では、どうぞ。
加奈と電話を終えた俺は、新妻君のマンションのインターフォンを押すと、チャイムが鳴りドアを開けたのは福田さんだ。
「お、波木君。皆集まってるから、上がってくれ」
「了解っす」
福田さんに続き俺は玄関で靴を脱ぎ、リビングに向かって歩いて行く。其処には、中井さん、蒼樹さん、福田さん、平丸さん、新妻君が集合していた。
俺は手に持ったビニール袋を真ん中に置き、空いている椅子に座った。
「全員集まった事だし、本題に入る。――KIYOSI、CROW、ラッコ、ハイドア、ダブルダンクは、TRAPの休載が終わるまで書かない。それでいいか?」
椅子に座った福田さんがそう言った。
これに対して、俺たちの意見は「異議なし」だ。まあ、中井さんはちょっと渋ってたけど。
「と、ところで、波木君。ネットで見たんだけど、声優さんと結婚してるって本当かい?」
「そうっすね。今は『舞台女優』も兼任してますけど」
平丸さんは「なッ!?本当だったのか!吉田氏の言う事は!」と小声で言っていたけど。
うーむ。平丸さんは、声優と結婚したい願望でもあるのだろうか?
「ど、どんな出会いだったんだい!?」
お、おう。かなり食い付くな平丸さん。
「いえ、出会いというよりは、幼馴染の関係で結婚に至ったって感じです。まあ、幼少期から一緒だったんで、結婚は必然だったかも知れません」
俺ってほぼボッチだったので、いつも一緒に居てくれたのは“加奈”しか居なかった。……うん、友好関係をもっと築いて於こうぜ、俺。
つーか、今はボイコット話し合いである。
「俺の話はここまでです。福田さん、続きをお願いします」
「ああ。まずはジャックに電話だ。『亜城木君の休載を取り消すまで、オレたちも休載します』ってな」
福田さんは雄次郎さんに電話をかけ、雄次郎さんが電話に出た所で、各自が休載するという旨を伝える。……今頃編集部は、大騒ぎになりつつあるだろうなぁ。
福田さんの話によると、担当さんたちが、編集長、副編集長に内密で会いに来るらしい。場所は、駅前のファミレスだという事。
「受けて立った!出陣だ!」
それから各人は、新妻君のマンションから出てフェミレスへ向かうのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
~駅前フェミレス、テーブル席~
作家はテーブル席に座り、担当たちが来た所で、
「「「「「お疲れ様です」」」」」
編集や班長は、作家たちとは対面のテーブル席に着席する。
「本気で休載する気か?」
そう言ったのは、翔太・平丸の担当である吉田だ。
「真城君は休載する気もないし、病室で書ける。吉田さんも、病室で見たじゃないですか」
「そ、そうだが。しかし――」
やはり、吉田の独断で決定するのは困難だろう。
班長の相田が、
「その真城君だって、TRAP休載の為に君たちも休載なんて知ったら喜ばないだろう?」
「でしょうね。自分たちのせいでと責めるかも知れない、だから真城君にはこの事は言うべきじゃない。――とにかく、編集長がTRAPの休載を撤回しなければ、ここに居る5人は休載する。これは決まりだ――」
「休載って、いつまでする気だ?」
吉田は、テーブルに両肘を突けて手を組んだ。
「もちろん、TRAPが載るまでです」
福田は、ぶっきら棒に答える。
「……TRAPが4月まで休載したら、君たちまで4月まで休載って事になるんだぞ。いやその前に、休載期間のアシスタントはどう繋ぎ止める?給料を出し続けるのが、不可能な者もいるだろう」
相田が言うように、アシスタントには月々に給料を払わなければならない。もし、給料が払えない作家となれば、アシスタントは離れて行き、連載作家には致命的である。
「皆の分は僕が出します。お金一杯持ってますし、1億円なんて使い道はありませんから。皆の役に立てて嬉しいです」
「いや新妻君、俺も出します。貯金は溜まってるし、金を使う機会もほぼ無いので」
ちなみに翔太の貯金は、2億5千万は溜まっている。
「さすが僕のライバル、波木先生です」
「いや、いつの間に俺たちってライバルになったんですか?まあいいですけど」
編集たちは、この会話を聞いて絶句している。
まあ確かに、新妻エイジと波木歩夢は、コミックスの売り上げが900万部以上。彼らの元に入ってくる金は、かなりの額である。
その時、真城たちの担当だった服部が、
「じゃあ聞くが、君たちはどこまでの撤回を望んでいるんだ?いや、編集長が休載を退院するまでに訂正にすれば、描くか?」
服部は話を続ける。
「編集長が、TRAPの休載は真城君が退院するまでにと折れても、ボイコットするのか?」
「その手には乗りませんよ、服部さん。そんな話は、編集長が退院してからに変えたらですよ」
福田がそう言い、ドリンクバーを取りに行った新妻が爆弾発言をする。
「でも、休載期間が何ヵ月も続くなら、僕たちは他誌に行きます。それと、契約金も全てお返しします」
「「それをここで言うか!!」」
福田と翔太の声が重なった。だが、いきなりの発言で、翔太は敬語を付けるのを忘れ発言してしまうのだった。
これに一番に反応したのは、雄次郎だ。
「ば、バカな事を言うな!そ、それだけは止めてくれ……オレたち全員の首が飛ぶ!」
「そうなんです?それはかわいそうですね。雄次郎さんにはお世話になってますし、漫画は描き溜めておきますかね……描いてはいたいですし」
「そ、そうしてくれ。福田君も――」
福田は、やれやれ、といった表情で、
「わかりましたよ。描き溜めはしておきます」
それを聞き、雄次郎はホッと息を吐く。
そして吉田が、
「柏木君も、描き溜めは頼んだよ」
「了解っす」
翔太の場合、今週のペン入れが終わっていたりする。なので、この休載期間で脚本を書き終わらせると決めている。
平丸は、「え、原稿描くの?」と思っていたようだが、担当の吉田に「描いておくように」と言われ「……当然です」と頷いていた。
「あ、蒼樹君はわかっているのか?人気作家の新妻君や波木君、順位が高い福田君や平丸君とは違い、順位が低い
中井は「そ、それは困ります」と発言しようとしたが、蒼樹はその上に言葉を重ねる。
「かまいません。そんな不当な事をする編集長なら、こちらから願い下げます。私も今回の事は、編集長が間違っていると考えてますので」
蒼樹は、かけている眼鏡の縁を上げて答える。
「おっ!また意見が合ったな!今日の蒼樹嬢は素敵だぜ!」
「ブラボーデス!」
「さすが、女は胆が据わってますよね」
翔太と加奈とでは、加奈の方が圧倒的に強かったりする。まあでも、喧嘩事は一切ないおしどり夫婦なのだが。
「蒼樹さんいいです、好きです」
何気なく告白する平丸に、中井が「だから君は――」と、反論する。
「こんな所で、担当たちと話してても意味ねーな。編集長の所に行って意思表明しに行こーぜ」
「それがいい、はっきり『休みます』っと」
福田と平丸は立ち上がろうとするが、
「お、おい。ちょっと待て!」
「いいじゃないですか」
相田は止めるように言葉を発するが、雄次郎は福田たちを促す発言をする。
「僕も編集長の判断は気に入らない。福田君たちの決意は固いみたいだ。このボイコットで覆るかやってみるのも面白いじゃないですか」
「お前な。オレたちの仕事は、作家に原稿を貰い誌面に載せる事だろ」
「じゃあ、相田さんは
雄次郎は、福田たちを見る。
「雄次郎さん、話がわかりますね」
「当たり前」
福田たちの決意は固いようだ。
「しかし、さっきも言ったが原稿は描いておけよな。もし、編集長が撤回したら休載はしないんだから」
「ラジャ」
「わかってますよ」
「了解っす」
「……当然です」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「……ダメだな。これ以上説得しても無駄なようだ」
「……よし、わかった。編集長に掛け合って見る、しかし、君たちは来るな」
福田は「なんでですか」と言うが、相田が言うには
「……わかりましたよ。それじゃあ、編集長の説得お願いしますよ」
こうして、作家と編集との話し合いが終わった。
翔太は福田たちに一声をかけてから、「今日の夜食は何だろう」と胸を弾ませ帰路に着くのだった。
平丸さんは、ネットの事は完全に信じていなかった為、翔太君に確認を取った感じです。
翔太君が購入した差し入れは、意見を出している途中で皆で食べました。
ではでは、次回もよろしくですm(__)m