古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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久しぶりです。3万文字位連続で投稿すると思います。


ナナ・テスカトリ 4

 パオウルムーを庇護するキリンが実質的に縄張りとしている陸珊瑚の台地。その朝は、どこからか誰かの泣き声が響いて来ていた。

 テオ・テスカトルが屠られた翌日、研究基地にはその情報はまだ届いていなかった。

 調査隊が臨時で組まれるが、ネルギガンテと対等に渡り合ったキリンに立ち向かえるような狩人は四人組を組んだとしても中々居らず、しかし火急な為突き出されるように最も優秀な四人が調査に赴いた。

 キリンが敵対的ではないとしても、気に食わない事をしたら雷が心の根を止めて来るかもしれないという恐怖がとても強い。

 耐雷の装衣をいつでも着られるようには準備していたが、我が身で試す最初がトビカガチではなくキリンであり、しかもそれがただのキリンではなく、ネルギガンテと同等の力を持つ程の個体であるとは何の悪夢だと誰もが思った。

 ただ、幸いな事にキリンには出遭わなかった。泣き声が聞こえる方向に向かうに連れて、導虫はキリンの痕跡が近辺にあるという事を幾度か示したが、それから推測するに、泣き声の元へ向かっているようだが自分達とは別方向から向かっているようだった。

 しかし、泣き声の元で出くわすという事は確定しており、気は進まない。

 見通しの良い場所を避けながら進み、そして泣き声が近付くに連れて段々と鮮明になっていく。

 一人が、新大陸に来る前にその声の質に似たものを聞いた事があった。

 テオ・テスカトルの声質にそれは近しかった。そしてテオ・テスカトルが雌になったらこのような声を出すのだろうというような感覚を覚えた。

「ナナ・テスカトリ?」

 目視する必要も無い。そこまでの危険を冒せる程、彼等の腕前も高くなかった。

 そして、そくささと帰り、一息吐けば体が汗塗れになっている事に気付いた。

 害を与える存在ではなくとも、誰かキリンを討伐してくれないか、と思わずには居られなかった。

 

 昼頃にアステラと連絡が付き、近況と辻褄が合った。

 ナナ・テスカトリはこの陸珊瑚の台地で悲しみに耽っているのだろう。ただ、古龍の精神状態が不安定という事はそれだけでとても恐ろしい。

 この前も住処を追われたクシャルダオラがアステラを襲おうとした程だ。

 その時は優れた狩人達が事前に防いでくれたが、今、ここにはそう強い狩人は居ない。すぐにでも強い狩人を寄越してくれと要求を出したが、その時、泣き声が一際大きくなった。

 狩人が総出で準備をしたが、気付けば外は雨が降っていた。

「流石に雨の時にまで襲ってはこない、よな?」

 誰かが言った。

 テオ・テスカトルも、ナナ・テスカトリも、体から爆発する、もしくは激しく燃える物質を飛ばす事で爆炎を発する。雨の日には、それが如何に強い個体であろうとも爆炎は著しく脅威を失う。

 出来るだけ長くこの雨が続いてくれ、と思いながらも、泣き声はより強くなっているのが不気味だった。

 幸いにも、雨は段々と強くなり始め、しかし雷までもが落ち始める。

 その雷すらも激しくなり始め、そして気付いた。これはただの雨ではなく、キリンが呼び寄せたものだと。

 今朝に探索に出た狩人達は、今度はキリンに感謝し始めた。キリンも出て行けと言っているんだから、さっさと出て行ってくれ。マハワが動けなくともアステラの方が強い狩人は多く居るのだから。

 もしくはキリンにやられてしまえ。

 その願いが通じたのかナナ・テスカトリはそれから程なく、そのアステラの方へと去っていった。

 それから程なく雷雨は止み、平穏はさっきまでの緊張がまるで元から無かったかのように戻って来た。

 

*****

 

 そして、大蟻塚の荒地では三つ子の狩人とアイルー一匹が、その地に近頃住み始めた番のディアブロスと、龍結晶の地から陸珊瑚の台地を経てやって来た番のリオ亜種の調査に出ていた。

 互いに雌が身籠っているのもあって雄同士は強く敵対していないが、問題はその身籠っているディアブロスの雌だった。

 身籠った時に雄に守って貰うのではなく、自身がより凶暴になり、番である雄すらも蹴散らしてしまうその習性は下手な狩人では手が付けられず、きっとソードマスターでさえも手を焼く事だろう。

 ただ、人の目線からしたら、その番である雄のディアブロスが半ば哀れに見える程だった。

 子を設けたいならば、普段なら凶暴になっている雌から離れてればそれで良い。身籠っているディアブロスに勝てる生き物などそうは居ないのだから。

 しかしながら、今は違った。流石にリオ亜種の夫婦に手を出したら、手強い狩人が揃っている拠点に手を出したらただでは済まない。そして、雄からしても半ば手が付けられなくなっているその雌がどちらにも手を出さないように管理しなければいけない。

 更に加えると、手を付けてしまった雌に雄が加勢しようとしても、その雌がそれを味方と見做してくれるかも怪しいのだ。

「僕だったらそんな鬼嫁貰いたくないなあ」

 末子がそう言った。

「ディアブロスも、どうしてそんな生態しているんだか」

 次男も半ば呆れながら言うと、長男がそれらに返した。

「普通なら、それで上手く行くんだろう。だから今も各地で目にされる程メジャーな竜となっている」

「ここは普通じゃないの?」

「普通の定義に依るだろうが……少なくともこの新大陸程エネルギーに満ち溢れた場所は早々他に無いだろうよ。

 ライチもそう思わないか?」

 ライチと呼ばれたアイルーは答えた。

「そう思いますニャ。ここに来てから心ニャしか体の調子の良い日が多いですしニャ」

「そうかー……、あ、ディアブロス居た。雄の方」

 砂地の方を歩いて居ないと思えば、珍しく湿地の方に顔を出していた。

 すぐさま隠れて、様子を窺う。

 砂地を泳ぐように掘り進められるその特性を生かせないであろう湿地帯の端に、静かに身を寄せていた。

 外敵を悉くその巨大な角で粉砕していく凶暴性は、鳴りを潜めていた。

 その様子は、もう既にやや疲れているようにであった。

 人の目線から見たその想像と合わせると、雌が来ないであろう場所から逃げて休んでいるようにも見えた。

「色々タイミング悪いよねえ」

「全くだ」

 末子と次男が言うのを聞いて、そしてディアブロスをもう暫く観察して、長男は言った。

「まあ、今の所は、雄の方は大丈夫そうだな。雌がどうかは分からないが、砂地の方を探索しても見つからなかったんだ、今は寝床でゆっくりしているのだろう」

「まだ、大丈夫って事?」

「いや……」

 そう言いかけたところで「……あ?」と、次男が空を見上げた。

 それに釣られて末子と長男も空を見上げた。

「……え?」

「…………まじかよ」

 真っ青な良く晴れた空に、それに似た色の点が見えた。

 つい昨日、テオ・テスカトルが死亡したという報せが届いたばかりだ。それが番を喪ったナナ・テスカトリである事は疑いようも無かった。

 ただ、それを見てまず最初に思った事は、アステラが危ない事ではなかった。

「竜の胃に穴が開く事ってあるのかな?」

「……さあ」

 ディアブロスの雄が、哀れで仕方なかった。

 そのディアブロスは幸いと言うべきか、まだそのやってくる存在に気付いてはいなかった。

 

 陸珊瑚の台地から追い出されて来てもナナ・テスカトリがやる事は変わらず大声で泣き続ける、ただそれだけだった。

 ディアブロスもその泣き声に気付き、そして慌てて番が居るであろう場所へと駆けて行く。

 こっそり後を尾けていくと、ディアブロスが恐れながらもきっと番が寝床としている場所を覗き見しているのが見えた。

 地下洞窟の奥。その洞窟の上からは泣き声がはっきりと響いている。

 明らかに雄のディアブロスは雌自体を恐れていた。そしてきっと、それ以上にこの泣き声に苛立ち、出てきてしまう事を恐れているだろう。

 次男が小さく言った。

「雌が出て来るに10万ゼニー」

 末子が続けた。

「僕も20万ゼニー」

「……賭けないぞ?」

「詰まらねえが……そうだよな」

「それよりも賭けるとしたらその後だろう。

 ナナ・テスカトリに攻撃を仕掛けてしまった場合、雄のディアブロスは雌に加勢するのか? それともしないのか?」

 今度は次男と末子で分かれた。

「イチジクはどうするんだ?」

 次男からイチジクと言われた長男は答えた。

「ニワトコが出ない。

 サンショウが出る。

 ……ライチはどうする?」

「ニャ? ニャァ……出ると思う、かニャ」

「じゃあ、俺は出ない、で」

 サンショウ、末子が言った。

「兄ちゃんはそう思ってるの?」

「いや、どっちにせよ辛いよなって思ってな。

 リオレウス、リオレイアのように番で仲睦まじい訳ではない、けれども交わって子を為して、それを大切にしている事は変わらない。

 その番が死ぬしかないような場所に飛び出してしまって、加勢しても勝てる可能性は低い。

 ただ逃げてもきっと、ずっとそれは心を痛めつけるだろう。

 余り、そんな選択を迫られるような目には遭いたくない」

「まあ、他人事だから楽しめるよねー」

 そんな事を言いながら眺めていても、意外な事に雌が寝床から出て来る事はなかった。

 幾ら凶暴になったとは言え、古龍に喧嘩を売る程までに我を忘れている訳では無いようだった。

 ただ……、とどれだけ時間が経とうとその場から離れないディアブロスを見て、そして同じくずっと響き続ける泣き声を聞きながら、兄弟は思った。

 このやかましさにずっと耐えられるかは、怪しい。




ディアブロス♂:
モデル無し。上位レベル。
ディアブロス♀:
亜種。モデル無し。歴戦レベル。

イチジク、ニワトコ、サンショウ:
モデルは名前とかからまあ、察せる人は察せられるんじゃないかな。
ぶっちゃけモデルがモンハンキャラじゃないからこいつらは聞かれれば答える。
力を合わせれば古龍とも十分戦える強さ。ただ、普通の、が前に付くけど。
しっかり者の長男、イチジク
粗暴な次男、ニワトコ
甘えん坊な末子、サンショウ
使用武器はまだ決めてない。
ライチ:
連れのオトモアイルー。
モデルは三兄弟と同じところ。

オメー等の同人誌買う為に大阪まで3万掛けて往復したんじゃい。

因みにアイスボーン、クリア後まで行ってその後のコンテンツもぼちぼちやってるけど、この作品の本編には出しません。
まあ、詳細は活動報告に投げたので。

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