古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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キリン 4

 翌日になるとカシワはすっかり元気を取り戻していた。ご飯を食べて、今日も調査に乗り出そうとする前に、人間達の話が聞こえて来た。

「パオウルムーを狩る事を禁止するって?」

「昨日な、調査に出かけていたアイルーが、オドガロンに襲われそうになっているパオウルムーをキリンが助けたというところを目撃した。

 下手に手を出すとキリンの怒りを買いかねん」

「……」

「この場所は陸珊瑚の台地と直に繋がっている。モンスター、それも特にキリンのような小柄で危険度の高く、ここへと簡単に入れてしまう古龍を怒らせてしまう危険性が分かるよな?」

「分かってますよ、俺にはキリンを討伐するほどの力量が無い事も自覚してます」

「なら良い」

「ただ、……それ、本当ですか?」

「見に行けばいいだろう。今日、台地に居るかどうかは分からんがな」

 カシワ自身に話が振られる事は無さそうで、準備をし始めた。

 

 調査へと繰り出して、やはり時々昨日の事を思い出す。思い出せば今でも体が震えるが、それも今となってはそう強くない。

 ……少なくとも、目にしたもの全てに雷を放とうとするような危険性は無い。警戒心はパオウルムーを守る為か、かなり強いが、だからと言ってパオウルムーに近付く者を全てを消し炭にしようとする程でもない。

 新大陸を訪れる古龍は基本的に、死期を感じ、死に場所を追い求めて来た古龍だと言う。ヴァルハザクやネルギガンテなど例外も多いが、あのキリンは死期を自らに感じているのだろうか?

 そこを調べるのも重要な事だった。

 

*****

 

 結局のところ、古龍渡りにゼノ・ジーヴァが関わっていた事は確定に限りなく近いとは言え、それがこの地に訪れる全ての古龍が死に場所を求めて来たという結論にはならない。

 龍結晶の地は、古龍種が好むようなエネルギーが満ち溢れているという。アイルーであるカシワでもその場所を訪れると体が湧き立つような何かを僅かながらに感じる。

 そんなエネルギーに満ち溢れているのならば、それを追い求めて来る古龍が若い個体でも何らおかしくは無いだろうという推測があった。

 そして、もう、ゼノ・ジーヴァは居ないのだ。マハワによって討伐され、地の底へと堕ちていった。

 その死骸は瓦礫に埋もれて研究も捗らず、結局ゼノ・ジーヴァがどのような形で古龍渡りに関わっていたのか、それは全て推測にしかならなかった。

 古龍を呼び寄せるようなフェロモンを出し、それから地脈を通じてエネルギーを蓄え、孵化を待ちわびていたのか。

 それとも地脈は元々あるもので、ゼノ・ジーヴァはそれを利用しているだけだったのか。

 もしくは、更に想像の拠らぬところの何かが全てに関わっているのか。

 全て、確定までには至らない。

 だからこそゼノ・ジーヴァが過去に生きていた時と、今現在を比較する必要がある。

 そうすれば、未だ謎に包まれているゼノ・ジーヴァという古龍の実態が少しでも明らかになるかもしれないのだ。

 

*****

 

 昨日よりも慎重に、カシワは陸珊瑚の台地を歩いた。

 キリンが居た時のしんとした静けさはもう今は無く、ユラユラが顔を出しているのが見えた。細い体とその先に付いている小さな顔は、相変わらず何を考えているのか分からないままにこちらを見て来る。

 昨日台地に出た時も、出た直後はこんな感じでいつもと変わらない雰囲気だったのだ。体の震えが止まらなかった時点で気付くべきだった。自分の感覚は正しかった。

 外へ出て暫く、自分の頭上を大きい影が通り過ぎていくのに気付いた。

 茂みに伏せて上を眺めると、案の定と言うか、この地の主であるレイギエナがやって来ていた。

 ここに気球を飛ばす為の障害となっていたレイギエナはマハワによって討伐されており、今ここを住処としているレイギエナは別の個体だ。

 気球に手を出すと狩人の討伐対象になる事を分かってそれを恐れているのか、それとも単純に興味が無いのか、それは多分後者だった。

 狩人、人という存在に大して興味を持っていない様子が見て取れた。

 気球に関しては時々観察するように見ている様子が見られるが、観察する以上の何か行動をして来た事も無く、大抵気球が去るよりも先にどこかへと飛んでいく。

 また、この一帯を強い縄張りとしている訳でも無いようで、様々なモンスターが台地を闊歩していても縄張り争いなどをする姿も今まで見られた事もなく、どこかに行ったまま十日以上ここに姿を見せない事も良くあった。

 久々に戻って来たかと思えば、寝床にしている高台には行かず、別のところへと進路を変えた。

 どこだろう?

 

 追ってみればそれはすぐに、昨日キリンが訪れた場所だと分かった。

 焼け焦げた痕はまだはっきりとその場所に残っている。カシワがひっそりと追いついた時には、その焼け焦げた痕をじっと眺め、レイギエナがまた空に飛ぼうと翼を広げたところだった。

 キリンがここを訪れると分かったならば、別の所へ行くだろうかと思ったが、そんな事はなく普通に高台へと飛んで行った。

 今は居ない事を知れているから、今は問題ないとでも思っているのだろうか。

 また追って行くが、そのまま高台まで飛んで行く姿が段々と小さくなっていく。

 ……流石に、パオウルムーはここには暫く来ないかニャあ?

 キリンに対しても向かっていく程に凶暴なオドガロンが今、ここを訪れる事がある。昨日実際に殺されかけていたし、そのオドガロンが来る以上そんなにここへ来させる事はしないだろう。

 本当に、何故パオウルムーを庇護しているのか、それだけが一番の疑問で、全く以て不明だが。

 追って行き、広場に着くとそこはまた誰も居なかった。昨日と同じようで、ただ絶対的に違うのは昨日までこの辺りに居たツィツィヤックはもう瘴気の谷の奥深くに、オドガロンの食料として仕舞い込まれている事だ。

 それに加えてパオウルムーもここに居るか怪しく、今日はここで様子を観察しようとも、退屈なだけで一日が終わりそうな予感がした。

 実際に昼になるまでじっと観察を続けても、強いて訪れたのはシャムオスに乗ったかなで族が一回、走り去って行っただけだった。

 

 レイギエナ、かニャあ……。

 一日中待ち続けて何の収穫も無いのは、この新大陸に来てからはほぼほぼ無かった。ただ、あのレイギエナに関しては生態調査も進んでいる個体だった。

 そう強く気乗りする訳でも無いが、他に気乗りするような事柄も今日は見当たらない。

 強さは中々。上位個体に属するが、歴戦個体と称するまでは届かない程。

 所見では、古代樹のリオレウスとそう大して変わらない強さだろうという事だった。

 そしてまた、リオレウスと同じように人に対して積極的に襲わない事も変わらない。ただ、この新大陸でしかまだ姿を見かけないという点で言えば、リオレウスと比較してしまうとレイギエナという種がどのような生態をしているのか分かられていない。

 それは長年の生態調査を以て明らかになってくるところだ。

 どれ程の知性を持ち、それは生命活動をする上でどのように生かされるのか。

 どのように子育てをするのか、その体の一つ一つはどのような働きをし、身から冷気を出す仕組みは他のモンスターとある程度共通しているのかしていないのか。

 体を覆う鱗の硬さ、風を掴みやすいその皮翼、そして全身を駆け巡る冷気のエネルギー、その生命がどのように武具として、道具として役に立つのか。

 それら全てはまだ始まったばかりだ。

 見知られている個体だと言われるとそう強くやる気が湧く訳でも無いが、それ以外に今日はやる事が無さそうだった。

 何も成果が無いよりはマシだ。それで飯を食っている事には変わりないのだし。

 念の為、茂みから出る前に、周りに誰も居ない事を確認する。

 ……誰も居ない。体の震えも無い。

 体を起こし、数時間ずっとじっとしていた体を解して広場へと出る。

 さささっ、と走り、高台へと続くその蔦に手足を駆けて一気に登っていく。その、途中だった。

 軽めの足音が上から聞こえて、体が止まる。

 さらさらと、砂に足を滑らせながら歩いてくるその足音は紛れもなくレイギエナだった。

 どうしてこんなタイミングで来るニャ!

 そんな事を心の中で思いながら、左右を見る。蔦、平らな壁、蔦、平らな壁。上下を見る。レイギエナがやってくる高台、硬質な地面と降りても隠れる場所が遠い広場。

 目の前。隠れられそうにはないそう奥に深みの無い蔦。

 隠れられない。

 じゃあ、どうする? カシワはそこで委縮してしまう程愚かではなかった。ただ、だからと言ってそこで取れる最良の選択肢がじっと身を潜めて見つからないようにする事よりも良い何かが見つかる訳でも無かった。

 どうしようかニャ……。

 見つかったとしても、逃げきれる自信はあった。ただ、それは絶対と言い切れるほどのものではなかった。見つかったらどちらへ逃げる?やや遠いがレイギエナが入れない袋小路へと繋がる方へか、広場を突っ切って茂みが多い方へか、それとも高低差の激しい複雑な地形へか。

 どれが一番良いか考えていると、唐突にレイギエナの足が止まった。

 ……?

 そして引き返して行く足音。小さくなっていく足音。

 ただ、助かったとは思えなかった。足音が小さくなっていくと同時に、蔦を掴むその前足が小さく震えているのにカシワは気付いた。

 後ろを振り向くのが怖かった。

 けれど、振り向かないのは、その原因が分からないままこれから行動する事になるのと同義だった。それは死の危険を放置するのと同じだった。

 カシワは振り向いた。

 空に、小さな点が見えた。黒い点だ。

 それは少なくとも古龍だった。段々と近付いて来ている。黒い翼と、白い角か何かが見えてくる。

 クシャルダオラではない。テオ・テスカトルでもない。ナナ・テスカトリでもない。ヴァルハザクでもない。他に翼を持つ古龍は、見た事が無くとも一つしか思い浮かばなかった。

 ネルギガンテ。目に触れたもの全てを、自分の身を厭わず破壊すると言う程の凶暴性と強靭な肉体を持つ古龍。ゼノ・ジーヴァすらも一人で討伐したそのマハワの腹に刻まれた、痛々しい傷が脳裏に蘇った。

 カシワは震える前足をぐ、と握りしめ直した。そして、高台へと一気に駆けのぼった。




ネルギガンテってゲーム上では古代樹の森と陸珊瑚の台地と瘴気の谷には姿現さないんだっけな。

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