介護の仕事が忙しく中々書けませんでした。
雪菜は、爆発音が止まない倉庫街を走っていた。
戦闘中の眷獣は、漆黒の妖鳥だった。
ビルの屋上に立って眷獣を使役しているのは、長身の吸血鬼だ。
この魔力の凄まじさから、旧き世代の吸血鬼だろう。
黒い炎弾を撃ち攻撃している。何に対して、攻撃しているのが分からない。
「あれは……」
闇を裂いて伸びた閃光に気付いて、雪菜が困惑な声を出す。
それは虹色に輝く、半透明な巨大な腕だった。
数メートル近い長さの腕が、漆黒の妖鳥と空中で接触する。
次の瞬間、妖鳥の翼が根元からちぎられ、鮮血が飛び散った。
体勢を崩した妖鳥を、虹色の腕が貪るように引き裂いて、攻撃を加えていく。
「魔力を……喰ってる!?」
その異様な光景に、雪菜は戦慄した。 倒した眷獣の魔力を喰らう。――雪菜が知る限り、そんな眷獣は聞いたことがない。
そして、その眷獣を使役してる少女を見て、雪菜は更に戦慄した。
虹色の腕の宿主は、雪菜より小柄な少女であり、素肌ケープコートを纏った藍色の髪の少女だった。
「吸血鬼……じゃない!? そんな……どうして、人工生命体ホムンクルスが眷獣を!?」
呆然と立ち尽くす雪菜の背後で、ドッ、と重い何かが投げ落とされた音がした。
振り返ると、重傷を負って倒れた旧き世代の吸血鬼だった。
「――ふむ。 目撃者ですか。 想定外でしたね」
聞こえてきた低い男の声に、雪菜は顔を上げた。
燃え盛る炎を背にして立っていたのは、身長百九十センチを超える巨躯の男だった。
右手に掲げた半月斧バルディッシュの刃と、装甲強化服の上に纏った法衣が、鮮血で紅く濡れていた。
これは、返り血だ。
「戦闘をやめてください」
雪菜が、男を睨んで警告した。
男は、雪菜を蔑むように眺め、
「若いですね。 この国の攻魔師ですか……見た所、魔族の仲間ではないようですが」
「行動不能の魔族に対する虐殺行為は、攻魔特別措置法違反です」
「魔族におもねる背教者たちの定めた法に、この私が従う道理があるとでも?」
男は無造作に言い捨て、巨大な戦斧せんぷを振り上げる。
「くっ、雪霞狼――!」
槍を構えて、雪菜が走った。
負傷した吸血鬼を目掛けて振り下ろされて戦斧を、ぎりぎりで受け止める。
「ほう……!」
戦斧を弾き飛ばされた男が、愉快そうに呟いた。
男は、後方に跳び退き、雪菜へと向き直る。
「なんと、その槍、七式突撃降魔機槍シュネーヴァルツァーですか!? “神格震動波駆動術式”を刻印した、獅子王機関の秘奧兵器! よもやこのような場で眼にする機会があろうとは!」
男の口許に、歓喜の笑みが浮かんだ。
眼帯のような片眼鏡モノクルが、紅く発光を繰り返す。 男の視界に、直接情報を投影してるらしい。
「いいでしょう、獅子王機関の剣巫ならば、相手に不足なし。 娘よ、ロタリンギア殲教師せんきょうし、ルードルフ・オイスタッハが手合わせを願います。」
「ロタリンギアの殲教師!? なぜ、西欧教会の祓魔師ふつましが、吸血鬼狩りを――!?」
「我に答える義理はなし!」
男の体が、地を蹴って加速した。
振り下ろされた戦斧が雪菜を襲う。
雪菜は、それを見切って紙一重ですり抜けた。
攻撃を終えた直後のオイスタッハの右腕へと、旋回した雪菜の槍が伸びる。
オイスタッハは、回避不能のその攻撃を、鎧に覆われた左腕で受け止めた。
魔力を帯びた武器と鎧の激突が、青白い閃光を撒き散らす。
「ぬううん!」
オイスタッハの左腕の装甲が砕け散り、雪菜はその隙に後方へ跳び退いた。
「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか! さすがは、七式突撃降魔機槍シュネーヴァルツァー――実に興味深い術式です。 素晴らしい」
破壊された左腕の鎧を眺めて、オイスタッハが満足そうに舌なめずりをする。
そんなオイスタッハの姿に、禍々しい気配を感じて、雪菜は表情を険しくした。
雪菜は、彼をここで倒さねばならない、と決意した。
「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて、我に悪神百鬼を討たせ給え!」
「む……これは……」
雪菜が祝詞のりとを唱え、体内で練り上げられた呪力を七式突撃降魔機槍シュネーヴァルツァーが増幅。
槍から放たれた強大な呪力の破動に、オイスタッハが表情を歪める。
直後、雪菜はオイスタッハに攻撃を仕掛けた。
「ぬお……!」
放たれた槍を、オイスタッハは戦斧で受け止めたが、腕に伝わる衝撃に耐え切れず数メートル後退。
しかし、雪菜の攻撃はそれだけでは終わらない。 至近距離からの嵐のような連撃に、オイスタッハは防戦一方になる。
雪菜は、霊視によって一瞬先の未来を見る事で、誰よりも速く動く事ができるのだ。
「ふむ、なんというパワー……それにこの速度! これが、獅子王機関の剣巫ですか!」
見事、とオイスタッハは賞賛する。 雪霞狼の攻撃を受け止めるつつわざと、隙をさらす。
その瞬間、雪菜の攻撃が僅かに止まる。 人間であるオイスタッハを直接攻撃することに、一瞬だけ躊躇してしまった。
その一瞬を、オイスタッハは見逃さず強化鎧の筋力を全開にして、オイスタッハが巨大な戦斧を振り回す。
雪菜は、咄嗟に槍を構えて防御するが、反動で後ろに下がってしまう。雪菜の右足に切り傷ができ、血が流れる。
「いいでしょう、獅子王機関の秘術、たしかに見せてもらいました。――やりなさい、アスタルテ!」
オイスタッハの代わりに、雪菜の前に飛び出して来たのは、藍色の髪の少女だった。
「命令受託アクセプト。 執行せよエクスキュート。 薔薇の指先ロドダクテュロス」
少女の背中から現れたのは、巨大な腕だ。
腕は虹色に輝きながら、雪菜を襲う。 雪菜は雪霞狼で迎撃するが、巨大な腕に槍をつかまれてしまう。
「あああああああああああ――っ!」
少女が絶叫し、背中を引き裂くようにして、もう一本の腕が現れる。
眷獣が二体ではなく、左右一対で一つの眷獣なのだろう。
それは、独立した別の生物のように、頭上から雪菜を襲ってくる。
「しまっ――」
雪霞狼の穂先は、巨大な腕に握られたままだった。
未来視により、もう一本の腕の攻撃は避けれないことが分かってしまった。
死を覚悟する時間は無かったが、一瞬だけ、見知った少年たちの姿が脳裏によぎる。
今日出会ったばかりの、少年・少女たちの面影が。
「(私が死ねば、先輩たちは悲しんでくれるだろうか。 )」
その時、一人の少年の声が聞こえてきた。
「姫柊ィ――――――!」
第四真祖、暁古城の声が。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「おおおおおおおおォ!」
古城は握り締めた拳で、巨大な腕を殴りつけた。
虹色に輝く左腕が、跡形もなく吹き飛んだ。
そして、眷獣の宿主である少女も、その衝撃で転倒し、雪菜と戦っていた右腕も消滅した。
雪菜は呆然と眼を見張って、その光景を眺めていた。
「先輩!? 」
「大丈夫か? 姫柊 」
二基の人工島を連結する長さ十六キロの連結橋を全力疾走するのは、流石にきつかった。
そして、古城が追い付いた時には、最初に暴れていた眷獣は倒され、雪菜は謎の男と戦闘の真っ最中だったというわけだ。
ふと、雪菜から血の匂いがした為、体を注視する。右足から血が流れているのを見て激情に駆られる。目が赤くなっていた。
「てめー」
叫びながら、大きな斧を持った男にがんを飛ばしながら言っていた。
「先程の魔力……貴方は、ただの吸血鬼ではありませんね。 貴族と同等かそれ以上……もしや、第四真祖の噂は事実ですか?」
戦斧を構えて、オイスタッハが言う。
「なあ おっさん。頼むからさ、この島から今すぐ消えてくれねーか。」
古城が睨みながら言い放つ。
「引けません。わが目的には、膨大な魔力が必要なのでね。」
オイスタッハを庇うように、立ち上がったのは、藍色の髪の少女だった。
「再起動リスタート、完了レディ。 命令を続行せよリエクスキュート、薔薇の指先ロドダクテュロス――」
少女の言葉に従って、巨大な腕が鎌首をもたげる蛇のように伸びた。
右腕を振りかぶり殴ってくる。それに古城は右こぶしで、思いっきり殴り返す。拳と拳がぶつかりあり、一瞬相殺するが押し負けてしまう。
少女の眷獣の左手が古城にめがけて飛んでくる。古城は咄嗟に腕をクロスして防ごうとする。
「先輩!? 」
雪菜の悲痛な叫びが木霊する。
「古城 下がって。雷よ、うがて!」
突如、空から雷が、殴りかかっていた少女に直撃してする。
声の主は、倉庫の上に立っていた。
「「アリス(柊先輩)!?」」
アリスは倉庫の上から飛び降り、地へ着地し、右手を上げた。
「よう、さっきぶりですね。 古城、雪菜」
「な、なんでここにいるんだ!?」
「いや、あなたたちの後を付けてたんだ。 二人で出かけて何しようとしていたのか気になったから。」
戦斧を持った男は現れた。女を見て攻撃するか悩んだが、アスタルテが先の攻撃により負傷したため、撤退を考えていた。
その時少女より声をかけてきた。
「で、どうするの? 戦うんですか?」
「ここは撤退させていただきます。 行きますよ、アスタルテ」
「命令受託アクセプト」
アスタルテは、虹色の腕で地面を砕き、砂煙に紛れて殲教師と共に姿を消した。
アリスはそれを確認してから、息を吐いた。
雪菜がおずおずと、
「あの、柊先輩って何者なんですか? さっきの攻撃は一般人が出来るものではありません。」
「まあ、今は言えないわね。時が来たら、教えるわ。」
「わかりました。 時が来たら教えて下さいね。」
「さて帰りましょうか。私は、あなたたちの味方は変わらないから。」
「お、おう、さっきは助かった。……あ、アイス買うの忘れた」
「じゃあ、三人でコンビニにアイス買いに行きますか。」
「そうですね。 行きましょうか」
三人は、近場のコンビニ目指して歩き出した。
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