ヴァルハザクを倒すには、どのような手段が必要か。
瘴気と共生し、またその瘴気を自由自在に操るそのヴァルハザクの体力は、その瘴気の分も含めて古龍の中でも遥かに高いだろう。現に、火竜の二匹が幾度と切り裂き、炎を吐いてもそれらの傷は全て、程なくして塞がってしまっている。
竜であろうともとっくに致死量に至る程の毒を身に受けたはずなのに、その動きには微塵の淀みも見られない。
残念ながら、火竜二匹の攻撃はヴァルハザクにとって未だ大したダメージにはなっていなかった。今まで受けた傷を治癒するのに使った体力も、この古代樹の森に来てから奪い取ったエネルギーの半分にも満たない。
そして、即座に治らないような深い傷をヴァルハザクに与えられる手段を、火竜達は持っていなかった。
火竜の持つ、爪、尻尾、火炎。それらのどれも、ヴァルハザクにとってはかすり傷に過ぎなかった。
ディアブロスのような岩盤をも貫く角、ディノバルドのような竜の肉体でさえ両断してしまいそうな重量のある刃、ブラキディオスのような何者をも砕くその拳。
そのような、まともに受ければ古龍でさえもただでは済まない文字通りの必殺の一撃があれば、ヴァルハザクにとってもここまで平然とはして居られなかっただろう。
だが、火竜という種は、空の王者と呼ばれる程の飛行能力を持つその代わりに、そのような絶大な威力を持つ攻撃手段を持っていなかった。
火竜は、いや、力ではなく、手数や速さの翻弄で敵を攻め立てる事を得意とする全ては、ヴァルハザクに対して相性が悪い。
それも、火竜達も内心では理解していた。
どう見ても、自分達が幾度も幾度も攻撃して削った体力よりも、ひたすらに撒き散らされる瘴気から蝕まれる体力の方が多い。
一向に強い攻撃を当てられないヴァルハザクも苛立ちを増していたが、しかし急所は確固と守りを固めている。優勢なのは自分なのだと理解していた。
だが。
唐突に舞い降りてきた二匹の新たな火竜。輝く金と煌めく銀の鱗に覆われたそれらに対して、ヴァルハザクは初めて焦りを覚えた。
火竜を見る事すらここに来ての初めてだったが、火竜と蒼火竜の存在感は多少強けれどただの竜のそれだった。瘴気に苦しめられれば、無尽蔵に思えるかと思うような体力もない。攻撃だって平凡だ。
だが、この金と銀の火竜の存在感は一線を画している。派手な見た目だけじゃない、まだ歴戦を生き延びてきたと言ったような様子は見えないのにも関わらず、どうしてか内に秘めたその力は火竜と蒼火竜よりも強大に思える。
半ば反射的に、ヴァルハザクはブレスを横薙ぎに払った。
金火竜と銀火竜はそれを跳んで躱す。火竜と蒼火竜のような必要最低限の、即座に攻めに転じられるような避け方ではない。着地して愚直に真っ直ぐ攻めてくる。胞子嚢を活性化させて、防御を濃くした。それを見た金火竜と銀火竜は跳んだかと思えば強く息を吸った。
どこを狙うのかバレバレではあるが、完全に息の合った、狙いを一点に定めた攻撃所作。激しい悪寒を覚えたヴァルハザクは咄嗟に回避を選択していた。
その次の瞬間、その二匹から青みがかった火球が放たれ、寸前まで居た位置に着弾、激しい爆発を引き起こした。
吹き飛んだ石や砂がぱらぱらと降ってくる。地面は抉れ、瘴気は燃え散っていた。
親でさえ唖然とする威力。着地した金火竜と銀火竜は、それからヴァルハザクに向かって咆哮をした。
それは火竜二匹が向けてきたような殺意でもなければ、格上に対する挑戦的なものでもなかった。対等かそれ以下に対するような、余裕のあるものだった。
ヴァルハザクの怒りは頂点に達した。
しかし。
流石に火竜四匹を相手にしては、分が悪いと判断したのか、ヴァルハザクは踵を返して別のエリアへと移動しようとする。こんな開けた場所ではなく、より緑が生い茂った場所、即ち奪えるエネルギーが多い場所を選ぼうとする。
撒き散らしてきた瘴気を回収する事も踏まえてか、そうしてヴァルハザクは元来た道を戻ろうとした。狩人も居ただろうが、強い瘴気に対して何も出来なくなる程の矮小な存在だ。それに、前に自分を瀕死にまで追い詰めた狩人も居ない。
その、追い詰めるだけ追い詰めて立ち去っていった狩人の事を思い出して、殺意がぶり返した。その為にここまでやって来たのだから。
思考がそんな過去に幾許かの間飛んだその後、目の前に何か置いてある事に気付いた。狩人が置いていったもののようだが……、苛立ちに任せて蹴り飛ばすと、激しい爆発を起こした。
「!!??」
派手に転ぶヴァルハザク。
その瞬間、潜んでいた狩人達が飛び出してきた。頭の前に位置取りをした狩人が大剣を掲げ、双剣を握った狩人がひたすらに全身を切り刻む。咄嗟に胞子嚢を爆発させて、その二人を吹き飛ばした。
だが、起きあがろうとしたその時、上からぱんっ、と何かが弾ける音がした。
その直後、拡散弾がヴァルハザクに降り注いだ。二度、三度。茂みの奥からドンッ、ドンッ!! と重たい射撃音が未だに響いてきて、その度に全身の胞子が容赦無く焼き払われていく。
殺意が限界突破する。
「ギュアアアアッ!!!!」
気合いで立ち上がって、まずはと目の前に居た大剣使いを仕留めようと追いかける。既に逃げ始めていた大剣使いはしかし一瞬振り向いて、閃光弾を放った。
無闇にブレスを放つが、当たった感触は無く。次に視界が開けた時には、もうどこを振り返っても誰も居なかった。
殺意の行き場もなく、ヴァルハザクはひたすらに苛立ちを募らせる。
どうしてくれようか? どうしてくれようか!!
だが、続いて聞こえてきたのは複数の火竜の羽ばたく音だった。
自分の前後に降り立ったその四匹。目の前の蒼火竜は口周りを血で汚していた。エネルギー補給を終わらせてきたようだった。
「ガアアアアッ!!」
そして、未だ殺意を十全に滾らせた目で咆哮を放ってくる。もう逃がさないと言うようなそんな勢いが、ひたすらに不愉快だった。
*****
……ヴァルハザクの敗因は幾つもあった。
敵を作り過ぎた事。
瘴気の谷の中の世界しか知らなかった事。
より強い力を手に入れたとは言え、それでもクシャルダオラ程に常軌を逸した強さを持てなかった事。
そして、金火竜と銀火竜がやってくると言う、運の悪さがそれに拍車を掛けた。
ただの火竜二匹に対して、優勢に立ち回りつつも、一向に止めを刺せる展開へと持っていく事は出来なかった。
見下していた、実際矮小だった狩人達に嵌められた。
スタミナを取り戻した火竜と蒼火竜。そのスペックの高さを一糸乱れぬコンビネーションで叩きつけてくる金火竜と銀火竜。それらに自らが劣っていると認めざるを得ないと理解した時には、もうその全身は回復が間に合わず傷だらけになっていた。強く瘴気を放つ為の胞子嚢はもう殆どが焼き焦がされ、再生する暇を与えられない。頭を覆っていた胞子嚢も燃やされ尽くし、隠れていた素顔が露わになっていた。
しかし、逃げる事も容易には適わない。傲慢が失せた時には、それは死への恐怖と翻って一斉に返ってくる。有効打を一撃すらも与えられていないその事実が苛立ちから絶望になって戻ってきた。
だが、金火竜と銀火竜、その二匹の動きはやはり稚拙だ。せめてこの二匹さえ少しの間でもどうにか出来れば、別の場所にばら撒いてきた瘴気を回復出来る、挽回出来る。
見下していて今までは完全に集中していなかったが、今になって命の危険を覚えてやっと、深い集中に入る。どうにかしてあの無駄に輝いている二匹に瘴気を浴びせられれば。
僅かに体に残っている胞子嚢から瘴気を放つ。それを避けて蒼火竜が潰そうと爪を向けてくる。避けてブレスを放つ。その軌道上にいた金火竜が慌てて身を伏せた。火竜が金火竜を庇うように立ち塞がり、銀火竜が攻めてくる。
背後から、しかし音や振動で分かりやすい。尾で薙ぎ払えば、受け止められたが足が止まったのが分かる。すかさずその銀火竜に振り向いてブレスを放つ。蒼火竜に頭を掴まれたが、とうとうブレスが当たった。
腹から顎へと瘴気のブレスを受けた銀火竜は崩れ落ち「ガッ、ゴボォッ」と強く吐く。
まずは一匹目。
少しばかしの余裕を持ち直す。蒼火竜を瘴気を強く放ちながら力づくで振り払うと、しかし、そんな咳が続いていない事に気付いた。
それどころか、チリチリと表皮が焼けるような感覚までを覚える。
嫌な予感がした。
「ガアアアアアッ!!」
振り向けば、聞こえた強い咆哮。体内から炎を燃やしているような、青白く輝き始めたその全身。
「グッ、ガグッ」
あらかさまに無理をしているその状態はしかし、瘴気が寄っただけで燃えて尽きていた。
劫炎状態。
それは、火竜の希少種のみが顕現させる特殊な形態。古龍に匹敵するとも言われるその火竜の真髄である。
その身に宿す熱によって瘴気が微塵も効かなくなったその状態は、ヴァルハザクに更に命の危機を覚えさせるには十分であった。
逃げなければいけない!
ヴァルハザクは飛び上がった。全身の瘴気を全て放ってでも、今はここから逃げる事が先決だ!
……だが、咆哮と共に全身を強く開かそうとも、瘴気はぷしゅぅ、としか出てこなかった。
「ギュ、ギュア?」
もう既に、そんな事を出来る程の瘴気は身体には残っていなかった。補給も適わず、エネルギーを奪う事も大して出来ないままに燃やされ続けた今までの過程が、とうとう実を結んだ。
そして起きた事実を理解出来ないままに着地したその眼前には、金火竜が構えていた。
サマーソルト。
金火竜のそれは通常種、亜種のそれよりも更に苛烈な、横回転からの縦回転の二段構えである。
一撃目がヴァルハザクの横顔を殴りつけ、怯んだその顎をかち上げる。
悲鳴を上げる間もなく、蒼火竜がそれを踏みつけ、地面へと叩きつけた。
必死に暴れるヴァルハザクはしかし、もう先程までの力強さもなかった。金火竜の激しく強烈な毒が、瘴気を、補える体力を失ったその体をとうとう蝕んでいく。そして、それ以上に瘴気を使い尽くしてしまったその絶望が、心をも蝕んでいた。
火竜もその体を全身で抑えて拘束する。瘴気を失ったヴァルハザクなど、もう恐れるものではなかった。
その間に金火竜も劫炎状態へと移行し、銀火竜と並び立つ。
すぅぅぅっ!
ヴァルハザクの目の前で二匹が息を強く吸う。更に火竜と蒼火竜の爪から体に伝えられていく毒が相乗して、足掻く事すら許されなくなっていく。
「ギィッ、ゴブゥッ、ゴヒュッ」
血を吐き、体が痺れる。目が霞む。激しい悪寒が体を包み込む。
蒼火竜と火竜がその身から離れた時、もうヴァルハザクは目の前に迫る青白い炎に、諦めるしか出来なかった。
そして起きた大爆発は、咄嗟に離れた蒼火竜と火竜さえをも吹き飛ばした。
*****
血煙が晴れていく。
段々と露わになっていくその威力は、頭を完全に失ったヴァルハザクという結果で明示された。
先程よりも更に威力を増したその結果に慄く父親達に対して、劫炎状態を解いた金火竜と銀火竜は、呑気に口付けを交わしていた。
まあ、
ヴァルハザク vs 火竜x4
だったら火竜が勝つよね、っていう。
瘴気を使い果たしたヴァルハザクに対し、サマーソルトから火球大爆発という流れが最初からイメージとして鮮明にあったのです。
ヴァルハザク:
文中でもあったように、マハワへのリベンジを目的に古代樹の森に来ていました。
再び会う事もなく死にました。
後1話だけ続きます。
因みにRiseで小説書くとしたら、現状だとマガイマガドを結構主役級に据えて書きたいとか思ってたり。
タマミツネ♂に惚れるジンオウガ♀とマガイマガド♀の話とか。
まあ、本編やってからじゃないと明確には分からんけど。