ヒトに恋した怪物たちへ   作:キョウさん。

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古き世界のハガネの乙女
はじまり~弾む世界とキカイのココロ~


 

 

 

 

 

 

 ―――システムチェック、問題なし。

 

 

 ―――破損箇所、軽微。

 

 

 ―――エネルギーレベル、低下。

 

 

 …メインカメラ、起動。

 

 

 まぶたがゆっくりと開き、一瞬だけ眩しさにくらんだあと、またゆっくりと開く。

 

 空には月が見える、真円の輝く月だ。

 人類種がかつてたどり着いた不毛の地、まだ植民ができるほど開発は進んでないあそこには月面基地があって、アタシの同型機が多数配備されていたことを思い出す。星々のまたたきは直前の記憶のあった頃よりも綺麗で、はあ、と感心を息にして吐いた。

 

 医療用メディカルユニット、半独立思考型オートドクター、それがアタシ達。

 ヒトを治して、生を与える。それだけに歓びを感じて、そのためだけに作られる。

 

 …しばらくスリープしてたみたい、エネルギーレベルが低下して、今にもシャットダウンしそう。

 

 いまはいつ?どれくらいこうしてたんだろう、状況は?ここは?

 

 フライトユニットで浮かび、バランサーで機体を起こす。

 …でもどちらも反応しなかった、故障?

 

 

 ―――違う。

 

 アタシの機体が ―――身体が、違う。

 瞬間、かつて感じなかった”感触”がアタシの全身を駆け巡る。

 

 風に打たれると寒さに震え、月を見上げるとまぶしさに目を細める、心に最初からあったかのような記憶が手足を動かし身体を起こし、アタシの寝ていた瓦礫に手をかけ腕に力を入れさせる…まだ慣れてなかったから手を滑らせて少しだけ身体が擦れて、イヤな感覚が走った。

 

 擦れた肌から赤い液体が垂れて、脈打つ身体を汚していく。

 

 …痛みだと、本能が発した。

 この身体はヒトの身体だ、アタシ達が治していたヒトの。

 

 

 身体を抱き、腕が、足が、そして――― 顔があることを知る。

 アタシの身体は完全にヒトになっていて、それが胸をどくんとはねさせた。

 

 動力炉の熱ではない、生の身体の熱だ、胸に手を当てると鼓動をもって応えてきて、それが否応にも自分が”ヒト”になってしまったんだということを理解させる。寒気が身体を走り去り、次々にぼうっと熱が湧いてきてそして、夜風にあたって鎮火した。

 

 ―――アタシは、なんなんだろう。

 

 リペアシステムが機能し、擦り傷をあっというまに修復する。

 けどこれは機械部品の修繕とかヒトを治すときにだけ使うものだし、それにヒトが生身の身体で使えるものじゃあない、機械であるメディカルユニットとしての能力でアタシ達にだけ与えられた”機能”だ。

 

 …自分に使えて、いいはずがない。

 

 はじめて使う足を踏みしめ、手足を使ってバランスをとる、

 少しだけ転び続けたあと、アタシはやっと最初の一歩を踏み出せた。

 

 薫る夜風のにおいを感じて、遠くにヒトの喧騒がささやく。

 

 

「……ヒトを、探さないと」

 

 

 ―――アタシは、ヒトに使われるキカイだから。

 

 




おとめたん
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