【凍結】ダンジョンに青ざめた血を求めるのは間違っているのだろうか   作:グリムカンビ

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古い【神父】の狩人証

「おそらくは鉄で出来ていたであろう
赤錆の浮いた古びた十字架の狩人証
もはや誰が発行したのかも、誰が手にしていたかも知れず、もはやそこに価値は無いのだろう。
......しかし、それでも存在するのを鑑みるに
それは静かに、継がれてきたのであろうか?」




Encounter with "Priest" Gascogne

 

____廃協会の地下室

 

「ふわぁーあ、いい朝だな〜」

チュンチュンと小鳥が囀る朝、「ヘスティア・ファミリア」のホームである廃協会の地下室にて、その唯一の「眷属」である冒険者__ベル・クラネルが目を覚ました。

 

「神さま〜......は確か昨日ご友神のパーティに行っちゃったんだったっけ...。」

(......ちょっと寂しいな...いや、それはそうだけども

うじうじしてちゃダメだ‼︎ダンジョンに行かなきゃ!)

 

ベルはそう思い立ち、自分一人で占領していたベッドから勢い良く立ち上がり、あせあせと身支度(みじたく)を始めたのだった。

 

 

 

それから小一時間ほど経って......

 

 

 

(防具良し、武器良し、ポーション良し‼︎

それじゃあダンジョンに行こうかな!)

 

ベルは朝食をつつがなく済ませて、そのあとダンジョンに行くための準備を済ますと地下室の階段を

駆け上がり協会のドアを勢い良く開けた。

 

 

 

 

____ドガン

 

 

 

 

「うおっ」

「うわっ!」

 

(いたたたたっ...って今人の声がしたような...)

 

開く途中の、中途半端な所で止まったドアに鼻頭をぶつける中、ベルはドアが何かに当たるような音に混じって男性の声が聞こえたことに気づいた。

 

ギィッ__

 

その中途半端なドアが外に開くと同時に、ベルの視界は地面に尻餅を着く男性の姿を捉えた。

 

 

「あっ、す、すいません!人がいるとは思わなくて......」ベルは慌てた様子で謝りながら男性の安否を確認する。そこで改めてベルはその男性の容姿を観察した。

 

(うわっ......大きい)

少し灰色の混じった黒髪や顔立ちからすると壮年ほどの年齢だろうか?

身長は2Mほどのキャソックのような黒服の上に銀のロケットと厚手のマフラーを首に掛け、黒い帽子を被った大男がそこに居た。

 

 

「......いや、良い。それより聞きたいんだが

少年はこの廃協会に住んでいるのか?」

大男はベルの謝罪を特に気にする様子も無くベルに質問を問いかける。

 

 

「あ、はい。ここは僕......というか僕の所属する

「ヘスティア・ファミリア」のホームです。

......まぁ、僕と神さまだけの極貧ファミリアですが...」

 

「ふむ......なるほどなるほど......」

 

その答えに大男は納得したように首を縦に振り、廃協会の中をグルリと見回した。

 

「あの...ところで貴方は......?」

ここでベルが純粋な疑問を口にする。

 

「ふむ?......あぁ、そうか。すまない

名乗り遅れたな、ガスコインという者だ。

普段は孤児院の経営...などをしている。

......で、少年、君の名前は?」

 

 

「あ、はい。僕はベル・クラネルです。

えぇっと、ガスコインさんは神さまに御用でしょうか...?

あいにく今、神さまは出掛けていらっしゃってここには居ませんけど...」

 

(ガスコインさん、か.......うーん

それにしても何処かで.....?)

 

ベルの体はガスコインと名乗る大男にどこか違和感のようなものを訴える。

 

何か、何か引っかかりを覚えるがイマイチそれが何なのかはわからない。まるで喉の奥に刺さった魚の小骨のようにそれはベルの心に違和感を与えてくる。

 

 

「...すまないが、少し中に入らせて貰っても良いかな?」

 

「え、えぇ、大丈夫ですよ」

(ま、まぁ、とりあえず何の用事でここに来たのか聞かないとな......)

ベルはひとまずは自分の引っかかりを無視し

大男_____ガスコインを協会の中に引き入れたのだった。

 

 

____廃協会の隠し部屋

 

1つしか無いソファーに肩身を狭くして窮屈そうに男が2人座っている。

「あの...狭く無いですか?

僕、立ちましょうか?」

そんな窮屈そうな状況に気を利かせたのか

ベルは立ち上がってガスコインの為のスペースを確保しようとするが

 

「いや、大丈夫だ。気遣いありがとう」

 

ガスコインは気にした様子も無く

ベルに座るように促す。

 

「こちらこそ、こんなに狭いホームですいません.....」

(うぅ、お客さんと隣り合わせに座るなんて

恥ずかしいッ...今度神さまに言ってちゃんと椅子を買わなきゃ...‼︎)

 

 

 

「......懐かしい。子供の頃とあまり変わっていないな。」

ガスコインがポツリと呟く

 

 

「え?」

 

「ふふっ、すまないな。思い出か......」

 

「あの、もしかしてここに来た事があるんですか...?」

 

「ふむ...来たことがある、というよりか...

俺は昔、ここで子供時代を過ごしていてな

売り出されていたこの廃協会が誰かに買われたと聞いて誰かが住んでいるのか気になって、な...

まあ、早い話が覗きに来たのだよ。」

 

ガスコインは少し上の空になりながら

寂しげな雰囲気を漂わせる。

 

 

「は、はぁ」

(うーん、ってことはオラリオで見かけたことがあるのかな.....?いやでも違うような...)

 

 

「あの......すいませんが、もしかしてどこかで会ったことありますか......?」

 

「いや、会ったことは無いと思うぞ。

...どうかしたか?」

 

「あー...いえ!何でもないです!

たぶん僕の思い違いでした」

 

 

 

 

「そうか...さて、迷惑を掛けてすまなかったな。

俺の要件はこれだけだが

......少年よ、君は冒険者か?」

 

 

「そうですが......それがどうかしたんでしょうか?」

 

「いや、お詫びと言っては何だが...もし良ければだが、稽古でも付けてやろうと思ってな。

......もうずっと昔の話だが俺は30階層以上潜ったこともある......俺の自己満足ではあるが、此処に住んでいる者に死んでほしくもないし、な。」

 

そう言った途端、ベルはスッと立ち上がり興奮した様子で早口に捲したてる。

 

「え、えぇっ‼︎30階層より下に⁉︎

ほんとですか!僕は全然大丈夫です!

ぜひお願いします‼︎」

 

「...言い出したオレが言うのも何だが、もう少し疑いの心を持ったらどうだ?オレとお前は初対面の人間だ。騙して罠に嵌めようとしてるだけかもしれんぞ?」

 

 

「そう言ってくださる、ってことはそう思ってないってことでしょう?そ・れ・よ・り

どんな稽古をつけてくれるんですか⁈」

 

...どうやらベルは普段であれば関わることも出来ないであろう存在の、稽古をつけてやろうという言葉に興奮し、ガスコインの言葉が耳に入っていないようだ。

 

 

「はぁぁ......わかった。

ただ、俺の言う稽古はダンジョンで君の動きを見て、それを修正するだけのツマラナイものだ。

...あんまり期待されても困る

それに今日一日程度しか付き合えんし、君の考えるような高尚な存在では無いよ.......それでも良いのか?」

 

 

「はい‼︎僕実は師弟関係とかに憧れてたんですよ‼︎

よろしくお願いしますガスコイン師匠‼︎」

 

「...師匠は辞めてくれ、ムズ痒い」

 

「じゃあガスコインさんで!」

 

「はぁ......まったく欲求に素直で良いな.......よし、じゃあ少年、準備は大丈夫か?行けるなら今すぐダンジョンに行くぞ」

 

 

「はい!僕は大丈夫です‼︎

よろしくおねがいします‼︎」

 

__最初にあった不信感や、違和感を忘れ、ベルは大男の後ろを喜びと共に付いていくのであった。

 

____ダンジョン2階層

 

 

『ギギギヤァァ』

薄青く染まったダンジョンの中に興奮したコボルトの声が響く。

コボルトの振り回される腕を観察しながら

2回、3回と危なげなく回避する。

右ッ、左ッ......ここだ‼︎

サイドステップを踏んでからの軽やかなインステップで懐に入る。

 

グサッ『ギャギャギャァ‼︎』

やった‼︎

 

ドサリ、とコボルトの体が地面に崩れ落ち、その胸からスッと赤黒く光るナイフが引き抜かれる。

ホッ、と僕は息を落ちつけ「少年‼︎上だ!!」

 

「んッ‼︎」

警告を受け、僕は落とそうとした体のエンジンをフル回転させる。

急いでその場から跳ね退ける中、頭上から僕の頭を覆い隠すほど巨大な影が急降下してきた。

 

間一髪、体を低く下げ奇襲を回避する。

足を地面に落ち着かせて振り返った僕は影の正体___ザラついた茶色の皮膚、裂けた口からチロチロと覗く長い舌、長い尻尾を含めれば僕と同じぐらいの体格を持つ大トカゲ____通称『ダンジョン・リザード』____を確認した。

 

舌を出しながらこちらを伺う『ダンジョン・リザード』に対して、

僕は短刀を正眼に構え膝を曲げ、思いっきり地面を蹴り出した。

流れる風景と身を切る風を感じながらナイフを手に肉薄する。

それに負けじと『ダンジョン・リザード』も『シャァァァ』と威嚇音を上げて、体を低く折り曲げ今にも飛びかかろうとしてくる。

 

それを見た僕は走る勢いをそのままにナイフを手から

勢いよく打ち出した。

『キシャァァ⁈』

 

ナイフは『ダンジョン・リザード』の脳天に突き刺る。

何が起こったのかわからない

というような叫び声と共に『ダンジョン・リザード』

はバタバタと暴れ出す。

 

暴れた甲斐もあってか、ナイフは抜け落ちたが

しばらくすると『ダンジョン・リザード』はピクリとも動かなくなった。

 

......よし

 

辺りを見回わして、これ以上の敵は居ないことを確認する。

「どうでしたか⁉︎ガスコインさん?」

そうしてガスコインさんに話しかけた。

 

 

「馬鹿野郎!!」

 

 

怒声がダンジョンの中を木霊する。

____サァっと血の気を青くする(ベル)を横目に

ガスコインは続ける

「俺が叫ばなきゃあ、お前、死んでたぞ?

それを脇に置いといて『どうでしたか⁈』

だと⁉︎馬鹿も休み休み言え‼︎」

 

完全に頭に血を登らせたガスコインの声に

ビクッと怯えながらベルは「あ、あははは......すいません....」としょげた声で謝罪を口にする。

 

「まったく...ふぅ...大物というか何というか......先が思いやられるな」

それに対して呆れた、といわんばかりに溜息を溢し落ち着いた音色でガスコインは心配の声を漏らす。

 

「で、どうだった...か

...まぁ、俺が怒ったところ以外は全体的に筋が良いな。

とても冒険者になって半年とは思えんほどだな。」

 

「え...ほんとですか!?ありがとうございます!」

......褒められたベルは先ほどの凹みようが嘘であったかのように、目をキラキラと光らせ、顔を上気させ、如何にも興奮した声で

感謝の言葉を述べた。

 

(......全く、無邪気なもんだ...)

 

2人がそうやって話していると唐突に周囲の壁が ボコッ ボコリ と盛り上がってくる。それにいち早く気づいたベルは先ほどの焼き直しのように声を発する。

 

「あっ、ガスコインさん‼︎モンスターが...」

「ん...?...モンスターが産まれるのか、

丁度良いな......さてそれじゃあ今度は俺の番だな」

 

ガスコインはそう言って、その腰についている斧____ハンドアックス、というのだろうか?いかにも間に合わせのような小さな斧だ____を手に持ち、モンスターを待ち構える。

 

バキッ バキッ

そんな壁の割れる音と共にダンジョンから産み落とされたのは____

『コボルト』や『ゴブリン』、『フロッグ・シューター』といった

いわゆる下級モンスター達......ただし、その数、十数匹ほど。

一気に囲まれてることとなったガスコインはその顔に僅かに笑みを浮かべ叫ぶ。

 

「少年‼︎良く見ておけよ、ここいらのモンスターどもは頭が良くないからな...錯乱しつつ立ち回る。しっかりと参考にするんだ...いいな?」

「は、はいッ!!」

 

ベルの返事が合図となり、モンスター達が

各々叫び声をあげ飛びかかる。

 

「ウォァァァァ‼︎」

それに呼応にガスコインもその体には不釣り合いな斧を掲げて戦いに挑むのであった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__夕日に映える白亜の巨塔の下、ダンジョンから帰る者達でごったがえす広場にて、2人は帰路についていた。

 

 

上から下まで真っ黒な影___ガスコインが聞く

「...ふぅ、少年よ、俺の稽古はどうだった?」

 

それに兎のような少年____ベルが返事をする

「はい、とても参考になりました!

ありがとうございますガスコインさん‼︎」

 

頭一つ分は高いガスコインを見上げながら

ベルは今日の稽古について感謝を述べた。

 

 

「フフッ、そう言ってくれるとありがたいな

...少年よ、君はとても筋が良い。まるで水を得た魚のようにドンドンと成長していくのが見えた。......気をつけるのだな、急に手にした力ほど危ないものは無い。このままの調子で成長するなら師匠を探すのもよかろう。」

 

......少し浮かれたベルの雰囲気を察したのだろうか、上げて落とすように、ベルに対して

ガスコインは眼を鋭くしながら、教えを請う存在を見つけてはどうだ?と警告を送る。

 

 

「し、師匠だなんて...僕、極貧フャミリアでそんな人も知らないし、お金もないですよ

ぅ.....」

 

「...ふむ、しかたない...か」

ベルの言い分を聞き、少し不安ながらも

いちおうの納得を漏らす。

 

「あ、それならガスコインさんは師匠になってくれないんですか⁇」

 

「......いや、すまない。会った時にも言ったと思うが、俺は孤児院をやってて、な。

孤児院で待ってるチビ達は、あんまり放って置くと何をするかわからんし、不安がらせちまう。」

 

ならば、といわんばかりに聞いたベルに対してガスコインは素気無く断ってしまう。

「あー、そう言ってましたね...」

断られて少しガッカリしたベルは、たしかに今の我流では壁が来るのではないか?と思い師匠になってくれそうな人.....と悩みだした。

 

 

「......そうだ、これから飯でも食いに行かないか?」

 

「あ、それなら良いお店知ってますよ!」

 

「ほぅ、少年がそう言うならそこにしようか

そうだ、今夜は俺が奢ってやろう。」

 

「え、いいんですか「豊饒の女主人」って言うお店なんですけど.....その、とても高いですよ??」

「気にするな、人生の先輩からの餞別って奴だ」

「えぇ...も......」

「な.......」

「......‼︎」

 

世間話をしながら歩く2つの影達は

どんどんと沈む日の中で未だ明るい光に惹かれ、

眠らない都市の雑踏に引きこまれるのであった......

 

 

 

 

 







_ __ ___ ___
____廃協会の隠し部屋


ううっ、朝日が....
え?朝日?
あれ...確か昨日はガスコインさんと...
「豊饒の女主人」でご飯を....

ッてあれ?もしかして僕、酔い潰れた!?

うわわッ‼︎お勘定‼︎
またミアさんに謝りに行かないと...!

ヒラッ

これは...?

[昨日は楽しかったぞベルよ、お前の恥ずかしい話も想い人の話もペラペラ喋ってくれてありがとな、最初に言った通り勘定はオレが払っておくから気にするなや byガスコイン]


カァッ....

ウワァァァァァアアアアア_________________‼︎


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