古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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狩人の最大の武器は鍛えた武器ではなく、多種多様なモンスターと戦ってきた経験だっていう文章を見た事が何度かあるけど、経験をどこで積み重ねるんだっていう事を良く思う。
敗北=死の世界で、更に模擬練習とかも出来ないのにリオレウスやらといきなり対峙して勝てるかねって。
あ、いや、パーティプレイ抜け落ちてた。初心者は最初ベテランにくっついてりゃ良いんだ。MHWだってそうだったじゃないか(ベテランの方がくっついてるだけだったけど)。そこからゆっくりとでも実戦慣れしていけばいいんだな。
一番最初の狩人は知らんが。


クシャルダオラ 4

 帰宅し、冷め切らない興奮のままにクシャルダオラの姿を描き続け、辺りが暗くなってきたのに気付いて筆を置いた。

 自分の三脚の隣には今、何も無い。新大陸にやって来た丁度の時は、そこには男が連れているオトモ、アイルー用に作られた三脚があった。

 そのオトモは陸珊瑚の台地を訪れるなり「……惚れたニャ」と言って以来、アステラに帰ってくる事は稀になっていた。あっちでも猫の手を借りたいというほどに人手不足なのは同じなようで、時々顔を合わせると忙しい事に不満気な愚痴を、けれどそう心からは思っていない様子で喋る。もうエリアの隅々まで記憶してしまうほどに歩き回った後でも、ふとした事で新しい発見があるのだとか。最近だといつもレイギエナに対しては遊ばれてばかりのパオウルムーが、そのレイギエナに一泡吹かせたところを見たとか言っていた。その後いつもよりこっぴどくやられるのも。

 

 絵は丁度キリのいい場所だった。下地はある程度出来、もう鮮度のある記憶はそう必要なかった。

 背を伸ばし、日が暮れないうちに食事をする。

 肉を食い千切り、蒸された穀物を頬張り、少しの酒を口に入れる頃には、疲労がどっと湧いてきていた。

 モンスターと戦った時以上だった。

 どうやら、自分が思っていた以上に緊張していたらしい。鋼の鎧を身に纏い、風を思うがままに操るクシャルダオラ。古龍を積極的に捕食する性質を持ち、破壊の限りを尽くす事から滅尽龍とも呼ばれるネルギガンテ。

 古龍と人間では生物としての格が違うのだ。だからだろうか、複数人ならまだしも、たった一人であれらと渡り合える狩人というものが、特に今日に至っては想像すらも出来なかった。

 どうやって近付くと言うのだろう。何をしたらあの強靭な肉体から血を吹かせられるのだろう。全ての動作が確殺になり得るという中、一方的に攻撃を与え続け、倒してしまうなんて、現実に有り得るのだろうか?

 実際にある、と言われても、その狩人を目の前にしたとしても、きっと実際に見せられるまでは信じられないだろう。

 

 体を洗う前にインナーを脱ぐと、塩の結晶がぽろぽろと剥がれ落ちて、それほどに汗を掻いていた、緊張していたのだと分かる。

 絵への意欲は早々ない程に湧き上がっていたが、けれど男は狩人であり、狩人として果たすべき責任があった。

 危機が迫れば幾ら疲れていようともそれに立ち向かわなければいけない。資源が不足すれば、時に竜の巣に忍び込んでまでそれを調達しに行かなければいけない。それが最優先だった。

 そんな時ほど、狩人を辞めたいなあと良く思う。そしてまた、狩人でなければそんな命のやり取りを見る事など出来なかったのだとも思う。

 また、新大陸では編纂者という、モンスターだけではなく新大陸全ての事柄を記録する為の狩人の相棒の仕組みがあった。

 ただ、男が新大陸に来たとき、狩人から編纂者になろうとは思わなかった。絵が得意でも、全てが生きた証を描きたいが為に狩人になったとしても。

 編纂者では自分の欲望は満たせなかった。武器も持たず、自衛の手段も大して持たずに狩人にくっついて物事を記録するだけでは、この新大陸のより深くまで足を運べない。命の営みに顔を突っ込めない。

 それがすぐに分かった。

 そして男には編纂者という相棒も居なかった。男が狩人になった目的そのものが、編纂者としての役割を担っていた。

 体を洗い終えて自室に戻ると、リセットされた鼻に絵の具の匂いがツンと流れてくる。しかしもう体に慣れ親しんでもいるその匂いはすぐに気にならなくなる。

 絵筆を一回手に取るものの、体の疲労は重めにある事を感じてすぐに置き、ベッドに倒れた。

「あー……」

 今日の出来事を、自分はきっと忘れる事など無いだろう。

 体感した格の違い。巨大な力同士のぶつかり合い。古龍の身に宿る莫大なエネルギー。その一つ一つが体に直接刻まれたかのように鮮明に思い出せた。

 ……また、あのクシャルダオラを見に行けるだろうか?

 あの姿をまた拝めるだろうか。その姿に思いを馳せている内に、気付いたら朝だった。

 

*****

 

 起きても体には疲労がまだ纏わりついていた。

 それでもストレッチを入念にし、愛刀と防具の手入れをし、外に出て飯をしっかりと食べる。食べていると、鍛冶師の一人から声を掛けられた。

「鉱石が足りないんですけど、お願いできますか?」

「いいけど、何を?」

「鉄鉱石とか、マカライト鉱石とか、そういうどこでも手に入るのが軒並み少なくなってきちゃっていて。

 どこでも手に入る素材だから取り合えず色んな人に頼んでいるんですけど、それでもまだまだ十分には集まらなくて。取り合えず、とにかく沢山欲しいんです」

「分かった。引き受けよう」

 疲れているのには変わりないし、調査とかの神経を使うクエストより採集の方が気分だった。そう思いながら報酬金を聞くと、やはり低めだった。

 疲れているから引き受けるけど。足りないならちょっと色を付けても良いんじゃないか?

 その言葉は心の中にしまっておいた。

 

 食べたものがしっかりとエネルギーとなって体を満たし始めた頃に男は古代樹の森に足を運んだ。ポーチには気持ち程度の回復薬や解毒薬やら。

 ところどころにある鉱脈にツルハシを打ち付け、カァン、カァン、と音を響かせる。荷が重くなってくれば一旦ベースキャンプに取った鉱石を置いて行き、また、カァン、カァンと音を響かせる。

 バコッ。

「あっ」

 時々、ライトクリスタルなどの希少な鉱石が見つかるが、残念ながら今回の目当てではない。

「欲しい素材に限って欲しい時に中々手に入らないんだよなあ」

 ポーチにしまいながら、そう呟いた。寄ってきたジャグラスやらを軽くあしらい、場所を変える。

 途中、どすどすと気配を隠そうともしない強い足音が聞こえてきて、身を潜めた。歩いてきたのは案の定というか、アンジャナフ。イビルジョーでなくて良かったと思いながらやり過ごす。

 凶暴なのには変わりはないにせよ、常に腹を空かせてどこからともなくうろついて何でもかんでも動くものを口に入れて回るイビルジョーより、時々夕日を見ながらぼーっとしている姿を見せるアンジャナフの方がよっぽど可愛げがあった。凶暴なのに変わりはないにせよ。

 足音が完全に聞こえなくなってから身を出すと、同時に身を出してきたトビカガチと目が合った。

「お、泣き虫」

 古代樹のトビカガチやドスジャグラス、大蟻塚のボルボロス、陸珊瑚のパオウルムー。やられてばっかりのモンスターは何だかんだで見てると多少可愛そうになってくる。ハンターを見止めてもトビカガチは威嚇すらしてこないでさっとどこかへと走り去っていった。

 ドスジャグラスとも違って子分も居らず、古代樹の巨大などのモンスターにも敵わず肩身を狭そうにしているのはいつ見ても同じだった。

 

 それからも淡々と歩き回って、目に付くところの鉱脈は大体掘り尽くす頃になっても指定された量の鉱石は集まりきらなかった。

 やっぱり割の良い依頼じゃないな……。そう思いながらも、足りない鉱石を集めようと、まだ訪れていないエリアへと行こうと思ったとき、遠く高くから羽音が聞こえた。

 古代樹の頂上付近から飛び立つリオレウスとリオレイア。……最近、子作りでピリピリしているから第二層より上には余り行くなと言われていたが。

 物惜しげに何度もその縄張りを見つめ返すリオレウスとリオレイアの口と足先には卵が丁寧に咥えられていた。

 ――今までなら、それを嫌な予感として捉えていただろう。

 子育てをしていたリオ夫婦がその場を明け渡すなど、それを上回る脅威が来た以外にない。そして、イビルジョーの痕跡も今まで見つけなかった事から、それは古龍しかあり得ない。

 鉱石を全てベースキャンプに置き、念の為にアイテムを揃える。

 そして、古代樹の森を好んで訪れる古龍は現状確認されている限りだとクシャルダオラ、ただ一種だった。

 ――今、男が感じているのは嫌な予感よりも、再びあのクシャルダオラを観察出来るという喜びだった。

 暗い色をした雲が古代樹の背後から、ゆっくりとやって来ていた。

 

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