金になるから殺っちゃうのさ   作:拝金主義の暗器使い

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今回は、少し雑なモノとなってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです




 漢の末期。所謂、後漢と呼ばれる時代。

 その崩壊の引き金となったのは、国の礎とも言える民の反乱からであった。

 黄巾党の乱。導師張角を首領とした大規模な反乱であり、その動員人数は、二十万とも三十万とも言われている。

 これに対して、国は軍を動員し各諸侯に討伐を命じた。

 その中で、動きが小さいのが幽州だ。

 元々、異民族に対しての防壁のような役割であるため、どうしても半数以上の兵は駐屯させねばならない。

 しかし、鈍い訳ではない。むしろ、討伐数は多いと言えた。

 この立役者が、楚梗である。

 彼は公孫瓚より、更に金を搾り取って黄巾党の拠点を根刮ぎ見付けては、頭目のみを狩り続けてきたのだ。

 そして、頭目が狩られれば集まった賊など烏合の衆にしか過ぎない。

 数こそ多いが頭の無い相手など、肥え太った家畜に過ぎないのだ。

 関羽を筆頭とした武将の面々と、いつぞや助けた幼女組である、諸葛亮と鳳統の軍師組には彼らの討伐は、赤子の手を捻るよりも簡単なことであった。

 

「ケケッ、容赦ねぇな」

 

 崖下に広がる屠殺の光景に、楚梗はいつもの通りだ。

 屠殺されるのは、爪も牙もそれどころか頭すらもない、黄色い巨獣。

 屠殺するのは、白馬を従えた普通な赤毛の将軍様。そして、彼女の客将を務めるもの達だ。

 騎馬の特色は、やはりその突撃にある。むしろ、守勢に回った騎馬など脅威処か的も良いところだ。

 更に、拓けた場所でなければその突撃も活かせず、森に突撃などしてしまった時には目も当てられない。

 だからこそのこの場所だ。

 ここは周囲を山に囲まれ、細い道が集中する盆地となっている。

 広さも申し分無く、馬を存分に走り回らせてもお釣りが来る広さだ。

 ここに来るまでにも、黄巾党の面々は頭を討たれて、背中から射られて集められていた。

 そんな彼らに、騎馬の突撃を止めるだけの力など有る筈もない。

 貫かれ、削られ、叩き潰され、最早集団は単なる集まりとしての存在でしかなくなっていた。

 更に更に、質の悪いことにある程度削ったところで降伏勧告を行った。

 この残った数というのが、全体の凡そ三分の一といった所。

 これは、幽州勢力が受け入れて御しきれる許容量の八割といった所であった。

 残り二割を残したのは、余裕を持つためのものだ。

 不確定要素は何処にでもある。許容量というのは、決して無視してはいけない項目だ。

 それを越えると、無理が出る。それはそのまま陣営の亀裂となる。そして、亀裂が拡がれば陣営の分裂となり、結果周りに隙を晒すことになりかねない。

 

「終わったか。ま、こっちの仕事も終わってるんだがな」

 

 降伏勧告を終えて、黄巾党を引き込んだ幽州軍。

 見下ろす楚梗は、背後をチラリと振り返った。

 そこに転がるのは、幾つかの生首だ。どれも未だに血が滴っており、その表情は恐怖に歪んでいる。

 これ等の首は、それぞれ黄巾党内の将クラスの首だ。

 彼の仕事の一部。即ち、将クラスの相手、若しくは烏合の衆の中に新たに生まれるであろう頭目の芽を潰した成果だった。

 普通は、無理だ。これが可能ならば、各国の将の首など幾らあっても足りない。

 現に、相手が黄巾党でなければこうして首を尽く取ることなど出来なかっただろう。

 もっとも、完全に否定しきれないのが楚梗の恐ろしい所でもある。

 

「それにしても…………アホくさいこったよ、まったく」

 

 よっこらせ、と崖の縁に腰掛けた楚梗は羽織の裏から一本の竹簡を取り出した。

 纏めるために巻かれた赤っぽい紐を解くと、その一部を引き出した。

 内容は、今回の仕事ついでに知ったことを纏めたもの。

 重要なのは、調べた、ではなく、知った、という点だ。

 この竹簡に書かれているのは、全て現地で彼が見聞きしたもの。それをそのまま文字に落とし込んでいた。

 彼が呆れている理由が、その内容。

 

(旅芸人が、発端ね。何がどうして、こんな大規模の反乱になるのやら)

 

 やれやれ、と楚梗は首を振って竹簡を巻き取ると紐で封をする。

 この情報を流すつもりは、彼にはない。

 無論、金を払って知りたいと言われれば渡すだろう。だが、相応の額を要求するつもりだ。

 この男、世の中の平和よりも自分への利益を優先する屑であった。

 

 

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 国の各地で討伐される黄巾党。

 彼らは追い立てられるように、東へ東へ進み、やがて冀州へと集っていた。

 その数は、二十万を越えている。

 対して諸侯は、連合という名の功争いに精を出している。

 先見の明が有るものは既に気づいている。

 この国が、とっくに終わっていることを。

 この黄巾党の大反乱は単なる序章。その後には、激動の乱世が待っていることを知っていた。

 

「………楚梗さん」

「あ?」

「張角、張宝、張梁を捕まえることは可能ですか?」

「幾らくれる?」

 

 黄巾党の籠っている砦を囲むように布陣した諸侯の一角。

 公孫越をトップとして、劉備を旗印とした義勇軍が参陣しており、そこで諸葛亮は楚梗を呼び出していた。

 

「……貴方は、張角の本当の姿を知っているんですか?」

「さてね」

 

 ヘラヘラとした笑みを崩さない彼の内心は、臥竜鳳雛の片割れである諸葛亮をもってしても測れない。

 彼女を含めて、皆が劉備の理想に惹かれるなか、一人だけ寄り付くことも離れることもなく、一定の場所に立ち続けているのが、楚梗であった。

 仕事は有能、迅速、簡潔、完璧と文句ないのだが、先立つものが無ければ働かない。

 かといって、今の幽州並びに、義勇軍が手柄を効率良く立てていくには、彼の存在は必須であった。

 斥候、暗殺、情報収集、陽動、中入りetc

 出来ることが多く、その質は金額によって左右されるが、それが惜しくないほどだ。

 そんな存在、始末するか、飲み下すしか選択肢がない。だが、前者はそれこそ余程の手練れ、後者は国家予算クラスを用意せねばならない。

 義理と人情が通用しない拝金主義者だ。

 劉備の理想を元に集った義勇軍の体質に、楚梗は噛み合わない。

 

「…………幾ら、欲しいんです?」

「そうだな。これぐらいで、どうだ?」

 

 楚梗の提示した額は、明らかに足元を見たものだ。

 それでも、払えないこともない、ギリギリの値段。

 裏の人間、この場合は諜報等を表したものだが、彼ら相手に情報戦は無謀だと言える。

 諸葛亮は思考する。

 彼女としては、張角達が生きているか、否かはあまり関係ないとも言える。

 だが、保険として生かしておき、後々活用することが出来るかもしれない。

 例えば、慰安。軍の大半が男である点を見れば、その用途は直ぐに分かる。

 

「分かり、ました。その代わり、張角達は生かして捕まえてください。そして、彼女達の力の源をとってきてください」

「………ま、良いだろ。行ってくるぜ」

 

 前金を受け取り、楚梗は兵舎を出ていった。

 彼の足音が完全に聞こえなくなった所で、彼女は大きく息をつく。

 心臓に悪い。武力に傾いている訳でも、動けないわけでもない。

 本当ならば、親友である鳳統と共に当たりたいような相手が、楚梗だ。

 しかし、彼女は現在他の諸侯とのすり合わせのため、関羽と劉備達と共に出てしまっている。

 趙雲等ならば少しは、腹の探り合いもこなせるかもしれないが、生憎と張飛と共に戦線の維持に出てしまっていた。

 結果として、諸葛亮と楚梗の二人が陣に残っていたのだが、彼女の神経を磨り減らすことで、どうにかなった。

 なぜ、金まで払ったかといえば、彼女と鳳統の読みでは、今日の夜、火計が行われるであろうと出ていたからだ。

 その大本は、袁術――――の配下である、孫策陣営。

 彼女達は、孫堅の死後功を焦っており、膠着しているこの状況は願ってもない。

 ついでに、夜襲に強いこともあり、今夜は風もある。

 あわよくば、相討ちにでもなってくれれば諸葛亮の胃痛も失せることだろう。

 

 

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 砦に侵入する場合、方法は幾つかある。

 一つ、門を開ける。二つ、梯子を掛ける。三つ、穴を掘る。

 どれも軍が攻城戦を仕掛ける為に用いる策であり、当然ながら対処法もきっちり存在する。

 門を堅く閉ざし、梯子を軒並み外して、穴に水を流せば良い。

 しかし、その全ては軍という存在だからこその動きだ。

 単騎、それも隠密の人間はそんな大きな事はしない。

 

「―――――こんばんは」

「!?」

 

 そろそろ日も落ちようとした時間帯。見張り台の一部で赤い花が咲いた。

 

「………」

 

 楚梗は、首筋より吹き出した血を浴びないように体を動かし、死体を倒す。

 彼はこの見張り台まで一気に駆け上がってきた。

 これは比喩などではない。草履を脱いだ彼は、砦の壁面にあった僅かな出っ張りなどを足場にここまで来たのだ。

 本当ならば、もっと遅い時間が暗殺や誘拐にはベストなのだがそこまで遅いと、孫策陣営の火計に巻き込まれかねない。

 もっとも、楚梗にはそこまで関係ないのだが。

 ヒョコリ、見張り台の周りに張られた矢避けの板から顔を出して周囲を見渡す。

 今のところ、彼の侵入には気付かれていないようだ。

 キョロキョロと一頻り見渡した楚梗は、残った赤のキツい夕日の陽射しにより影となった部分へと降り立った。

 そこはちょうど繁みのようになっており、カサリと梢が揺れただけで、完全に彼の姿を隠してしまう。

 そこから一歩踏み出す楚梗。その二歩目で、彼の姿は空気中に溶けるように姿を消した。

 これこそ、彼の手札の一つにして必殺の一手。

 隠密能力。それも、手練れの武将ですら気配を一瞬も追えないほどの、人外染みた能力だ。

 これによって、彼は大抵の場所に入り込める。暗殺、窃盗、工作、収集、思いのまま。

 無論、そんな一芸のみで生きてきた訳でもない。

 戦闘技術や鑑定眼、夜目や記憶力など、とにかく色々と出来る。出来なければ生きていない。

 

 閑話休題

 

 楚梗の隠密。確かに強力だが、弱点も確かに存在している。

 そもそも、彼は本当に透明になって壁をすり抜けたりしている訳じゃない。

 実像があり、限り無く分かりづらくなっているだけ。

 あれだ、ホラー映画等で見られる音が鳴って初めて開いていることに気付く鉄扉と、背後に現れる怪人のようなもの。

 つまり、実像がある為扉や窓などからしか出入りできず、被害者はそれに気づかないだけ、ということ。

 

「あれ?扉が開いて―――――」

「よぉ、お三方」

「「「!?」」」

 

 黄巾党の旗印。今や実権のじの字も持っていない張三姉妹の部屋に異物が紛れ込む。

 

「なっ、だ、誰!?」

「オレが誰でも良いだろ?お前らには、関係無いんじゃないか?」

 

 ニヤニヤと嗤う楚梗。そして、羽織の袖から態と分かるように一本のクナイを取り出し、その手に握る。

 

「ち、ちー達を殺すつもり!?」

「…………」

「い、妹達には手を出さないで!」

「天姉さん!」

 

 目の前でわちゃわちゃしている三姉妹を見ながらそのついでに、部屋の中に視線を這わせる楚梗。

 探しているのは、今回の事件の種だ。彼女等が如何様にして、ここまでの民を率いることができたのか。

 そして、見つける。

 妙に目を引く本だった。漢の時代では、貴重の紙の本だからだろうか。

 まあ、いいか。と楚梗は前へと目を戻した。

 

「…………んじゃ、オレも仕事なんでな」

「何を――――」

 

 言って、と張角が続ける前に彼女の意識は闇へと溶けた。それは、下の姉妹も同じだ。

 楚梗は、気絶させた三人に手際よく目隠しと猿轡を着けて、三人纏めて取り出した細身だが頑丈な縄でぐるぐる巻きに縛り上げる。

 巨大なみのむしのようになった三姉妹を持ち上げると、彼は気になった本を手にとって懐にしまった。

 長年の相棒である第六感が告げていたのだ。これは金になる、と。

 諸葛亮は原因を持ってこいとも言ったが、それは張三姉妹を生かして彼女の前に引きずり出せば良い。

 もしもこの本が原因だったとしても、白を切り通せば良い。

 

「~♪」

 

 鼻唄を唄い、上機嫌に彼は部屋を出た。そんな状態でも隠密能力に翳りがないのは流石と言えるのではなかろうか。

 そのまま苦もなく、彼は最初に見張りを殺した見張り台の屋根の上までやって来た。

 既に日は落ちた。だが、黄巾党の砦は真っ赤に輝いている。

 

「火計は派手だな。まあ、寡兵で大軍を討つ方法の中では楽な手だろうが」

 

 眼下に揺らめく炎に混じって、孫策陣営の隠密が入り込んでいる事が、楚梗の位置から確認できる。

 彼の目から見ても、手練れであると一目で分かる彼女達。その狙いが、既に楚梗の手の内に有るものであることは直ぐに理解できることだ。

 向かってくるなら、殺る。だが、自分から向かうことはしない。

 彼が提示した額は、誘拐に関しての額だ。戦闘は含まれていない。

 何より、隠密同士の戦いは神経を削る。毒薬なども平気で使ってくる=掠れば即あの世行きというのも珍しくないからだ。

 そそくさと彼はその場から消えた。

 

 

 余談だが、張三姉妹と太平要術の書、その両方を取り損ねたある陣営は自分達を出し抜いた相手を探し当てるべく、血眼になっていたとかいなかったとか。

 そして、この乱は張角(偽)の首がある陣営より国へと進呈され終息することとなった。


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