古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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久々の更新。キリン編終わるまでは(展開で躓かない限りは)結構ハイペースでの投稿になると思う。



キリン 6

 朝っぱらから雷が降る天気を見上げる事となってしまえば、外に出る気力もなくなるというものだ。

 古龍と対等に戦える狩人など、滅多に居ない。好奇心旺盛であるカシワも、そのヒゲにピリピリとした空気の感触を覚えて、出る気を失っていた。

 ヒノキが居れば、出る気にもなるのだけどニャァ。

 ヒノキも、狩人の腕前としては並みより上の強さだが、それでも流石に古龍には敵わない。本人は、古龍と戦う事は出来るだけ避けたいなどとよく言っているが、けれど、全く歯が立たないレベルではない事は知っていた。

 一緒に出るならば、心強いのに。

 そんな事を思っていた時に、一つの事を思い出す。

 ……そういえば、あのパオウルムーは出ているのかニャ?

 心に波が立った。

 体がそわそわとする。ちょっと外を覗いてみれば、すぐに陸珊瑚に雷が落ちたであろう黒い焦げがぽつぽつと見つかる。けれど、パオウルムーの姿も、キリンの姿も覗くだけでは見つからなかった。

 キリンが来ている事は確かだ。

 けれど、パオウルムーはどうしているのだろう?

 先日のキリンとパオウルムーの事を良く思い出そうとしても、パオウルムーの表情は中々思い出せなかった。キリンは、パオウルムーを守っている。パオウルムーもそれを理解していたが、流石に古龍と常に居れば精神がやられそうな気がする。

 ……。

 その好奇心が、カシワを駆り立てていた。自制心と好奇心がせめぎ合っている。この好奇心に身を任せるようでは、きっといつか早死するだろうと思い直す。けれどこの機を逃していたらいつまでもあの二匹の関係は分からないままだ、こんな珍しい例他に無いぞと心が疼く。

 まあ、時間はたっぷりあるニャ。

 急がなくても良い。急がなくても良いのニャ。とにかく、それで良いのニャ。

 外に出なくとも、出来る事はあるのだしニャ。

 墜落した船をそのまま研究基地として使っているこの場所は、他の場所では見た事が無い。物資も乏しく、更に二十年もの間連絡も取れないままに新大陸を研究していたのだ。マハワの活躍によって今では交流が出来るようになったが、その二十年の間、この船で生活の大半を営んできた軌跡は正に独特であり、記録として残すべきものでもあった。

 この中で描いていないものも、まだまだあるのニャ。

 そう決めれば、外への危険な興味は多少は薄れた。多少は。

 

*****

 

 結局一日中雷雲は陸珊瑚の台地を覆い続け、その次の日。すっかり晴れて外に出ようとした時、またカシワは呼ばれた。

「……何かニャ?」

「ヒノキが大怪我を負った。クシャルダオラの尻尾の一撃をモロに受けたらしくて、防具ごと肋骨を何本かイカれたらしい」

「ニャッ!?」

「まあ、そういう訳でヒノキを一番知っているのはカシワ、君だ。

 一旦帰ってくれ」

「そういう事ニャら、すぐにでも行きますニャ」

 古龍と関わる事はヒノキも同様のはずだったけれど。一体何があったんだかニャ……。

 

 飛竜に乗ってアステラへと戻り、ヒノキとカシワの割り与えられた部屋へと歩く。

 やや広めの、二等の部屋だ。一等に住めるくらいの事はやっているのだが、ヒノキとカシワ自身が、画材の臭いが色んな場所に染み付くのは少々申し訳ないと、二等のままで過ごしている。

 中に入ると、横になったまま腕だけを動かして簡単なスケッチを軽く描き続けているヒノキが居た。

「おお、カシワ。久々だな」

「久々だニャァ。一体何があったんだニャ?」

「気の立ったクシャルダオラが俺の目の前にやってきて、俺が対処せざるを得なかった」

「そりゃあ、災難だったニャ。でも、それだけで済んだニャら、十分幸運だと思うニャ」

「そうだな……。マハワが来るのが後1分でも遅れてたら死んでいたけどな」

「ニャァ……」

 詳しく事を聞かせて貰うと、ネルギガンテが出て来た。

()()()クシャルダオラでなくとも、ああ組み伏せられちゃあ、もう抵抗は出来ないだろうな」

「普通の?」

「あ、ああ。そっちにはまだ伝わっていないのか。というか、多分今回の件は、ぶっちゃけるととばっちりなんだよな」

 話が見えてこない。

「まあ、あのクシャルダオラは多分、元々龍結晶の地の一部を縄張りにしていた個体だ。大半が食われちまってあんまり区別も付かないがな。

 そして、新しいクシャルダオラが龍結晶の地にやってきていたんだよ。その調査に俺が行った」

 そこまで聞けば、察せた。

「その新しいクシャルダオラの方が強かったのかニャ?」

「とーーーーーっても」

「……何を見たのニャ?」

「古龍を喰らうと言われているネルギガンテを無傷でぶちのめす姿」

「……ニャァ……」

「住処を追い出されたクシャルダオラがこっちにやってきて、イライラしててストレス解消を求めて運悪くアステラを見つけた、っていうな……」

「本当に災難だったニャ」

「まあ、助かったし、アステラが荒らされる事も無かったから別にもう良いんだけどさ。

 昨日の出来事を思い返して、結構思う事があるんだよな。俺しかクシャルダオラを止められない状況に居た。

 その時だ。俺の心境はどうだったんだろうな、って。

 直前にとんでもなく強いクシャルクシャルダオラを見たからと言って、一人で倒せるとまで己惚れては流石に思っていなかった。ただ、全く影響が無かったとも思えない。

 俺は、己惚れてはいないとは言え、恐怖心が多少薄れていたから、敵わないと分かりつつも、心のどこかでクシャルダオラを倒せるのではないか、と思っていたんじゃないか?

 それが無かったら、俺は自分の身の危険を冒してまでクシャルダオラを止めようと思わなかったんじゃないか?」

 カシワは、少し悩んでから言った。

「少なくとも、クシャルダオラの前に出る事にリスクはあると感じていて、それでもアステラを守ろうと前に出た、と分かっているニャら、それで十分だとボクは思うニャ」

「そういうモンかな……」

「それに、倒すつもりで出た訳ではニャいなら、時間稼ぎくらいで済ませようと思っていたのかニャ?」

「そうだな」

「それなら、尚更、十分ヒノキは身を弁えられていると思うニャ」

「……そうか。カシワがそう言うなら、そう思っておくか」

 ……少なくとも、クシャルダオラが人里を襲おうとしていて、止められるのが自分しかいないという状況で、身を挺してそれを止めようと動ける狩人は、そう多くは無いだろうに。

 そんな事を、カシワは思った。言いはしなかったけれど。

「何か、欲しいものはあるかニャ?」

「動かないで居ればもう後はじっとしているだけで治るからなー……」

 ヒノキの寝ている隣には、回復薬のビンがいくつも置いてあった。骨が下手に繋がっては困るから、骨折はじっくりと治すようにする。

 複雑骨折とかではなく、ぽっきりと綺麗に折れたと聞いている。回復薬を飲みながらじっとしていれば、数日もすれば普通に動けるようになるだろう。

「腹が減り気味だし、固くない肉が欲しいな。固いと食い千切るのに肋骨がぶれそうでな」

「分かったニャ」

 

 久々に会うカシワとの会話は、良く弾んだ。

 その中でも、最も話題に上がったのは、ネルギガンテについてだった。

「ええっと、整理すると、一昨日に陸珊瑚の台地とそれから龍結晶の地の両方に現れて、龍結晶の地で一際強いクシャルダオラにぶちのめされる。

 それにも関わらず昨日に古代樹の森に現れて、ただのクシャルダオラを仕留めて捕食。

 そして今日も古代樹の森に現れて、昨日の食べ残しを食っている」

「お腹でも空いていたのかニャ?」

「だとしたら、クシャルダオラを食って落ち着いてくれると助かるんだけどな。

 ……それにしても、やっぱりネルギガンテって古龍は規格外だって思い知らされるよな……。一昨日、確かに俺は、ネルギガンテがクシャルダオラの全力のブレスをまともに受けたのを見ていたんだぞ? 更に言えば、その後高所から墜落して、足を引きずるほどに弱っていたのも見た。

 それが、翌日には普通の、更に俺が翼を切っていたとは言え、クシャルダオラを抑えつけて、首をへし折るほどに回復しているって、何なんだよ」

「古龍が持つ不思議な力を、不思議な事に使わなかったら、全部自身の肉体の為に捧げたら、あの位になるんじゃニャいかニャ?」

「それに加えて、古龍を食っているからな。多分、喰らえば喰らうほど更に強くなるだろうな」

「……」

 カシワは、ふと、あの無惨に食われた狩人を思い出してしまった。ブルっと震えたカシワを見て、ヒノキは言った。

「人を殺しているが、討伐するかどうかは、もうちょっと様子を見てからになるだろうな……。古龍の中でも一際攻撃的な部類に入るが、昨日、クシャルダオラを喰らっている最中に、俺とマハワには目もくれなかった。

 それに、カシワやレイギエナにも興味を示さなかったんだろう? だったら、興味を持たれないようにすれば……要するに食料と見做されなければ、狩人だったら古龍の装備をしていなければ、基本的に大丈夫なはずだ。

 そしてそれよりも一番に、マハワでさえも、狩る事が出来たのは運が良かったと言うレベルの古龍だからな。殺された狩人には申し訳ないが、一人の命では、重いリスクを背負ってでも狩るという選択肢はまだ、選び辛いだろう」

「……」

「まあ、俺は、カシワは大丈夫だと思っているが、気をつけろよ? キリンが陸珊瑚の台地に居るなら、またネルギガンテが腹を空かせたら、そっちに訪れる可能性も高い。

 キリンは古龍の中でそう強い種でもないにせよ、古龍は古龍だ。古龍を喰らう古龍に対しても、襲い掛かられたら負けるにせよ必死に抵抗するだろうし、特に雷という避けようがない攻撃をドバドバぶっ放して来る事も考えられなくはない。

 下手に観察しようとして、とばっちりなんて受けるなよ?」

「……そうなるかニャァ?」

「?」

 妙な目で、ヒノキはカシワを見た。

 カシワは、キリンと対峙したときと、ネルギガンテが間近に来たときの事を思い出していた。

 古龍の中では強いとは余り思われないキリンと、古龍を喰らう古龍としてのネルギガンテ、それらから覚えた体の震えは、同じくらいだったのだ。




キリンって公式絵だとどう見てもジイさんっぽいんだよな。
鬣とかの毛はモフモフというよりフワフワとかサワサワとか、そんな軽い感じ。

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