【凍結】ダンジョンに青ざめた血を求めるのは間違っているのだろうか 作:グリムカンビ
では、第3話です。
*
ベルが酔い潰され自分の恥ずかしい話を聞き出されたと知り、ホームで絶叫しているその頃
____コンッ、コンッ、コンッ、と
朝霧の少し掛かり、少しずつ日光の差し始めている早朝、朝焼けの映える空の下に薪の割られる小高い音が響きわたる。
ここは迷宮都市オラリオの東と南東のメインストリートに挟まれた所に位置する
通称『ダイダロス通り』
『奇人』ダイダロスによる度重なる増築、改装が加えられた結果作り上げられたという人工の迷宮だ。
その『ダイダロス通り』の
この『ダイダロス通り』には珍しく、空を仰ぐことができ、昼になれば日光が差し込むのだろうと思われる周囲と比べると窪んだ盆地。
そしてその盆地を取り囲む木の柵に、庭......であろうか?雑多に生えた樹木や色とりどりの花が植えられた花壇、今は壊れた噴水やベンチ、といったこの『ダイダロス通り』には似つかわしくない様々なモノが置かれている。
そして極め付けは盆地の中央に位置する大きな協会だ。静まりかえったその協会は普通の建物と違い、入り口にドアが無く、内部が外側から丸見えであり、いくつもの部屋とドアが見えている。
その如何にも「『ダイダロス通り』には場違いです」と言わんばかりの庭の片隅でシャツとズボン姿の男が、一人黙々と木を割り、薪を積み上げていた。
「あら、ガスコインさん。
朝早くからご苦労さまですね。」
そんな男の背中にソプラノの美しい呼び声が掛かる。男_____ガスコインはその手を止め、声の主に返事を返した。
「ふぅ...いや慣れると気持ち良くなってくるものだよ、コレは。で、どうしたんだい?ジョゼ?いつもなら君は夢の中でグッスリの筈だと思うんだがね」
ジョゼ____そう呼ばれたのは純白のワンピースを纏う、金髪碧眼の見目麗しい女だ。
「ふふっ、私もたまには早起きしたい日もあるんですよ〜。それに、それを言うならガスコインさんも昨日は随分夜遅くまで飲んでたみたいじゃないですか?」
「いや、久しぶりに見知った顔と会ってな。ほら、俺がまだ若い頃にいた孤児院の話、したことあるだろう?その頃の知り合いと会って、な。少し話混んでいたんだ。」
「あらあら、それは良かったですね〜......でも私は幼くて可愛ふい男の子を連れ回してた、って聞きましたけどねー?」
薪を割って一汗かいた男の額に冷たい汗が混じる。
「いやいや、勘違いしないでくれ。俺にソッチの趣味は無いぞ⁉︎」
彼は手をブンブンと振りながら、否定の言葉を上げる。が怪しいそれを彼女が訝しげな瞳で見つめた後
「へー......そうですよねー、孤児院の経営に携さわる人が、そんな幼気な子供に欲情するなんて、ありませんよねー......でも、連れ回したことは否定しないんですね⁇」
「待ってくれ‼︎アイツは冒険者だ‼子供の様な奴でも立派な大人だぞ‼︎」
そう言って誤解だと言わんばかりに言い訳の言葉を並べる大男を尻目に女は
「まったく.....
……それに日頃、夜の街と冒険者は危険だ、
って言ってる癖に」と呟き、それに盲点を突かれたと言わんばかりにグッと押し黙るガスコイン
「......別に人付き合いは好きにすれば良いと思いますが〜私の耳が届く程度の所では遠慮して下さいね?……私も彼らの事が心配なんですから。」
「...すまない、今度から気をつける」
____コンッ、コンッ、コンッ
...ガスコインはそう言って、また静かに薪を割り始めた。
女もそれに追随するよう黙り込み、庭に置かれているベンチに腰掛けてガスコインの薪割りを見つめ始めるのであった....
*
____ゴーン...ゴーン...ゴーン
ガスコインが薪割りを再開し始めてから半刻と少し経ち、どこからな鐘の音が響き渡ってきた。
ガスコインはそれに反応して、再び手を止め、その手斧を腰に挿し込む。
「ふぅ......さて、子共が起き出す時間だな」
深い息をし吐きながら、ガスコインはそう呟く。
「で?どうしてまだいるんだ?ジョゼ?
自分の診療所は大丈夫なのか?
それとも、子供達と明日の怪物祭の前夜祭とでも称して遊んでくれるのか?」
ガスコインが振り返り、視線を向けた先には
「くうぅぅ」と如何にも眠そうにあくびを嚙み殺しながら、ガスコインの薪割りを見届け終えた彼女がいた。
「え、えぇ。そうね〜......たしかに子供達と遊ぶのも良いけど、流石に私も病気の人を放り出す事なんてできないわ。」
......若干まだ眠そうに目を擦った彼女は唐突に立ち上がり、ガスコインに向けて何かを投げつけた。
「‼︎」
「それじゃ、ここでお暇させてもらおうかしら?」
「おい、これは何だ?」
少し凄みながらガスコインが聞く。
「私も何かは知らないわ。ただ、渡せって言われただけだもの。」
「ちっ、何だ?」悪態をつきながら手の中に目を落とすと、奇妙な印を封に施された手紙だとわかった。
「......この印は....おい!ジョゼ‼︎」
何かに気づいたように呟き、顔を上げたガスコインの目に映るのは、風に揺れる木々と、割った薪の山がコロコロと崩れる様だけであった......
_ __ ___ ____
薪のパチパチと弾ける音に、トントンと包丁がまな板を叩く音のする部屋____孤児院の厨房でエプロンを着けた大きな影が一つ、動き回わる。
グツグツグツ、と沸騰する大鍋に注意しながら、パンに庭で採れたレタスとハムを挟んむ。そうして作ったサンドイッチを包丁を使って綺麗に四つに分け、大皿に並べていく。
......よし、こんなものだろう。
その次に
......少し、苦いか?
そう頭の片隅で思いながら、早くー、おそいー、
お腹ペコペコ〜、というな、それでいて
まぁ、この程度なら大丈夫。そう思いながら朝餉を調理場から食堂...というよりは大広間に運び込む。
「おーい、皆、朝飯だ‼︎イスに座れ〜‼︎」
この孤児院の中でも年長者の声を聞きながら、あのヤンチャ小僧も様になったもんだ、と感慨に浸る。
その声に従い、わーわー、きゃーきゃーと子供特有の甲高い声を飛び交わせ、おままごとや冒険者ごっこをしていた子供達はイスを部屋の隅からほうぼうに取り出して、座り出す。
とりあえず、広間の中央にある長机の上に鍋と皿を並べる為に広間と調理場を往復する。
...さすがに手伝いが居ないのはキツイな...
「よし、みんな揃ってるな?」
俺がそう聞くと方々から様々な声な飛んでくる。
「全員いるよ〜」「うそつくなよ!ムース兄達がいないだろ‼︎」「きのうからしばらく外に行ってくるって言ってたじゃん」「え?ほんと?」「ヒルト兄とラップ兄と一緒だったよ」ザワザワザワザワ
「あー、大丈夫だ。その話は聞いてる。
スピーナ全員いるな?」
埒が明かないので先ほど声を上げた年長者
_____スピーナに確認する。
「大丈夫、みんないるぜ」
「よし、ありがとう。
それじゃあ、みんな自分の分を取りに来い。」
「「「はーい」」」
スピーナや他の年長組に手伝って貰いながら
一人につき2つのサンドイッチとスープを配っていく。そうして全員に配り終えた所で、みんなイスに座り、広間の中央にある長机の上にご飯を置いたのを確認したスピーナが号令をかけた。
「よし、それじゃあ皆、手を合わせて。
いただきます‼︎」
「「「いただきます‼︎」」」
ここは「サンテ・グレィル孤児院」
元々ここにあった協会を借りて作った孤児院だ。
......もっとも世間的には「ガスコイン孤児院」で
「うぇぇ、このスープ苦いよぉ...」
「え?そう?私はコッチの方が好きだけどなぁ...」
「あーっ!ぼくの分のサンドイッチを‼︎」
「へっへー、早いもん勝ちぃ‼︎」
ガスコインは子供達の賑やかな食事風景を横目に、さきほど投げ付けられた手紙をポケットから出して眺める。
「あれ?『神父』さま、それどうしたのー?」
食事に手をつけないガスコインを不思議がったのか、黒目がクリッとしたのが特徴の犬人の幼女が手紙を覗き込もうとしてくる。
「......いや、何でもないよ、アンリ。それより早く スープを飲まないと冷めてしまうぞ。」
「えー、でもこのスープ苦いもーん」
......とりあえず、手紙は後でいいか、そう思い
ひとまず手紙をポケットにしまいながら
子供達に声をかけた。
「みんな、明日は知っての通り
遊びに行きたい奴はいるか?」
「「「「「はーい‼︎」」」」」
俺が
「はぁ......知ってたが全員か...」
「はーい!ぼくは闘技場に行って【ガネーシャ・ファミリア】の
「えーズルい〜そんなお金あるのー?」「へへっ、実は
「「私たちは、ルゥくんらと遊ぶって約束してるよ〜」」「え!そんな、いつの間に??」
キャッキャと楽しそうに明日のことを考える子供達に思わず頰が緩みそうになる。
......やはり子供とは良いものだな。
「よし、わかった。それなら一人につき50ヴァリスだけ小遣いをやろう。」
「「「「え?ホントに⁈」」」」
「あぁ、本当だ」
「「「「「やったー!!」」」」」
ガスコインからの嬉しいお知らせを聞いた子供達は年初も年長も関係なしに、喜びの声を張り上げる。
(うっ、耳が......まったく、現金な奴らだ)
そんな考えと共に苦笑を浮かべながら、喜ぶ子供達をガスコインは穏やかな目で見つめていた。
「さて、それじゃあ小遣いは夜に「「「え〜」」」......今渡すとお前達、使っちまうだろ?」「わたし、ちがうもん!」「おいらもだよ」「俺も!俺も!」
「ふぅ......スピーナ」
「何?『神父』さま」
俺が呼ぶとスッ、と子供の群れから頭一つ抜けた漆黒の頭がこちらを向く。
「この後、少し外に出かけないといけない。
......チビどもの子守り、頼めるか?」
「うん、大丈夫だぜ『神父』さま」
「えーお外、いっちゃうの『神父』さまー
この前のお話の続き、聞きたかったな〜」
「そんなことより『ぼーけんしゃ』ゴッコするニャ‼︎ホレイスが『もんすたー』でミャーが『ぼーけんしゃ』ニャ‼︎」
「………」
「あ、あの…その……ほれいすをいじめないで!」
「うわぁぁぁあん、あついよ〜!!」
「コラ‼︎何してんのアンタ‼︎」
「え、だって弟がおいらのスープ飲もうとしたから...」
……大丈夫じゃない気がしてきた。
「……スピーニャ、本当に頼むぞ」
「……うん」
少々胸の中に不安を抱えながら、サンドイッチを口に放り込み、スープでそれを流す。
(うん、まぁ、サンドイッチは我ながらうまいな。かれこれ十数年、流石に料理も美味くなった、か。)
朝も済ませたところで、エプロンを畳みながら食器は厨房に持っていく様に指示を出す。
さて、と。
ゴキリ、ゴキリ、と体の凝りをほぐしながらひとまず目の前の不安を取り除くため喧嘩しはじめた
『ハンドアックス』
「ガスコインが腰に挿している、ごく一般的な小型の手斧。
まさに木こりの道具そのものだが、下級モンスターを相手に
する程度であれば事足りるであろう。」