亜種や希少種って言うのは最初からそうなのか、それとも成長するに連れて変わっていくのかとか、そこ辺りは定かじゃないと思うので、今回は後者にしました。
古代樹の森の頂上に住むリオ原種の番。大蟻塚の荒地の森林地帯に住むリオ亜種の番。
その二つの番は互いを認知しながらも、争う事は無い。互いに子供が出来た事もあって警戒心は強いが、無駄に争う事……特に、絶対に無傷では済まない相手に対して戦いを仕掛ける事はしないように心掛けていた。
狩人達に対してもそのような認識を持たれている。単純な実力差を実感しているのもあるだろうが、それ以上に古龍の中でも指折りに入る程の強者に気に入られている狩人が居る事も影響している。
狩人もリオレウスが良く見知られた竜であるとは言えど、この新大陸という地脈の影響溢れる地での子育てを観察出来る事はこの上無く現大陸との比較対象としての調査に適しており、無駄に手を出す事もない。
それぞれの地の子供達は、上手く飛べずに墜落死したのを除けば他に死ぬような個体は居らず、すくすくと成長していく。姿形が大きくなっていくに連れて、それぞれがどういう個体なのかも分かって来た頃。
それぞれの番達も驚きを隠せないような結果が出て来た。
古代樹の森のリオ原種の番の子は五匹。原種のリオレウス二匹、リオレイアが一匹。亜種のリオレイアが一匹。そして希少種のリオレウスが一匹。
大蟻塚の荒地のリオ亜種の番の子は四匹。原種のリオレウスが一匹。亜種のリオレウス、リオレイアが一匹ずつ。そして希少種のリオレイアが一匹。
そう、それぞれに希少種が一匹ずつ現れたのだ。
研究者達は現大陸でも滅多に見られないその希少種達を雛から観察出来るという事に歓声を上げ、ヒノキやマハワ等の優秀な狩人を連れてフィールドワークに引っ張り出す毎日。
海辺や湿地で子供達が遊んで去った後に糞をもほじくり返す研究者達を、戻って来た親が理解出来ないような目で見る事もあった。
原種の番と亜種の番は、互いの事を認知している。但し、仲は良くはない。もし、どちらかがもう一方を大した損害も無く倒せるのならば、もう子供諸共殺しているかもしれない程に。
だからこそ、それぞれは互いの事を良く観察していた。警戒を怠らなかった。
それは多少距離が近付く事もあると言う事でもあり。
また、リオレウス、リオレイアは原種でも亜種でも至って平凡な、平和な子育てをする。どこぞの戦闘狂のように托卵もせず、はたまたどこぞの反逆者のように卵を産んで放置する事もせず、真っ当に卵を孵して真っ当に育てる。
そんな、日に日に健全に成長していく好奇心旺盛な子供達が、親の静止も聞かずに見回りに付いて行くようになるのも自然な事であり。
ある日、その見回りをする時が原種と亜種で被った。
距離が近付くのを避けたそれぞれはしかし、いつもより大きく近付く。
太陽の光を受けてより一層煌めく金色の鱗が、艶めく銀色の鱗が、互いの目に届く。
成長しきっていない目では互いの事を豆粒程にしか見えなくとも、その輝かしい色は確固と届く。それぞれの子供達の中でも異質さを醸し出し、若干孤独感も抱いていたその二匹の時間はまるで止まったかのようで。
そんな様子を見たそれぞれの親は、運命の出会いをしたかのように目を離さない子供を脚で掴んで即座に帰った。
しかし、その後もぼうっと狩りにも参加せず、上の空のまま。自我を取り戻した頃には、もう既に夜で。親が情けに残していた、空腹にならない程度の僅かな肉を食べる。
食べ終えれば、またぼうっとし始めて。
手遅れである事は誰から見ても明らかだった。
*****
認知してしまったからにはもう、それを戻す事は出来ない。早速その夜に逢瀬をしようと、皆が寝静まった後にこっそり出かけようとしたそれぞれを、寝た振りをしていた親は流石に止める。
古代樹の森の頂上で。大蟻塚の荒地の、川の音が絶えず流れるその側で。
まだ体は成長しきっていないと言えど、その火竜の中でもとびきり優れた肉体は親元を離れても十分に生きていける程だろう。巣立ちが早いのも嬉しい事だ。
ただ、だからと言って、敵である相手の子と付き合おうとする事などは止めたくもなるのだろう。
そう静止させる父親が睨みつけるのに対し、しかし子も睨み返す。唸り声をすら上げて、そんな様子に母親や子供達も起きてしまい、怪訝そうな、不安そうな顔で見つめる。
しかしそれでも、その子は退かなかった。
リオレウスとリオレイアと言うのはどうしてだろうか、原種は原種同士、亜種は亜種同士、そして希少種も希少種同士としか番わない。
それが絶対なのかは不明だが、そうでない番を見る事などはきっと、希少種を肉眼で見る事よりも叶わない事だろう。
そして希少種であるその二匹は、自分達が他の原種、亜種と比べてとびきり数が少ない事も本能的に理解しているのかもしれない。
睨み合いが続いた時間は、どちらもそう変わらなかった。原種の父親は希少種のリオレウスを蹴って吼えた。亜種の父親は希少種のリオレイアを尻尾で叩き、よろけたその目の前に火球を放った。
もう、お前は巣立ちの時だ。戻って来るな、と言うように。
希少種のリオレウスはそれに対して吼えて飛んだ。そして出ていく前にもう一度振り向いた。原種の父親は威嚇するようにより強く吼えた。
希少種のリオレイアはそこまでされる事に困惑し、しかし亜種の父親はすぅ、と息を吸った。炎がその口から漏れる。本気だ。空に飛び、しかしまだ父親はいつでも炎を吐けるように構えている。
そうして希少種達は巣立ちを迎えた。
それぞれは戸惑いながらも、互いに向けて飛んで行く。アステラにて今日の成果を整理していた研究者が、明日の仕込みをしていた料理長とその弟子達が。欠伸をしながら明日に備えて寝ようとする狩人が、はたまた夜の見張りの眠気覚ましに茶を飲んでいた狩人が、月光をより輝かしく反射させようとする程に映える姿を見た。
その肉体はまだ子供のものだ。しかし、並みの竜ではもう敵わない程の力を備えている事も見て取れる。
そして、古代樹の森の方でその二匹はとうとう出会う。空中で会ったその二匹は馴れ初めにぎくしゃくする事もなく、まるで予定調和かのように海岸の方へ降りて行った。
狩人達がこっそりと観察しに行こうとすると、アステラの上にもう一つの陰が出来たのに気付いた。亜種のリオレウスがアステラの方を睨みつけていた。
そして、古代樹の森の方からも原種のリオレウスが。丁度、海岸からは見えないであろう位置に。
リオレウス達は、やはり変わらず竜種の中でも強く親心を持つ竜であった。追い払うかのように庇護から突き放しても、互いが失恋する位なら、もしくは殺し合いに発展する位に相性が合わなかったのならば、また子として扱う事も考えたのかもしれない。
しかし、そんな事は杞憂である事がすぐに分かる。ぎゃうぎゃうと互いに喜び合うような、そんな嬉し気な声が届いてきた。
それに対して、どちらの父親もやはり微妙な顔をしていた。正直なところ、失恋していて欲しかったと思える位には。
親戚になるとかそんな概念が竜にもあるのかは分からないが、少なくとも喜べる事ではないらしい。
近くに行けばハートマークさえ見えそうなそんな声。
互いの父親はお前が悪いと言うかのようにそれぞれを強く睨みつけ、しかしそんな顔も希少種達の甘々な声によって威勢を削がれていく。そこに初対面だからだとか、親がいがみ合っているからとか、そんな憂慮は一分足りとも無かった。
後は父親達は諦めたようにそんな様子を見守る事に尽くした。その子達が自分の所へと帰って来る事はなく、本当に巣立って行く事を確信しながら。
暫くのそんな睦み合いが続いてから、その二匹は夜の森へと繰り出していく。父親達は咄嗟に隠れて、そして後を追って行く。
その前に亜種の父親は狩人達に追って来るなと言うように、一度静かに吼えてから。
「どうする?」
ここで見逃してしまえば、その希少種達がその後どこへ行ったのかも分からなくなってしまう。かと言って、交戦は厳禁だ。リオレウス達と一度交戦してしまえば、観察などは殆ど出来なくなってしまう。
そう言う訳でヒノキが呼ばれたのは当然の事だった。
「……今日、俺は朝からずっとあんた達の荒地散策に付き合ってたんだが?」
そう言いながらも叩き起こされたヒノキはもう準備を終えている。
もう竜を狩る事は久しくしていないとは言え、勘こそ鈍ったかもしれないが、太刀の腕そのものは鈍っていない。それに一日中の散策とは言え、竜などと交戦もせずに歩き回るだけで夜に活動出来なくなる程度の体力しか持っていなかったら狩人になる事すら出来ない。
「そう言わないで頼むよ」
「……後で何か奢ってくれよ」
そう言いながら、いつもと変わりない足取りで古代樹の森へと一人で歩いて行った。
*****
血の臭いがしてきたかと思えば、目の先に亜種のリオレウスが居て身を潜める。襲われる事が無いと言えど、見つからないに越した事は無い。
幸いな事に風下で、この鎧に染みついた血……匂いというよりも古龍としての威厳を感じさせる何かが流れて行く事も無い。
しかしながら、それでも目の良いリオレウス達から身を潜めるのは難しい事だ。しかも二匹居ると言うし、加えてそれぞれが歴戦と冠せられる程ではないにせよ優れた個体であるには間違いない。
……最悪、その希少種達がどこに向かったかだけでも分かれば問題ないだろう。
そう思ってヒノキは無理に距離を詰める事はしなかった。亜種のリオレウスの先からは、睦み合う声が聞こえる。その希少種達の声なのだろうが、聞く限りではそう原種、亜種と違うようには感じられない。
リオレウス達がこっそり見張りをしている中に誰かがちょっかいを出しに来る訳もなく、甘い時間がただただ続く。
退屈だ、とヒノキは思った。カシワが居れば連れて来たのだが、生憎今日も今日とて陸珊瑚の台地でスケッチを描き続けていた。
そのカシワに対しては最近、交易船からその絵本を送り届けた出版社から手紙が届いていた。
キリンとパオウルムーの絵本が出版された事と、その売り上げがとても上々だという事、続きを是非とも描いて欲しいという旨が書かれていたが、それを読んだカシワはとても複雑な顔をしていた。
「……ボク、どうしたら良いニャ?」
「…………さあ」
少しばかし悩んだ後、カシワは一文だけ短く書いて、その返信を送った。
"キリンとパオウルムーは死にました"と。
そんな事も思い出したりしながら程々に時間が経った後、咄嗟にリオレウスの亜種が身を翻して駆けて来た。物陰に隠れていたヒノキには気付かず、そのまま遠くまで。
……警戒に関しては原種の方が優れているな。
過去に、イビルジョーとの交戦中にも隠れていた自分を目ざとく見つけた原種のリオレウスならば、気付いた事だろう。
そう思っていると、続いて希少種達が歩いてやって来る。
ヒノキにとっても初めて見たその希少種。月光に照らされる金と銀の身は、神格化する人も居たと言うのにも頷ける程に美しかった。
また、口元の汚れをそれぞれ舐め取りながら歩いて来る様は、本当に今晩出会ったとは思えない程にそれぞれへの愛を感じさせた。
しかし、そんな様子も父親の足跡に気付くと終わる。リオレイアが怪訝そうな顔で足跡の先を見ながらも、リオレウスも辺りを見回す。
強者としての風格をもう既に醸し出しつつも、まだ子供っぽさも抜けていない。
また歩き始めた希少種達は、しかし隠れ身の装衣を纏ったヒノキの隣を通り過ぎようとした所でまた足を止めた。
鼻をひくつかせ、何かを感じ取る。
隠れ身の装衣を付けようとも、古龍の濃厚なマーキングを受けたその威圧までは消せないようだった。
あ、ばれたか、と思うと同時に、二匹はヒノキを見つけた。
「グルルッ……」
素直に威嚇して来るその二匹。
……クシャルダオラと俺が一緒に居たところも、特にリオレウスの方は見た事があるはずだが。
如何に希少種だろうと、二匹だろうと、まともな戦闘経験も無い子供などには負けはしない。しかし、殺すのはご法度だ。
そんな理由で、ヒノキはこやし弾をスリンガーに装填した。
……ただ、今、俺に攻撃して来ようとする位に危険に対しての感覚が無いのならば長生き出来ないだろう。
「ガアアッ!!」
けれど、そう吼えただけでリオレウスはリオレイアを連れ去って行った。リオレイアの方は余り納得の行かないような顔をしていたが、それでもリオレウスは引っ張って連れて行った。
「良かった、か」
怯むまでは行かなくとも、耳がキィンと鳴る程にはもう強い咆哮。
後からやってきた原種のリオレウスが、自分を見て、余り来ないでくれというような懇願の目をしてきた。
その後も希少種達はデート感覚で古代樹の森を回り、数時間が経ってからアステラからも程遠くない岬で眠りに就いた。
アンジャナフが良く黄昏ているその場所だ。
父親達がこっそりと見ている事を知ってか知らずか、近付いても早々に起きない程に熟睡している。
そんな様子に父親達は呆れながらも、互いに見守る事に決めたようだった。
距離を取りつつも、険悪さは薄れている。
それは一時的なものなのか、これからずっとかは分からないが、少なくとも希少種達が遠くどこかに行かない限りは続くだろう。
夜も更けようとする時間。もう良いかと探索を切り上げようとしたヒノキだったが、ふと空を眺めると。
「うぇ……」
丁度クシャルダオラがやって来ていた。
流石に眠いし疲れ始めているのに。
そう思いながらも、岩に腰を下ろして体を預け、その爪先に二つ目になる手帳を挟んでやって来るのを眺める。
大きく欠伸をして、クシャルダオラがやって来る空を警戒も何もせずにぼうっと眺めるヒノキの事を、リオレウスは妙な目で見ていた。
一番印象に残った章
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クシャルダオラ
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キリン
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ナナ・テスカトリ
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マム・タロト
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ネルギガンテ