「……で、できない。今週末締め切りだし、やばいなぁ」
そう言って俺はペンを置き、腕を組んで顔を落とす。
「やっぱり、恋愛漫画は厳しいの?」
向かいのソファに座り、舞台の台本を読んでいた加奈がそう言う。
「……ああ。ただの恋愛漫画になると、俺は新人漫画家に戻るらしいな」
「何も思い浮かばないわ」と語尾に付け加える。
やはり俺は、友情系漫画しか書けない。……てか、
加奈は何か閃いたように、
「翔太君。これからお休みだよね?」
「そうだな」
ダブルダンクの原稿は午前中に挙げている為、午後からはオフなのだ。
「じゃあ、今からデートしようっ」
加奈が言うには、何か掴めるかもよ。ということらしい。
でも、加奈の提案は俺も嬉しかったりする。最近は休みが被らない日が多々あったので、何処にも行けてなかったし。
俺は顔を上げ、
「デートするか。加奈、行きたい所あるか?」
「えっとね。矢草北で、前にオープンしたデパートに行きたいかな。前から気になってたから」
「了解だ。んじゃ、行こうか」
「うんっ」
俺と加奈は席を立ち、支度をしてから玄関を出でドアに鍵を閉め、手を繋いで仕事場を後にし、そのまま駅に向かい、改札口を通って矢草北行きの電車に乗車して目的地に向かったのだった。
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電車から下車して、改札口を通ってから手を繋ぎ目的地に辿り着く。
二重自動ドアを潜り、デパート回りを見渡すと『今年度オープン』の文字が映る。
「私、服屋に行って見たいな」
加奈が言うには、夏物のワンピースが見たいということ。んで、俺に試着の感想が欲しいということだ。
それから手を繋いで歩き出し、服屋に到着しレディースコーナー入っていく俺たち。
「やっぱり白かな?」
加奈はワンピースの色、黒、白、水色で迷っているらしい。昔なら水色一選だったが、今では悩みの主にもなっているそうだ。
「俺は黒がいいと思うぞ。加奈の大人っぽさを引き立ててくれそうな色だしな」
「そ、そっか。じゃあ、黒にしようかな。――でも折角だし、他の色も試着していいかな?」
俺が「おう」と言うと、加奈は、白、黒、水色のワンピースを持って試着室へ向かった。
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俺は試着室前にあるパイプ椅子に座っているが、周りの視線で落ち着かない。
そんな時カーテンが開けられ、黒いワンピースに身を包んだ加奈が現れる。
「ど、どうかな?」
「ああ。似合ってるよ…………うん、凄く似合ってる」
加奈は頬を桜色に染めた。
「そ、そっか。そ、それじゃあ、違う色も試着して見るね」
そう言って、加奈は試着室のカーテンを閉めるのだった。
それからは、加奈と俺主催のプチファションショーが開催した。ちなみに俺が審査員で、加奈が舞台者である。
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服屋で買い物を終え、買い物袋を右手に下げた俺たちは、デパートで人気があると言われているパフェ店に向かい、ドアを潜り回りを見渡すと、カップルの割合がかなり高い。
「……爆発しろ」
「……翔太君。今の発言で、世の男の子の大半を敵に回したよ」
「いや、カップル率が多いんだし、リア充爆発しろ。でいいだろう」
「……もう、ブーメラン発言だよ、翔太君」
そう言って加奈は肩を落としていた。いや、何。俺って間違った発言をしたのだろうか?ともあれ、俺たちは空いている席に腰を下ろし、その隣に買い物袋を置く。
「加奈は、何味にする?」
メニュー表を見ながら、俺が呟く。
加奈は「んー」と思案顔をして、
「マンゴーパフェにしようかな。翔太君は?」
「俺はチョコパフェにすっかな」
店員を呼んで注文をし、注文から数分後にパフェがテーブルに届けられる。
「……意外にデカイな。ここのパフェ」
「だね。値段も手頃だし、
この強みが、人気店に繋がっている理由なのかも知れない。
俺は手元のスプーンを手に取り、チョコパフェを一口。――口に入ったパフェは、溶けるように口内に広がり、とても美味である。同様に、マンゴーパフェを一口食べた加奈も同じ感想らしい。
「翔太君。チョコパフェ食べたいんだけど、いいかな?」
加奈は上目遣いで、俺を見る。てか、とても人妻だとは思えない、女子大生で通る可愛さである。
「いいぞ」
俺はそう言ってから、パフェを加奈の前に移動させようしたのだが――、
「食べさせて欲しいなぁ」
と言って、加奈は俺の手を止めた。
……それにしても、甘い声は反則でしょ。あざとすぎる。
「ほれ。――あーん」
俺は溜息を吐き、パフェを掬ったスプーンを、加奈の口許に持っていく。
「ん。――あーん」
加奈はパフェを咀嚼して食べると「美味しい」と言って微笑み、俺も「そっか」と言って笑みを浮かべる。――――このように食べさせ合いながら、俺たちはパフェを間食した。
食べ終わった所で買い物袋を持って席を立ち、会計に向かい、俺が代金を払って店を後にしたのだった。
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店を出て、休憩所のベンチで一休み。
「漫画のヒントにはなりそうかな?」
「わからん。てか、個人的欲求が勝ってるからなぁ」
個人的欲求とは、加奈とデートを楽しむ。という欲のことだ。
その時「うわああぁぁん!」という鳴き声が聞こえる。発生源に目を向けると、そこには迷子になっている男の子が映る。
俺と加奈は顔を見合わせると、その子の元まで歩み寄る。
「どうしたの?お母さんとお父さんは?」
「……ひっぐ……僕が、気付いた時……いなかった」
なるほど。親父さんとお袋さんが目を離した隙に移動していた。ということだろう。
加奈は、男の子と同じ背丈になる。
「じゃあ、一緒に探そうか。僕のお名前は?」
「……う、うん。大和龍一」
「そっか。――龍一君、私は柏木加奈。それで、私の隣に居るお兄さんは、柏木翔太だよ」
「……翔太兄ちゃんと、加奈お姉ちゃん。でいいのかな?」
……俺が兄ちゃんと呼ばれる日が来るとは。でも世間では俺、親父認定されてるからなぁ。正確には結婚してるだけで、父親にはなって無いんだが。ちなみに、加奈も母親認定されていたりもする。
「んじゃ、親父さんとお袋さんを探しに行きますか」
「そうだね。行こうか、龍一君」
「うん」
それから俺たちは歩き出す、まずは迷子センター行き、事情を説明してから放送をかけてもらおう。
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と思っていた俺でした。
「加奈お姉ちゃん!見て見て、大きい恐竜さん!」
「そうだね。大きい恐竜さんだね」
店内の大き目の恐竜プラモデルを見て、加奈と龍一は嬉しそうに言う。
そう、俺たちは二階から一階に移動する途中で、おもちゃ屋に足止めされているのだ。いや、何。迷子センターはどうしたん?親父さんとお袋さんも心配してるよ。
「加奈お姉ちゃん!僕、プラモデルが欲しい!」
「プラモデルかぁ」
加奈は俺を見て「どうしよう?」という視線を送る。
「じゃあ買うか。でも、それが終わったら親父さんたちを探すぞ」
龍一は「うん」と言って、プラモデル売り場に向かった。
加奈は俺の隣に立ち、
「子供って可愛いね」
「そうだな。欲しいか?子供」
「20代後半になったらお願いしようかな。今はお仕事に集中、かな」
「でも、愛情はちょうだいね」と言って、微笑む加奈。
「その辺の心配はすんな。でも、期待しすぎるのは勘弁な」
「ふふ、わかってます」
と言って、加奈は苦笑した。
そう話していたら、龍一は某ガンダムのプラモデル箱を三つ持ってきた。何でも、二つは「加奈お姉ちゃんと、翔太お兄ちゃんに」ということらしい。
ともあれ、会計をし、買い物袋の一つ一つを右手に持つ。んで、おもちゃ屋を出た所で、店内放送で――『迷子の大和龍一君。 只今、迷子センターで親御さんが待っていますので、至急お越しください。 繰り返します――』と流れる。なので俺と加奈は、龍一を連れて一階迷子センターへ向かった。
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~迷子センター~
「龍一を見つけて下さりありがとうございました」
「龍一と遊んで下さり、本当にありがとうございます」
大和夫妻に頭を下げられ、俺と加奈は動揺する。
「い、いやいや。俺たちはただ遊んでいただけなので、気にしないで下さい」
「そ、そうです。あ、頭を上げて下さい」
俺と加奈の言葉を聞き、大和夫妻は頭を上げてくれる。
「それと、この子にプラモデルを買って戴き……」
「今、お金を支払います。少し待っててくれますか?」
「こ、今後ご贔屓にして頂ければ問題ないですから」
「そ、それだけで私たちには十分なお礼になるので」
そう言うと、大和夫妻はハッとする。俺と加奈の正体が解ったようだ。それに聞いた所、親父さんは“ダブルダンク”のファンだということ。
ともあれ、龍一も大和夫妻に出会えて一安心だ。
「本当にありがとうございました。柏木さんの漫画、楽しみにしてます」
「舞台も拝見します。頑張って下さい、応援してます」
すると、大和夫妻に手を引かれた龍一が、
「加奈お姉ちゃん、翔太お兄ちゃん。お母さんとお父さんの所まで連れて来てくれてありがとう」
「気にすんな。今度からは一人で行動しすぎるなよ」
「今度は迷子にならないように、気をつけるんだよ」
「うんっ!」
龍一は元気良く頷き、大和夫妻に手を引かれこの場を後にする。ともあれ、この件は一件落着である。
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夕焼け空の下、俺と加奈は歩道を歩いていた。
「漫画のヒントにはなった、かな?」
「デートの欲求が勝ってたから、正直な所なんとも言えないかな。でも、俺には最高の一日だったけど」
「そっか。私も最高の一日になったよ。明日からも、また頑張ろうね」
「そうだな」
それから週末が過ぎ、
某ガンダムは、読者様のご想像で。
では、また次回(@^^)/~~~