【凍結】ダンジョンに青ざめた血を求めるのは間違っているのだろうか   作:グリムカンビ

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『工房』
多くの鍛治ファミリアの利用する鍛冶場。
料金を支払うのであれば、どんな人間にも貸すという。


Eve of the monster festival

_____『ダンジョン内部 4階層』

 

ブンッ、ブンッ、と風を薙ぐ音が耳に入る。

『ブォア!』

「っ!」

向かってくる爪を大きく避ける。敵意のこもった攻撃は目の前を危なげもなく通過した。

薄青の壁面に覆われたダンジョンの中で、ゴブリンの声はよく響く。

興奮しているゴブリンを観察しつつ、僕は振り下される腕を、テンポ良く回避していく。

 

 

フッ、フッ、ハッ

荒い吐息がダンジョンの中を木霊する。

(右ッ、左ッ.....斜めッ‼︎)

ダンジョン特有の生暖かい空気と息が混ざり合い、汗が肌を舐めていくのがわかる。

 

短い手足を振ってゴブリンは執拗になおかつ単純に追いかけてくる。僕は伸ばされる腕を掻い潜りながら相手から逃れていく。

 

僕はそんな噛み合わない踊り(ダンス)を延々と踊っていた。

『ギギィッ......ジャア!!』

「!」

するとここで捕まらない僕に業を煮やしたのか、ゴブリンが大きく瞳をギラつかせ飛びかかってきた。

頭の隅から警報が鳴り響く。

一段と高い雄叫びを上げながら迫るゴブリンに____じゃない。

 

視界の斜め上、壁に張り付き今にも飛びかかりそうなモンスターに対して、だ。

『ゲゲェッ‼︎』

僕の頭を覆い尽くすほどの巨大な影が、急降下してくる。

「んんっ!」

それを僕は体を捻ることで回避する。

ぶれる視界を横切ったのは茶色の肌とトカゲに似たシルエット。昨日も見た『ダンジョンリザード』だ。

 

「____ふっ!」

 

待ちに待った瞬間。僕はゴブリンを無視し、地面に縫い付けのダンジョン・リザード目掛けて突撃する。

 

____ダンジョン・リザードは四肢の吸盤を使って、壁や天井を文字通り縦横無尽に這いずり回る。そして、武器が届かない場所にいるモンスターを仕留めるのなら地面に降りたった所を狙うッ!

 

「やぁああああっ‼︎」

ゴブリンの攻撃を避けて溜まった鬱憤を晴らすかのように爆発させ、ダンジョン・リザードの背中目掛けて、一直線に突撃した。

『グゲゲェ!?』

僕の掛け声に驚いたダンジョン・リザードは泡を食ったように逃げ出そうとするが、いかんせん僕の方が早い。

 

短刀を逆手に、思いっきり踏み込んでダンジョン・リザードの頭上まで飛び上がる。

そこから重力を借りてその頭に思いっきり短刀を突き込んだ‼︎

 

グチャ、と何かが潰れる音と共にダンジョン・リザードは断末魔を上げる暇も無く地面に倒れ臥す(たおれふす)

 

(ふぅ......危なかった。

エイナさんの知識と昨日のガスコインさんの教えが無かったら、ここまで上手くいかなかったかな。)

 

『ギィッ!』

ゴブリンの声。敵はまだ残っている。

刹那の内に思考を切り替え敵に意識を集中させる。

 

ダンジョン・リザードの死体から短刀を引き抜いた僕は、思い切って大胆な行動に出た。ゴブリンを見据えたまま、背負っているバックパックの留め具を外す。

 

__そして、思いっきりバックパックを投げつけた。

 

『⁈』

不意打ち気味に放たれた不恰好な砲弾に目を見開く(ゴブリン)。僕が振り抜いた腕を戻しながら見つめるその先で、宙を飛ぶバックパックは硬直して動けないゴブリンの顔面(かお)直撃(クリーンヒット)した。

 

『ピギャ⁈』

重くて鈍い打撃音が鳴り、ゴブリンは弾かれたかのように後ろに跳ぶ。

『恩恵』の『力』補正を十分に受けた一撃は、ドロップアイテムの詰まったバックパックの重さも相まり、ゴブリン程度を撲殺するには十分な威力を秘めていた。

 

『......グゥ』

バックパックを顔面に受け止めたゴブリンは転がる、転がる。そして勢いを止めた頃にはピクピクと痙攣しながら、その息を止めた。

沈黙したモンスターと周囲を用心深く見つめしばらく、戦闘が終了したのを認めた僕は、肩の力を抜いて、ふぅと息をついた。

 

「......よし」

 

その場で軽く屈伸。体の調子は......うん、いい感じ。

昨日は鈍く感じれた手足の動きはすっかり良くなっている。

 

いや、むしろ怪我をした以前より具合が良いとも言えるだろう。

 

「......強く、なってるよね?」

 

自然と笑みを浮かべながら、先程の戦いを振り返る。事前知識が無いと危なかったもののダンジョン・リザードの危険性は昨日の出来事で認識していたし、いざ相対してみると体の反応はすごぶる良く怪我の具合を気にかける余裕さえあった。

 

 

つまり、やっぱり僕が冒険者として成長してる、ということだ。

 

今僕は神さまの言っていた【ステイタス】の大きな変化を実感している。

......そして"あの人"(アイズさん)に近づけているのか、と不安にも思う。だから、それと同じ......いや不安を上回る程近づきたい、と心の奥底から願う。

 

たとえそれが身の程を弁えない望みだったとしても、憧れの先のあの人に追いつきたいと切に願う。静かに想いを燃やす。そう思い僕は手の平をぎゅっと握った。

 

 

 

 

 

 

それから僕は魔石の欠片とバックパック一杯になったドロップアイテムを思い出し、もうそこそこに帰る頃合いだと判断した。

 

記憶にある道筋を行き、途中で遭遇したコボルトをあしらいながら、もう外は夕方かな、と頭にオレンジの空が浮かばせた。

 

 

 

そうして4層から1層までの都合3回の階段を登りながら考える。

(そういえばガスコインさんってどんな人だったんだろう?良い人だったし昨日は興奮してすっかり聞き忘れてたけど、どこ【ファミリア】の所属なのかとか色々聞き忘れちゃったなぁ......

......30階層以上潜ったって言ってたし有名なのかな?帰ったらエイナさんに聞いてみようかな。)

 

そんなことを胸にベルはダンジョンから地上への道を進むのだった。

 

_____迷宮都市オラリオ

 

 

 

カンッ、カンッ、カンッ

鉄を鍛える音が空高く響き渡る_____

ここはオラリオ北東のメインストリートの工業区

____いわゆる『工房』(こうぼう)の立ち並ぶ区画だ。

 

その内の奥まった通路の一つ。

そこには今少年に思われているとは露知らぬ、

大男の影があった。

 

傾き始めた陽には当たりもしない、建物と建物の間に挟まれたその通路にはガラクタが散乱し、人一人がやっと通れる程度には狭い。

 

そんなゴタゴタとした通路を抜けると、『血と骨』(Blood and bone)と乱雑に書かれた看板が上部に掛けられたドアが目に入る。

 

 

ギィッ_____

軋むドアを開け、ガスコインは建物の中に入っていった。

 

 

 

「......おい、じいさん。居るのか?」

中は輪を掛けて散乱している。

 

ドアから直ぐ脇にある階段の所為もあってか中は狭く、正面の奥に炉とそこらに散乱した木箱、右手に大きな作業台があるだけの部屋だ。

 

ただ、一見普通そうに見えるこの『工房』(こうぼう)は実に危険を孕んでいる。

 

なにせ頭の上には、大量の刃物がぶら下がっているのだから。

 

シャンデリア代わりに天井から吊るされた

ノコギリや鎌、槌や剣といった武器が、ギィギィ、と揺れる中、ガスコインは目を周囲に張り、目当てのモノが無いか探っていく。

そんな中、ふと作業台の上にあるものに気づいた。

 

 

(...これは確か『獣の爪』......?)

 

そうして、無防備にも作業台に視線を釘付けにする彼の背中に声が掛けられた。

 

 

 

 

 

「......おやおや、まだ夜にもなってなかろうに、誰だろうねぇ、お客かね?盗人かね?

それとも......【闇派閥】(イヴィリス)かね?」

 

 

ガスコインはその声に反応に、勢いよく後ろに下がる。散乱した木箱がさらに散らかる音を後ろ耳に、

ガスコインの瞳に車椅子に座り髪を山高帽で、目や額を布で隠した老人が写った。

 

 

「......居たのなら返事をしてくれ、じいさん。」

いつでも飛び出せるようにと、体と膝を曲げていた態勢を崩し、ため息をつきながらガスコインが忠言を漏らす。

......どうやらこの老人がガスコインのお目当て

この『工房』(こうぼう)の主人のようだ。

 

「んぅ?確か、この声はガスコイン君......

じゃったかい?」

 

「...あぁ、"ガスコイン"で間違いない。

......『斧』を取りに来た。」

 

「『斧』ぉ...?あぁ、アレのことかい。......どうしたんじゃね?たしか、もう君には不要なモノじゃろう?」

 

「...今朝、ゲール爺さんから呼び出された。

何でも近々大きな『動き』があるかもしれん

と言われてな。万が一......いや、無いとは思うが、

俺たち【ファミリアー】(家族)の繋がりを

知られるとなると、な。」

 

車椅子の老人はその言葉に驚いたように、顔をこちらに向けた。

 

「ほぅ、それは本当かね?」

「あぁ、本当だ。直接聞いた、間違いない」

「ふーむ......そうか、なら仕方ない。『斧』を持ってくるとしようかね。えーと、確かあれば.....」

そう言って老人は散乱した箱の中を漁っていく。

 

 

 

 

「なぁ、じいさん。作業台の上の"アレ"どうしたんだ?俺の知る限り、"アレ"を使えるのは一人しか知らない」

その言葉を聴いた老人の手がピタリと止まる。

 

 

「みな、考えることは同じじゃろうて。......深いことは儂も知らん。今度会った時、本人に聞くんじゃな。」

 

 

「......わかった。」

 

ガスコインは判然としない顔をするも、これ以上老人の口から出るものは無いと判断し大人しく引き下がった。

 

 

 

「さて、お望みの品じゃ。ただ、新品なのは我慢して欲しい、何せ急に来られて準備が出来てないのじゃよ。」

老人が手渡したは鉄製で無骨な片手斧だ。

...ただし一点、この武器には他の武器とは違う特別な機能がある。

 

ガスコインは片手で(それ)を受け取り、

思い切り両手でその柄を引き延ばした!

 

 

カチャ「ふんっ......なんだ、ちゃんと伸びるのか。」

 

小さな金属音と共に姿を現したのは長柄斧。

 

____そう、この武器は特殊な『仕掛け』により

武器の長さを調整できる。その名も『獣狩りの斧』

 

特にコレと言って特別な物でもないが、場所によって空間の大きさが異なる『ダンジョン』での優位性は計り知れないだろう。

 

「おいおい、ここで振り回さんでくれ。

さあ、要件は終わりじゃろう?帰った帰った儂にはまだ仕事が残っておるんじゃ。」

老人は煩わしそうにシッシと手を振りながら早く出ていくようにと催促する。

 

カチャ「......あぁ、ありがとな、じいさん。」

 

ガスコインは少し悩むような素振りを見せながらも"用事は済んだ"と帰路に着くのであった。

 




『獣狩りの斧』
工房『血と骨』の作る『仕掛け武器』の一種。

斧の特性はそのままに、変形により状況対応能力を高めており
「長柄斧」と「片手斧」の使い分けと、重い一撃「重打」が特徴的だ。

『仕掛け武器』とはかつてここにあったとされる、"とある組織"の遺産であるとギルドに伝わり、失われて久しい。......だが、いつからか再び復活し、密かにそれを知る一部の上級鍛治師はその技術を追い求めているという。
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