金になるから殺っちゃうのさ   作:拝金主義の暗器使い

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沢山の方々に見ていただいているようで、感謝申し上げます。
評価を下さった方、並びに感想を書いて頂いた方々、ありがとうございます




 幽州。異民族最前線ということもあり、決して裕福とは言えない州だ。

 なんせ、南はバカ筆頭の冀州、北は烏丸等の異民族にそれぞれ挟まれているのだから。

 この地を治めるのは、公孫瓚、字を伯珪。

 普通だ普通だと言われる彼女だが、その手腕は非凡なものがある。

 お人好しで、甘い彼女だからこそ我の強い豪族を纏めているとも言える。これが、同じく己の強い主君であったならば皆殺しか反逆を受けたことだろう。

 そんな彼女の兵として有名なのが、白馬義従。

 全て白馬で揃えた騎馬隊だ。

 只でさえ金食い虫である騎馬隊を、稀少な白馬のみで構成するというのは財が掛かり、それはそのまま敵への圧力になる。

 

「久しぶり、パイパイちゃん!」

「白蓮だ!まったく………相変わらずだな、桃香」

 

 幽州の城にて、三人娘改め、五人娘と楚梗は赤毛の彼女、公孫瓚との謁見を行っていた。

 本来ならば、楚梗は幽州に踏み込んだ時点で分かれるつもりだった。

 しかし、劉備が公孫瓚とのパイプを持っていることを知り計画変更。登城し、顔繋ぎと、顧客選別を行っていた。

 別に、公孫瓚本人に雇われても良い。彼女は見るからにお人好しだ。真名を間違われて苦笑い程度で済ませたこともその証明といえる。

 彼は、違和感の無い程度に室内を見回していた。

 重臣達等も多くおり、何人かは劉備の馴れ馴れしい態度に納得がいっていないように見える。

 更に一部は自分と似たような者が居ることにも気が付く。

 楚梗が金を搾る相手を見定めている間に、五人娘と公孫瓚の会話は進んでいる。

 当然、その流れとして微妙に距離の空いた楚梗にも話が振られた。

 

「お前も、客将として仕えてくれるのか?」

「いや、オレは傭兵さ。金さえ払ってくれれば命令を聞く」

「………幾らで雇われるんだ?」

「幾らで雇ってくれるんだ?」

 

 ニヤニヤと笑っている楚梗の返答に、公孫瓚はこの男が食えない相手だと理解した。

 劉備達よりも前に来た客将も似たような相手だったからだ。もっとも、彼女よりも更に内心は読み取れていないのだが。

 

「………これで、どうだ?」

「はいどうも…………まあ、良いだろうさ」

 

 公孫瓚の手渡した革袋は、人の拳二つ分ほどの大きさで膨らんでいた。

 手渡されるその瞬間に銭の擦れる音が部屋に響く。

 受け取った楚梗は、羽織の裏にそれを収めると、代わりにあるものを取り出した。

 

「雇われた初回だしな。こいつをくれてやるさ」

「なんだ?………竹簡?」

「近辺の賊と、ソイツらの根城を纏めたもんだ」

「なに!?」

 

 そう言われ、慌てて開かれた竹簡は結構な長さであり、カシャリと床とぶつかり転がるほどの長さがあった。

 

「いつ、調べたんだ?」

「この幽州に入ってから、最初の夜かな。足には自信があるんだ。ついでに、売り込む材料も欲しかったんでな」

 

 嘘だと思うなら、調べてこいよ。と楚梗は先程から変わらない張り付けたような笑みで公孫瓚を見た。

 この笑み、態度から、彼女はこれが口から出任せとは思えなくなっていた。

 

 結局、規模まで書かれたその場所に規模以上の軍を送れば、出るわ出るわ、それこそ蜂の巣でもつついたかのように賊がワラワラと現れるではないか。

 それが、竹簡に全て書かれていた通りであった。

 

 実力を示した楚梗。この件を境に、彼は幽州にて一定の立ち位置を得るのであった。

 

 

 $

 

 

 軽い金属音を上げて、銅銭が宙を舞う。

 これは、五銖銭と呼ばれる貨幣であり、その重さは五銖、グラムで表せば約0.59程度のといった所か。

 これが、粗悪であるとバカみたいに軽く、そして薄く、小さくなる。

 この時代、暫く後に現れるある貨幣は、鐚銭と呼ばれ、貨幣経済をぶっ壊した原因にもなるのだが、今はそこまで無い。

 

「お金~お金~お金様~♪」

 

 五銖銭を親指で弾き、落ちてきた所をキャッチし、再び弾くという不毛な動作を繰り返して通りを行く楚梗。

 彼を含めた面々が幽州にやって来て、十日ほどが経過していたが、彼の財布は膨らむ一方であった。

 それこそ、ここに来て財布の大きさが最低でも五倍以上という数値を叩き出している。

 そして、それに比例するように各地の豪族のトップなどが謎の死を遂げており、少し幽州内が荒れたりしているのだが、彼の知ったこっちゃない。

 殺られる方が悪く、依頼する方が悪い。自分は単なる力の塊に過ぎず、指向性を持たせた奴が悪い、というのが彼の言い分だからだ。

 現に、楚梗は公孫瓚に依頼されて賊の殲滅や拠点の炙り出し、密書運びや異民族の情報収集等もこなしていた。

  この男、金さえ絡めば仕事は問わない。それこそ、リスクリターンが釣り合っていれば何でもする。

 正義の味方でも、悪役でも、どちらでもない。中間が、彼だ。

 いや、周りから見れば彼は金で人殺しを行う悪人であるだろう。

 確かに殺しだけするならば、悪人だ。だが、楚梗は依頼人の意向通りにしか動かない。

 つまり、真に悪人と呼ばれるべきは彼に依頼する、依頼人達という事になる。

 現に、公孫瓚の依頼の際には、囚われた者達の救助も行っていた。

 

 閑話休題

 

 現在、楚梗は休暇中だ。言うほど疲れてはいないのだが、一度に動きすぎればここぞというときにツケが回ってくることを彼は知っていた。

 金も暫く豪遊してもお釣りが来る程度には稼いだ。そうすると、使いたくなるのが、人の性というものだ。

 拝金主義の楚梗であるが、同時に金が天下の回りものであることも理解している。

 そして、彼は美味しいものが食べたかった。

 ここで重要なのが、高い=美味しい、ではない事だ。

 高級だから、旨い。何てことはない。いくら高級でも、料理人の腕が悪ければ不味くなる。

 というか、食べなれていなければそれすらも理解できないだろう。

 故に楚梗は大衆料理や路地の名店など、庶民的な料理を好んでいた。

 特に好きなのが、拉麺だ。地域によって差があり、海が近ければ海産、山ならば畜産等、多種多様のベースがある。

 麺も、縮れたモノから、真っ直ぐなモノ、太さも様々。

 

「………お?」

 

 キョロキョロと視線を巡らせていた楚梗は、路地の奥に看板を見つけた。

 見た目こそ寂れているが、意識を集中すれば良い薫りが漂ってくることが分かる。

 

「隠れた名店って奴だったら嬉しいがね」

 

 一際強く、銭を弾いて空中で掴んだ楚梗は、炎に引かれる羽虫のようにそちらへと向かっていった。

 

「………らっしゃい」

「一人なんだが」

「適当な席に座りな」

 

 店内は薄暗く、正方形のカウンター席が存在し、その中で仏頂面の店主が料理をする形式らしい。

 因みにカウンター席の奥の方は壁と接しており調理スペースの奥は、大きな出入り口とそこを隠すように暖簾が提げられていた。

 楚梗は、入り口から見て正面にある五席の内、左から二番目へと腰を下ろした。

 この配置に意味はない。店内には楚梗と店主以外の人が居らず、適当に座っただけだ。

 

「注文は?」

「この店のお薦めで」

「まいど」

 

 短いやり取りだ。しかし、楚梗にしてみれば当たりの店を引いたと期待を持った。

 お薦め、と注文されてそれ以上の言葉無くその料理へと取り掛かるということはそれだけ自信があるということ。

 逆にこの段階で色々と薦めてくる場合は、あまり期待出来ない。

 不味い、というわけではないが客の顔色を伺う店というのは、自分の料理に自信がないと喧伝しているようなものなのだ。

 数分と経たずに、良い薫りが店内に満ちる。

 幽州は、どちらかと言えば内地であり、畜産も羊やヤギなどが主流となる。

 

「拉麺、お待ち」

「ほう………こいつは、羊か?」

 

 出されたのは、白濁としたスープに縮れた細麺。メンマ、ネギ、煮卵、細身の骨が飛び出たお椀の四分の一を占拠する肉塊型の叉焼が乗った拉麺であった。

 立ち上る湯気には、羊独特の匂いが凝縮されており人を選ぶ事だろう。

 が、あちこちを回る楚梗に好き嫌いは無い。

 付属のレンゲと箸を手に、拉麺へと切り込んでいく。

 先ずは、スープから。口に含むと濃密な羊の旨味が、口一杯に広がる。

 苦手な者は、ここでアウトな臭みもあるが彼は気にしない。

 次に麺。スープとよく絡む縮れ麺には、何が練り込まれているのかサッパリとした味わいだった。

 合間にメンマや煮卵を挟み、更に叉焼を切り分ける。

 

「―――――あー、旨かった」

 

 五分程で汁まで飲み干した楚梗は、幸福な満腹感を得ていた。

 この店は当たり。通い詰めても良いと思えるそんな店であったからだ。

 

「で?アンタは何時までそこから見てるつもりなんだ?」

「――――おや、気づいておいででしたか」

 

 楊枝で歯の隙間を掃除しながら、振り返ること無く楚梗は背後へと声をかけた。

 鈴のような声が響き、現れるのは白い衣服を纏った女性。

 

「こうして顔を合わせるのは初めて、でしょうな」

「噂なら聞いてるぜ。常山の昇り龍ってな。ご自慢の槍は持って無いようだけど」

「こちらも聞いておりますよ。金を払えば鬼畜の所業も厭わない、拝金主義の奴隷、と」

「否定はしねぇよ。オレは金の奴隷だからな」

 

 彼女の皮肉も彼には効かない。

 本人が認め、納得したことを外野が言葉でどうこうするのは意外に難しい。

 特に楚梗のような、周囲の言葉で一ミリも揺らがないタイプは自分の決定にしか従わないのだ。

 

「で、趙子龍。オレに用事か?」

 

 口内を漱ぐための水を飲み干し、楚梗は問う。

 この間にも彼は振り返らない。声こそかけたが、興味はないらしい。

 

「貴方は、どうやら桃香殿達とは違うらしい」

「あん?そりゃ当たり前だろ。オレはオレだ。金が大好き楚梗さんだぜ?」

「そこが、既に違う。あの方達は、義と徳を重んじていましたからな」

「良いんじゃねぇの?まあ、オレには関係無いがな」

 

 代金を払い、席を立つ楚梗。口には楊枝を咥えたままに、店を出た。

 その背を見ながら着いていくのは、趙雲だ。

 彼女も彼女で結構な曲者であるのだが、どうにも楚梗の内面が読み取れない。

 これは当然と言える。そもそも、この漢という国に根差す儒教的思考が、彼には当てはまらないのだ。

 五常と呼ばれる、仁、義、礼、智、信の五つの思想を主としており、人はそれに則って生きていくべきというもの。

 人に優しく、欲にとらわれず、上下関係を大切にし、学問に励み、嘘をつかない。

 そのどれにも、楚梗は噛み合わない。

 自分本意であり、拝金主義者であり、金のためなら上役も殺し、史書など投げ捨て、虚言の種は尽きることがない。

 

(奇妙な男。金に群がる下衆かとも思えば、実力の底を悟らせない体捌き。愛紗の話では、暗器を合わせた体術の使い手という話でありましたが、剣や槍も扱えそうな御仁だ)

「―――――いい加減に、見るのは止めてくれるか?視線で穴が空きそうなんだけど」

 

 趙雲の視線が流石に鬱陶しくなったのか、楚梗は猫背のままにうなじを掻いた。

 

「用がないなら、オレは他所に行きたいんだが?」

「おや、私に見られては困るものなのですかな?」

「おう。娼館だ」

 

 事も無げに言い切られたその言葉に、趙雲の頬がひきつった。

 飄々とした彼女だが、おぼこだ。その手の話題は表面的には行えても、少しでも突っ込まれると赤くなる。

 楚梗は、その点を理解した上での発言だった。

 関羽等もそうだが、武一辺倒な彼女達は色の話題に弱い。

 一目で趙雲の実力、為人、その他を見抜いた楚梗にとって弱点を突くなど造作もなく、そして躊躇いもない事であった。

 

「ついてくるなら、構わねぇよ?百合が専門の奴も居るしな」

「あ、その…………」

「ケケッ、じゃあ、な」

 

 顔を真っ赤にした趙雲に悪魔的な笑みを返した楚梗は、そのまま人込みへと消えていく。

 彼女に、冷静な思考が残っていたならば、ここで違和感に気が付いた事だろう。

 幾ら人込みとはいえ、真っ昼間の全身黒っぽい格好というのは目立つ。

 故に十数メートル程度の範囲ならば、紛れたとしてもその後姿程度ならば視認が出来る筈だった。

 彼女も武人だ。気配には敏感である。

 でありながら、別れて数秒で楚梗の気配を追えなくなり、その目による視認すらも出来てはいないという事態。

 暗殺者兼傭兵、楚梗。彼の引き出しは、まだまだ、それこそ腐るほどに存在しているのだった。

 

 因みに、彼はこの後食い倒れ行脚に出ており、娼館には向かっていなかったりする。

 一時の快感よりも、美味しいものをたらふく食べることが彼の一番の幸せであるからだ。

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