古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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ゆっくりやっていきます。多分。


クシャルダオラ 1

 絵を描く事が大好きだった。狩人になったのもそれが一番強い理由だった。

 色んな物を描いた。植物から、動物から。虫から竜まで。自然から人工まで。

 何故、自分は絵を描くのだろう。それを自身なりに問い詰めてみた事があった。結論としてそれは、生きていた証というものを自分なりに保存しておきたかったからだと思えた。

 狩人という職業は、生死の境界線を彷徨い続ける。狩人が負けた、即ち死んだ時は、装備さえ残っていればまだ良い方で、時には本当に何も見つからず、死んだかどうかすらも分からない時だってある。

 竜の方が負けた時は、翼を持つ竜ならその翼はぼろぼろになり、尻尾も時々切断されている。それが死体ならまだ良く、それが調査の為の捕獲だった場合、そこで動けないまま人に好き勝手される。また、あくまで捕獲して野に返される場合というのは限られていた。野に返される場合は、返されてもやっていける、人に害を為さないと見做されたときだけだった。

 命が無惨に失せる事の多い因果な職業だったが、それは必要不可欠なものでもあった。

 強大な自然に囲まれて人と言うか弱い種族が生き抜くには、自然を誰よりも観察し、知見を積み重ね、そして見つけた隙間から縄張りを広げていくしかなかったのだ。

 その最前線に立つのが狩人という職業だった。

 

 人の生きていた証というものは、町に居れば勝手に残されていく。しかし、虫、獣、竜などが生きていた証というものは、その自然に自ら潜り込まなければ見る事は叶わない。

 その男は、欲張りだった。捕獲、殺されて運ばれる力ない竜ではなく、正に生きている竜の姿を描きたいと思ったのだ。その為には努力など惜しまなかった。

 ある狩人からその男に対して言われた事がある。

「私達が竜から素材をはぎ取り、武器や防具に加工するのは、単純に強さを追い求めるからだけじゃない。竜への憧れ、敬意もあるのさ。憧れを追い抜いた、そして貴方の事を忘れません。そんな証さ。

 あんたの場合は、そんなものは無いね。強さはあるのに、それは追い求めて付いたものじゃない。別のものを追い求めて、それを満たす為に勝手についてきたものだ。

 とても珍しいよ」

 男の絵は、よく売れた。竜から取れる素材の値段、時にはそれ以上に。

 狩人としての実力もあるその男は、各地を渡り歩き、様々なものを様々な媒体に書き記していった。

 男が訪れた後の場所には、絵が必ずと言って良いほどに飾られていた。

 そして、同じく様々な絵、ラフだけから細部まで緻密に描きこまれた絵が、価値も付けられないままに無造作に残され、それはそこに住む人々に長く教材として、芸術として愛され続けた。

 

 死ぬ事も、狩人として致命的な怪我を負う事も、そしてまた狩人としては突出した結果を残す事もなく、ただただ絵を至る所に残していった男はそして今、新大陸に居た。

 そして男は絵を描いている最中に古龍の調査を命じられ、気が向かないものの龍結晶の地に足を付けていた。

 

*****

 

 古龍という存在には正直あまり男は触れて来なかった。

 格が違い過ぎる相手。それに挑むのは正に、力を追い求める者たちのみだけだった。もう少し言えば、男から見れば命知らずだった。

 見知らぬ竜が数多に居る新大陸。見た事のない植物から見た事のない竜まで、それは古龍でなくとも大量に生息していた。それを描くのに集中したくて溜まらなかった。しかし、この新大陸、人手が常に不足しているのは明らかであった。

 絵を描く事も役には立つ。描く為に物を観察するのに長けている男の絵は、知識を共有するのにうってつけなものだった。しかしそれよりも素材はすぐに空になり、脅威は至る所にあり続ける。

 竜が気まぐれに拠点の上空を飛ぶことは時々ある。そしてここにはバゼルギウスと名付けられた爆発する鱗を落としまくる迷惑極まりない竜が居て、稀に大変な騒ぎになったりする事もあった。

 空腹が加速したイビルジョーが来れば防壁など時間稼ぎにしかならず、夜にたたき起こされる事も何度かあった。

 古龍が気紛れに近辺を散歩するような事があればただそれだけでバリスタや大砲の準備に急ぎ、そしていつも何もせずにのんびり縄張りへと帰っていくのを見ればただただ疲労感に襲われる。

 また、紙の用途は、そもそも絵よりも記録すべき事柄に対して優先される。紙やインクは幾ら作ろうともすぐに学者の乱雑な字で埋まっていき、正直もっと大切に扱ってくれと言った事が何度かあった。

 ある夜に筆が乗らない絵を衝動的に破ってしまって、それ以降は言わなくなったが。

 

 調査、観察だけなら、という条件で男はそのクエストを引き受けた。

 実地に入れば、男の顔は絵描きから狩人のものへとすぐに変わる。体は入念に解され、実地に入る前に食した飯はしっかりと栄養となって全身を満たしている。

 腕に備わるスリンガーの弦に解れはなく、背に担いだ長剣は鞘も切り裂こうというほどに鋭い。ポーチの中には調査用のアイテムが多くあった。

 調査対象はクシャルダオラ。万一襲われたときの為に、閃光のスリンガー弾も多く持ってきている。

 硬質な地面、時々竜結晶、古龍が身に備えるエネルギーが存在するガラス質な結晶をパリ、パリ、と踏み砕く。

 ベースキャンプから斜面を滑り、まずは広場へと着いた。

 誰も、居ない。曇り空、風が優しく吹いていた。

 ひゅぅぅぅぅ。

 その風はここで感じる分には優しく、けれどはっきりとその主の存在を感じさせる。それは高台から吹いていた。

 高台を見上げて、男は呟く。

「気乗りしないな……」

 高台も見通しの良い場所だ。そこでクシャルダオラがそこ辺りを散歩しているというのは、ここに住むガジャフー達からの情報でも知られている。

 問題なのは、隠れながら観察する良い場所がないという事だ。クシャルダオラを観察できる場所は逆にクシャルダオラから見る事の出来る位置だとも言える。

 そもそも、この竜結晶の地には植物など身を隠せるものも多くなかった。

 隠身の装衣は持ってきていたが、その効果が続くのも僅かな時間だ。

 取り合えず、その近辺にあるベースキャンプ、クシャルダオラが追ってこれない位置から近い場所まで移動する事にした。逃げるだけなら何とでもなる。

 

 竜結晶の地でよく見かけるクシャルダオラの調査を今、また何故するのかと聞いたところ、そのクシャルダオラは前まで居た個体とは別の個体のようだから、という事だった。

 前の個体はどうなったのか、また今の個体は前の個体と比べて警戒を上げる程に強いのかそれとも弱いのか。

 それを見極めるのが今回の目的だった。

 もう一つのベースキャンプまで移動した後、そこから崖をよじ登って顔を少しだけ出す。

「……」

 古龍には積極的に関わろうとしては来なかったと言っても、見た事は勿論、防衛などに参加した事もある。

 あるとは言えどそれらは乏しい経験だったが、それでも分かる。

 あれは古龍の中でも強者だ。とびっきりの。

 その身を覆う金属の鱗は、普通のクシャルダオラよりも煌めいて見えた。体を巡る風は他の見てきたクシャルダオラと比べてそう強い訳でもなかったが、その流れに一切の淀みがないように見えた。

 自分なんかは、逆立ちしても敵わない存在だ。古龍を一人で討伐してしまう馬鹿げた狩人もこの新大陸には居たが、その狩人でも敵うかどうか。

 そのクシャルダオラが、自分の方を唐突に見た。

 体が硬直する。クシャルダオラの青い目がはっきりと自分を見て、けれど数秒見ただけで、興味無さげに視線を外した。

 強者の余裕、貫禄、といったものだった。敵としても見做されていない。

 ただ、悔しいとは思わなかった。当たり前だとは思った。そこまでの技量は、必ずしも狩人には必要はない。

 男は、けれどまた別の事を思った。

 古龍の絵を描きたいと、そう思ってしまった。

 その動機は、至って単純だった。男が持つそれは狩人としてはとても乏しいとは言え、狩人になったのだからゼロではないその欲望。強さへの欲望。

 種としての、そして個としての強さ両方を併せ持つ古龍から発せられるそのオーラとでも言うべきもの、そしてその振る舞いは、男の乏しいそれを突き動かしていた。

 傑作になる。

 そう、描く前から確信出来た。




主人公:
♂ハンター。長刀使い。
ハンターとしての技量:中の上。
絵を描くのが好きでハンターになった。

クシャルダオラ:
歴戦王個体(自分は挑んでない)


自分のモンハン歴:
MHWが初めてで、基本的にソロプレイ。というかPSPlus入ってなくて、歴戦王テオ倒せないレベル。この頃は起動もしてない。
そういう訳で、MHWの世界観でしかモンハンの小説は書けない(ジンオウガとか来てくださいな)。

後、絵は大学生の頃ゲーム制作の部活に居た時に模写をちょくちょくやってたくらい。模写自体は多少出来るけれど、ゼロから何かは全く描けない。

気に入った部分

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