金になるから殺っちゃうのさ   作:拝金主義の暗器使い

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皆様のお気に入り、並びに感想評価に感謝申し上げます
ランキングにもどうやら載っていたらしく、喜ばしい限りです

この話を契機に連載に切り替えようかと思います
亀更新とは思いますが、のんびりと書いていこうと思いますので、よろしくお願い致します




 討伐された黄巾党は、その余りが青州へと追いやられることで全体的な収拾を終えていた。

 それは、言うなれば臭いものに蓋をする様なその場凌ぎでしかなかったが、それでも国の高官達は胸を撫で下ろしたのだ。これで暫くは安泰だろう、と。

 しかし、そう思っているのは彼等ぐらいだ。世が乱れに乱れきっているのは諸侯にとっては一目了然。

 

「…………白蓮ちゃん……」

「そんな顔をするなよ、桃香。私はお前達を受け入れたことを後悔なんてしていないさ」

 

 何処かばつの悪そうな劉備と、本当に後悔がないというように快活な笑みの公孫瓚。

 対照的な二人だが、その原因は劉備が率いることになった義勇軍にある。

 彼等は、元は幽州の民であった。それが彼女の理想に惹かれて組織されたのが義勇軍なのだ。

 彼女の後ろめたさは、友人の治める地から奪ってしまったという負い目からきている。

 だが、公孫瓚は本当に気にしていない。

 彼女は、常に自分が大成するわけがないと思っている。それは己への自信の無さ、その表れでもある。

 それ故に、彼女は自分の夢を実現しようとしている劉備を応援したいと思っていた。今回の件で目くじらを立てないのもその為。

 

「私も、お前の夢が実現することを願っているんだ。それに、無理に徴兵したわけでもない。胸を張れ、桃香」

「……………うん!」

 

 肩を軽く叩かれた劉備は、ここで漸く顔を上げた。

  今回、公孫瓚の元を離れるのは義勇軍とそれに加えて、客将であった趙雲だ。

 

「じゃあ、そろそろ行くね?」

「ああ。良い報告を待ってるさ」

 

 二人が握手をするなか、この場に居ないものが一人。

 金の亡者は、この場に現れていなかった。

 

「そういえば、楚梗はどうした?アイツもお前達と行くんじゃないのか?」

「えっと………楚梗さんは………」

 

 公孫瓚としては、劉備らとこの幽州に来た楚梗がそのまま彼女達の元についていくと思っていた。

 

「断られ、ちゃって………」

「そ、そうなのか………」

 

 これは予想外。とはいえ、彼の人となりを知っているならば無理もないとも納得できることであった。

 その会話は昨晩の事だ。

 

 

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 戦勝ムードに沸く幽州の城。周りの軍とは違い、被害も比較的少なかった彼等は公孫瓚の州牧就任を祝っていた。

 その立役者とも言える楚梗はというと、その宴会に顔を出さず、高い酒の入った5つの少し小さめな酒甕とつまみを盛った大皿を持って抜け出していた。場所は、城の外にある草地の丘。

 

「―――――うん、旨い」

 

 干し肉を齧り、酒を一口。熱くなった息を吐き出し、空を見上げる。

 今宵は満月だ。煌々と輝く月輪は、等しく世界を照らしており、雲がないお陰で大きく見えた。

 

「~♪」

 

 相当に機嫌が良いらしい。楚梗は、酒を注ぐ杯を片手に目を瞑り鼻唄を歌う。

 彼の懐も今回の乱でまあまあ潤った。更に金の基にもなるような代物も彼の手中だ。

 程よくアルコールが体内に取り込まれ、ふんわりとした夢心地に包まれる楚梗は、一切れの干し肉を口に咥える。

 こんな良い月夜には、歌人ならば詩の一つも詠みたくなるかもしれないが、生憎と楚梗にはそんな創作的な才能も学も無かった。

 月はただそこに光るだけ。風は吹くだけ。花は咲くだけ。

 どんなものも、ただそこに在るだけ。彼にはそれ以上は何も感じなかった。

 感性が死んでいる、というべきか。

 

「―――――楚梗さん」

「んあー?何か用事か、劉玄徳」

 

 5つの酒甕の内、二本と半分を飲み干した所で、劉備と彼女の義妹二人、そして軍師組がやって来た。

 

「私達、明日ここを出ようと思ってるんです」

「そう」

 

 意を決した様な劉備の言葉。しかし、楚梗は一瞬彼女を見ただけで、直ぐに酒へと戻ってしまう。

 明らかな壁がそこにはあった。

 義理と人情で組まれた義勇軍と、金と利得で生きてきた楚梗。やはり、相容れない。

 

「それで、その………楚梗さんも来て、くれませんか?」

「………………?何で?」

 

 おずおずと劉備が切り出した勧誘は、アッサリと切って捨てられる。

 酒で鈍っている、とも考えられそうだがどちらかというと蟒蛇気質な楚梗にはまだまだ余裕がある。つまり、素だ。

 

「それは、私が未熟だからですか?」

「あ?」

「それとも、私の夢が気に入らないんですか?」

「……………何を勘違いしてるか知らねぇけど、別にそんなんじゃねぇよ」

 

 若干目のハイライトが消えかけている劉備を横目に、楚梗は酒を煽った。最早、手の杯は用を為さず、直呑みだ。

 

「オレは、金で雇われる傭兵なんだぞ?義理とか人情とか、そんなことで動いたりしねぇの」

 

 甕から口を外し、炒り豆を摘まんだ楚梗はプラプラと手を振った。

 

「お前らに、オレを雇えるだけの金があるのか?無いだろ?だから、オレが行く意味なんてない。お分かり?」

 

 酒を潤滑油としてペラペラと回る口は、存外軽い。

 いつもならば、ここまで…………言うかもしれない。ま、まあ、とにかく楚梗としては泥船に乗るつもりは毛頭無かった。

 無償労働等、彼の頭にはない。

 

「貴様は、悪逆に震える民を救おうとは思わないのか?」

「逆に聞くが、何でオレが助けなきゃいけないんだ?金にもならねぇのに」

「力を持つならば大義を何故果たさない!!」

「押し付けるなよ、関雲長。それはそっちの理屈だろ。オレの理じゃない」

 

 吠える関羽を正面から切って捨てる。

 月光に照らされた楚梗は、黒目を淀ませて空を見上げていた。

 

「だいたい、どいつもこいつも押し付けてくるんじゃねぇよ。テメェの理論がどこでも適用されると思ってんなら勘違いも良いところだ。そもそも、何で他人なんかのために戦わなきゃいけねぇんだよ。オレはオレの命守るので手一杯だっての。ふざけんなよ、何が私達には力がありません、だ。だったらその力の無さを埋めるために努力したのか?生き残るための手は尽くしたのか?やってもいねぇのに、何でそんな奴等守るために命懸けなきゃいけねぇんだよ。ふざけんなよ、マジで―――――」

 

 本当に、今日は口が軽い。いつもならば吐くのも面倒とつぐむ毒舌が、だらだらと垂れ流されているのもその証左。

 それはそこまで大きな音量ではなかった為に彼女達にはブツブツと何かを呟いている事しか分からなかった。

 ただ一つハッキリしているのは、彼が劉備達の行軍には参加しないということ。

 両者が互いの在り方を相互理解するのは、まだまだ先の話であった。

 

 

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 義勇軍が幽州を離れて数日。相も変わらず、楚梗の仕事、もとい金蔓は尽きることが無い。

 豪族は互いに蹴落としあい、公孫瓚より北方異民族への情報収集や暗殺に駆り出され、その度に農家の四人家族が数年働かずに食っていける金を得る。

 収入と支出の割合が8:2といった所なので彼の財布は肥えるばかりだ。

 

「お前は、何でそこまで金に執着するんだ?」

「………なんだ、急に」

「いや、そこまで金、金、金と言われたら気になるだろう?」

 

 一仕事を終えて戻ってきた楚梗に、公孫瓚は最近の疑問をぶつけていた。

 

「別に、深い意味はねぇよ。単に金が有るのと無いのとじゃ、有った方が何かと便利だからな」

「そりゃ、そうかもしれないが………」

「ま、大金の素晴らしさってのは、持ってるやつには分からねぇさ」

 

 楚梗はサラリと心理を述べる。

 持つものは、持たざるものの心象など本当のところでは理解できないのが摂理だ。

 

「公孫伯珪。アンタも、分かるんじゃないか?持たざる者と持つ者の大きな隔たりについて、よ」

「…………まあ、な」

 

 公孫瓚は、名士を重用しない。正確には、出来ない。

 それは彼女の生い立ちに関わることなのだが。とにかく、偏見によってどうにも名士というのは反りが合わなかった。因みに反りが合わないという言葉の由来は、日本の刀と鞘の関係から来ていると言われている。

 話を戻すが、これは公孫瓚の偏見でもあり、同時にこの時代の名士の在り方を表してもいた。

 

「―――――ま、持ってるのに目を逸らすのもどうかと思うがな」

「え……?」

 

 首をかしげた公孫瓚に対して、楚梗は喋りすぎた、と顔をしかめて姿を文字通り消した。

 ここ最近では見慣れた隠密能力に反応することもなく、公孫瓚は考える。

 彼女は周りから普通だ普通だ、と言われ続けており本人も特筆することの無い凡人だと思っている。

 確かに、凡人だ何だと言われ続ければ自信も失せるだろう。

 しかし、それは正しくもあり間違ってもいる。

 そもそも全ての人間が全く同じ基準値など持っていない。

 そんな彼らに普通だと言われる公孫瓚は、見方を変えれば高い水準で纏まっているということに他ならない。

 そこに公孫瓚は気付かない。いや、正確には、目を向けられないだけか。

 

「持つ者…………」

 

 自分がそうとは、未だに思えない。

 第一、楚梗が幽州に残っているのは未だに稼げると判断しているから、というのは彼女にも分かっている。

 だが、やはり気になった。

 隠密として売り込めば、こんな幽州のくんだり等で傭兵などせずとも、それこそ国で雇われそうな男が残した言葉だからだろうか。

 

「私は、何を持っているんだ?」

 

 公孫瓚は、腕を組んで首をかしげた。

 友人である劉備と比べれば、天真爛漫さやその内に秘める大きな夢など持っていない。

 関羽や趙雲、張飛のような武の腕前も持っていない。

 諸葛亮や鳳統のような軍略や政治への目もない。

 馴染みの金髪ドリル1号2号と比べても、才能や運、家柄では到底及ぶべくもない。

 無論、この思考に至る発端である楚梗と比べても武力等では劣ることだろう。

 やはり自分は凡人だ、と再確認する羽目になった公孫瓚は落ちこみ、

 

「―――――ん?」

 

 思考を変えてみることにした。

 すると、面白いことがわかる。

 確かに公孫瓚は、彼女の知り合いから見て一歩も二歩も劣ることだろう。

 その差を埋めるために努力をして、今は一歩劣るといったところか。

 つまり、得意も無いが、逆に苦手も無い。

 関羽や張飛等に武では劣れど、知略では負けていない。

 諸葛亮や鳳統に知略で負けようとも、武では負けていない。

 劉備と比べれば大望の夢こそ無くとも、実績が確かにある。

 金髪ドリル1号2号と比べれば、他者との関係の結び方などは公孫瓚の方が上手いだろう。

 楚梗と比べれば、その人当たりのよさは天と地の差がある。

 そして、幽州は彼女を中心に連合制という体こそとっているが、纏まっている。現に、楚梗に依頼する豪族は末端であったりするのだ。

 仮にこの地を任されたのが金髪ドリルであったならば、軒並み豪族は根切りにされた事だろう。

 公孫瓚だからこそ、連合制が成り立った。彼女だからこそ至った平和がそこにあるのだ。

 

「…………私は、凡人だ」

 

 いつもの言葉。しかし、今回は呪詛ではなく、単純な確認の意味。

 

「けど、私だから出来ることがあるんだ」

 

 何となくだが、心の中の澱のようなモノが若干取り除かれた様な、そんな感覚を公孫瓚は覚えていた。

 

「だったら、出来ることからやってみよう。私は、持つ者、らしいからな」

 

 うん、と頷き公孫瓚は仕事に取り掛かる。

 その表情は、今までになく生き生きとした晴れやかなモノであったことを、ここに記す。

 

 

 $

 

 

 コツコツコツコツ、と断続的に響く木と何かがぶつかり合う音。

 

「面白くありませんわね」

 

 音の主は、金髪が縦にクルクルとカールした一人の女性だ。

 その端正な顔立ちを不機嫌そうに歪めて、玉座の手摺りを指先で何度も叩いている。

 彼女の不機嫌の原因は、現在の国にあった。

 黄巾党が討伐して暫く。どれだけ腐ろうとも国の中枢というのは権力争いに腐心しているのが現実だ。

 何進と宦官が権力争いしていたのだが、最終的に政治に疎い前者が殺され後者が勝った。

 その後、宦官に激怒したこの金髪によって彼等が殺され、権力の椅子に座るのは次こそ彼女と思われたのだ。

 しかし、蓋を開けてみればその椅子に座ったのは、全く別の人物。

 それがどうにも、面白くない。

 

「―――――真直さん」

「はい、麗羽様」

「現相国を落とす策を考えなさい」

「は、はい?」

 

 この彼女の思い付きが、新たなる戦を呼び寄せる事になる。

 それを知るものは、今のところまだ居なかった。

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