古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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クシャルダオラ 3

 高台の上空へと飛び出した黒い塊。一瞬にして姿が露になった。

「ゴオオオオッ!」

 肺の空気を全て吐き出したのではないかと思う程の咆哮は、遠く離れた男の体もびりびりと震わせた。そして男がその姿を見るのも束の間、棘で全身が覆われた古龍、ネルギガンテはクシャルダオラへと襲い掛かった。

 クシャルダオラはその鋼で覆われた巨体とは裏腹に運動能力は高い。細めのその尻尾も、人間の体に叩きつけられれば内臓を破裂させたり、首を飛ばしたりなども容易い。

 全身そのものを叩きつけたネルギガンテの攻撃を後ろへ軽く跳んで避けると、風のブレスを見舞った。

 ネルギガンテはそれを姿勢を低く、四肢で地面を掴むだけで耐えきり、またクシャルダオラに飛び掛かった。

 

 男がネルギガンテを見るのは、これが初めてだった。

 新大陸で初めて存在が知られ、積極的に古龍を食らうという性質から古龍と定められた。

 初めてそのネルギガンテを討伐した狩人からその特徴だけを簡素に記したような絵を見せて貰ったり、特徴を直接聞いていたが、絵などなくともそれがネルギガンテだとはすぐに分かった。

 ブレスは吐かない。風や炎、雷を操る事から姿を消したり翼も無いのに空に浮かんだりと、そう言った摩訶不思議な能力は一切持ち合わせていない。

 あるのは古龍の中でも類まれな破壊力を持つ肉体と、傷をつけても瞬時に再生するほどの回復能力。

 その特徴を正に体現している古龍だった。

 全身を叩きつけた竜結晶の地の硬質な地面は簡単に砕かれ、前足や尾を叩きつければ地響きが鳴り響いてくるようだ。

 頭から生えるディアブロスよりも太い角が頭突きで硬質な地面に突き刺されば、その地面を岩盤ごと抉り返して頭を持ち上げる。クシャルダオラが竜結晶の鋭い破片を風と共に多量に舞わせてネルギガンテへと突き刺していくが、その程度の攻撃など意に介す事など全くない。古龍の中でも強者であろうクシャルダオラは、その重い一撃一撃は軽やかに避けて全くの無傷だったが、また接近戦も避けていた。

 力量としては、クシャルダオラの方が上だ。それは断言出来る。ネルギガンテがド派手な動きをしていようとも、感じる迫力はクシャルダオラの方が上だった。

 しかし、そうだとしてもネルギガンテに肉体のみで戦う事は危険なのだろう。

 そして気付けば、ネルギガンテの全身から生える棘の全てがさっきよりも長くなっている事に気付いた。体が温まっている、とでも言うのだろうか? 体をぶつける毎にその棘は簡単に折れて散らばっていくが、遠目から見ても簡単に分かる程に早く生え変わっている。

 時々その棘を自分の肉体の勢いでクシャルダオラに飛ばす事もあるが、それは暴風の前には全くの無意味だった。

 ただ、そのクシャルダオラも積極的に攻勢には出なかった。風のブレスや竜巻を発生させてはいるが、その牙や四肢で直接攻撃しにはいかない。

 そこには慎重さがあった。

 自分の力に己惚れていない。ネルギガンテという相手の危険性を理解して、一瞬の隙も見せていない。

 そのネルギガンテと言えば、攻撃が一つも掠らない事に対して、けれど苛立ちを表には見せていなかった。強敵であると分かっていて、そして挑んでいる。派手な攻撃は全てが外れようとも一切休まる事はなく、疲れを見せる事も無かった。

 

 時間が経つに連れて、ネルギガンテの肉体が今度は黒く染まり始めたのに男は気付いた。

 いや、肉体そのものが黒くなっているのではない、全身の棘が黒く染まり、まるで金属のように光沢を持ち始めていた。

 そして体から剥がれる事も無くなり、全身が常に黒い棘で覆われる。

 ネルギガンテを初めて討伐したその狩人から聞いた事を思い出す。

「全身の棘が黒く染まって、嫌な予感はしていた。咆哮から空に飛んで、俺に全身を捩じりながら突っ込んできた。

 ……直撃を避けられただけでも奇跡だった。けれど、ほら」

 その狩人が腹を見せて、傷跡を見せた。何かに貫かれたような傷跡が幾つか残っていた。

「黒く、硬質化した棘が全て飛んで来たんだ。急所には刺さらなかったが、それも運が良かっただけだった」

 そこまで思い出し終えた直後、当のネルギガンテは死を宣告するかのように後ろ足で立ち上がって吼え、飛び上がった。

 体を捩じり、巨大な翼を広げ、前足を思いきり叩きつけられるように構えて。膨大な質量、全身から生える硬質な棘。突進に耐えられるだけの頑強な肉体。直撃したら、狩人の体など文字通りバラバラになってしまうだろう。

 ただ、その姿勢はクシャルダオラにとって格好の的だった。

 そのネルギガンテは一瞬にして強烈な竜巻に包み込まれた。ネルギガンテがどうにかして脱出しようと足掻き始めるも遅く、クシャルダオラはその間にゆっくりと地面に足を付けた。

 そして今度は、クシャルダオラが咆哮をする番だった。ネルギガンテという巨大な古龍すらも翻弄する竜巻は、脱出はおろか、着地させる事すらも許さない。

「ギャアアアッ!!」

 ネルギガンテが咆哮した時のように後ろ足で立ち上がり、そして着地と共に放たれる最大のブレス。

 ごうっ!

 バキバキバキバキと龍結晶が弾け飛び、まるで地震のような揺れが確固として男にまで届く。距離があろうとも思わず足を踏ん張ってしまう程の風圧がまた届いてくる。

 そしてネルギガンテはその自力では脱出が敵わなかった竜巻の中から一気に弾き飛ばされ、まるでボールが弾むかのように全身を打ち付けながら、弾みながら転がっていく。

 そして高台から落ち、姿が消える。続いてずん、とその巨体が地面に激突した音が聞こえて来たのを最後にクシャルダオラは竜巻を収めた。

 高台の下を確認する事もなく、止めを刺しに行く事もなく。

 座って落ち着くと、一度だけ男の方を見てきた。

 まだ居たのかと言うかのように瞬きを何度かすると、顔を前に戻して欠伸をした。

「……帰ろう」

 見ているだけでも酷く疲れていた。

 古龍同士の争いなど初めて見たが、呼吸をする事すら忘れていた。結果としてはクシャルダオラの圧勝だったが、戦闘のスケールが今まで見てきた縄張り争いなどとは全くの別物だった。

 一撃一撃が全てか弱い人間の肉体では致死級だった。

 ネルギガンテはスタミナという言葉を知らないかのように、常に全力で攻め続けた。クシャルダオラはそのネルギガンテに対し、一瞬の隙を逃すことなく何もさせない程の竜巻を作り出し、そこに強烈な攻撃を叩きこんだ。

 しかもクシャルダオラは本気ではなかった。

 男にはどうも、あのクシャルダオラに狩人が勝てるとは思えなかった。勝てる狩人がきっとどこかには居るのだろうとも思いながらも。

 

 迂回して歩いていき、高台の下へと辿り着く。丁度、足を引きずりながら縄張りへと戻っていくネルギガンテが見えた。

 ……死んでいなかったのか。

 落ちた場所にはきっと口から吐いたであろう血が少々、それから棘がばらばらと落ちていて、数本持ち帰る事にした。

 黒い棘を二本持って叩き合わせてみると、カァン、と金属を打ち合わせるような音がした。

 先端に指をなぞらせると、血が滲む程に鋭かった。

 

*****

 

 アステラに戻り、スケッチを渡してから、見てきた事をそのまま報告する。

 ネルギガンテを意に介さない程に強い事。しかし、性質は古龍らしからぬほどの温厚である事。

 学者達が間近で古龍を観察するチャンスか? と期待する声を上げていたりもしたが、流石にそれは危ないと忠告する。

「……温厚ってどの位だったんじゃ」

 男は少し悩んでから言った。

「襲い掛かって来たネルギガンテを身動きの出来ない程の竜巻で包み込んで、全力のブレスをぶちこむ位には」

 そう言うと黙った。

 それからスケッチをじーっと見て、もう一度男の方に顔を戻す。

「けれど、絵からも伝わってくるな。なんか、迫力とか、そういうものがな」

「古龍を描いた事自体余り無いんですけどね……」

 頭を掻きながら言うと、いや、と言われた。

「あんたの描く絵はいつも忠実じゃ。今回もそうならば、これは紛れもなく強い個体じゃ。断言して良い」

「……ありがとうございます」

「あ、そうそう、報酬を忘れていたな」

 古龍とは言え、観察してくるだけの任務だと、そこまでの金額ではなかった。

「……」

 まあ、良い経験が出来たと取っておこう。




モンハンは真面目に二次創作をしようとしたらにとても難しい原作だと思ってる。
理由は単純で、常識的に考えて人間があんなデカいモンスターに勝てる訳無いでしょ! っていうね。
ゲームで一撃貰う=現実に考えたら死
そこを小説でゲームのシステムそのまんま流用してやろうとすると一気におかしくなるぞ。
ネルギガンテの破棘滅尽旋・天をまともに食らった! キャンプ送り! 復活!
なぁにそれ。
その問題を解決する為に話を見てみると色々と策はあるけれど、今回、自分はそもそも狩人とモンスターの戦闘シーンを余り書かない事で回避してる。

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