【凍結】ダンジョンに青ざめた血を求めるのは間違っているのだろうか 作:グリムカンビ
主の意思は誰にも理解されぬだろうな......」
_____老ゲールの日記より
Is It Wrong to Try to Pick Up pale blood in a Dungeon?
*
仄かに明るい洞窟の中から、荒れた吐息や
肉が爪や牙などで切り裂かれる音が聞こえてくる。
1人でダンジョンの中6つの影と踊るその姿は
まるで幽鬼のようで、
だが死にかけのウサギのようでもある。
白髪頭と紅い瞳が目につく駆け出し冒険者____
ベル・クラネルは生命の危機に瀕していた。
それもその筈、冒険者になり半月も立たない内に
碌な装備も無しにダンジョンに潜るのは命知らずのバカだけであり
そういう輩は直ぐさまにでも
ダンジョンに骸を晒すのだ。
本来、冒険者が冒険した末路というものは、そんなものだ。
だが、彼はどうやらそれとは違うようで......
ベルはその特徴的な白の髪を揺らしながら影_____
ウォー・シャドウからの攻撃を避けまくっていた。
避けて、避けて、掠りながら避けて、
隙をついて反撃、そうやって必死にウォーシャドウの魔石を砕き、徐々に影の数を減らしている。
いったいどうして新人冒険者にそんなことが出来るのだろうか?
(やるんだ!やるんだ!やるんだ!やるんだ‼︎)
___そう、ベルはその意志のみで必死に影共に喰らいついているのだ。その強い思いがベルを死から遠ざけているのだ。
(絶対にこんな所で死ぬもんか‼︎僕は、僕は‼︎)
_______闘いは続き、彼は未だ骸を晒さず。
*
ややあって、ダンジョン6階層
その周りに砕かれた8つの魔石と灰をばら撒いて。
ベルは未だにかろうじて立っていた。
だが、この闘いで負った傷に加えて
これまでのケガや出血により、
ベルのその命はもはや風前の灯火とも言うべき状態にあった。
そんな中、走馬灯とでも言うべきだろうか?
ベルの頭に今までの思い出が蘇る。
((___男ならハーレム目指さなきゃな‼︎)
___死んだ祖父との思い出......
(やっぱり...ダンジョンに......出会いを求めるのは間違いだったかな...?)
バタン、とベルの体がうつむけに倒れる。
((おーい、そこの君ぃ。路地裏は危ないから行かない方がいいぜ?))
((あのね、女性はやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから......えっと、めげずに頑張っていれば、その、ね?))
____オラリオに来てからの思い出......
(神...さま...エイナさ...ん、ごめんな...さい)
ベルのその紅い瞳から徐々に生気が失われていく。
(___大丈夫ですか?)
___そしてダンジョンで助けられた思い出......
ついにベルは目を閉じ
ピクリとも動かなくなってしまった。
(アイ...ズさん......やっぱり僕は......)
血がダラダラと流れ出し、
ベルの体から体温を奪っていく......
(つめたい......
これ......が死...ぬ......ってこと...なの...かな....?
おじいちゃん...いま、そっちに......)
そんな思いを最後にベルの意識は暗闇に沈むのであった......
[あぁ...見つけた...]
*
______狩人の夢
ベルは何処とも知れぬ場所で頭から地面に突っ伏していた。
(ううっ...体が痛いあれ......?ここは......
僕はダンジョンで死んだはずじゃあ...?)
そう思ってベルが顔を上げると、
まず小さな家と階段が目に入る。
扉は閉まっていて中は
側の階段に沿って墓石が並んでいるのがわかる。
続いて左を見ると同じように
階段とズラリと並ぶ墓石が目につく。
右を見ると鉄の柵に囲まれた......庭園だろうか?
大きな樹木と白く咲き誇る花々が遠目に見える。
今までに見たことも聞いたことも無いような美しさ場所だと、ベルは得にもなく思った。
......ただ、そんなことよりもっと困った問題がある。
_______なんてキレイな満月なんだろう
(って、違う違う‼︎僕はダンジョンにいたはずなのにどうして夜空が見れるんだ?
僕の体の傷もいつのまにか無くなってるし......
も、もしかして、ここが天国⁈)
そうベルが思考に浸っていると
__ポンとその肩に手が置かれた
「うっひぁぁぁ‼︎」とベルは叫び声を上げ、
兎のように跳ねて振り返る。振り返った先には
__白髪に皺くちゃの肌、少し
といった
______ただ、萎びた帽子と顔に深く刻まれた皺とは裏腹に背はピンと伸び、コートに包まれたその体はとても老人だと思えないほどの活力に満ち溢れているように見える。
そして、その唇が重々しく開き、
「君は、何処から来たのかね?」
それに対して吃りながらベルは答える。
「あ...え、えっとダンジョンに潜っていて...
で、でも!気づいたらいつのまにかここにいたんです‼︎信じて下さい‼︎.....あの、それとも、もしかしてここって天国...なんですか...?」
それに老人は眉を上げて
「天国...?ハッハッハ‼︎安心しなさい。
ここは天国なんて上等なものでもないし、
君はまだ生きているよ。」
と言い、豪快にベルの不安を吹き飛ばした。
(僕、まだ生きてる?...よかったぁ
でも、それじゃあここは...?)
ベルが安堵と共に湧いた新たな疑問を考えようと
すると、また老人が言葉を飛ばす。
「さて、では質問を変えよう。君は...そうだね
___
そう聞かれたベルは一旦自分の疑問を置き
その単語に何か聞き覚えがないか思い出す。
(...獣に瞳...?何のことだろう?)
「えーと、狼とかの獣と目のこと...ですかね?」
ただ、ベルにはどうやら聞き覚えがない言葉のようだった。
「ほぅ...いや、すまない。変なことを聞いたね......」(ボソッ)
(...?今なにか...いや、でもそれよりもここが何処か聞かないと...‼︎)
ベルがここが何処かと老人に聞こうとしたその時。
ガタンと、ベルの体が崩れ落ちる。
(えっ!!体が!?)
その時ベルは気づいた
自分自身の体がだんだんと薄くなり、消え掛けていっていることに。
「こっ、これは何ですかお爺さん⁈」
ベルが慌てた様子でそう尋ねると
「ふむ...安心したまえ、恐らくそれは君が
元の体に戻ろうとしている徴だよ」
(いやいや、ぜんぜん安心できないって‼︎)
そう言い切りつつ、老人はベルを気にする様子も
なく喋り続ける。
「でも......そうさね。君が夢から覚め、無事地上に戻れたのならば私の使いが君を探し、
私たちの館の招待状を渡すだろう。
もし君がこの場所について詳しく聞きたいのであれば、私たちの館に来るの良い。
__なに、君が夢を忘れたいのならば
来なければ良いのさ。....ではな、少年。君に良い夢を......」
(そんなに一方的に話されても......)
そんな不満を抱いたままベルの視界は歪み
意識は再び闇に落ちてゆくのだった.....。
_ __ ___ ____
パチっ、と薄暗い地下室で目を覚ます。
あんまり昨日のことは覚えてないけど、
無事に帰ってこれたんだ、と上の空で思い出す。
昨日は神さまに心配かけちゃったなぁ...
.....にしても、この柔らかいものは何だろう?
むにゅ、むにゅ
柔らかい。僕の胸の上にあるみたい......「うーん........ベルくんせっかちだなぁ...うむぅ」だけ...ど
「ってう、ウワァァァァ‼︎神さま‼︎」
「ひ、ひゃぁ‼︎な、なんだいベルくん⁈」
僕は僕の胸の上の神様とその......
完全に意識を持っていかれた。
「かかか、神さまこそ何でぼぼ僕の上に!?」
役得というか眼福というか、ありがたい
...って僕は何考えてんだ!
と、とりあえず神さまに降りてもらわないと
「どうしてって、ベル君が寝る前に良いって言ったじゃないか」
えぇ!?僕昨日そんなこと言ってたの?
「いやいや、神さまマズイですって」
...いや嬉しいけど
「ふーん、ベルくん、嘘はいけないんだぜ」
「いやいや、嘘じゃないですって!!」
「なんなら、僕はこれからはずっとこのままでも良いんだぜ」
......ごくり
「だ、ダメですよ!神さま」
「...ふーん、ベルくんがそこまで言うならしょうがないなぁ」
うぐ、神さまにからかわれてる感がスゴイ...
「さて、それじゃあ起きてご飯でも食べよっか。何せ昨日1日間も寝っぱなしだったんだし、お腹も空いてるだろう?」
そういわれて急にお腹の空腹感に気がついた
...どうやら神さまの言う通り今日はあの日から2日も経っているらしい。
とりあえず、何かお腹に入れないと...
「そ、そっそれじゃあ朝ごはんの用意してきますね‼︎」
「あー、もうベルくんはじっと待ってて‼︎
僕がご飯を作ってきてあげるからさ!
まだ治りきってないんだろう?」
うぐ、「...わかりました...」
......その言葉に、自分がなさけなくて涙が出そうで
でも神さまの優しさが暖かくて.......何とも言えないようなごちゃまぜの感情が襲っきて.........僕、なんて幸せ者なんだろう。
______そう思いながら結局、神さまの好意に甘えてゆっくりと休むことにした。
うーん、それにしても、何か大事なことを忘れているような......なんだったっけ?
*
ここ冒険者の迷宮都市オラリオの東地区には
怖いもの知らずの若者が良く忍び込み、怖い思いをして帰ってくるという悪名高い幽霊屋敷がある。
__いわく、犬ほどの大きさの蜘蛛を見た。
__いわく、人形が動いているのを遠目に見た。
__いわく、獣のような唸り声が聞こえた。
そんな若者達の噂に絶えない屋敷の名前は
______________
もはや今は数少ない「ファミリアー」と呼ばれる
組織の拠点である。
ちなみに「ファミリアー」とは、はるか古代も古代
英雄達の物語である
以前から存在するとされている組織である。
また旧ギルド以前の迷宮管理組織ではないか
とも言われているが、憶測の域を立たない。
というのも、その「ファミリアー」という組織に対し、存在する文献があまりにも少なく、また事情をある程度知っているであろう、オラリオ市民達も揃って口を閉ざすため、いったい何をしていた組織なのかもわかっておらず、未だにその全容はヴェールに包まれ謎のままであるという。
もっぱら冒険者達やオラリオの外の見解としては
現在神々が首領を務める組織たる「ファミリア」の
語源となっている事といった程度でしかない。
そんな
バチバチと音のする暖炉と、その前の椅子に座った老人がスゥスゥと寝息を立てている。
____「ゲールさん、今到着しましたよ」
いつの間に現れたのだろうか?齢20を超えた程度であろう青年が静寂の中、その老人____ゲールの横に立っていた。
そして、彼の言葉に反応して、老人の目がゆっくりと開く。
「......あぁ、ジル君か。いつも済まないね。
家事といい、用事といい、
なんというか......便利屋として使ってしまって」
老人は労わるような、それでいて
何処か罪悪に駆られているような声で
青年に迎えの言葉をかける。
「いえ、かつて重病人として死を待つのみであった
どうかお気になさらずに」
青年____ジルは特に気にした様子も無くそう話す。
「....ふぅ..君もまぁ、難儀な性格をしているねぇ。
いつか手痛く裏切られるんじゃないかね?」
ため息をつきながら、その老人はジルの身についての心配を
「たとえ裏切られたとしても、
この「ファミリアー」のためであるなら
恨みつらみはありません。」
決意を秘めた瞳でジルはゲールを見つめ、キッパリとそう言い張った。
「......そうかね。いや、つまらぬことを聞いた
忘れてくれ。」
「えぇ、私も気にしていませんよ。
......では、裏切り者についてですが
話すと長くなるでしょうと思いまして
この報告書に纏めておきました。
後ほどご確認ください......」
そういって、ジルは手元から
分厚い羊皮紙の束を取り出し
ゲールの直ぐ横のテーブルの上にそっと置いた。
「あぁ、わかった。では本題だ。
前もって伝えた通り、今回呼んだのは他でもない
我らの主が定めた者を探してもらうためだ...が、
その者について解っているのは白髪緋目の駆け出し冒険者、ということだけなのだ。
......これだけの情報で探しだせるかね?」
ゲールはそう僅かにジルに疑問を投げかける。
「えぇ、お任せ下さい。多少時間はかかりますが
必ず探し出して見せましょう。」
「......なんとも頼もしいな。
では、これが彼への招待状だ」
そういって、今度はゲールがその懐から
一枚の手紙を取り出しジルに手渡す。
「はい、たしかに受け取りました。
用件はこれだけですかね?」
「そうだな。
......ただ、そうさな、警句は覚えているな?」
「......ええ、もちろん。覚えていますとも」
「我ら、血によって
人となり、人を超え、また人を失う、
知らぬ者よ」
「「____かねてより血を恐れたまえ......」」
「......では、私はこれで。失礼しました。」
「あぁ、よろしく頼んだよ」
バタンと扉の閉まる音を最後に、再び部屋に静寂が訪れた。
「......我らの瞳は未だに開かず、か......」
1週間か10日毎の投稿を目処に書いています。
オリジナルの秘儀やカレル、武器などなど
感想欄に書いて頂けると引用させていただくかもしれません。