古龍を描く狩人   作:ムラムリ

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クシャルダオラ 7

 縦斬り、突き、斬り下がり。移動切りからローリングを挟んで縦切り、そして爆弾樽の火口を突きで切り裂き、樽を点火させる。シューッと火花が弾ける音がする。タイミングを読み、爆発する寸前に身を引き、見切り斬り。

 集中してきたところで気刃斬り、気刃大回転斬り。一度納刀し、直後にまた縦斬りから大樽に向けて斬り下がり、距離を調整して最後に気刃兜割り。

 腰を低く構え、切っ先を鋭く大樽に向けて、一気に突き出す。ずん、と深くまで突き刺さったそれを切り裂きながら引き抜き、同時に大樽を踏み台にし、高く跳び、空中から一気に叩き割る。

 一瞬遅れて大樽は真っ二つにぱっかりと割れた。

「ふーっ……」

 あれから一週間が経った。男の体はもう殆ど骨折する前と変わらない。

 骨折している場所はまだ痛むが、それも僅かだ。

 とことこと歩いてきたアイルーが聞いた。

「ヒノキ。もう、動いて大丈夫ニャ?」

 男、ヒノキは答えた。

「大体な」

「じゃあ、ボクも明日にはあっちに戻るニャ」

「おう、そうか。すまんな、看病なんかしてもらって」

 アイルーは別に恥ずかしがったりすることなく答えた。

「いつも主人を放ってブラブラしてるから、流石にこういう時くらいニャ役に立ちますニャ」

「あー、まー、うん。それでカシワ。今日の朝お前、どっか行ってただろ。どっかで何か描いていたのか?」

「そうニャ、ちょっと散歩に古代樹のテトルーのところまで行ってたんだけどニャ、リオ夫婦が戻ってきてたんだニャ。さらりとその様子書いてきたニャ」

 ヒノキが写実的に物事を描くのならば、アイルーのカシワはそこまで細部に拘らずに特徴がより強調されたような独特な絵を良く描いた。

 かと言ってそれが下手だとか見辛いとかそういう事は全くなく、良い味を出していると、特に子供に人気な絵だった。

 アイルーの体躯からしたら大きめな手帳を背中から降ろすと、リオレウスがリオレイアの子を丁寧に舐めている絵があった。

 遠くからリオレイアがケストドンを掴んで飛んでくるのが見える。

 和やかな絵だった。

「子供、生まれてたのか」

「ニャ、まだまだ頂上付近には近づかない方が良さそうニャ」

「そうだなー……」

 別に頂上まで行かなければ採れない素材も無いし、そう困る事は無いだろう。多少、採り辛くなる素材はあるが。

 

 クシャルダオラの肉体はネルギガンテが去った後には見るも無残な姿になっており、素材も精々龍鱗が数える程度に取れただけだったとか。

 雨風が過ぎ去り、ネルギガンテはクシャルダオラの肉体を何度か食べに来た後は、古代樹の森も平穏が戻り、モンスター達も戻って来た。

 あれから七日間、古代樹の森で古龍を除けば生態系の頂点に立つリオ夫婦も戻ってきて、空は快晴。

 ヒノキの体も殆ど治り、明日からはまた任務を受け始めるだろう。

 ただ、一つ問題があった。

 クシャルダオラによって切り裂かれ、そして尾の一撃をまともに食らったその上鎧は、脱いだ時にばらりと壊れてしまった。

「鎧、もう少し頑丈なものが欲しいなー……」

 予備の鎧は、当然着ていた鎧よりも耐久性は劣る。

 ただ、問題となるのは、新大陸という環境で実際に狩猟の対象となるような迷惑だったり有害だったりするモンスターはそう多くない事だった。

 バゼルギウスやイビルジョーなどは拠点の近くに居るだけで狩猟対象になったりするが、それ以外のモンスターが実際に狩猟すべきとなる事までは大して無い。

 ただ通りすがった程度では凶暴で知られるディアブロスでも攻撃してくる事は無い程に、新大陸のモンスターは他の場所で暮らすモンスターよりも温厚だった。ちょっかいを出せば普通に襲い掛かって来るが、そうでもしない限り、積極的に人に害を為すモンスターは少ない。

 それは逆にモンスターの素材が余り手に入らないという事でもあった。

「イビルジョーの素材、ある程度ヒノキ持ってなかったニャ?」

「……胴の防具なら太刀にも合うし、防御力もあるだろうけど、……あんまり好きじゃない」

「そうかニャ」

「何かな、特に胴や頭、腰辺りの装備は、身に着けるとそのモンスターを身に纏うような感覚が強いんだよな。イビルジョーにはなりたくない」

「そうなるとバゼルギウスもニャ?」

「まあ、そうだな、そうなるな。それにバゼルギウスの胴の防具は太刀に似合わない」

「面倒なご主人ニャ」

「こだわるところはこだわりたいしな。

 ただ、とは言えなー……」

 参った、と空をぼうっと見上げるヒノキを見て、カシワはため息を吐いた。

 

 カシワに引っ張られて依頼一覧を見ると、瘴気の谷に新しく住み着いたオドガロンが厄介で困っているという依頼があり、受ける事にした。

「前に居たオドガロンはフィールドマスターが出会い頭に肥やし玉投げまくっている内に流石に嫌になったのか消えていたんだけどニャ、この頃強い個体が新しく住み着いて危険なんだニャ。ヴァルハザクにも積極的に攻撃を仕掛けるほどニャ。肥やし玉もひょいひょい避けるし、もう肥やし玉の在庫も少ないんだニャ」

「……誰か他に引き受ける人は居ないかな?」

 強い個体のようだ。予備の防具で挑むには心許ない。

 多少呼び掛けてみると、マハワが応えてくれた。

「今回、俺はライトボウガンで行くよ。ゼノ・ジーヴァから作られた素材がつい最近出来上がってな、色々試してみたんだがガンナー向けなんだ」

 ゼノ・ジーヴァから作られた防具……。その姿も見た事が無いが、どのようなものなのだろう?

「そうすると、マハワは援護か?」

「いや、どちらでも? ある程度何でも使えるからな」

 そのある程度何でも使えるの精度が、俺が長年使い続けている太刀の腕と同等かそれ以上だからこいつはヤバいんだとヒノキは思い直した。

「分かった。まあ、やり易いようにやろうか」

「そうだな」

 

*****

 

 そう言って研究基地で合流した時のマハワの姿は、何というのだろうか……色自体はそう派手ではないのだが、多分ゼノ・ジーヴァの何かの膜を加工したものが取り付けられていて、マハワが動く度に淡い水色のそれがゆらゆらと動くのがとても派手だった。まるで、古龍そのもののようだった。

 古龍を単独で討伐してしまう人間を、人間と呼んで良いのだろうか? と思った。

「そういえば、編纂者の相棒は?」

「この前イビルジョーに襲われたにも関わらず、古代樹で植生調査続けてるよ。無謀というか肝が太いというか……」

 多分、無謀と言った方が近いだろうという言葉は仕舞っておいた。編纂者として成果は沢山出している方なのだが、トラブルメーカーである事も確かだった。

 

 裂傷を負った時は肥やし玉を当てる事に専念する、ヒノキは練気を溜める事に専念し、隙が出来次第兜割りを叩きこむ。

 そんなような簡単な打ち合わせをしてはた迷惑なオドガロンを討伐しに瘴気の谷へと足を踏み入れた。

 相変わらず空気の悪い場所だが、古龍が訪れている時のような静けさや、ところどころにあの騒々しい爆鱗が落ちていたりなどはしない。平穏な時間だな……と思ったら早速ラドバルキンに噛みついているオドガロンを見つけた。

 ラドバルキンがそれを何とか振り解くと体を回転させて一気に体の骨を周囲に振り飛ばし、オドガロンはそれをひょいと避けて、また噛みついて行く。

 その真上、落ちそうな石柱があり、マハワが早速ライトボウガンを取り出してその石柱に一発、バンッと音を立てて弾を当てた。

 オドガロンが気付き、同時に石柱が落ちてくる。咄嗟に避けたオドガロンに、ヒノキが初撃を叩き込んだ。

 ラドバルキンは石柱をモロに食らって気絶した。

 オドガロンの咆哮を引いて回避し、攻撃動作に移る前にもう一撃、強い個体のその表皮はやや硬く、切り裂くまでは至らない。

 そして途端に猛攻が始まった。

 トビカガチよりも激しく、隙もなく、そして惨爪竜の名が示す通りの多段の爪で切り裂きに掛かってくる。

 素早い一撃一撃を一つでもまともに食らってしまったら、肉体は悲惨に切り刻まれる。その一つ一つを的確に躱し、最後の最も勢いの乗った一撃を横に避けて同時に刃を薙ぐ。

 クシャルダオラの時のようにまで刃が通らない感覚はしない。向き直そうとしたオドガロンが今度は射撃を喰らう。しかし、追撃が来る前にヒノキから距離を取り、鬱陶しさからか今度はマハワに狙いを定めた。

 右に左に、ヒノキが見た事のあるオドガロンよりも数段早く跳びながら、距離を詰めていく。マハワの狙いも流石にぶれ、しかしマハワはボウガンの持ち方を変えてオドガロンに距離を詰められるのを何故か許した。

 走った勢いも乗った爪の一撃、寸前で躱したマハワは、ボウガンでその鼻を思いきり殴りつけ、思わず「ギャインッ!」とオドガロンは悲鳴を上げて逃げていった。

「……相変わらず凄い事するな」

「オドガロンは目が悪い代わりに鼻が鋭いからな、そこを狙ってやるといいぞ」

 ボウガンの先についたオドガロンの鼻血を拭い取り、太刀も砥石で研ぎ直してから臭いを覚えた導虫を追っていった。

 

 瘴気の谷の谷底。ヴァルハザクと共生する瘴気は今は薄く、この付近には今は居ないようだった。ドスギルオスとギルオスの群れが居る場所を確認し、刺激を与えないように通り過ぎて、瘴気の谷でも珍しくハチが居る場所に来た時、マハワが唐突に構えた。

 巨大な何かが走って来る音……四つ足、巨体。オドガロンしかあり得ないその足音が遅れて聞こえてきた。

 真正面に姿を見せ、マハワがトリガーを引いた時にはもう跳躍して壁にその鋭い爪を生かして張り付き、そこから飛び掛かって来る。

 後ろ? 突進の勢いには負ける。横? 尻尾の薙ぎ払いが来る。 前! 跳んでオドガロンの真下を掻い潜る。双剣や片手剣ならその瞬間に腹を掻っ捌く事も出来たのだろう、ただ太刀の長さではそう器用には出来なかった。しかしやはりと言うべきか、マハワは違った。ローリングの真っただ中、完全なタイミングで散弾を腹にほぼゼロ距離から撃ち込んだ。

「ギャインッ!」

 二度目の悲鳴、オドガロンは痛みでのたうち回り、しかし追撃は跳んで避けた。体勢を立て直すと威嚇するように咆哮をしたが、直後に襲い掛かって来る事は無く、グルル……と間合いを見計らい始めた。腹からはぽたぽたと血が垂れていたが、少量だ。如何に急所に当てようともそれ一発で倒れてくれるほどモンスターはヤワな存在ではない。

 マハワがトリガーを引く。ヘビィボウガンに比べれば軽い音が、しかし連続的に放たれる。ただ、距離が遠い、大したダメージにはならない。

 鬱陶しく思われているだけだが、ヒノキが太刀で攻め込みに行く。鼻への突き、軽くしか当たらなかったが嫌がるようにバックステップで逃げた。そして、マハワの射線にヒノキが重なる位置から再び攻めて来た。

 後ろで軽く舌打ちが聞こえた。不快というよりかは手強さに感心しているような舌打ち。猛攻をいなし、太刀の一撃を入れる。躱され、掠っただけ。ここは新大陸だ、狩人と戦う経験はほぼ無いはずだがそうは思えない程に戦い慣れていた。

 後ろからはマハワが回り込む足音が聞こえるが、オドガロンもそれに合わせて位置を変えてくる。

 ヒノキが中心となっていた。自分が倒れるにせよ戦うにせよ、戦況は一気に傾くだろう。そう思ったときだった。

 オドガロンが飛び掛かってきて、躱そうとしたが直前で横にステップし、ヒノキを追い越した。狙いはマハワか? と思った瞬間更に急旋回し、ヒノキに狙いを付け直す。

 振り向いただけのヒノキにオドガロンが飛び掛かった。

 マハワより弱いとオドガロンに対して思われていたのだろう、それは正しいがヒノキも弱者ではない。古龍に及ばないとは言え、竜を十を超える年月の間狩り続け、今もこうして立ち続けている狩人だった。

 飛び掛かりを咄嗟に見切り、その胴体を深く切り裂いた。

 三度目の悲鳴、少なくない量の血がぼたぼたと流れ始め、怯んだところに更に強い一撃が入る。

 溜まらずオドガロンがまた逃げようとしたところに、マハワのトリガーが正確に引かれた。一、二、三、四発。頭、首、前足、後ろ足。それぞれに穿たれた弾丸がシューッと音を立て、一つ遅れて爆発する。

 オドガロンが倒れた。

「今だ!」

 マハワが叫んだ時には既にヒノキは構えに入っていた。

 腰を低く、切っ先を真直ぐにオドガロンの首へと向ける。一気に飛び出し、ざく、とその首に突き刺さる。

「ガッ……」

 そして、その首を踏み台にして高く跳躍。

 抜かれた太刀が高みから再び微塵もブレなく再び首へと落とされた。

 オドガロンは、もう足を動かす事も出来なかった。血が吹き出すように飛び出し、最期に一鳴きする事も許されず、その退化しつつある目からは光を失っていった。

「……ふぅ」

 気付けば一撃も貰っていなかった。それはやはりマハワのおかげだろう。

「良い援護だった」

 そういうと、マハワも返した。

「鋭い一撃だったよ」

 見とれるほどに、と付け加えて。

「……どうも」

 

*****

 

 運良く逆鱗も手に入った事で中々良い装備を作る事が出来た。

 鎧玉もふんだんに使い、堅牢さは前よりも随分と上がったように思えた。

 体にも馴染み、また十全に任務を受けられるな、と思った頃の事だった。

 マハワが意識不明の重体で運び込まれてきた。

 任務先は、龍結晶の地。クシャルダオラの調査が目的だった。

 

 絵は、まだ仕上げが出来ていなかった。




戦闘シーンは余り書かないとか言ってた癖に何故か結構書いてる。
未プレイの時もモンスターの造形は好きだったから、pixivの方で色々絵やら小説やら見てたのもあって、モンハン小説は書くに当たって多少影響受けてるものがある。
ティガレックスと組んで不正にクエストこなしてるシリーズ(失踪済み)とか、シャガルマガラとの百合シリーズとか、テオ・テスカトルとのホモシリーズとか。
(後者二つは性癖が結構深いけど、それを抜きにしても)描写がキレイだし、読んでて普通に面白かったし。

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