古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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キリン 9

 その数日後に久々に様子を見に来たようなレイギエナもパオウルムーを見つけて遊んでやろうかと思ったようで、パオウルムーとは比べ物にならない軽やかさで周囲を飛び回って冷気をまき散らした。

 ただ、その首を捕らえた時にその体に染みついている匂いに気付いたようで、そこでオドガロンと同じように止まった。

 ビクビクと震えるパオウルムーを解放して、何度か匂いを嗅いで、それから急いで周囲を確認した。

 ただ、観察しているカシワには気付かず、そしてどこかでパオウルムーを見ているであろうキリンの気配も感じられていないようだった。

 カシワは、自分の事も気付かれているのかもしれない、と思いながらも上の方を見た。

 パオウルムーが広場に居る時は、高台の方に居る事が多い。暫くの間観察を続けて分かった事だ。

 レイギエナはキリンがどこに居るか分からないまま、恐る恐るパオウルムーから離れ始めた。恐怖に染まっている顔が遠くからでも分かる。

 パオウルムーはそんな様子を見ながらも、未だに怯えていた、そして同時にそんな自分自身に落胆しているようにも見えた。

 そして、レイギエナはそんなパオウルムーをまた触る事はせずに、どこかへと逃げていった。

 幸いな事に、キリンが居るであろう高台には行かずに、この台地そのものから去って行った。

 パオウルムーは、その暫く後も怯えたままだった。

 ……一日観察する必要も無かった。このパオウルムーは、生きる為の能力が他の同族と比べて著しく劣っている。

 主食が陸珊瑚の卵だから食べ物には困らないだろうが、もし肉などだったらきっとラフィノスやケルビを狩る事にすら苦労するだろう。

 キリンの所有物として見做されていなければ、とっくに他の飛竜の餌食となっているであろう事は想像に難くなかった。

 また、やっと気を取り直すと、それでもしょんぼりとしたまま、体を起こす。息を大きく吸ってふわりと飛び上がる。

 宙返りから尻尾を思いきり地面に叩きつけようとして、その前に背中が地面にぶつかった。

 それからまた、暫くの間動かなかった。

 

 その後、高台からキリンが一気に降りて来た。人ならば内臓どころか骨までバラバラになりそうな高度からいとも容易く着地し、そしてパオウルムーを立ち上がらせる。

 ゆっくりと泣きべそをかきながらパオウルムーは立ち上がり、そしてキリンと共に去って行った。

「……ニャァ……」

 キリンは、まるで親のようだった。パオウルムーという飛竜の育て方を知らない親だ。

 あのパオウルムーは、生きる事は出来るだろう。しかし、飛竜の個として生きる事は酷く困難だと思えた。

 カシワは、その日は帰る事にした。

 

*****

 

 青いリオレウスが サクラの色をしたリオレイアといっしょにやってきたことがありました

 食べものにこまってはいないらしきそのにひきは パオウルムーを見つけるといきなりおそうことはしませんでしたが きょうみぶかくちかづき そしてにおいをかぎました

 そのしゅんかん 飛びのくようにきょりをとり あたりを見まわします

 パオウルムーはいつでもおびえていました

 けれど なんどもそんなことをけいけんしたからか 心のそこからはおびえていませんでした

 青いリオレウスと サクラのリオレイア

 どちらも赤いリオレウス みどりのリオレイアよりきけんでつよいしゅぞくです

 それでも キリンをてきにまわすようなことをしようとは思わなかったようです

 二ひきは そのごはさっさとどこかへと 飛びさっていきました

 

 ツィツィヤックがやってくることがありました

 ひたいからのびるツノのようなものがとくちょうの鳥竜です そして そのツノはてきを見つけるとエリマキのようにひらいて まばゆい光をあびせることができます

 その光にあてられると あまりのきょうれつさで狩人はうごけなくなります

 また 飛竜すらも飛べなくなり 地めんにおちてしまうほどです

 ツィツィヤックは パオウルムーを見るなりそのとくいの光をパオウルムーにあびせました

 パオウルムーはそれをまともに見てしまい 地めんにおちてしまいました

 ツィツィヤックはそれをチャンスとみて 思いきりとびげりをしようと走っていきます

 けいこくとなるはずのキリンのにおいをかぐこともなく こんしんのいちげきをあてようとしたツィツィヤック

 ざんねんなことに ツィツィヤックは 生きてふたたび地めんをふむことはありませんでした

 パオウルムーが正気をとりもどして まず目にしたのは やけこげて口からけむりをはく もうピクリともうごかないツィツィヤックでした

 

 パオウルムーは キリンにたすけられるたびに かなしくなりました

 自分が自分だけの力で生きられないことを そのたびに思い知らされるのです

 それは いやでいやでたまりませんでした。でも まいにちがんばっても ほかの竜が来たとき おびえるしかできませんでした。まいにちがんばっても パオウルムーはよわいままでした

 

 そんなパオウルムーを キリンはいつもとおくから見まもっていました

 ねるときはいっしょです。それいがいのときは とおくから見まもるだけ

 キリンにとっても パオウルムーにはつよくなってほしいのでしょう。けれども キリンはパオウルムーではありません。キリンには パオウルムーがどうしたらつよくなれるのか どうしたらおびえるだけからもっとゆうきをもてるようになるのか 分かりませんでした。

 がんばっても がんばっても 空気のブレスはなかなかうまくとびません

 よこに たてに 前に 後ろに たくさんうごけば そのうちふとしたひょうしで体の空気がぬけてしまい バランスをくずしてたおれてしまいます

 つかれはてたところを キリンは今日はがんばっただろうと むかえにきました

 そうして今日もパオウルムーはキリンと一日のおわりをむかえます

 そのさって行くキリンの後ろすがたは なんだか こまっているようにも思えました

 

*****

 

 次のページをめくる前に、ヒノキはカシワに聞いた。

「リオレウスの亜種とリオレイアの亜種も居るのか」

「こっちに来る可能性もあると思うニャ」

「結構高いだろうなー……」

 龍結晶の地には、ネルギガンテはともかく、歴戦王と呼ばれるクシャルダオラが住処にしている。

 どちらにせよ、近寄りたくはないだろう。

 陸珊瑚の台地もキリンが居ると知れば、残りはアステラに近い古代樹の森か、大蟻塚の荒れ地。

「確か、ディアブロスは繁殖期じゃなかったな。

 あんまり、リオ夫婦同士の戦いなんて見たくないんだけどな」

 それに、古代樹の頂上のリオ夫婦は今、一番幸せそうだし。

 そんな事をヒノキは続けた。

「分かるのニャ?」

「警戒心は相変わらず強いんだけどさ、精力的な感じがこの頃良くする」

「ニャー……」

 リオレウスも、リオレイアも、通常種より亜種の方が基本的に強い。

 古代樹の頂上に居るリオレウスが通常の個体より強いと言っても、亜種に敵うかと言ったらそれは微妙だろう。

 そして、攻めて来たとしたらリオレウスとリオレイアの子供達は多かれ少なかれ犠牲になるだろう。

 そんな光景は何であれ竜であれ、ヒノキもカシワも余り見たくはなかった。

 きっと大抵の狩人も好き好んで見たくはないだろう。

 次のページをめくった。

 青空のページが数枚続いたのに対して、そのページの空はいきなり曇天の灰色で塗られていた。

 ただ、毎ページ毎ページ怯えるパオウルムーはそのままだった。

 

*****

 

 その日はめずらしく ぶあついくもり空でおおわれていました

 キリンがおとずれている天気としては当たり前なものでしたが このごろはキリンがいてもお日さまがかがやいている天気の日が多かったので かりうどやけんきゅうしゃたち それからアイルーやテトルーたちも少し ふしぎがっていました

 ……たぶん キリンはほんのうの内に ここにくるきけんをさっちしていたのだと思います

 

 そんな日もパオウルムーはラフィノスたちにまじって 高く生えたおかさんごからふき出されるたまごを もち前のたくさんの空気をすえる力で たくさん食べていました

 ほかの竜たちにとっては その空はきょういてきなそんざいがいると知らしめるきけんなものでしたが パオウルムーやまたラフィノス ケルビなど ここいがいにあまり行くばしょがない生きものにとっては もうなれしたしんだものでした

 

 そんなとき ぼとり ぼとり と何かへんなものが いきなり空からおちてきました

 シュゥゥゥ とそれはねつをもっています

 パオウルムーは空を見上げました

 そこには バゼルギウスがいました

 空からウロコのバクダンをたくさんおとして そのばくはつでえものをばくさつする きけんきわまりない 飛竜です

 バァン バァン!

 パオウルムーのまわりで そのバクダンがつぎつぎにばくはつしました

 ラフィノスたちはギャアギャアとこんらんにおちいり パオウルムーはとぶこともできず いきなりのできごとにがくがくとおびえて うごけなくなってしまいました。

 しかし そのバゼルギウスも 空からとうとつにおちてくるカミナリを さけることはできませんでした。

 ギャウウウン!!??

 カミナリいっぱつでいきたえるほどのもろい飛竜ではありませんでしたが そのままついらくして どずぅぅぅん とはでで大きな音をたてました

 パオウルムーは ほっとしました

 ラフィノスたちも そのバクダンをおとしてくる飛竜がついらくしたのを見ると おちつきをしだいにとりもどしていきました

 しかし それもつかのまでした




>そんなこんなな1.5章、多分クシャルダオラ編に比べれば短めですが、よろしくお願いします。

あのー、もうそろそろ10話行くんですけどー。クシャルダオラ編の長さに近付いて来ているんですけどー。


で、試しにアンケート設置してみたら雰囲気が圧倒的多数という結果。
雰囲気……雰囲気……何だろうな、狩人とかの存在をハンティングハンティング!! みたいな肉食系な書き方じゃなくて、調和を最優先にしているような書き方してるからかな。

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