翌週の火曜日。
この日の打ち合わせで、翔太の対面のソファに座る吉田が「やられたよ」と言いたい表情で、次週の見本誌を手渡す。
「柏木君。
翔太は吉田にそう言われ、
これはバトル漫画の基本で、主人公と対峙するキャクターが弱いと判断した時、そのキャラクターを殺し、新しいキャラクターを投入するのだ。
翔太は「なるほど」と頷く。
「……新妻君、仕掛けてきましたか」
翔太が考え深く呟く。
そう。
きっと新妻エイジは、この状況から脱する為の策だろう。
「ああ。新妻君は、今の接戦から抜け出す為の策だろうな」
そして
「このままじゃ、ダブルダンクは置いて行かれますね」
「だがダブダンは、テコ入れや話の上書きなどをしたら、本末転倒、だぞ」
確かにダブルダンクは、話の路線変更、キャラクターをいきなり強化するといったテコ入れをすれば、これまでの展開が崩れ、読者が離れていく可能性がある。
「わかってます。でもこういう時の為に、幼馴染の設定があるんです」
ダブルダンクの現状は、練習等の話が続き、暑苦しい展開でもある。
だがそこに、マネージャーの幼馴染を登場させ、バスケットの練習帰りに
「幼馴染の登場があれば、話に息をつかせる形が採れます」
これは無理に話に挟むのではなく、自然な流れで読者に拝見して貰うことができるのだ。
翔太がこのことを吉田に説明すると「なるほどな」と頷く。
「幼馴染の登場で、話に緩急をつける。といった所か」
「はい。この話でどういう結果になるか予想できませんが、ここで動かないと、ダブルダンクの票数が動くことはないでしょうね」
やはりここは、加奈の意見も取り入れて見るか。と考える翔太である。
加奈は作者や編集と違い、世間の目でダブルダンクを見ることが出来るのだ。
「柏木君がそう言うなら、そうなんだろうな」
確かに吉田は翔太の担当編集だが、票数の読み合いに関しては翔太の方が詳しいだろう。
吉田は「よし!」と言って、両手を両膝に当てる。
「今後の展開として、その話を間に挟んでいく方針で行こう」
「わかりました。それじゃあ、少しだけ話の修正をします」
今週分の原稿はこれから入稿なので、次週の原稿から話を挟む形になる。
ともあれ、今週分の打ち合わせが終わった所で、吉田は茶封筒に今週分の原稿を仕舞い、「原稿は貰っていくよ」と言ってから仕事場を後にした。
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~柏木家、自宅~
翔太が自宅に帰り、リビングの長ソファに座る加奈と翔太。
ちなみに、加奈は舞台稽古帰りと言うこと。
「そっか。あの話を出すんだね」
あの話とは、先程の幼馴染登場回のことである。
この話は翔太と加奈が創り、翔太が奥の手として温存していた話でもあるのだ。
「そうだな。現状況で、出し惜しみしてる場合じゃないしな」
「でも恥ずかしいね。あの話、8割方私たちみたいな者だしね」
「まあ、主人公と幼馴染のモデルが俺たちだしなぁ」
なので、自然と思考が似るのは仕方がないことなのかも知れない。
まあ世間に自身たちの私生活が露見するわけではないので問題はないが。
加奈は「あ、そうだ」と言って、話を切り替える。
「美保ちゃんから聞いたんだけど、亜城木夢叶の『亜』は、亜豆美保の『亜』だって」
そうなれば、ほぼ完全に『亜城木夢叶』は、真城たちの名字で構成されたペンネームなのだろう。……まあ、『波木歩夢』も似たようなものだが。
ちなみに加奈は、亜豆美保から許可を貰ってから翔太に教えてくれた。
「あとあと、美保ちゃんのラジオが決まったんだよ!」
加奈は自分のように喜ぶ。
それから、「私のラジオとコラボも出来たらなぁ」と呟く。ちなみにラジオの題名は『アズキュ~ンナイト』だ。……あれだ、『かなりんタイム』と似たり寄ったりのタイトルである。
「あれ?でも前飯に来た時、メディアには出ないようにしてるって言ってなかったか?」
「あ、それなら、雑誌とラジオまでならOKなんだって」
加奈は、舞台とラジオのみOKだ。
ともあれ翔太は、「なるほどなぁ」と頷く。
「ねぇねぇ翔太君。美保ちゃんのラジオ、一緒に聞かない?」
ちなみに、加奈が言うにはラジオ開始は2週間後の22時ということだ。
「そうだな。一緒に聞くか」
そして、この2週間の間に真城と亜豆の関係が公になり、
美保ちゃんがご飯に来た時、翔太君と美保ちゃんは言葉を交わしてる設定ですね。
ちなみに幼馴染のモデルは、途中から採り入れていった感じですね。