ヒトに恋した怪物たちへ   作:キョウさん。

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一話~ヒトの都と月の真下で~

 

 

 

 空がせまい。

 

 都の門をくぐったとき、そうおもった。

 

 

「じゃあ狼のお嬢ちゃん、気をつけて行きなよ、スラム街には一人で行かないようにな」

「はい、はーい!ありがとうございました!」

「にしても最近の装飾品ってのは出来がいいなあ…今度娘に買っていこうかな」

「え、えへへ…」

 

 本物ですなんてうかつには言えないから、門の見張りさんを笑顔でごまかしてぺこり、ってお辞儀。入る時にかばんの中身を見られて都に入れちゃいけないものがないか検査されたけど、わたしは大丈夫だった。

 

 あぶないくすりとかあぶない魔法の道具とか、よくわからないけどあぶないものが持ち込まれないようにこうやって荷物をがさがさするんだって、わたしのリュックはすごい大きいから時間がかかって、でもこんなおっきいのを一人で持ってるなんてすごいなって褒められちゃった。

 

 わたしはすごい、立ち止まってえへへとしてたら次がつかえてるって怒られちゃって。

 でもそうして入った都のなか。

 ヒト、ヒト、ヒト……すごいヒト!

 

 ひろーい道を右を見ても左を見ても歩いてて、ずーっとずっと立ち並んでる建物はみんな2階建て!とおくを見るともっと大きい建物もあるから、あとでいってみよう。それでその建物たちを背にしていっぱい露店のお店が並んでて、いろんなものを売ってるの、あっちはたべものかな、こっちは髪飾り?

 

「なんでこんなにヒトがいっぱいなんです!?わうわう!!」

「え?あ、自分かい?そりゃあ街の端と端をつなぐ中央通りだからね、人も山程通るってもんさ。おまけに近く大市場があるもんだから商人が次から次へと……お嬢ちゃん、田舎から出てきたの?じゃあどうさウチの揚げバター、ほらひとくちあげるから気に入ったら」

「あっふあふっ、ほっくほく!あまーい!まろやか!ひとつ、いやふたつくださいっ!」

 

 入ってすぐのとこ、露店を開いていたヒトになんでーって聞いたら、おいしいお菓子をもらっちゃった。おいしい!すごくエネルギーって味がする!お財布から銅のお金を何枚かとりだすと、露店のヒトに渡してふたつも買っちゃった、お金の数え方はお勉強してるの。

 おじいちゃんの教えひとつ、お金はみだりに使わないこと!でもおなかがすいてるならごはんを買わなきゃだめだよね。

 

 両手に串刺し揚げバター二刀流、おにいさんお話してくださいわんわん。

 

「おにーさんはずっとこうしてるの?」

「親父の代からだからもう長いね、中央通りはオメルタ商会が取り仕切ってるからもともと都に住んでるか、よっぽど腕のいい奴か、どっちにしろ彼らへの上納金を支払える地盤のあるところしか構えられないんだ」

「じょーのーきん」

「ここでお店を開くために、偉い人にお金を払うってことさ」

 

 お店をひらいてものを売るだけなのにお金を払うなんて。

 ヒトのルールはよくわからないです、わうわう。

 

「大きなリュックだね、お嬢ちゃんも田舎から何か売りさばきに来たっていうクチかい?それなら中央通りから曲がって少し北に向かったところにある”旧世界通り”を使うといいよ、あそこなら許可は特にいらないから。ただ北に行きすぎないでね、スラム街に入ったら危ない」

「わ、わたし旅してるから大丈夫! …すらむ?」

「この街にも例外なく、旧世界の廃墟があってね、街の文化財で今は立入禁止になってるんだが……そうなる前は盗掘者ってのがいたんだよ、彼らが北端に寄り集まってできた市街も、旧世界の遺産を食い潰せなくなったらあっというまに廃れて今や貧民の集まる無法地帯さ」

「入ったらどうなるの?」

「あそこは衛兵も近寄りたがらない、痛い目に遭いたくなかったら近寄るんじゃない、いいね?」

「わ、わう!」

 

 ヒトの世界は危険がいっぱいだって聞いてたけど、こんな身近にあるなんてこわいわうわう、街の北、北の端はいっちゃだめ、レラ覚えた。

 

「ほかにはどんなとこがあるの?」

「そうだなあ、中央のあの高い建物たち、見えるだろう?」

「たかーい!」

 

 おにいさんが指差す方向、街のまんなかにいくにつれて建物が高くなって、一番高い建物は4階建てのすごーくおっきいお屋敷だった、誰が住んでるんだろう。

 

「オメルタ商会の重役や会長達が住んでる。この街にも政治はあるが実質彼らが牛耳っているようなもんさ、黒い噂もいくつも絶えないし、悪いこと言わないから商売をするんじゃあなきゃ彼らには関わらないようにして、もし何かあったら素直に頭を下げたほうがいい」

「わう…」

「東に行けば歓楽街だ、西にもあるんだがこっちのが大きくておすすめだよ。自分たちのいる南はただの住宅街、通りに市場……暮らすにはいいが君は用はなさそうだ。あとは各地に教会もあるし兵舎や浴場だってある、衛兵も見回ってるし、困ったら聞けばいいだろう」

「わぁ…いっぱい行きたいとこができちゃった、どうしよどうしよ!」

 

 教会は天使さまを祀ってて、浴場にはおっきなおふろとかもあるんだって!

 歓楽街……遊ぶところかなあ、こっちはあとでいいや。

 どこに行こうかなってまよってたらぐるぐる回っちゃって目が回っちゃった。

 

 おにーさんはふふっと、わたしを見て軽く笑う。

 

「元気がいいなあお嬢ちゃんは、とりあえずだ、スラムとオメルタ商会、彼らに関わらなければここじゃあ幸せに暮らしていける、いいね?路銀を稼ぐため仕事を探してるなら中央に冒険者ギルドの支店もあるし、まあ行ってみるのもいいかもな」

「はいっ! …あ、そうだおにーさん」

「うん?」

 

 そうして会話がおわりそうになって、はっと気づく。

 そうだ、ここでヒトに会ったら聞くって決めてたんだ。

 

 リュックから古くなってきた傘を出して、これの手がかりを。

 

「これをもってたヒトについて、何かしらない?」

「ずいぶんやつれた傘だなぁ…とはいっても傘ひとつみたって、まあ見てみよう」

「ありがとうっ」

 

 おにーさんに傘を渡すと、おにーさんはじっくりしっかり、傘を調べてくれる。

 わたしはちょっとさめてきた揚げバターを量に持ったまま、その場におすわりした。

 

「ううむ、どこの誰のものかはわからんがいくつかわかったことはあった」

「わうわう!おしえてください!」

「こらこら。そうだなあ、まず状態は悪いがもとの質はかなりいい素材で作られているし、装飾の細やかさからもとは結構な値打ちモノだったってのだけわかった、最低でも中流階級以上の人間のものだよ、いいものもらったな」

「やっぱりいいヒトのだからいいものなんだ…!」

「だけどお嬢ちゃん、ちょっとこっちに耳寄せてくれるか」

「わぅわぅ」

 

 なんだろなんだろ、わたしは耳をおにーさんのお口に近づける。

 頭の耳を近づけたことがおかしかったのかな、ちょっとだけ間を開けて、おにーさんは耳元でぼそぼそと喋りだした。

 

「…紋章があった、でも王家のものじゃない、教会なんだが…。

 ”天使の羽箒”って連中のもんさ。

 教会の手先で僧兵集団、要は武闘派の連中だ」

「ぶとーは」

「アブない連中のことさ。

 こう言っちゃなんだが、あんま関わらんほうがいいぞ。

 天使の聖名(みな)の元になんでもやる連中だよ」

「わぅ…」

 

 わたしを助けてくれたヒトがアブない…そんな。

 でもそんなはずはないって、信じたい、少なくともわたしを助けてくれたときは、優しいココロをもっていたはずだから。

 

 わたしはおにーさんから耳を離すと、しっかりとお辞儀してありがとうを伝えた。

 

「ありがとうおにーさん、でもわたし、行きます」

「どうしてそこまでするのかわからんが、前途を祈るよお嬢ちゃん、まいどありがとうな」

「ううん!」

 

 おにーさんはいいヒト、レラ覚えた。

 ちょっとずつ溶け出してきた揚げバターを口に放り込みながら、もういちどふかぶかとおじぎをした、おじいちゃんの教えひとつ、あいさつはしっかり!

 

 

「ところでお嬢ちゃん、よかったら」

「ふぁい」

「情報量がてらにもう一本買ってかない?持ち帰り用の葉っぱにもくるんであげるよ」

 

 

 結局、わたしは二本追加した。

 

 

◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ヒトの都ってすごい、とってもひろくてとってもおっきい。

 いっぱい露店をまわって、いっぱい食べもの買って、いっぱい聞いて、いっぱい歩いてた気がするんだけど気がついたらお月さまがのぼってた、ちょっと欠けてるお月さま、買いすぎちゃったお団子食べませんか、きっとまんまるになれますわうわう。

 

「どこだろう、ここどこだろう、どこだろう…」

 

 ごー、しち、ご。

 おじいちゃんがよくこんな詩を縁側で詠んでた。

 

 方向オンチじゃなかったはずなのに、ヒトの街だとどっちがどっちかわからなくなって気がついたらへんなとこにきちゃった、どこもかしこもおうちもお店もしまってて、とっても暗い暗いくらいなきそう。

 たまに見かけるヒトはなんか目つきがわるいし、はやくどこかで眠りたいわんわん…。

 

 そうしていると、道をぬけてまたよくわからないところにたどり着いた。

 よくわからないところはもうおなかいっぱいです。

 

「……なんだろ、ヘンなたてもの」

 

 木の柵でおおわれたなかに、ひろーい建物がある。

 角ばった形で窓はみんななくって、ヘンな看板がついてて、ところどころ崩れてボロボロで、おまけに誰もいない気がして、これが廃墟っていうやつなのかな。

 

 偉い人が住んでるってとこはずっと遠くに見える、じゃあもしかするとここ、北の”きゅーせかいの廃墟”ってとこなのかも。立入禁止だっておにーさんは言ってたけど、誰かがみはってる気がしない……むしろ見張っててくれたら落ち着いたのに。

 

 なかにいるのかな、衛兵さんとか。

 …衛兵さんを呼ぶだけだから、いなかったらちょっと一晩だけお借りしよう。

 

 おじいちゃんの教えひとつ、臨機応変。

 

「よっこらわうわう」

 

 リュックを背負ったまま背の高さくらいの柵をぴょんっととびこえて、敷地のなかにはいる。

 やっぱり誰もいなくって、わたしはまっくらな建物にちょっとだけ足踏みしつつもその中に入っていった。

 

 わたしはシルバーファングだから、夜は目が効く。

 お月さまの灯りをもらってぼんやり明るい中をちょっとずつ歩いていって、ここかな、ここはどうかな、お部屋をのぞいたりしてるうちに興味がどんどんわいてきて、いつのまにか探検みたいなことしてた、わたしは悪い子ですわうわう。

 

 赤い十字架とか、車輪のついた壊れた椅子とか、よくわからないものを見ながら歩いていくと、いつしかボロボロのドアがあるのに気がつく。

 

 …この建物、円をえがくようにつくられてて、このままいくと元に戻っちゃうんだ。

 じゃあ先へ進むには扉を開くしかないよねって、最近掃除されたのかボロボロなのにホコリのないノブに手をかける。

 

 まるい鉄のドアノブを回すと―――

 

 

 そこは、お月さまの光が挿す中庭だった。

 レンガの床がちりばめられてて、でもまんなかにきっとあっただろう石像は崩れてて。

 砂が吹雪いたみたいになってたけどそれでもきれいだったからきっと、昔はここは想像もつかないくらい綺麗だったんだなってはあっと、ふと胸に手を当てて熱いため息を吐いた。でもすぐ、わたしはもっと別のものに心臓をつかまれたんだ。

 

 

「……ヒト?」

 

 月の光が挿す中に、月を見上げて立っていた女の子。

 

 血が乾いたみたいな赤い髪はそよ風に揺れて、背はきっとわたしより高く。きっと”ほーまん”とか”ぐらまー”っていうんだろな、そんな綺麗な身体を月にさらして手で身体を抱いて、お月さまと同じ色の瞳でぼやっと月をながめてた。

 

 瓦礫にかこまれて、でもまるでそこに最初からいたみたいに溶け込んで。

 

「…ヒトを探さないと」

「えっ?」

 

 ひとことだけ、低めを行くそよ風みたいな声でささやいたかとおもうと、その子は裸足のまま歩き出した。痛そうな感じもしない足取りで、お月さまから前に前にとあるき出す、裸のまま、なだらかにどこもつるりと滑るような肌を隠しもしないで。

 

 だからわたしはその場にふあって縛り付けられたみたいになっちゃってすぐ ―――目が、あった。

 

「…誰?」

「わ、わたしは、わわっ、わぅ」

 

 どうしよう、入っちゃダメってとこに入って怒られるのかな。

 それにセドラちゃんもそうだったけど、ヒトは裸を見られるとなんか怒るみたい。

 

 どうしようどうしようダブルパンチだ、ちょーえき二年だ…手をぶんぶん振って、言葉を失ってるのにそのヒトはぐんぐん寄ってきて。

 

「私は独立思考型メディカルユニット、ALT-02……」

「め、めでぃかる?」

 

 それを最後まで言い終える前に、ばったんと。

 ―――前のめりになって倒れた。

 

 しばらく静けさがもどってきて、でもはっと、耳をぴんと立てて助けなきゃってなって。

 

「………た」

「えっ?」

 

 なにかぼそぼそと、倒れためでぃかるちゃんがつぶやく。

 わたしは地面に手を付けて耳を寄せると、それでやっと何をつぶやいてるのかわかった。

 

「…おなかすいた」

「えっ?」

 

 

 ―――そのキカイの女の子との、最初の出会い。

 

 




(´・ω・`)機械系少女は肌も白いし体毛も薄いと想うんですよね
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