ストブラの世界に転生したら神綺だった件   作:柊雪

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絃神島に到着本編まだです


聖者の右腕編

どうも神綺の身体で転生した柊アリスです。え!名前ですか?神綺って名乗るのが辛いので自分で名前着けました。

 

今、私が居るところはなんと人工島の上空にいます。よりにもよってストブラの世界に転生したようです。生きていけるか不安です。ですが、頑張ろうと思います。

 

 

 

 

真夏の森―――

 

 深夜の神社境内を、煌々と燃える篝火かがりびが照らしている。拝殿に差し込んでいるのは淡い月光。季節を忘れるほどに空気が冷たく張りつめているのは、社を包む結界のせいだろう。

 

 騒がしかった虫たちの鳴き声も、今はほとんど聞こえない。

 

 少女は無言で、広い拝殿の中央に座っている。

 

 まだ幼さを残しているが、きれいな顔立ちの娘である。

 

 細身で華奢だが、儚げな印象はない。むしろ鍛えられた刃のような、しなやかな強靭さを感じさせる少女だ。そんなふうに思えるのは、生真面目そうに引き結んだ唇と、彼女の瞳に宿る強い光のせいかもしれないが。

 

 少女が身につけているのは、関東にある市立中学の制服。

 

 神道系の名門校だが、そこが師・子・王・機・関・の下部組織だと知る者は多くない。

 

 拝殿には三人の先客がいる。

 

 御簾みすに遮られて姿は見えない。しかし、彼らの正体は、少女にも事前に知らされている。

 

 ”三聖”とい呼ばれる、師子王機関の長老たちである。

 

 いずれとも最高位の霊能力者、あるいは魔術師でありながら、彼らを取り巻く気配は静謐せいひつで、威圧感がまるでない。このことが逆に恐ろしい。

 

 少女は制服の袖口を、無意識に強く握りしめている。そして―――

 

「名乗りなさい」

 

 御簾の向こう側から声が聞こえた。口調は厳かだが、冷たさは感じない。想像していたよりも若い声だった。どこか笑いを含んだ女の声だ。

 

「姫柊ひめらぎです。姫柊雪菜ゆきな」

 

  一瞬遅れて、少女は答えた。緊張でかすかに声が震えた。だが、御簾の向こうにいる女は、気にしていないようだ。

 

「それでは、まずはこれを」

 

 その言葉とともに、御簾の隙間から何かが現れた。それは二羽の蝶だった。

 

 音もなく羽ばたいて雪菜の近くに着地すると、蝶は二枚の写真へと変わる。

 

 映っていたのは、高校の制服を着た一人の男子高校生。友人たちと談笑している姿を、誰かが隠し撮りしたものらしい。無防備で隙だらけの表情だ。もうひとつの写真は

自分の背後にある、

3対6枚の黒に赤の模様が入っている、禍々しい羽使い空を飛んでる少女。

 

「この写真は?」

 

「暁古城あかつき こじょうというのが彼の名前です。しっていますか?」

 

「いえ」

 

雪菜は正直に首を横に振る。実際、初めて目にする顔だった。その答えを最初から予想していたのだろう。何の感慨もない口調でさらに訊いてくる。

 

 「彼のことを、どう思いますか?」

 

 

「え?」

突然の質問に、雪菜は戸惑う。

 

 「写真だけでは正確なことはわかりませんが、おそらく武術に関しては完全な素人か、初心者の域だと思われます。特に危険な呪物を身に着けている様子もありませんし、撮影者の存在を察知している気配はありません」

 

 「いえ、そういうことではなく、あなたが彼をどう思うかと訊いているのです。つまり、彼はあなたの好みですか?」

 

「は、はい?なにを……?」

 

「たとえば顔の良し悪しだとか、見た目の好き嫌いの話です。どうですか?」

 

「あの……わたしをからかっているのですか?」

 

不機嫌な口調で雪菜は訊き返す。長老たちの真意はわからないが、彼らの場違いな質問には悪意を感じる。床に置いた太刀に思わず手が伸びそうになる。

 

 雪菜のそんな反応に、御簾の向こうの女は落胆の息を吐き、

 

 「では、第四真祖という言葉に聞き覚えは、姫柊雪菜?」

 

さらに唐突な彼女の質問に、雪菜は小さく息を呑んだ。まともな攻魔師ならほとんど誰もが、その名前を聞いただけでしばらく沈黙することになる。

 

「焰光の夜伯カレイドブラッドのことですか?十二の眷獣を従える、四番目の真祖だと―――」

 

「そのとおり。一切の血族同胞を持たない、唯一孤高にして最強の吸血鬼です」

 

冷静な女の声が拝殿に響く。

 

 第四真祖”焰光の夜伯カレイドブラッド”―――

 

 魔族に関わりを持つ者であれば、その名を知らないということはありえない。

 

 なぜならそれは、世・界・最・強・の・吸・血・鬼・の肩書きだからだ。

 

 自らそう名乗っているいるわけではないが、少なくとも世間はそのように認識している。そして敵対している者たちでさえ、あえてそれを否定しようとしない。第四真祖とはそのような存在だ。

 

 「ですが、第四真祖は実在しないと聞いています。ただの都市伝説の類だと」

 

雪菜の言葉に、女は首を横に振る気配があった。

 

 真祖とは、闇の血族を統べる帝王。もっとも古く、もっとも強大な魔力を備えた、”始まりの吸血鬼”だ。彼らは、自らの同胞である数千万もの軍勢を従え、三つの大陸にそれぞれが、自治領である夜の帝国ドミニオンを築いている。

 

 「たしかに、公には存在が認められている真祖は三名だけです。欧州を支配する”忘却の戦王ロストウォ―ロード”、西アジアの盟主”滅びの瞳フォーゲイザー”、そして南北アメリカを統べる”混沌の皇女ケイオスブライド”―――それに対して第四真祖は、自らの血族を持たず、ゆえに領地も持たない」

 

 「然様。だが、それだけでは第四真祖が存在しない、という証明にはならないのである」

 

 女の言葉を引き継いで、男が荒っぽい口調で告げる。続いて、もう一人の長老の声も。

 

 「おぬし、今年の春に、京都で起きた爆発事故のことを覚えておるかえ?」

 

 「……え?」

 

 「四年前のローマの列車事故、それに中国での都市消滅事故も。マンハッタンの海底トンネル爆破事件もあったの。古いところではシドニーの大火災も」

 

 「まさか……それらすべてが第四真祖の仕業だと?」

 

 雪菜は表情を引き攣らせた。長老が何気なく口にしたのは、それぞれ大量の死傷者を出した凶悪な大規模テロ事件だった。いずれも犯人は不明だと報道されている。だが、それが真祖がらみの事件なのだとしたら、その程度の被害で済んだのは、むしろ幸運だったとさえいえる。

 

 「あらゆる状況証拠が四番目の真祖の存在を示しています」

 

 青ざめる雪菜に、最初の女は告げる。

 

「彼らは歴史の転換点に必ず現れ、世界に虐殺と大破壊をもたらしてきました。しかし問題はそれだけではありません。第四真祖の存在は、この世界の秩序と安定を乱します。その理由はわかりますね?」

 

「はい」

 

雪菜はぎこちなくうなずいた。

 

 吸血という種族特性と、高い教養知性を備えた彼ら吸血鬼は、常に人類と敵対する存在とは限らない。彼らの多くは人間社会に溶け込んで暮らすことを好み、人類という種族全体を敵に回すことをこれまで慎重に避けてきた。

 

 さらに各国政府と真祖たちの間には、無差別な吸血を禁止する条約が結ばれ、表向きには平和的な共存が実現しているようにも見える。だがそれは、三つの夜の帝国の力関係が、極めて微妙なバランスの上で成立しているからだ。

 

「真祖たちが聖域条約の締結に応じたのは、ここ十数年もの間、真祖同士がお互いを牽制し合う三すくみの状態が続いていたからです。彼らは常に自分以外の真祖の存在に怯え、人類を敵に回す余裕がなかったのです」

 

「はい」

 

「ですが、もし彼らと同等の力を持つ四番目の真祖が出現したら、その均衡は呆気なく崩れてしまうでしょう。最悪、人類を巻き込んだ大規模な戦争になるかもしれません」

 

 

「第四真祖の居場所はわかっているのですか?」

 

 雪菜が緊張した声音で訊く。なぜか、ひどく嫌な予感がした。

 

 

「ええ。まだ確認はとれていませんが、間違いないでしょう」

 

 

「彼は、どちらに?」

 

 

「東京都絃神市―――人口島ギガフロートの”魔族特区”です」

 

 

「第四真祖が、日本に……!?」

 

 

「それが今日あなたをここに呼んだ理由です。姫柊雪菜。師子王機関”三聖”の名において、あなたに第四真祖の監視役に命じます」

 

 静かだが、有無を言わさぬ口調で女が告げる。

 

 

「わたしが……第四真祖の監視役を?」

 

 

「ええ。そして、もしあなたが監視対象を危険な存在だと判断した場合、全力をもってこれを抹殺してください」

 

 

「抹殺……!?」

 

 雪菜は動揺して言葉を失った。

 

 第四真祖に対する恐怖はある。それほどの大任が、自分に務まるのかという不安もだ。

 

 これまでの修行に手を抜いたことは無いが、所詮雪菜は見習の身。本気で第四真祖を倒せると思うほど自惚れてはいない。なにしろ真祖とは、一国の軍隊に匹敵する戦闘力を持つといわれる正真正銘の怪物なのだから。

 

 だが、誰かがそれをやらなければ、いずれ大勢の人々が災厄に見舞われることになるのだ。

 

 

「受け取りなさい、姫柊雪菜」

 

 巻き上げられた御簾の隙間から、女が何かを差し出した。篝火に照らされ、闇の中に浮かび上がるものは、一振りの銀の槍。雪菜はその名前を知っていた。

 

「これは………」

 

 

「七式突撃降魔機槍”シュネーヴァルツァー”です。銘は”雪霞狼せっかろう”」

 

 知っていますね、という女の問いかけに、雪菜は頼りなくうなずいた。

 

 七式突撃降魔機槍シュネーヴァルツァーは、特殊能力を持つ魔族に対抗するために、師子王機関が開発した武器だった。高度な金属精錬技術で造られたその穂先は、最新鋭の戦闘機にも似た流麗なシルエットをもち、まさしく機槍の呼び名に相応しい。

 

 だが、武器の核としての古代の宝槍を使用しているため量産がきかず、世界に三本しか存在しないともいわれていた。いずれにせよ個人レベルで扱える中では間違いなく最強と言い切れる、師子王機関の秘奧兵器である。

 

 

「これを……わたしに?」

 

 差し出された槍を受け取りながら、雪菜は信じられないという表情で訊いた。

 

 しかし女は、むしろ重苦し気に息を吐く。

 

 

「真祖が相手ならば、もっと強力な装備を与えて送り出したいところですが、現状ではこれが我々に用意できる最強の武神具なのです。受け取ってくれますね」

 

 

「はい、それはもちろん……ですが」

 

 そういって雪菜は困惑の表情を浮かべた。

 

 御簾の向こうから差し出されたものは、槍だけではなかった。ビニールに包まれた、新しい制服が一揃い、きれいに折りたたんで手渡される。白と水色を基調とした、セーラー襟のブラウスとプリーツスカート。どうやら中学校の女子の制服らしい。

 

「あの、これは?」

 

 

「制服です。あなたの身長に合わせたものを用意してもらいました」

 

 

「その………ですから、なぜ制服を?」

 

 

「あなたの監視対象が、その制服の学校の生徒だからです」

 

 

 

「は?」

 

 

 自分が何を言われたのかわからず、雪菜は軽く混乱する。

 

 

「え?監視対象……第四真祖が、学生?え?」

 

 

「市立彩海さいかい学園高等部一年B組、出席番号一番。それが第四真祖、暁古城あかつき こじょうの現状の身分です。ですから師子王機関われわれには、彼と穏便に接触できる人材がいないのです。ただ一人、姫柊雪菜、あなたを除いては」

 

 

「暁古城……この写真の人物が第四真祖……?ええっ!?」

 

 床上に投げ出してあった写真を見下ろし、雪菜は目を丸くした。

 

 御簾越しに”三聖”の苦笑する気配が漏れてくる。その時になって、ようやく雪菜は理解した。なぜこのような重大な任務に、雪菜のような未熟な剣巫が選ばれたのか。

 

 

「あらためて命じます、姫柊雪菜。あなたはこれより全・力・を・も・っ・て・彼・に・接・近・し・、彼・の・行・動・を・監・視・す・る・よ・う・に・。彩海学園への転入手続きは、すでに済ませておきました」

 

 

 一方的にそう告げると、女以外の長老たちは消えていった。

 

 

「それと、あなたにはもう一つ伝えなければならないことがあります」

 

 

「は、はい」

 

 先ほどまでよりも真剣な女に声に呆然となっていた意識を覚醒させる。

 

 

「どうやらあの島にもう一枚の写真の少女が流れ着いているようなのです」

 

 

「写真の方は魔族なのでしょうか?」

 

 ただの魔族とは思えないほど神々しく見えたからだ。

 

 

「その事ですが、不明です。何者かがわらないのですが。その少女も学園にいることしか分かっていないので調べてほしいのです。」

 

 

「は、はい。何者か分からないのですか?」

 

 

 第四真祖とその少女との接点が分からず、雪菜は首をかしげる。

 

 

「我々でも詳しい事は分からないので、気をつけてください。―――以上です」

 

 そうして、女も他の長老同様気配が消えた。

 

 拝殿にたった一人残された雪菜は、呼吸することも忘れたまま、呆然と手の中の槍を凝視し続けた。

 

 第四真祖。転校。接触。監視。抹殺。しかも魔族かもわからない少女までときた。もしかしたら私は、とんでもない災厄に巻き込まれてしまったのではないか。そう思って雪菜は、我知らず小さな溜息を洩らす。

 

 

 占いの類を不得手とする彼女が、やがて、その直感が正しかったことを知るのは、もう少し先の話である―――。

 

 




とりあえず、なんとか本編スタートしました。
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