癒しですので! 今回のゲストも前回に引き続き、七尾百合子ちゃんです。

 

『はい、よろしくお願いします』

 

前回も思ったけど、お前も百合子も切り替え早すぎるだろ。

 

――さて、今回のテーマは前回発表した通りこれです。「心に残る小説の冒頭」です!

 

冒頭かぁ……。これは悩ましいな。

 

『確かに有名どころは沢山ありますけど……うーん』

 

――はい、今回もこのクリップに回答を記入してくださいね。あ、先輩は勿論漱石はなしですよ。

 

何でダメなんだよ。

 

――だって、先輩漱石しか選びそうにないですし……。

 

『確かにオジさんはそういうイメージですね』

 

納得できんが、まぁいいや。分かった。

 

 

 

 

――はい、皆さん書き終わりましたか? 

 

『はい! 悩みましたけど』

 

俺も終わったぞ。

 

――では、まずは百合子ちゃんから発表してもらいましょうか。

 

『はい、では私はこれです「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」です!』

 

これはまた王道で来たなぁ。

 

――ですね。恐らく日本で一番有名な冒頭ではないでしょうか? 吾輩は猫であるか雪国、この二つのどちらかですよね。

 

『まぁ有名な冒頭ですが、名文だからこそ有名になったと考えられます』

 

確かに雪国の冒頭は文句なしに名文だしな。

 

――それは否定の余地はないですね。

 

『私は更に『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』に続く、『夜の底が白くなった』もすごく好きです』

 

分かる分かる。俺は寧ろそっちの方が好きだな。

 

――そう言えば、「国境」をなんて読んでました?

 

『私は『くにざかい』と呼んでましたけど、楓さんは?』

 

――私も「くにざかい」ですね。先輩はどっちですか?

 

ん? 特に意識してないなぁ。「こっきょう」でも「くにざかい」でもどっちでも意味は間違ってないし。どっちでもいいんじゃないか。

 

――なるほど、そう言う意見もあるんですね。

 

『オジさんらしいです』

 

――では次は私の番ですね。私はこれです「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった」です。

 

『これもまた名文ですね。本当に』

 

あぁ、これ何だっけな。どっかで聞いたことがあるけどどこだっけな……。

 

――あら、先輩覚えてないんですか?

 

俺はお前たちみたいに記憶力もよくないしなぁ……でも、なんだっけ?

 

『ニューロマンサーですよ。オジさん』

 

あぁ、思い出した。どっかで読んだと思ったら原作の方か。確か、訳が凄くいいって聞いて少し目を通したんだっか。

 

――原文だとThe sky above the port was the color of terevision. Tuned to a dead channel.ですね。

 

そうそう、この一文を翻訳してこの文を書けるって凄いよなあ。俺なんて英語全くだし。尊敬するよ。

 

『オジさんはこの冒頭何て訳したんですか?』

 

何せ随分昔の事だから覚えてないけどこの一文なら、「港の空は砂嵐のような曇天が覆っていた」みたいな感じじゃないかな、多分。

 

――あら、先輩は空の色は砂嵐派ですか?

 

『この空の色も、国境問題よろしくよく話題になりますよね』

 

――そうですね、百合子ちゃんはどちら派ですか?

 

『私は青空派ですね。SFを書いた作者が、未来のことを予想できたと考えると面白くないですか?』

 

――確かにその考えは面白いですね。

 

ちなみに、お前はどうなんだ?

 

――私も先輩と同じく曇天派ですね。

 

いや、俺は別に曇天派という派閥ではないんだが……たまたま読んで想像した風景が曇り空だっただけで……。

 

『それにしても洋書も心に残る冒頭多いですよね』

 

――そうですね、有名どころで言えば「それは全ての時代の中で、最良の時代であり、最悪の時代でもあった」から続く一文とかですね。

 

あぁ、これくらいは分かるな。二都物語だな。

 

『金字塔中の金字塔ですね。私は有名どころで言えば、老人と海なんて好きですよ』

 

ヘミングウェイかぁ……。確かに老人と海も有名どころだよなぁ。

 

――確かにそうね。それにヘミングウェイは前作でも大いに出てきましたしね。この作品とも関係大ありですね。

 

『はい、どうせ、オジさんは変化球で来るのは目に見えてますし、ここらでヘミングウェイについて触れておかないとと思いまして』

 

――確かに前作ではヘミングウェイの作品からの引用が圧倒的に多かったですね。

 

変化球ってなんだよ、何だか俺がひねくれているみたいな感じじゃないか。

 

 

――はい、では最後はその捻くれた先輩です、どうぞ!

 

おい、スルーするなよ。まぁ、いいか。俺はこれだ「まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた」

 

――…………。

 

『…………』

 

だから、前と同じように黙るなよ。ラジオだぞ、放送事故だぞ。

 

――いや、まさか虚航船団が出るとは……。

 

『確かに印象深い冒頭ですが……』

 

正直に言って漱石以外でパッと思いついた冒頭がこれしかなかった。でも、この冒頭は小説界に置いてもトップクラスの冒頭だと思うぞ。

 

――確かに一度聞いたら忘れられない冒頭ですね。

 

あぁ、そして何よりこの一文だけで読者に続きを読もうと思わせるのが凄い。

 

『あぁ、確かに気になりますよね、この一文書かれると』

 

続きが読みたいと読者に思わせる文章と言うのは凄いよなぁ、本当。

 

――私はてっきり太宰治の斜陽や人間失格で来るかと思いましたけど、この作品を選ぶとは流石先輩です。

 

それ褒めてんのか? まぁ、あれだ俺はお前たちの様に頭が良くないから冒頭を覚えている作品が少ないんだよ。漱石ならある程度分かるが、斜陽とか人間失格とかになると冒頭よりも有名なシ一文とかセリフが思い浮かんでなぁ……。

 

『例えば、斜陽や人間失格だとどんな一文が思い浮かぶんですか?』

 

例えば斜陽ならパッと思い浮かぶのは「人間は、嘘をつく時には、必ず、まじめな顔をしているものである」だな。人間失格なら『恥の多い生涯を送って来ました』が思い浮かぶ。

 

――あぁ、でも分かります。冒頭を覚えている作品って意外と少ないですよね。

 

『私もその気持ち分ります』

 

その点、人間失格や斜陽よりかは冒頭という点で限れば山椒魚とか羅生門の方が印象深いなぁ……。

 

――さてではそろそろ白州の方も一本空きますので、お開きといたしましょうか。では最後に視聴者クイズです。

 

思ったんだけどこのクイズって何の意味があるんだ? 景品も出ないし……。誰も得しないだろ。

 

『うーん、確かにそうですね』

 

――じゃあ何か景品をつけますか? 正解数が多い方に対して?

 

『あ、それいいですね。物はダメでしょうし、こうしましょう、リクエストされたアイドルがヒロインの作品を書くとかどうでしょうか!? いい案だと思いませんか? 思いませんか?』

 

いや、それただお前がメインで出たいだけだろ。

 

『何を言うんですか、オジさん。そんな下心はありませんよ!』

 

…………。

 

――新作を出す。確かにいい案だとは思うのですが、次の新作のヒロインは茄子ちゃんかほたるちゃん、卯月ちゃんの誰からしいですから駄目ですね。それにリクエスト自体このハーメルンさんでは禁止されてます。

 

『え? メインヒロイン候補に私は入っていないんですか? 何でですか!』

 

――大丈夫ですよ。メインでは出れませんが百合子ちゃんの出番はあるそうですよ。タグもつけるそうです。

 

『それだったら、まぁ』

 

百合子それでいいのか。

 

 

――では、時間もいい時間ですので、本日はこれで。次回も宜しくお願いします。あ、ちなみに次回のテーマは「心に残る小説の一文、またはセリフ」です。それでは皆さんいい夢を~。

 

結局、景品の話はどうなったんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の冒頭の作者名と作品名を答えなさい。

 

1 「おい地獄さ行ぐんだで!」 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛が背伸びをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。

 

2 私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。

 

3 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

 

4 石炭を早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静かにて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。

 

5 山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

 


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