「今回も、CROWが1位。ダブルダンクは2位だ」
今週も合わせると、3週連続でCROWが1位ということになる。
「……そうですか。3週連続で抑えられてると自信を無くしますよ」
「……今のCROWは異常と言ってもいいしな。それでだな、今日新妻君が編集部に来てだな――」
吉田さんの話によると、新妻君は東京に上京するにあたって、編集長に『ジャックで1番の漫画家なったら、漫画を1つ終わらせる権利をくれ』と言う条件を出したそうだ。
現在、このことを編集長に話した所、10週連続で1位を獲れば好きな漫画を終わらせていいことになったそうだ。
「だが、我々も新妻君が終わらせたい漫画が解らないんだ。――柏木君は解るか?」
「――CROW、だと思います。新妻君は、終わらせたい時に終わらせる姿勢でしたから。でも、人気漫画を終わらせるのは、編集部は反対でしょうね」
CROWの盛り上がりは、既に最終決戦でありかなりのものだ。そしてCROWは、少年ジャックでの看板作品である。
会社の利益も考えると、CROWを終わらせるのは反対だろう。
「それに俺も“――絆、永遠と共に”の最終回を自由に描かせてもらっていたので、新妻君の気持ちは解ります」
吉田さんは「なるほど」と頷いた。
「――でもだからと言って、1位を譲り続けるつもりはありませんけど」
「ああ。よろしく頼むよ」
この日の打ち合わせは、この会話を最後に締め括られた。
だが今のCROWを抜かすのは、至難の技なのかも知れない。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
~同時刻、新妻家~
「じゃあ、嫌いな漫画を終わらせる権限をくれって言ったのは、本当なんだな!」
福田が声を上がると、エイジは「はい」と頷き集まった人たちに驚愕が走る。
……編集部が噂していた話は、事実だった。ということだ。
「で、その権限はもらえたのか!?」
「そんな権限貰えるはずがないじゃないですか」
平丸がそわそわとしながら嬉しそうに呟き、蒼樹がそれ落ち着けるように呟く。
だが、エイジの次の言葉で驚愕が走る。
「――貰いましたけど」
でも、エイジが言うには「条件付き」だそうだ。
その条件は、後7週連続で1位にすること、そして終わらせたい漫画は――CROWだ。
翔太の予想は的中。ということだ。
「き、嫌いな漫画じゃないのか?」
福田がエイジにそう聞く。
エイジは漫画を書きながら、
「嫌いですケド」
「嫌い?」
「はい。自分の終わらせたい形で終わらせられられないのは大嫌いデス。僕だって人気漫画を編集部が終わらせたくないのは知ってます、ジャックは商業誌ですから当然です。ケド僕は漫画を描く前から決めていました。終わらせる時期は自分で決め、カッコ良く終わらせる。――波木先生の“――絆、永遠と共に”。が解り易い例になると思いますケド」
エイジが言う、波木歩夢作“――絆、永遠と共に”は最高の終わりを迎えており、その後の後日談は読者の妄想に任せるようになっているのだ。
だからまあ、「こんな終わり方は後が気になる、続きを描いてくれ」という読者の声が、少なからずあるんだが。
「……――絆、永遠と共に、か。あの漫画は最終話で終わっても、読者の脳内補正も兼ねてるしな。未だに人気漫画なのが解るよ」
福田は――絆、永遠と共に。の最終話を思い出して呟いた。
「はい。僕も波木先生のようにカッコ良く終わらせ、人気漫画として残したいデス。波木先生作の――絆、永遠と共には、CROWの終わり方そのものデス」
そう言ってからエイジは「シュピーン!」と声を上げる。
その時、真城が口を開く。
「……もし、7週トップ獲れなければ?」
「……やめないです。もしトップを他の漫画に獲られたらカッコ良くないデス。それは僕の中で完璧な終わりじゃなくなりますから。その時は、もう一度10週以上の不動の1位を成し遂げてから終わらせます。それができなければ、打ち切りまで描くしかありませんケド」
それは、もし誰かが1位を獲ればCROWの連載を辞めることはないということだ。
エイジは知っては知らずか、この場に居る福田組に発破をかける。
「――でも、僕が一番敵視しているのは、波木先生の“ダブルダンク”。隙を見せれば、1位はすぐさま奪還されると思っています。あれは、そういう作品ですから」
そう。波木歩夢作の“ダブルダンク”は、CROWと僅差の作品だ。
もしCROWがどこかで失速するとしたら、CROWでの不動の1位はまず不可能だ。
「……い、言ってくれるな、新妻師匠」
福田は片頬を引き攣らせて呟いた。
まあ確かに、見方によれば喧嘩を吹っ掛けられているようにも取れてしまう。
「もし、この中でのメンバー誰かがCROWを抜いたら、CROWは終わらないのか?」
「波木先生の作品もそうですけど、誰かに抜かれたらCROWは辞めません」
福田は右手を顎に当て、ニヤリと笑う。
「……そうか。このまま終わられたら勝ち逃げされた気分だ。オレだって“GIRI”はこれから……ってことはだ。オレがCROWを抜けるチャンスはまだ残されているってことだ」
「そうだな!オレたちは新妻さんを目標に連載してきたんです!新妻さんの気持ちもわかりますが、終わらせたくないです!――な、シュージン!」
「おう!やってやろうぜ!」
福田、亜城木に続くように、蒼樹、元浜もそれに続いた。
このようにして、CROWの連載を終わらせない為に福田組が動き出すのだった。
バクマン小説難しいなぁ。