金になるから殺っちゃうのさ   作:拝金主義の暗器使い

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 世の中、えてして正しいことが常に正義というわけではない。

 そもそも、正義は民衆を味方に付けた側が正義足り得ると言えた。これは人間が個ではなく複数で生活するようになったことに起因する。

 即ち、多数決。多い方が正義であり、少ない側は負けるのが常だ。

 今回の一件もその例に漏れない。噂という無形の刃を用いて民を煽動し、商人を用いて都合のいい噂のみを広げさせて、その他はすべてシャットアウト。

 結果として、最期の時を迎える直前の項羽のような状況へと陥れさせる事が出来た。

 

 即ち、反董卓連合の結成である。

 

 

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 喧々諤々。動物園もかくやと言わんばかりの荒れようを見せる大部屋。

 ここは、幽州。公孫瓚の居城。今行われているのは、彼女の元に届いた檄文に対する反応をどうするか、というものであった。

 送り主は、袁紹。内容は、悪政を敷く董卓を討伐するというもの。

 会議の内容は、連合に参加するか、否か。

 

「…………」

 

 そんな彼等を見下ろすのは、部屋の梁に寝転がる楚梗。

 埃を払って態々そんな場所にいるのは、公孫瓚に頼まれたからだ。子供の小遣い程度だが、その分の金は貰っている為素直に彼は此処に居た。

 まあ、欠伸をしたり半分寝ていたりと、興味の有無から見れば、全く無いと言えたのだが。

 彼から言わせれば、今回の戦争は茶番劇も良いところだ。

 白が負けて、黒が勝つ。歴史的にもありふれた、そんな結果しかない茶番劇。見世物としてはありふれた三流芝居としか言えないだろう。

 無論、楚梗は芝居よりも金が好きだ。今回の戦争は大金を獲得できるチャンスと言える。

 問題は、どちらに付くか、だ。

 どっちに付いても損はない。信用とか信頼とか、そんなものは空の彼方に投げ捨てている彼にとっては、どちらが収入として大きいかによる。

 

「――――楚梗」

「………んあ?」

「降りてきてくれ」

 

 半分寝こけていた楚梗を、不意に下に居た公孫瓚が呼んだ。

 梁から下を覗けば、見上げてくる見慣れた赤毛と、彼が居ることを知らなかった者達が驚いた目を向けてきていた。

 楚梗はため息をつくと、梁から飛び降り、木目の床を軋ませる事無く着地する。

 

「何だ」

「今回の一件、仕入れているか?」

「幾らくれる?」

 

 その返答で十分。公孫瓚は銭で膨らんだ袋を投げ渡す。対して楚梗はそれを受け取ると、羽織の裏から竹簡を取り出し彼女へと投げ渡した。

 手慣れたやり取りだ。だが、こんな彼女を見たことの無い者達には、何が何だか分からない。

 

「―――――事実なんだな?」

「オレは取り引きに嘘を持ち込まねぇ。確りと対価を払う内は嘘はつかねぇさ」

「そう、か…………はぁ」

 

 公孫瓚のため息は、余りに重苦しい。それは日頃の彼女には見られない疲れが、見え隠れしていた。

 

「…………理由は、分かるか?」

「逆に聞くが、何処から分からないんだ?」

「私は、麗羽じゃないからな」

「つまり最初から、だろ」

 

 面倒だ、と楚梗は頭を掻いて片目を瞑った。

 しかし、今の彼女は上客だ。随分と美味しい思いもしてきた。

 楚梗とて人間だ。感情だってちゃんと存在する。

 故に今回は珍しい方へと矢印が振れた。即ち、サービスを行ったのだ。

 

「まず、前提。袁本初と何進将軍は交友があった」

「あ、ああ」

 

 突拍子もなく始まった説明だが、公孫瓚は一応頷く。

 

「次に、何進は宦官との権力争いに負けて殺された」

「…………」

「その次、袁本初は何進の仇を討つ名目で、宦官を虐殺した。ここで国の権力中枢に穴が空くわけだ。そして、その穴を埋めるために十常侍の連中がのさばってくる。加えて、空いた相国の椅子には、袁本初じゃなくて、董仲穎が就いたわけだ」

「…………つまり、麗羽はそこに嫉妬した、と?」

「多分な。元々、袁家は漢の重臣で本当なら自分が相国の地位に就いていた、とか駄々こねたんだろ」

 

 楚梗の持論に対して、公孫瓚の内心には成る程という納得の感情が浮かびつつあった。

 彼が金が絡めば嘘をつかないことを知っているため、洛陽の実情が書かれた竹簡も相俟って納得は確信へと変わる。

 

「………どっちに付くべきだ?」

「知るか。白に付こうが黒に付こうが、大局は何も変わらねぇよ。嵌められた董仲穎が負けて、策を弄した袁本初が勝つ。それだけだ」

「誰も、董卓にはつかないんだな」

「逆に聞くが、好き好んで泥舟に乗って心中する馬鹿が居ると思うか?」

 

 心底バカにしたような口調。

 彼がこう言うのも無理はない。なんせ、大局を見た上で数手先まで見通せる者達が、一様に袁紹へと協力するのだ。

 単純な構図は、董卓VS中華全土。勝つどころか、抗うことすら無謀と言える。

 

「勝つ負けるの話じゃねぇんだ。最初から結末の分かってる演し物ほど白けるモノはねぇだろ?」

「正義はない、か」

「正義?んなもん、多数派に決まってるだろ」

 

 公孫瓚の呟きを、楚梗は一蹴した。

 

「個が弱い人間は、集まるしかねぇんだよ。だからこそ、多数派がいつだって正義だし、少数派は負ける。そこに議題の善悪なんぞ無いさ」

「だが、今回董卓は白なんだろ?」

「民衆にとっちゃ黒さ。何せ、お上が黒って言ったんだからな。そして、民衆は多数派だ」

「引っくり返せないか?」

「無理。今から噂を流し直しても連合が組まれる方が早い」

「……………それは、正攻法なら、だろ?」

 

 それは、思わぬ一言。少なくとも会った当初の公孫瓚ならば絶対に言わなかった言葉だ。

 

「お前がやったら、どうなる?」

「………はぁ、ま、八割って所だろ」

「なら、それを元に売り込んだらどうなる?」

「上から三つの内、どれか一つなら、州一つに釣り合う額が出るんじゃないか?」

「やってくれないか?」

「……………お前本当に公孫伯珪?」

「痴呆か?そろそろ引退かもしれないな」

「抜かせ、皮が一緒でも中身が違うって言ってんだよ」

「私が私の手札を使うだけだ。持っているなら有効活用しないとな」

(うーわ、変な成長しやがってからに)

 

 やりづらい、と楚梗は再度頭を掻いた。

 

「やるにしても、始まってからだ。今やったところで意味がない」

「周りが集まった状態で大丈夫なのか?」

「言ったろ、八割だ」

「幾ら払えば十割になる?」

「こればっかりは、何とも。相手は連合。人数も多いし、結界も張ってるだろ。隠密ってのは、同種の人間に効果が薄いもんなんだよ」

 

 これは楚梗からも言えることだが、暗殺術を扱うものには独特の雰囲気がある。

 言うなれば、それは職人気質とでも表するべきか。

 仕事に私情を持ち込まない。そしてその達成の為だけに動く。

 だからこそ、彼らは同種が分かる。

 

「だから、八割だ。網を潜って行き帰り含めて、八割」

「そうか……………頼む」

「公孫伯珪……本当に変わったな」

 

 面倒だ、と呟き楚梗は消えた。

 残るのは、呆けた重臣達とホッと一息つく公孫瓚のみ。

 彼女としては、楚梗がこうして仕事に就いてくれるかは五分五分だった。

 どうにか報酬が目の前に転がっていることを示して、そちらに意識を持っていくのが精々。それにしたって、彼が気紛れを起こせば瓦解していた。

 だが、その苦労を買い込んだ甲斐があったというもの。

 自分でどうこう出来なかったのか、と問われれば出来なかった。

 そもそも、公孫瓚は幽州の人間であり動員できる兵力は、常に北方警戒を意識した数でしか揃えることができない。

 凡そ、総数の半分程度か。そんな数用いたところで数だけは多い袁紹に太刀打ちできる筈もない。

 戦争は数だ。覆せるのは、天才か化物位。

 だからこそ、一騎当千や万夫不当、神算鬼謀等の言葉が存在する。

 

 兎に角、何が起きるかは反董卓連合が戦いを始めれば分かることである。

 

 

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 史実、そして演義においても、反董卓連合の決戦は重要な意味を持つ。

 戦いの場として有名なのは、汜水関、虎牢関だろう。因みに後者二つの関は、史実では同一のモノであり、演義にのみ別物として記されている。

 そして、この世界でもそれは同じくであった。

 董卓軍三万に対して、反董卓連合十数万。戦う戦わない以前に、相対することすらバカらしく思える戦力差だ。

 それでも董卓軍が正面から迎え撃つ姿勢をとった理由はただ一つ。トップである董卓への忠誠心。彼女を守るために、兵の末端までこの戦いには決死の思いで臨んでいた。

 彼等彼女等は、同じ土俵に立っていると言える。

 

「―――――だからって、オレがそれに乗る必要はねぇよな?」

 

 両陣営が、汜水関とその前方数キロで睨み合うその日の夜。夜闇に紛れるいつもの格好で、楚梗は陣営を進んでいた。

 この戦争は未だに始まっていない。連合が漸く揃い、明日明後日に舌戦からの戦闘開始となる筈であった。

 だからこそ、彼は此処に居る。

 戦いが本格的に始まってしまえば、当然両陣営それぞれ相応の消耗をすることになるのは明白。

 それ故に、今動く。その後の事など知らないし、況してや歴史的な事件だとか、面白味だとかそんなことすら関係無い。

 利益になるから動く。それだけだ。

 

 閑話休題

 

 今回の両陣営。名だたる面々だが、そのセキュリティには大きな差違があった。

 まず、堅いと言えるのが孫策、そして劉備のそれぞれの陣営。

 前者は、隠密部隊が優れており、後者は単純に数が少なく将の質が良いためだ。

 それに次ぐのが、孫策を内包する袁術。

 これはどちらかというと、お付きの張勲によるものだ。

 孫堅が死に、その際に恩を着せた事を理由に彼女達をこき使っていた。更にその際に孫策軍を分裂させて蜂起させないというおまけ付き。

 そして、隠密を有さない曹操軍。ここは軍師が有能であり、単純に兵が強い。

 ここまで来れば分かるが、袁紹軍が一番脆い。

 兵も将も特筆するほど強くない。ただ単に数が多いだけだ。

 正面の戦闘には強い。それこそ王道の、数の暴力は凄まじい破壊力を誇る。

 そしてそれ故に、搦め手を軽んじる。

 

「思った以上に、だな」

 

 見張りの兵の首を、クイッとしながら楚梗は目を細めた。

 彼は基本的に、見張りは殺すようにしている。

 死体を隠す手間が掛かるが、それは気絶させても同じこと。むしろ妙なタイミング起きられる心配がない為採用していた。

 手法はシンプル。背後へと隠密で忍び寄り、首をへし折るのだ。手間も少なく血も出ない、それ故に金もかからない。

 実に彼らしい。

 そんなこんなで、十数人の命を容易く奪った楚梗はある天幕の前へとやって来ていた。

 既に夜の闇も深い。それでもその派手な天幕は、目立っていた。

 見張りは二人。強さ的に千人長クラスだろうか。

 本来ならば、袁家の二枚看板の内、どちらかが就くのがベストの筈だが、明日を考え袁紹自身が休ませてしまっていた。

 認識が甘いとしか言い様がない。派手なだけが戦争ではないのだ。

 ちゃっちゃと二人を屍へと変えて、中に一人しか居ないことを確認し、楚梗は中へと入り込む。

 外側よりも更に中は、派手だ。

 何処から持ってきたのか分からない調度品の数々。豪奢な寝台。机や椅子に至るまで、その全てが一級品。

 そして、その寝台に横になっているのが金髪ドリル二号。袁紹である。

 よだれを垂らして眠るその姿はアホにしか見えないが、今回の引き金を引いたのも彼女だ。

 

「…………」

 

 記憶と顔を照合させた楚梗は、頭を掻くとそのついでに、羽織の裏から大小二枚のズタ袋を取り出した。

 寝ているならば丁度良い。派手な鎧も今は着ていないため、両手足を縛って、頭に小さい方のズタ袋を被せた。

 その後、人一人余裕で入る大きい方のズタ袋に袁紹を詰めて担ぎ上げる。

 史実や演義は愚か、平行世界ですら早々見られない、レアケース。

 

 開戦前に、総大将が拐われるという異例の事態。

 翌朝が実に実に楽しみなことが始まろうとしていた。











今回、私としても見たことの無い話になるよう書かせていただきました
実は別ルートとして、楚梗が連合につく話も考えてはいたのです
その場合、最終的には隠密まで使って呂布との正面激突、等という事態になりました
ただ、その展開は王道が過ぎると言いますか。そもそもこの主人公は外道で屑です。私の主観的イメージには合いませんでした
そして、紆余曲折を経てこの形に

言い訳はここまで。では、次のお話でお会いいたしましょう
読了感謝致します
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