~数時間後。新妻エイジ仕事場~
「というわけで、佐々木編集長は今月いっぱいで必勝ジャックに異動になった」
雄二郎は、ちなみに僕は班長になる。と付け加える。
そして雄二郎の言葉に、佐々木は頷く。
「これから私は、新雑誌の編集長をしながら少年ジャックを見守りたいと思ってる」
椅子の上に立ち上がったエイジは椅子から飛び下り、佐々木たちと向かい合わせになるように台机の前に座る。
「今までありがとうございました」
エイジは礼をし、ゴンッ、と平台に額をぶつける。
「青森まで来てもらった時は、本当に嬉しかったです」
雄二郎は頷き、
「あの時も、僕と編集長の2人だったな……。もう、8年以上前か……懐かしいな」
雄二郎は考え深く呟く。
「いきなり、『ジャックで1番人気の作家になったら、漫画を1つ終わらせる権利をくれ』と言われた時は生意気な子だと思ったが、今では立派なジャックの看板作家になってくれた、これからも期待してる」
エイジは「はい」と頷く。
「――編集長の期待に応えられるか解りませんガ、これから僕は、
エイジは断言し、雄二郎は困惑気味の表情になる。
確かに、今エイジが言ったことは未来予知と言ってもいいからだ。そして、エイジの読切が掲載される号は、41号なので、明後日である。
「に、新妻君。それは言い過ぎじゃ……」
「いえ、波木先生の漫画と競うには、これ位できないと振り落とされますから」
佐々木は口を開く。
「波木君を追いかけるのはいいが、その後ろに亜城木君たちが居ることを忘れてないか?」
「はい、忘れてません。――亜城木先生たちにも絶対負けないデス」
エイジの目は真剣だ。そして、その瞳の奥は燃えているように錯覚する。
それを見た佐々木は「ふっ」と笑う。
「自惚れだな」
人気作家に必要な、自惚れ、努力、運。その中の、自惚れだ。
「それが僕ですから」
佐々木は「そうか」と頷く。
「なので、編集長が変わるまでに連載会議を通して見せます」
「ああ。期待してる」
佐々木は立ち上がり「では新妻君、失礼する」と言って、仕事場を後にした。
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~翌日。亜城木夢叶、仕事場~
「編集長がわざわざ挨拶に来るって緊張するな」
真城は、硝子テーブルを吹きながら呟く。
高木もモップがけをしながら、
「大丈夫だって、服部さんも一緒に来るんだし」
「てか、オレたち散々我儘言って迷惑かけたもんな……。入院した時に休載しないって言い張ったり」
「タントやめたいとかな……」
「そのタントを始める前には、連載経験ある契約作家なのに勝手に
真城と高木は「……ヤベーな」と、口を合わせるのだった。
「亜城木夢叶はトラブルメーカーって言われてて、『これ以上は問題を起こしてくれるな』とまで、ハッキリ言われちゃったもんな」
「これを機にちゃんと謝らないとな」
その時、鐘の音が鳴り、佐々木と服部が「お邪魔する」と言って、仕事場に入って来る。
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「いつもお世話になっています」
ぺこりと頭を下げる真城たち。
だが、佐々木は「お疲れ様。失礼する」と言って、仕事場の回りを見渡して口許を緩めた。
そう。佐々木にとっては、超ヒーロー伝説を担当していた以来の訪問になる。
「(20年近くになるか……)」
佐々木は、超ヒーロー伝説のポスターを見ながら、
「……煙草の匂いはしないんだな」
「僕たちは吸いませんから」
ともあれ、佐々木と服部はソファ、真城と高木は対面になるようにキャスター椅子に座る。
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「週刊少年ジャックの編集長でなくなる事が決まったから言うが、真城君が漫画家になった時は宜しく頼むと、生前の川口たろうに言われたことがあった」
真城は目を丸くする。
まさか、叔父である川口たろうが、佐々木にお願いをしていたなんて予想外だった。
「その時は川口たろうの冗談だと思って受け流していたんだが、編集部で服部と打ち合わせをしている中学生の1人が、川口たろうの甥だと知った時は驚いたな……そして、嬉しかったよ」
佐々木の言葉を聞き逃さない為に、耳を澄ませる高木と真城。
「そんな事情もあってか、君たちに対しては冷静でいられない時が多かった。……すまなかった」
頭を下げる佐々木。
「そんなッ!?僕たちの方が色々我儘をしてきたから謝ろうと思ってたんですッ!」
「そ、そうです!」
キャスター椅子から立ち上がり、声を上げる真城たち。
「いや……今思えばだが、真城君が入院した時、高校卒業するまで『TRAP』を休載させるという判断は厳し過ぎた。『PCP』が新妻君たちの作品と肩を並べなければ打ち切るというものもそうだ。……よく私の行き過ぎた判断を跳ね返してくれた」
「い、いえ。その試練を与えてくれたので、今の僕たちがあるんです」
高木がそう言って、真城と同時に頭を下げる。
「本当にお世話になりましたっ!」
「ありがとうございましたっ!」
「おいおい大げさだ。それに今の君たちがあるのは、君たちの実力だ。本当によくここまでになってくれた」
佐々木は片手を上げながらそう言った。
「君たちだけじゃない。新妻君、波木君、福田君、高浜君……。他にも新人が育ってくれたおかげで、『やれる事は全てやりとげた』。そういう思いで、心置きなく必勝ジャックに行けるんだ」
佐々木は、今までの出来事を振り返っていた。
「君たちには、川口たろうの事もあって、どうしても私には特別なってしまっていたんだ。甘やかす方向ではないがな……」
「それが本当なら、贔屓してもらったと考えます」
「はい。それが僕たちの為になったんですから」
真城、高木がそう言った。
佐々木は目を閉じた。
「贔屓か……贔屓してはダメだろう……。でも、そうやってつい川口たろうと並べてしまったが、もう君たちのライバルは川口たろうではない」
佐々木が目を開ける。
「――新妻エイジ、波木歩夢だ。今、新妻君、波木君を超えられる可能性を持っているのは、君たちだと私は思っている」
ハッとし、顔を上げる真城と高木。
「……いや、これももしかしたら贔屓かも知れないな」
「「いえ……」」
真城と高木は、力強く、真剣な面持ちで、
「「贔屓じゃないと証明して見せます!――必ず!」」
佐々木は、眼鏡をクイッと上げる。
「そうか……期待してる」
佐々木は「では、失礼する」とソファから立ち上がる。
そして「そういえば」と前置きをし、
「新妻君。41号の読切で、他作品に追随されること無く1位を取るという宣言をした。――波木君だけではなく、新妻君は他の漫画家さんたちに宣戦布告した、とも捉える事ができるな」
こうして佐々木は、仕事場を後にしたのだった。
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「なあサイコー。オレたちも読切、出して見ようぜ」
作業机の前に立つ高木が、作業机の椅子に座る真城にそう言う。
「出して見ようぜ。って簡単にいうなよ。てか、話のネタがないだろ」
「いや、実はサイコーの描いたキャラからいけそうなイケそうな話があるんだ」
「マジっ!」
真城の言葉を聞き、高木が1枚の絵を取り出す。
話の内容は、悪魔から力を授かった少年たちが自分の思想を他人に伝染できる漫画であり、正義と悪のW主人公という設定だ。
悪は、自分の思想が正しく、自身の思想を他人が持つことによって世が良くなると信じ切ってる主人公。正義は、他人に思想を植え付けるなんて許さないと考える主人公だ。
――思想と思想の戦い、それを植え付けられた人間たちの戦い、悪魔同士の戦い、そしてW主人公。
「なるほど!
そして、W主人公にすることで邪道の王道バトルを成立させているのだ。
「ああ!そして最後に勝つのは真の正義!」
「それでこそ少年漫画!」
そして、正義を出すことで話のスケールも大きい。これなら十分、他作品とも競えるだろう。
これが亜城木夢叶ならではの、王道バトルである――。
原作17巻終了。ちなみに、原作とは違い発破?を掛ける編集長(笑)
てか、こっから盛り上げ所になるので難しくなるんだよなぁ。……執筆頑張ります。